山口-野田澤戦は中盤の難所。山口が扇子を手に考えている。可憐だ。
17時04分、まずは里見が勝ち名乗りを上げた。ここは貫禄の勝利というところ。女流三冠の里見、そもそも予選から指しているほうがおかしいのだ。
17時08分、渡部-長谷川戦は激しい寄せ合いになっている。渡部アマ、長谷川アマの△7九桂成には目もくれず、敵陣を見ている。渡部アマは終盤が強い。▲7三銀不成と寄せに出た。
17時10分。山口-野田澤戦の感想戦が始まっている。これは山口が勝ったようだ。山口は第2期から出場し、昨年までパッとしない成績だったが、今年はうれしい本戦初出場となった。
マイナビルームLでは、そろそろ大抽選会が始まっているころである。様子を見に行くが、まだ解説会の真っ最中だ。駒桜ブースを見ると、室谷由紀女流初段がひとりで佇んでいる。声をかける絶好のチャンスなのだが、きっかけがない。
マイナビルームAに戻ると、井道-貞升戦が終わっていた。どちらが勝ったかは不明。
17時19分。藤田-中澤戦。藤田、△6六歩と王手。かなり優勢に見える。いままでに何回も書いているが、藤田は現在、NHK杯将棋トーナメントの棋譜読み上げを担当している。本来ならもう少し観戦客がいてもいいのだが、意外と少ない。部屋手前の右隅で行われているので、どうしても関心が薄くなってしまう。
17時20分。山田朱-島井戦。山田、椅子の肘かけに肘をかけ、ゆったりしている。山田には、前かがみになって読みに没頭するというイメージがあったので、この対局ポーズは意外だ。
島井の△3六歩に、ビシッと金を上がった。どっこい、加藤一二三九段ばりの迫力は、健在だった。
清水-北尾戦。清水が「9」まで読まれて指す。清水の秒読みも危なっかしい。
渡部-長谷川戦は、長谷川アマが勝った。渡部アマが寄せたように思ったのだが、わずかに詰まなかったようだ。長谷川アマはこれで2期連続の本戦出場。これを達成した女流棋士はそんなにいないはずで、長谷川の快挙といえる。
一方の渡部アマは、絶好のチャンスを逃した。将棋に勝っても、勝負に負けては何にもならない。実力不足だったと認識して、一から将棋を鍛え直すしかない。
鈴木-鎌村戦。鈴木、投了しなさいよ!! とばかり銀を打つ。その心の声が聞こえたのか、鎌村がここで投了した。17時27分24秒。
鈴木も連続の本戦入り。人気だけでなく、実力も本物だ。かつては上田初美女王と大の仲良しだった鈴木、上田の活躍は大いに刺激になっているに違いない。
またまたマイナビルームLへ様子を見に行く。しかし大抽選会をやる気配がない。これは解説会が終わったあと行われるのか。
「大沢さんですか…?」
どこかで聞いた声だ。振り返ると、…エエッ!? や、やま、山口恵梨子女流初段だった。「懸賞金を懸けてくれたそうで、ありがとうございます」
彼女が私に、散文的に話しかける。
「はあ…おめでとうございます。本戦もがんばってくださィ…」
毎日コミュニケーションズの誰かが、私が山口女流初段に懸賞金を懸けたことを、彼女に伝えたようだ。それで仕方なく山口女流初段は、私に御礼を言ったようだ。その儀礼的雰囲気が私にも分かったから、私の返事も、途中から力がなくなったのだった。
15時32分。中倉-加藤戦。加藤が前のめりになって考えている。深刻な表情に見えるが、中倉玉は穴から這い出し、加藤の必勝形だ。喜ぶのは、相手が投了してからでいい、ということか。
その5分後、中倉が投了した。中倉の連続本戦入りはならず。これでLPSAの女流棋士が、またひとり消えた。
清水-北尾戦も終わっていた。ふつうに考えれば清水勝ちであろう。
またマイナビルームLへ様子を見に行く。まだやっていない。
ルームAに戻る。中倉-加藤の感想戦が行われていた。中倉、暑いのか、ブレザーをはらりと脱いだ。オレンジ色のあでやかな夏服が見える。遅い! 中倉は、もっと早く脱ぐべきだった。
また外へ出る。今年の控室は、観戦客の休憩室を設けたので、部屋数の関係で、女流棋士会とLPSAの控室がいっしょになった。女流棋士会としては、毎年お通夜状態のLPSAとは同室にはなりたくないだろうが、やむを得ない。
と、清水が控室の戸を「トントン」とノックして入った。
これは礼儀正しいことで、私ならこうはできない。自分の控室だからと、すぐに戸を開けてしまうところだ。ここに清水の育ちのよさ、王者のたしなみを見た。
