日レス杯の決勝に進出した中井広恵女流六段と船戸陽子女流二段に、お祝いを申し上げます。決勝戦も熱い戦いを見せてください。
7月31日(日)は社団戦の第2日目だった。最寄駅の浜松町までは160円で行ける距離なので余裕だが、きょうは会場設営と後片付けがあるので、いつもより早く家を出なければならない。ちなみに前回の設営当番は2年前の7月。2年で1回まわってくるようだ(…と思ったら、Y監督から、設営当番は昨年の8月にもあった、とのコメントをいただいた。私は休んだので、すっかり忘れていた)。
会場集合は午前9時で、その3分前に入ったのだが、すでに大勢の人が設営を行っていた。遅刻はしていないのだが、なんだか後ろめたい。私もすぐさま合流して、机や椅子、盤駒を並べた。
今回のLPSA星組メンバーは、Wパパ、T・K、Kaz、Y、ミスター中飛車、Sa、Fujの各氏に私。総勢8名で、人数的にはけっこう厳しい。
1回戦はY氏が抜け、9時45分、対局開始。
私は三将となった。いままでは大将か副将で、三将は初めての気がするが、前回の個人成績は2勝2敗でパッとしなかったし、この降格は仕方がない(…と思ったら、Y監督から、前回の私の成績は1勝3敗だったとの指摘をいただいた。こんなに負けたかなあ)。このあたり、監督のY氏は実に冷静に判断している。
奇数後手で私の後手番。▲7六歩△3四歩▲6六歩の出だしだったので先手氏の振り飛車かと思いきや、居飛車で来たのでズッコケた。私は自身を居飛車党と思うが、相居飛車は嫌いという、エセ居飛車党なのだ。
私が8六で角を換わると、先手は腰掛銀から4筋に飛車を回った。このまま▲4五歩と開戦されてはつまらないので、私は△3五歩と桂頭を攻める。
先手氏、▲4七銀は利かされなので▲4七金と上がったが、私は序盤の勝負手△1四角。ここで①▲3五歩は△3六歩。②▲1六歩なら△3六角▲同金△同歩で後手指せる。
そこで先手氏は▲2六歩。私は構わず△3六角と切りこんだ。▲2五桂△2七角成▲3三桂成△同桂。この局面が下だが、この岐れをどう見るか。
先手・1七歩、1九香、2六歩、4六歩、4七金、4八飛、5六銀、5七歩、6七歩、7六歩、7七銀、7八金、7九玉、8七歩、8九桂、9六歩、9九香 持駒:角、銀
後手・一公:1一香、1三歩、2三歩、2七馬、3二玉、3三桂、3五歩、4二金、4三金、4四歩、5四歩、6二銀、6三歩、7三歩、8一桂、8二飛、9一香、9三歩 持駒:桂、歩2
(44手目△3三同桂まで)
銀桂交換で私の駒損ではあるが、歩得のうえ馬を作り、△3三桂が▲4五歩も防いでいるので、後手十分と見ていた。ここから終局までの指し手を一気に記す。
▲1六角△同馬▲同歩△5三銀▲8八玉△3六桂▲6八飛△5九角▲3八飛△2六角成▲3七金△4八桂成▲2六金△3八成桂▲4五歩△同歩▲3五金△3四歩▲4四歩△3五歩
▲4三歩成△同金▲8三銀△4二飛▲6一角△2九飛▲5二金△7一金▲4二金△同金▲3四角成△5一金▲6六角△4三金▲3三角成△同金▲3一飛△同玉▲3三馬 まで、83手で先手氏の勝ち。
ここまでお互い早指しだ。先手氏はここでも短考で、▲1六角と私の馬を消しにきた。
これに△2六馬と歩を取りながら飛車取りにアテたいのはヤマヤマだが、以下▲2八飛△5九馬▲3四銀△同金▲同角は、次に▲2三角成と▲6一角成の両狙いが受からず、後手わるい。
そこでシャクに障ったが△1六同馬と取り、△5三銀と上がった。これが前々から指したかった手で、△5三銀と指してホッとした。
だが直後の△3六桂~△5九角の攻めが単調だった。△4八桂成で飛車の取り合いになり、この進行は先手の▲2六金が働かないから後手よしと考えていたが、後手も△3八成桂が遊び駒だ。桂を手放してまで飛車交換に固執する価値はなく、このあたりの大局観はおかしかった。
▲4五歩を手拍子に△同歩と取ったのも危険な手で、先手氏に▲3五金から▲4四歩と動かれ、遊び駒にさせようと目論んだ▲2六金が相手の駒台に乗ってしまっては、明らかな作戦失敗である。
これで先手優勢になったが、▲8三銀は悪手。こんなところに銀を打って幸せになった人は、羽生善治王座・棋聖ぐらいしかいない。それでもここでの銀打ちはヘンだ。私は△4二飛と逃げ、また棋勢が好転したと思った。
先手氏は▲6一角。ここで△7一金か△5一金を考えたのだが、△7一金は▲4三角成と切られたあと、この金がボケる。また△5一金は▲7二角成とされ、やはり△5一金の働きがいまひとつだ。
そこでいま一度自陣を見たが、先手からの厳しい手もなさそうだ。ならばと△2九飛と攻め合ったのだが、素朴に▲5二金と飛車取りに打たれ、飛び上がった。
こんな簡単な手を見落とすとはどうかしている。私は遅ればせながら△7一金と打ったが、▲4二金~▲3四角成とされては、△7一金がすっかりスカタンになってしまった。
次に▲5一飛が厳しいから、泣いて△5一金と打ったが、こんな受け一方の手を指すようではもういけない。
ここで先手は▲6六角。次に▲4五銀△同桂▲3三歩などがあり、これも厳しい角打ちだ。私は△4三金と催促したが、先手氏は▲3三角成~▲3一飛~▲3三馬と華麗に決めた。
「負けました」
私がそう告げると、ほかの選手から、(エエッ!?)と無言の驚きの声が上がった。(大沢さん、あ、あんた、もう負けたのかよっ!!)
