一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

哀しみのジョナ研(前編)・一公、荒れる

2011-09-06 00:04:03 | ジョナ研
※きょう以降の文章には、船戸陽子女流二段の品位を貶めるような表現が見受けられるかもしれませんが、私に他意はなく、船戸女流二段に敬意を表して書いております。船戸女流二段ならびご家族の皆さまはどうかご寛恕いただき、読者の皆さまもそれをご承知おきの上、お読みいただきますよう、お願い申し上げます。

8月19日(金)は駒込で、月に1度の「ジョナ研」があった。「ジョナ研」とは「ジョナサン研究会」の略。ジョナサンとはファミレスの名で、駒込にLPSAサロンがあったころ、その手合い係を務めていた植山悦行七段と会員数名が、将棋が終わった後食事に出向いていた。
やがて植山七段が手合い係を辞し、LPSAも芝浦に移転したが、駒込の思い出捨て難い会員が、あのころを懐かしんで、いまも月に1度、ジョナサンへ集うというわけであった。
前夜私は、船戸陽子女流二段の結婚という、いままでの人生で最もショッキングな事実を知り、心臓が止まる大惨事になった。旅行疲れにあの報で、肉体が悲鳴を上げてしまったのだ。まったく、初秋の悪夢だった。
その翌日のジョナ研である。正直、この日にジョナ研があって、ありがたかった。こんなときはひとりでいたくない。誰かに、会いたかった。
もっとも、LPSA芝浦サロンへは行きづらい。19日の担当女流棋士は、島井咲緒里女流初段だったからだ。
本来なら彼女のニュースだって、心臓麻痺級なのだ。ところが船戸女流二段の件があって、島井女流初段のそれが、小規模になってしまった。
ジョナ研は午後6時開場だが、私はいつも午後8時半ごろに入店する。しかしこの日は家にいるのもつらく、午後8時にはジョナサンに着いてしまった。
店に入ると、先客が8名いた。W、Kun、R、Is、Y、Hon、Kaz、それにFujの各氏である。
Fuj氏の参加は珍しい。ジョナ研メンバーは原則的に、金曜サロンOBで構成されている。それなのに、金曜サロンの体験がないFuj氏が、なぜここにいるのか。どこでこの開催を知ったのか分からぬが、ふつうに座っているので、ちょっと違和感を持った。
「こんばんは」
私は、みんなに挨拶をする。
「……」
「ハハハハハハ」「ハハハハハハ」「ハハハハハハ」
しばしの沈黙があったあと、みんなで大笑いになった。
ありがたかった。みんなの計らいで、緊張が解けた。憐れみの目で私を見られたら、私もやり切れないところだった。
空いている席に座る。左のKaz氏が、なんと言ったらいいか…という顔をしていた。
将棋盤は出されていた気もするが、まだ研究はしていなかった。この時間で研究なしとは珍しい。やはり、船戸女流二段と島井女流初段の結婚の話で持ち切りだったようだ。そして私の話も…。
ウェイトレスさんが来たので、Ayakoさんを呼んでもらう。彼女が来た。
「おおAyakoさん! 私きのうまで、沖縄を旅行してたんですよ」
「そうなんですか」
「それでさあ、帰ってきたら、オレが好きだった女性の将棋棋士が、2人同時に結婚の発表をしちゃってさァ、オレもうさあ…」
「あらぁ…」
「オレ、これからAyakoさん一本で行きますから! これ!」
「何ですか?」
「お土産、Tシャツです。沖縄でしか売ってない、『アクビ娘』のオリジナルTシャツ」
「ああ、かわいい! ありがとうございます」
と、横からW氏が、
「大沢さん、切り替え早いなあ」
と苦笑した。
バカな…。このプレゼントには、彼女に対する想いがこもっていない。こんなものは、プレゼントじゃない。私が想いをこめて贈った女性は、船戸女流二段、ただひとりだけだ。
一段落して、そこここで将棋の研究が始まったようだ。
席順は、