17時44分。中井-岩根戦。岩根が左手の指を口にあてて、ずーっと考えている。いつものポーズではあるが、精気がないのは、局面が敗勢だからか。
山田朱-島井戦は、ごちゃごちゃした戦いになっている。山田は第3期と第4期、島井は第3期に本戦入りを果たしている。その第3期で撮られた本戦進出者の集合写真では、前列中央に位置した島井が女優のように綺麗で、女流棋界は島井を中心に動いているのではないか、と錯覚するほどだった。
その島井は本局も、ブレザーを着用して対局している。2年前は、島井が対局中にブレザーを脱いだから勝った。きょうの午前の対局は、脱がなくてもたまたま勝ったが、本戦入りしたければ、島井は早く脱がなければならない。
17時48分。中井が、また岩根をジロリと見た。もう勝ちました、という顔だ。
17時50分34秒、岩根が投了。終わってみれば中井の快勝で、中井は4度目の本戦出場となった。
17時55分。村田-伊藤戦。こちらは盤の左側に駒が集中して、大変なことになっている。村田▲7二とに、伊藤は△9三玉。村田、あと一歩のところまで追い込んでいるが、後続がないようにも見える。
時刻は18時になろうとしている。対局開始から、2時間以上も経っていることになる。指している選手は大変だが、見ているこちらだって大変だ。
18時00分00秒、中澤が勝ち名乗りを上げた。藤田がかなりよかったはずだが、どこで逆転したのか。これだから秒読みは、いや将棋は分からない。
残るはあと2局となった。時刻は18時04分。山田朱-島井戦は、何がなんだか分からない戦いになっている。完全な泥仕合で、いつ決着がつくか分からない。
と、18時05分06秒、山田が投了を告げた。オーラスではないが、遠慮がちに、拍手が起こった。観戦客の中に、島井ちゃんのファンが多かったということか。島井、結局ブレザーを脱がずに勝利した。
これで残るは、村田-伊藤戦のみとなった。村田、右手でピアノを弾くような仕種をし、リズムを取りながら考えている。これは村田の勝勢だろう。
もう終局も近い。私は黒山の人だかりの後方につく。と、うしろからトントンと肩を叩かれた。石橋幸緒女流四段だった。石橋女流四段は、意外な言葉を口にした。
(つづく)
17時04分、まずは里見が勝ち名乗りを上げた。ここは貫禄の勝利というところ。女流三冠の里見、そもそも予選から指しているほうがおかしいのだ。
17時08分、渡部-長谷川戦は激しい寄せ合いになっている。渡部アマ、長谷川アマの△7九桂成には目もくれず、敵陣を見ている。渡部アマは終盤が強い。▲7三銀不成と寄せに出た。
17時10分。山口-野田澤戦の感想戦が始まっている。これは山口が勝ったようだ。山口は第2期から出場し、昨年までパッとしない成績だったが、今年はうれしい本戦初出場となった。
マイナビルームLでは、そろそろ大抽選会が始まっているころである。様子を見に行くが、まだ解説会の真っ最中だ。駒桜ブースを見ると、室谷由紀女流初段がひとりで佇んでいる。声をかける絶好のチャンスなのだが、きっかけがない。
マイナビルームAに戻ると、井道-貞升戦が終わっていた。どちらが勝ったかは不明。
17時19分。藤田-中澤戦。藤田、△6六歩と王手。かなり優勢に見える。いままでに何回も書いているが、藤田は現在、NHK杯将棋トーナメントの棋譜読み上げを担当している。本来ならもう少し観戦客がいてもいいのだが、意外と少ない。部屋手前の右隅で行われているので、どうしても関心が薄くなってしまう。
17時20分。山田朱-島井戦。山田、椅子の肘かけに肘をかけ、ゆったりしている。山田には、前かがみになって読みに没頭するというイメージがあったので、この対局ポーズは意外だ。
島井の△3六歩に、ビシッと金を上がった。どっこい、加藤一二三九段ばりの迫力は、健在だった。
清水-北尾戦。清水が「9」まで読まれて指す。清水の秒読みも危なっかしい。
渡部-長谷川戦は、長谷川アマが勝った。渡部アマが寄せたように思ったのだが、わずかに詰まなかったようだ。長谷川アマはこれで2期連続の本戦出場。これを達成した女流棋士はそんなにいないはずで、長谷川の快挙といえる。
一方の渡部アマは、絶好のチャンスを逃した。将棋に勝っても、勝負に負けては何にもならない。実力不足だったと認識して、一から将棋を鍛え直すしかない。