開始からまだ20分ちょっとしか経っていない。確かに投了が早すぎたが、といって、自玉が受けなしなのにこれ以上盤の前に座っていることはできない。
感想戦で先手氏は、
「▲1六角に△同馬がありがたかった。△2六馬を気にしていた」
といった。先手氏の勝負所はここだったのか。私はもっとあとのような気もしたが…。
感想戦も早く終わり、私はいたたまれなくなって席を立つ。ほかの6人の背中が、(大沢さん、使えねぇ!!)と言っているようで、そそくさとその場を離れた。
LPSAブースの前を通ると、店番の藤森奈津子女流四段と大庭美夏女流1級が、怪訝な顔をしている。
「どうしたの?」
と藤森女流四段。
「負けちゃいました。へへ」
私がそう言うと、藤森女流四段の顔から笑み消えた。「メッ!!」という顔をする。
ああっ、オフクロ…。
藤森女流四段に叱られたい、という男性ファンは、全国にかなりいるのではなかろうか。私はLPSAファンの中で、藤森女流四段にいちばん叱られていると自負している。ありがたいことである。
対局会場を出たが、まだ10時半にもなっていない。これでは「ゆで太郎」には入れない。浜松町駅を越し、大通り沿いにあるドトールコーヒーに入った。
ここでさっきの将棋を検討する。しかしここで検討するくらいなら、実戦でもっと考えろ、という話だ。
△3五歩~△1四角の構想は悪くなかったと思うが、△3六桂~△5九角は、やはりダサイ攻めだった。しかし▲6一角のときに、何かうまい手はなかったものか。
あ! △6二金と受ける手はなかったか。これには▲4三角成と切る一手。△同飛だと▲3四金が面倒なので△同玉だが、先手の持ち駒は角、金2の歩切れ。これで後手玉に迫るのは容易ではないと思う。そうか、これなら私のほうが良かった。しかし、金を7一や5一に打つ手を考えながら、なぜ6二に打つ手を考えなかったのだろう。まったく、エアポケットに陥っていた。
ドトールコーヒーを出て、「吉野家・増上寺店」に向かう。吉ギューはまだ270円セール中である。安いときはとことん利用するのだ。私はおカネがない。
ところでこの類の店は日本全国、牛肉とご飯の量が決まっているはずだが、増上寺店の牛丼は、どちらも少なめだった。とくにシャリ、これを箸ですくうとポロポロこぼれた。ご飯をギュッと押していない証拠だ。
すっかり気分を害して、店を出る。と、Wパパ氏にバッタリ会った。パパ、昼食を摂りにここまで遠征してきたのだろうか。
「Wさん、申し訳ない」
「ああ、いいですよ」
「本当にどうも」
「あの局面、なんで大沢さん攻め合っちゃったのかなあ、と思って」
「というと?」
「△2九飛のところで、△6二金なら大沢さんがよかったんじゃないの?」
「ああそう! そこ、私もそう考えてたんですよ」
Wパパ氏が▲6一角の局面での正着をズバリ指摘したので、私は驚いた。Wパパ氏は大将、私は三将だから、Wパパ氏の席から私の将棋は相当見づらいはずだ。
それなのにWパパ氏は、そこで正着を言い当てた。しかも「△6二金」と、後手番の符号を述べたのだ。ふつうは自分を先手に見立てて、「▲4八金」とか言いそうなものだ。
やはりWパパ氏は強い、と思った。
打ちひしがれて、会場へ戻る。と、衝撃の結果が待っていた。
(つづく)
7月31日(日)は社団戦の第2日目だった。最寄駅の浜松町までは160円で行ける距離なので余裕だが、きょうは会場設営と後片付けがあるので、いつもより早く家を出なければならない。ちなみに前回の設営当番は2年前の7月。2年で1回まわってくるようだ(…と思ったら、Y監督から、設営当番は昨年の8月にもあった、とのコメントをいただいた。私は休んだので、すっかり忘れていた)。
会場集合は午前9時で、その3分前に入ったのだが、すでに大勢の人が設営を行っていた。遅刻はしていないのだが、なんだか後ろめたい。私もすぐさま合流して、机や椅子、盤駒を並べた。
今回のLPSA星組メンバーは、Wパパ、T・K、Kaz、Y、ミスター中飛車、Sa、Fujの各氏に私。総勢8名で、人数的にはけっこう厳しい。
1回戦はY氏が抜け、9時45分、対局開始。