        壁
  Y  Fuj     Kun Hon

 Kaz 一公  W  Is  R

であった。
「まったく、結婚の当事者より、オレの声のほうが注目されてるんだからなあ。全国の女流ファンは、オレのコメントを聞きたがってる。みんな、きょうはそれがジカで聞けるんだから、貴重だぜ!」
私は精一杯強がってみせるが、いまひとつウケない。空気が強張っている。
私が食事を摂るが、将棋の研究は見たくないので、おもにW氏との雑談となった。それがやがて人生相談の形になってゆく。
「――いやどう少なく見てもさあ、3回はチャンスがあったんだよ。こっちが畳みかけるチャンスが」
「そ…そんなにあったの? それマジメな話で?」
私の話に、W氏が驚く。
「あった。詳しくは言えないけど、3回はあった。でもほら、深い仲になってたとか、そういうんじゃないよ。オレと船戸先生は、何もなかったから。…だけどね、こっちが動く絶好のチャンスは、確実にあった」
「じゃあ何で動かなかったのよ」
「ダメだった。だって相手は女流棋士でしょ? ソムリエでしょ? 住む世界が違うもの。立場の違いが、いつも頭のどこかにあった。動けなかった」
「バカだなあ…。
大沢さんあのね、いま草食系とか肉食系とかいうけどさあ、男は肉食系じゃなきゃダメだよ。
仮に、いま目の前に小泉今日子がいたらさあ、オレ何も考えずにアタックするよ」
「そうか…そうだったか…。
いやでもなあ、オレもいい歳だし、収入は低いし、そこはやっぱり躊躇しちゃったよなあ…」
「愛だの恋だのに、そんなの関係あるかよ」
「うあああー!! そうか…。考えすぎたのか…。バカだった」
「でもさ大沢さん、もう結果は出ちゃったんだよ」
「……」
「船戸さんは結婚しちゃったんだから」
「……」
「もう、次に目を向けなきゃ」
「次か…」
「だって大沢さん、この場所にもう彼女はいないんだよ。早く次の場所に動いて、次のオンナを探さなきゃ」
「……」
W氏、将棋は大したことないが、人生相談は、けっこう厳しいことを言う。
「オレはねえ」
一拍置いて、W氏は続けた。「この結果でよかったと思うよ」
「……」
「大沢さんはアタックするチャンスがあった。だけどそれをしなかったのは、自分の置かれた状況は別にしても、本能的に、この人とはうまくいかない、って思ったんだと思うよ。オレはその、大沢さんの直感を信じるけどね」
「そうかなぁ。そんなことはこれっぽっちも思ったことなかったけど。
ふぅぅ……」
私は重い息を吐いた。パスタが運ばれてきたが、全然箸(フォーク)が進まない。無理やり口に入れるが、胃が拒絶する。
ほかのメンバーは、一心不乱に将棋の研究をしている。実戦ではなく、序盤の研究だ。この人たち、本当に将棋好きだと思う。
ただ、私の傷心を慮って、私たちの会話にはあえて交わらないようにも見えた。
若干の席替えがあり、私がW氏の向かいに座る。右にはFuj氏がいた。
「まったく、いい笑いモノだよ」
私は言う。Fuj氏がこちらを見る。「ファンランキングで島井ちゃんを1位にしたと思ったら結婚だろ。それで船戸さんに戻ったら、今度は彼女が電撃結婚だもんな。
これじゃ自分の間抜けぶりを、全国に晒してるようなもんだよ」
「……」
「もう、ホントに笑われてるよ。それも笑う、じゃなくて口へんに山、の『嗤う』で嗤われてるよ」
「みんな笑ってなんかいませんよ」
「嗤ってるよ!」
私は語気を荒げた。場に不穏な空気が流れる。
「まあ、ダメだね」
私は続ける。「いまのブログは、来年の3月31日で止めようと思う」
「えっ!?」
Kaz氏とFuj氏が声をそろえ、頓狂な声を上げた。
「だってもう、続ける気力ないよ…。それにこのブログは、『一公が船戸さんを追いかける』っつーコンセプトになってたからね。主人公のひとりが結婚しちゃったんじゃ、話は終了。続ける意味ないよ」
「でも、毎日楽しみにしてたのに…」
とKaz氏。
「でも書く方も大変だからね。2、3行のどうでもいい話なら何年でも続けられるけど、このブログはいまや、『サラリーマンが毎朝通勤中に読む楽しみ』になってるんでしょ。その人たちをクスリって笑わせる力は、もう出ないよ」
「そうですか…でも残念ですね」
「うん。ごめん」

時間は流れ、すでにHon氏、Kun氏が退出していた。Fuj氏が、将棋の研究に戻る。
「四枚穴熊、馬付きの囲いを、原始棒銀で潰せるんかなあ…」
そう言って、Fuj氏がその局面を作り始めた。
「はあああ!?」
私の心臓の鼓動が、早くなった。
(つづく)
コメント (8)
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