一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

六たび大野教室に行く(後編)・最後の最後まで

2011-09-09 00:06:04 | 大野教室
船戸陽子女流二段の結婚コメントを読んでから、「穴熊」と「棒銀」を見ると、胸が苦しむようになってしまった。ちょっとこのふたつは、これからの人生でもう指せそうにない。当然、相手に指されるのもイヤだ。
しかるにAkiちゃんは▲3七銀と上がって、棒銀の気配を見せている。何のイヤミだ、と思うが、もちろんAkiちゃんに他意はない。
しかし、▲3七銀程度で動揺していては、マジで将棋が指せなくなってしまう。
私は何か指した。と、Akiちゃんが少考し、▲5五歩と突いたのでホッとした。あとでKun氏に聞いたのだが、このとき傍らで見ていたKun氏は、Akiちゃんが▲2六銀と指しそうだったので、ハラハラしたという。ふだんはポーカーフェースのKun氏だが、私を気にかけてくれていたのだ。
Akiちゃんの視線が中央に向いていたので、彼女の気が変わらないうちに、こちらで戦いを起こす。△7二金▲5六銀△5四歩▲同歩△同銀左▲5五歩△6五銀、となった。
いきおい銀交換になって、私は△5二飛と戻す。ところがAkiちゃんに▲6一銀と割り打ちされ、飛び上がった。
金を剥がされたのは痛い。以後はAkiちゃんの巧妙な寄せに遭い、無念の投了となった。
これでAkiちゃんに3連敗。さすがにAkiちゃん、芝浦サロンメンバーの棋力表にケチをつけるだけのことはある。おみそれしました。
感想戦。
「なんでこの手(▲6一銀)が見えなかったんだろ…。全然違うことを考えていました」
そう私がつぶやくと、室内に微苦笑が起こった。私が何を考えていたか、誰のことを考えていたか、みなはすでにお見通しらしい。
顔を上げると、Hanaちゃんが見える。
「たしか…Hanaちゃんだったっけ?」
私は、AkiちゃんとHanaちゃんの見分けがいまだにつかないのだ。
「『たしか』だけ、よけいだよ」
「グッ…」
な、生意気な小娘だ。
アフターは、パスタ専門店に行った。参加者は大野八一雄七段、植山悦行七段、W、Kun、Hon、Fujの各氏に私。
私は通称「王将席」に座らされた。今夜は私が主役だかららしい。ちなみに「王将席」とは、壁際中央の席のことをいう。女性が座ると、「女王席」となる。
メニューはどれにするか迷ったが、向かいに座った大野七段と、「2人セット」なるものを頼む。2人一組のメニューで、カップルで頼めば楽しそうだ。しかし私の相手が大野七段とは…。つらい。何もかもが、つらい。
と、中井広恵女流六段が見えた。中井女流六段には、私の左、「女王席」に座ってもらう。
というわけで、席順は以下のようになった。

 Kun 植山 大野 Hon

 Fuj 中井 一公 W
      壁

女流棋士ファンランキングの話になる。
「ブログでも発表しましたけど、1ランク繰り上げで、いまは中井先生が2位ですから」
「ありがとう」
「これもうね、2位といえば、恋愛対象ですから」
「……」
見つめ合うふたり。しかしそこに、いやな殺気を感じた。
右を見ると、植山七段の姿があった。どうも邪魔が入る。
注文したメニューが運ばれてきた。なんとか胃に流し込む。食事が一段落すると、私の独演会になった。
「もうね、もうね、アタックするチャンスは何回もあったのに、それをオレはことごとく見送ってたんですよ! バカですよバカ!! 頭が悪いんだ!!」
「こんな間抜けな話をブログに書かなきゃいけないんだから、お笑いですよ!」
「もう仕事する気も起きないしさあ、だらけた毎日送ってますよ」
他人が聞けば不愉快極まりない愚痴が、私の口から次から次へと出てくる。それを黙って聞いてくれているみなさん。
やがて私がしゃべり疲れたころ、W氏が口を挟んだ。
「でも大沢さん、あんた恵まれてるよ」
「なんで」
「ヒトのどーでもいい失恋話を、2人の男性棋士と、女流棋士が聞いてくれてるんだから。こんな豪勢なことないよ」
たしかに、その通りだった。中井女流六段が横にいることを、私は当たり前のように思っていた。しかし全国の将棋ファンからしたら、これは大変なことなのだ。
船戸女流二段と気軽に話していたことも、ほかの将棋ファンから見ればありえないことで、やっかみの対象にもなったに違いない。
私はいままで、恵まれ過ぎていた。だが、だからこそ、その反動も大きかったといえる。
私が3棋士を見渡すと、苦笑していた。お三方には、申し訳なく思う。と思うそばから、
「はあーあ。将棋指してても船戸さんが頭の隅に浮かんでくるしさあ」
と私は愚痴る。そして、Akiちゃんとの将棋でふらふらと△5二飛と指し、割り打ちを喰らった件を嘆いたのだった。すると、
「そういえば森下卓さんも、好きだった女性に振られたときは、対局の最中にもその女性を思い出して、将棋にならんかったって言いますなあ」
と、Fuj氏が続いた。
Fuj氏、これが余計だというのだ。7月の社団戦の打ち上げでもあったが、「ここはみんなで笑うところ」で、Fuj氏だけ何かの説明をすることがある。
笑いにそういう説明は要らないのである。笑う時はみんなで笑う。この呼吸を会得しないと、ジョナ研メンバーにはなれない。
ただしFuj氏のキャラは異色で、ジョナ研には欠かせないのもまた事実である(注:この「森下発言」は、Kun氏の言であることが判明した。いかにもFuj氏が言いそうなことで、私が勝手に勘違いした。Fuj氏およびKun氏にはお詫び申し上げます)。
「あ、△6七歩に▲同金左で私の負けでした」
大野七段が思い出したように声を上げた。
「?」
「大沢さんとのさっきの将棋、△6七歩に大沢さん▲同金右としたでしょ。だから△5八銀と打たれて詰んじゃったけど、▲同金左なら下手に詰みがないから、大沢さんの勝ちでした」
「……」
棋士は年中将棋のことを考えてるんだな、と感心する。もっとも私だって、いつも船戸女流二段のことを考えていた。気がつくと彼女のことを考えていた。
それはともかく、▲6七同金左で残していたとは…。だが考えてみれば、これは当然の応手だ。
ということは、投了2手前が敗着か。もうずいぶん前から勝負を諦めていたが、最後の最後まで、勝ちが残っていたのだ。
最後の最後まで勝ちがあった…。ふっ、しかしいまさら遅い。もう、結果は出てしまったのだ。
お開きは午後11時すぎ。今回はいくつか議題があったのだが、私の独演会で、それも滞り気味だった。またいつもは和気藹藹とした食事会なのに、私のせいで、また辛気臭い食事会になってしまった。
当日参加したみなさまには、この場から陳謝する次第です。
コメント (5)
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