私は三将となった。いままでは大将か副将で、三将は初めての気がするが、前回の個人成績は2勝2敗でパッとしなかったし、この降格は仕方がない(…と思ったら、Y監督から、前回の私の成績は1勝3敗だったとの指摘をいただいた。こんなに負けたかなあ)。このあたり、監督のY氏は実に冷静に判断している。
奇数後手で私の後手番。▲7六歩△3四歩▲6六歩の出だしだったので先手氏の振り飛車かと思いきや、居飛車で来たのでズッコケた。私は自身を居飛車党と思うが、相居飛車は嫌いという、エセ居飛車党なのだ。
私が8六で角を換わると、先手は腰掛銀から4筋に飛車を回った。このまま▲4五歩と開戦されてはつまらないので、私は△3五歩と桂頭を攻める。
先手氏、▲4七銀は利かされなので▲4七金と上がったが、私は序盤の勝負手△1四角。ここで①▲3五歩は△3六歩。②▲1六歩なら△3六角▲同金△同歩で後手指せる。
そこで先手氏は▲2六歩。私は構わず△3六角と切りこんだ。▲2五桂△2七角成▲3三桂成△同桂。この局面が下だが、この岐れをどう見るか。
先手・1七歩、1九香、2六歩、4六歩、4七金、4八飛、5六銀、5七歩、6七歩、7六歩、7七銀、7八金、7九玉、8七歩、8九桂、9六歩、9九香 持駒:角、銀
後手・一公:1一香、1三歩、2三歩、2七馬、3二玉、3三桂、3五歩、4二金、4三金、4四歩、5四歩、6二銀、6三歩、7三歩、8一桂、8二飛、9一香、9三歩 持駒:桂、歩2
(44手目△3三同桂まで)
銀桂交換で私の駒損ではあるが、歩得のうえ馬を作り、△3三桂が▲4五歩も防いでいるので、後手十分と見ていた。ここから終局までの指し手を一気に記す。
▲1六角△同馬▲同歩△5三銀▲8八玉△3六桂▲6八飛△5九角▲3八飛△2六角成▲3七金△4八桂成▲2六金△3八成桂▲4五歩△同歩▲3五金△3四歩▲4四歩△3五歩
▲4三歩成△同金▲8三銀△4二飛▲6一角△2九飛▲5二金△7一金▲4二金△同金▲3四角成△5一金▲6六角△4三金▲3三角成△同金▲3一飛△同玉▲3三馬 まで、83手で先手氏の勝ち。
ここまでお互い早指しだ。先手氏はここでも短考で、▲1六角と私の馬を消しにきた。
これに△2六馬と歩を取りながら飛車取りにアテたいのはヤマヤマだが、以下▲2八飛△5九馬▲3四銀△同金▲同角は、次に▲2三角成と▲6一角成の両狙いが受からず、後手わるい。
そこでシャクに障ったが△1六同馬と取り、△5三銀と上がった。これが前々から指したかった手で、△5三銀と指してホッとした。
だが直後の△3六桂~△5九角の攻めが単調だった。△4八桂成で飛車の取り合いになり、この進行は先手の▲2六金が働かないから後手よしと考えていたが、後手も△3八成桂が遊び駒だ。桂を手放してまで飛車交換に固執する価値はなく、このあたりの大局観はおかしかった。
▲4五歩を手拍子に△同歩と取ったのも危険な手で、先手氏に▲3五金から▲4四歩と動かれ、遊び駒にさせようと目論んだ▲2六金が相手の駒台に乗ってしまっては、明らかな作戦失敗である。
これで先手優勢になったが、▲8三銀は悪手。こんなところに銀を打って幸せになった人は、羽生善治王座・棋聖ぐらいしかいない。それでもここでの銀打ちはヘンだ。私は△4二飛と逃げ、また棋勢が好転したと思った。
先手氏は▲6一角。ここで△7一金か△5一金を考えたのだが、△7一金は▲4三角成と切られたあと、この金がボケる。また△5一金は▲7二角成とされ、やはり△5一金の働きがいまひとつだ。
そこでいま一度自陣を見たが、先手からの厳しい手もなさそうだ。ならばと△2九飛と攻め合ったのだが、素朴に▲5二金と飛車取りに打たれ、飛び上がった。
こんな簡単な手を見落とすとはどうかしている。私は遅ればせながら△7一金と打ったが、▲4二金~▲3四角成とされては、△7一金がすっかりスカタンになってしまった。
次に▲5一飛が厳しいから、泣いて△5一金と打ったが、こんな受け一方の手を指すようではもういけない。
ここで先手は▲6六角。次に▲4五銀△同桂▲3三歩などがあり、これも厳しい角打ちだ。私は△4三金と催促したが、先手氏は▲3三角成~▲3一飛~▲3三馬と華麗に決めた。
「負けました」
私がそう告げると、ほかの選手から、(エエッ!?)と無言の驚きの声が上がった。(大沢さん、あ、あんた、もう負けたのかよっ!!)
