14時01分。山口-西山戦は、山口勝勢だ。女流棋士対奨励会員では、奨励会員のほうが分がいいと思うのだが、この将棋を見る限り、女流棋士も奨励会員に、互角以上の戦いをする。先の考えを改めなければいけないようだ。
ちょっと目を離していると、ふたりがマイナビルームAを出て行くところだった。山口が勝ったのだろう。マイナビルームAの反対にあるマイナビルームLでは男性棋士による大盤解説が行われており、こちらで山口-西山戦の感想戦が行われるのだろう。
私も見に行きたいが、ここを離れるわけにはいかぬ。
14時08分、長沢-中澤戦は駒が仕舞われ、ふたりが席を立つところだった。中澤がニッコリといい笑顔を見せた。これは中澤が勝ったろう。
14時13分、山田久-加藤戦は、加藤勝ち。同じ桃子として、中村桃子女流1級の分まで頑張ってほしい。
高群-山田朱戦も終わっていたが、これは山田の勝ちだろう。山田の攻めはツボに入ると強い。高群はわるびれることなく、努めて明るい声で、感想戦を行っていた。
中倉-室田戦。中倉が顔をわずかに伏せ、絶望的な表情を見せた。一体、何があったのか。
14時15分。清水-船戸戦。しばらく見ないうちに、船戸が追い上げているように見える。玉は穴熊から這い出しているが、妙な形で頑張っている。
船戸の将棋にはドラマがある。2008年12月23日に行われたLPSA1dayトーナメント「フランボワーズカップ」で、船戸は、中井広恵女流六段相手に、苦しい将棋を逆転勝ちした。あの雰囲気がこの将棋には出ている。船戸、▲4三銀成。まだ勝負は分からない。
北尾-小野戦。小野がまた、両手をほおにあてて考えている。北尾、黒のワンピースからのぞく太腿が、妙になまめかしい。
14時17分。石高-野田澤戦。野田澤、力強く▲7四角成。これは野田澤優勢か。今期は女流名人位戦B級リーグ入りも果たしている野田澤、公私ともに充実しているようだ。
14時19分。船戸が泣き出しそうな顔をした。私が船戸ファンになって3年になるが、彼女のあんなにつらそうな顔を見たのは初めてだ。これは船戸、悪手を指してしまったか。
14時22分、野田澤勝ち。実に堂々とした指し回しだった。
残りは7局。清水-船戸戦に多くのギャラリーが集まっている。絶対王者は時としてヒールになる。清水-船戸では、船戸を応援しているファンが多い気がする。
島井-相川戦は、島井が逆転模様だ。島井はブレザーを脱がないのだろうか。早く脱いでほしい。
北尾-小野戦は北尾勝ち。北尾はイビアナの指し回しがうまい。
千葉-室谷戦は千葉が勝ち名乗り。千葉は秒読みになってからが強かった。さすがに元タイトルホルダーである。室谷姉、初戦で姿を消した。
竹部-早水の感想戦も始まっている。これは竹部勝ちのようだ。
14時30分。藤田-室谷戦。室谷が、グアアアッ!と、髪を掻きあげた。モ、モデル!? 室谷は、モデル!? 何をやっても絵になる室谷である。髪をグシャグシャにしたり掻きあげたりしたので、いまは室谷の前髪の形が変わってしまっている。しかしそれはそれで魅力的だ。
藤田もNHK杯将棋トーナメントの棋譜読み上げで全国的に有名なのだが、本局は相手がわるい。
船戸の視線は清水陣に向けられている。清水も自陣を見ている。先ほどは船戸の泣き顔を目にしてしまったが、まだ喰らいついているようだ。
その船戸、腿の部分にハンカチのようなものをかぶせているが、下の腿が透けている。服の部分はスカートなのか、パンツなのか。
14時43分、ブレザーは脱がなかったが、島井勝ち。これは島井が底力を発揮した。相川は10月から女流3級になるが、島井、まだアマチュアには負けられない、というところだろう。
藤田-室谷戦に戻る。室谷の形勢がわるそうだ。と、室谷が深々とお辞儀をし、投了の意思を表した。室谷、負けても天使のような笑顔だった。
14時45分16秒、女流棋界の天使が、天に帰った。
これで残すは2局となった。14時51分。清水-船戸戦は、記録用紙がとっくに2枚目(151手~)に入っている。だが局面は、船戸が切れ模様だ。
もう1局は中倉-室田。こちらは駒が激しく入り乱れて、何がなんだか分からない。ただ、このゴチャゴチャした戦いが、中倉らしいといえばいえる。
室田、「9」まで読まれて着手した。秒読みは記録係が行っているから容易に「10」とは言わないだろうが、心臓にわるい。せめて58秒で着手してもらいたい。