鈴木-鎌村戦。鈴木、投了しなさいよ!! とばかり銀を打つ。その心の声が聞こえたのか、鎌村がここで投了した。17時27分24秒。
鈴木も連続の本戦入り。人気だけでなく、実力も本物だ。かつては上田初美女王と大の仲良しだった鈴木、上田の活躍は大いに刺激になっているに違いない。
またまたマイナビルームLへ様子を見に行く。しかし大抽選会をやる気配がない。これは解説会が終わったあと行われるのか。
「大沢さんですか…?」
どこかで聞いた声だ。振り返ると、…エエッ!? や、やま、山口恵梨子女流初段だった。「懸賞金を懸けてくれたそうで、ありがとうございます」
彼女が私に、散文的に話しかける。
「はあ…おめでとうございます。本戦もがんばってくださィ…」
毎日コミュニケーションズの誰かが、私が山口女流初段に懸賞金を懸けたことを、彼女に伝えたようだ。それで仕方なく山口女流初段は、私に御礼を言ったようだ。その儀礼的雰囲気が私にも分かったから、私の返事も、途中から力がなくなったのだった。
15時32分。中倉-加藤戦。加藤が前のめりになって考えている。深刻な表情に見えるが、中倉玉は穴から這い出し、加藤の必勝形だ。喜ぶのは、相手が投了してからでいい、ということか。
その5分後、中倉が投了した。中倉の連続本戦入りはならず。これでLPSAの女流棋士が、またひとり消えた。
清水-北尾戦も終わっていた。ふつうに考えれば清水勝ちであろう。
またマイナビルームLへ様子を見に行く。まだやっていない。
ルームAに戻る。中倉-加藤の感想戦が行われていた。中倉、暑いのか、ブレザーをはらりと脱いだ。オレンジ色のあでやかな夏服が見える。遅い! 中倉は、もっと早く脱ぐべきだった。
また外へ出る。今年の控室は、観戦客の休憩室を設けたので、部屋数の関係で、女流棋士会とLPSAの控室がいっしょになった。女流棋士会としては、毎年お通夜状態のLPSAとは同室にはなりたくないだろうが、やむを得ない。
と、清水が控室の戸を「トントン」とノックして入った。
これは礼儀正しいことで、私ならこうはできない。自分の控室だからと、すぐに戸を開けてしまうところだ。ここに清水の育ちのよさ、王者のたしなみを見た。
17時44分。中井-岩根戦。岩根が左手の指を口にあてて、ずーっと考えている。いつものポーズではあるが、精気がないのは、局面が敗勢だからか。
山田朱-島井戦は、ごちゃごちゃした戦いになっている。山田は第3期と第4期、島井は第3期に本戦入りを果たしている。その第3期で撮られた本戦進出者の集合写真では、前列中央に位置した島井が女優のように綺麗で、女流棋界は島井を中心に動いているのではないか、と錯覚するほどだった。
その島井は本局も、ブレザーを着用して対局している。2年前は、島井が対局中にブレザーを脱いだから勝った。きょうの午前の対局は、脱がなくてもたまたま勝ったが、本戦入りしたければ、島井は早く脱がなければならない。
17時48分。中井が、また岩根をジロリと見た。もう勝ちました、という顔だ。
17時50分34秒、岩根が投了。終わってみれば中井の快勝で、中井は4度目の本戦出場となった。
17時55分。村田-伊藤戦。こちらは盤の左側に駒が集中して、大変なことになっている。村田▲7二とに、伊藤は△9三玉。村田、あと一歩のところまで追い込んでいるが、後続がないようにも見える。
時刻は18時になろうとしている。対局開始から、2時間以上も経っていることになる。指している選手は大変だが、見ているこちらだって大変だ。
18時00分00秒、中澤が勝ち名乗りを上げた。藤田がかなりよかったはずだが、どこで逆転したのか。これだから秒読みは、いや将棋は分からない。
残るはあと2局となった。時刻は18時04分。山田朱-島井戦は、何がなんだか分からない戦いになっている。完全な泥仕合で、いつ決着がつくか分からない。
と、18時05分06秒、山田が投了を告げた。オーラスではないが、遠慮がちに、拍手が起こった。観戦客の中に、島井ちゃんのファンが多かったということか。島井、結局ブレザーを脱がずに勝利した。
これで残るは、村田-伊藤戦のみとなった。村田、右手でピアノを弾くような仕種をし、リズムを取りながら考えている。これは村田の勝勢だろう。
もう終局も近い。私は黒山の人だかりの後方につく。と、うしろからトントンと肩を叩かれた。石橋幸緒女流四段だった。石橋女流四段は、意外な言葉を口にした。
(つづく)