開始からまだ20分ちょっとしか経っていない。確かに投了が早すぎたが、といって、自玉が受けなしなのにこれ以上盤の前に座っていることはできない。
感想戦で先手氏は、
「▲1六角に△同馬がありがたかった。△2六馬を気にしていた」
といった。先手氏の勝負所はここだったのか。私はもっとあとのような気もしたが…。
感想戦も早く終わり、私はいたたまれなくなって席を立つ。ほかの6人の背中が、(大沢さん、使えねぇ!!)と言っているようで、そそくさとその場を離れた。
LPSAブースの前を通ると、店番の藤森奈津子女流四段と大庭美夏女流1級が、怪訝な顔をしている。
「どうしたの?」
と藤森女流四段。
「負けちゃいました。へへ」
私がそう言うと、藤森女流四段の顔から笑み消えた。「メッ!!」という顔をする。
ああっ、オフクロ…。
藤森女流四段に叱られたい、という男性ファンは、全国にかなりいるのではなかろうか。私はLPSAファンの中で、藤森女流四段にいちばん叱られていると自負している。ありがたいことである。
対局会場を出たが、まだ10時半にもなっていない。これでは「ゆで太郎」には入れない。浜松町駅を越し、大通り沿いにあるドトールコーヒーに入った。
ここでさっきの将棋を検討する。しかしここで検討するくらいなら、実戦でもっと考えろ、という話だ。
△3五歩~△1四角の構想は悪くなかったと思うが、△3六桂~△5九角は、やはりダサイ攻めだった。しかし▲6一角のときに、何かうまい手はなかったものか。
あ! △6二金と受ける手はなかったか。これには▲4三角成と切る一手。△同飛だと▲3四金が面倒なので△同玉だが、先手の持ち駒は角、金2の歩切れ。これで後手玉に迫るのは容易ではないと思う。そうか、これなら私のほうが良かった。しかし、金を7一や5一に打つ手を考えながら、なぜ6二に打つ手を考えなかったのだろう。まったく、エアポケットに陥っていた。
ドトールコーヒーを出て、「吉野家・増上寺店」に向かう。吉ギューはまだ270円セール中である。安いときはとことん利用するのだ。私はおカネがない。
ところでこの類の店は日本全国、牛肉とご飯の量が決まっているはずだが、増上寺店の牛丼は、どちらも少なめだった。とくにシャリ、これを箸ですくうとポロポロこぼれた。ご飯をギュッと押していない証拠だ。
すっかり気分を害して、店を出る。と、Wパパ氏にバッタリ会った。パパ、昼食を摂りにここまで遠征してきたのだろうか。
「Wさん、申し訳ない」
「ああ、いいですよ」
「本当にどうも」
「あの局面、なんで大沢さん攻め合っちゃったのかなあ、と思って」
「というと?」
「△2九飛のところで、△6二金なら大沢さんがよかったんじゃないの?」
「ああそう! そこ、私もそう考えてたんですよ」
Wパパ氏が▲6一角の局面での正着をズバリ指摘したので、私は驚いた。Wパパ氏は大将、私は三将だから、Wパパ氏の席から私の将棋は相当見づらいはずだ。
それなのにWパパ氏は、そこで正着を言い当てた。しかも「△6二金」と、後手番の符号を述べたのだ。ふつうは自分を先手に見立てて、「▲4八金」とか言いそうなものだ。
やはりWパパ氏は強い、と思った。
打ちひしがれて、会場へ戻る。と、衝撃の結果が待っていた。
(つづく)