14時56分。船戸、お腹をおさえている。つらそうだ。できれば代わってやりたいが、そうもいかない。
▲2三銀右成。攻め合いは無理だから入玉ぶくみで粘るが、少し足りなそうだ。
清水、△2二桂の犠打から△1三金。これは先手玉が必至に見える。
「50秒、1、2、3…」
記録係の秒読みが容赦なく襲いかかる。
ここで船戸が投了を告げた。時に15時03分。途中、船戸におもしろい局面があったのかもしれないが、終わってみれば清水の貫禄勝ちであった。
船戸はこれで来期のチャレンジマッチ行きが決定。しかし本人に実力があれば、すぐこの場に戻ってくるだろう。
残るは中倉-室田戦のみになった。中倉の駒が室田陣に多く侵入している。わずかに中倉がいいようだが、まだ勝負の行方は分からない。
先ほど、観戦客のひとりが、抽選会に行ってきた、と小声で話していた。勝利者予想クイズの抽選会は17時50分から行われるが、抽選券が要る大抽選会は、マイナビルームLで不定期に行われているのだ。
外の空気も吸いたくなったので、私はルームの表へ出る。
…うあっ!! ロビー先のフリースペースで、W氏と小野ゆかりアマが談笑している。そしてその横には、室谷由紀ちゃんがいた!! 室谷女流初段、屈託のない笑顔だ。W氏、将棋は大したことないが、誰とでも自然に話す話術は本当に天才的だ。
どうもおもしろくないが、そのままルームLに入る。と、抽選券を手にもった観戦客が、列を作っていた。私は「並んで順番待ちをする」のが何よりも嫌いなので、すぐ引き返す。
また室谷女流初段が目に入る。どうしようか。さりげなくW氏に話しかけて、その流れで室谷女流初段と話す手はある。しかしそんな姑息な手段を用いれば、あとでW氏に嗤われることは必至だ。これから事あるごとに、
「大沢さん、オレをダシにして室谷さんと話すんだもんなー」
などと嫌味を言われては不愉快だ。
ここは縁がなかったと、私はマイナビルームAに戻った。
中倉-室田は熱戦が続いている。いつ終わるとも知れない泥仕合だ。決勝戦の開始時刻である15時20分は、もう過ぎている。進行に遅れが生じているが、ふたりにはこのあとのスケジュールは頭にないだろう。
しかし、ついに終わりはやってきた。15時28分03秒、室田が投了。決勝戦最後の進出者は、中倉となった。
(つづく)
ちょっと目を離していると、ふたりがマイナビルームAを出て行くところだった。山口が勝ったのだろう。マイナビルームAの反対にあるマイナビルームLでは男性棋士による大盤解説が行われており、こちらで山口-西山戦の感想戦が行われるのだろう。
私も見に行きたいが、ここを離れるわけにはいかぬ。
14時08分、長沢-中澤戦は駒が仕舞われ、ふたりが席を立つところだった。中澤がニッコリといい笑顔を見せた。これは中澤が勝ったろう。
14時13分、山田久-加藤戦は、加藤勝ち。同じ桃子として、中村桃子女流1級の分まで頑張ってほしい。
高群-山田朱戦も終わっていたが、これは山田の勝ちだろう。山田の攻めはツボに入ると強い。高群はわるびれることなく、努めて明るい声で、感想戦を行っていた。
中倉-室田戦。中倉が顔をわずかに伏せ、絶望的な表情を見せた。一体、何があったのか。
14時15分。清水-船戸戦。しばらく見ないうちに、船戸が追い上げているように見える。玉は穴熊から這い出しているが、妙な形で頑張っている。
船戸の将棋にはドラマがある。2008年12月23日に行われたLPSA1dayトーナメント「フランボワーズカップ」で、船戸は、中井広恵女流六段相手に、苦しい将棋を逆転勝ちした。あの雰囲気がこの将棋には出ている。船戸、▲4三銀成。まだ勝負は分からない。
北尾-小野戦。小野がまた、両手をほおにあてて考えている。北尾、黒のワンピースからのぞく太腿が、妙になまめかしい。
14時17分。石高-野田澤戦。野田澤、力強く▲7四角成。これは野田澤優勢か。今期は女流名人位戦B級リーグ入りも果たしている野田澤、公私ともに充実しているようだ。
14時19分。船戸が泣き出しそうな顔をした。私が船戸ファンになって3年になるが、彼女のあんなにつらそうな顔を見たのは初めてだ。これは船戸、悪手を指してしまったか。
14時22分、野田澤勝ち。実に堂々とした指し回しだった。
残りは7局。清水-船戸戦に多くのギャラリーが集まっている。絶対王者は時としてヒールになる。清水-船戸では、船戸を応援しているファンが多い気がする。
島井-相川戦は、島井が逆転模様だ。島井はブレザーを脱がないのだろうか。早く脱いでほしい。
北尾-小野戦は北尾勝ち。北尾はイビアナの指し回しがうまい。
千葉-室谷戦は千葉が勝ち名乗り。千葉は秒読みになってからが強かった。さすがに元タイトルホルダーである。室谷姉、初戦で姿を消した。
竹部-早水の感想戦も始まっている。これは竹部勝ちのようだ。
14時30分。藤田-室谷戦。室谷が、グアアアッ!と、髪を掻きあげた。モ、モデル!? 室谷は、モデル!? 何をやっても絵になる室谷である。髪をグシャグシャにしたり掻きあげたりしたので、いまは室谷の前髪の形が変わってしまっている。しかしそれはそれで魅力的だ。
藤田もNHK杯将棋トーナメントの棋譜読み上げで全国的に有名なのだが、本局は相手がわるい。
船戸の視線は清水陣に向けられている。清水も自陣を見ている。先ほどは船戸の泣き顔を目にしてしまったが、まだ喰らいついているようだ。
その船戸、腿の部分にハンカチのようなものをかぶせているが、下の腿が透けている。服の部分はスカートなのか、パンツなのか。
14時43分、ブレザーは脱がなかったが、島井勝ち。これは島井が底力を発揮した。相川は10月から女流3級になるが、島井、まだアマチュアには負けられない、というところだろう。
藤田-室谷戦に戻る。室谷の形勢がわるそうだ。と、室谷が深々とお辞儀をし、投了の意思を表した。室谷、負けても天使のような笑顔だった。
14時45分16秒、女流棋界の天使が、天に帰った。
これで残すは2局となった。14時51分。清水-船戸戦は、記録用紙がとっくに2枚目(151手~)に入っている。だが局面は、船戸が切れ模様だ。
もう1局は中倉-室田。こちらは駒が激しく入り乱れて、何がなんだか分からない。ただ、このゴチャゴチャした戦いが、中倉らしいといえばいえる。
室田、「9」まで読まれて着手した。秒読みは記録係が行っているから容易に「10」とは言わないだろうが、心臓にわるい。せめて58秒で着手してもらいたい。
14時56分。船戸、お腹をおさえている。つらそうだ。できれば代わってやりたいが、そうもいかない。
▲2三銀右成。攻め合いは無理だから入玉ぶくみで粘るが、少し足りなそうだ。
清水、△2二桂の犠打から△1三金。これは先手玉が必至に見える。
「50秒、1、2、3…」
記録係の秒読みが容赦なく襲いかかる。
ここで船戸が投了を告げた。時に15時03分。途中、船戸におもしろい局面があったのかもしれないが、終わってみれば清水の貫禄勝ちであった。
船戸はこれで来期のチャレンジマッチ行きが決定。しかし本人に実力があれば、すぐこの場に戻ってくるだろう。
残るは中倉-室田戦のみになった。中倉の駒が室田陣に多く侵入している。わずかに中倉がいいようだが、まだ勝負の行方は分からない。
先ほど、観戦客のひとりが、抽選会に行ってきた、と小声で話していた。勝利者予想クイズの抽選会は17時50分から行われるが、抽選券が要る大抽選会は、マイナビルームLで不定期に行われているのだ。
外の空気も吸いたくなったので、私はルームの表へ出る。
…うあっ!! ロビー先のフリースペースで、W氏と小野ゆかりアマが談笑している。そしてその横には、室谷由紀ちゃんがいた!! 室谷女流初段、屈託のない笑顔だ。W氏、将棋は大したことないが、誰とでも自然に話す話術は本当に天才的だ。
どうもおもしろくないが、そのままルームLに入る。と、抽選券を手にもった観戦客が、列を作っていた。私は「並んで順番待ちをする」のが何よりも嫌いなので、すぐ引き返す。
また室谷女流初段が目に入る。どうしようか。さりげなくW氏に話しかけて、その流れで室谷女流初段と話す手はある。しかしそんな姑息な手段を用いれば、あとでW氏に嗤われることは必至だ。これから事あるごとに、
「大沢さん、オレをダシにして室谷さんと話すんだもんなー」
などと嫌味を言われては不愉快だ。
ここは縁がなかったと、私はマイナビルームAに戻った。
中倉-室田は熱戦が続いている。いつ終わるとも知れない泥仕合だ。決勝戦の開始時刻である15時20分は、もう過ぎている。進行に遅れが生じているが、ふたりにはこのあとのスケジュールは頭にないだろう。
しかし、ついに終わりはやってきた。15時28分03秒、室田が投了。決勝戦最後の進出者は、中倉となった。
(つづく)