3日(土)は、川口市にある「大野カウンセリング教室」に行った。
先月私の身に降りかかったショッキングな出来事を、室長の大野八一雄先生に聞いてもらうためである。
予約を入れず、夕方にお邪魔した。私は教室に入るや否や、
「グワアアアアーーーッ!!」
と咆哮する。
この教室では将棋教室も行われており、そちらの生徒は困惑していたが、私は構わず、悩みをぶちまけた。もう完全に、精神がおかしくなっていた。
「まあ待ちなさい。そこで将棋でも指して」
と大野先生。
棋友のFuj氏がいたので、一局指す。とても将棋を考えられる状態ではないのだが、適当に指していたら、相手が終盤で間違えてくれた。
Fuj氏にはここまで2連敗だったので、初勝利、しかも矢倉での勝利はうれしかった。
ここで、教室の終了時間が来てしまった。Kun氏、Hon氏は所用があるとかで、退室。
大野先生、W氏、Is氏、Fuj氏が食事に出る。もちろん私も同行する。駅の近くに坦坦麺の専門店ができたとかで、そこに行くことになった。
私は黒ゴマの坦坦麺を頼む。数分して、それが運ばれてきた。私は沖縄から帰京してからまったく食欲がなく、きょうもここまで、牛乳1杯しか胃に入れていない。それなのに、量の少ない坦坦麺でさえ、食べきれる自信はなかった。
麺を口に運ぶが、まったく味がしない。かろうじて辛味だけが分かる程度だ。胃が受けつけず、まるで、大食い選手権決勝戦の、20杯目のラーメンを食べているようだった。私の体調が万全なら美味しい坦坦麺だったのだろうが、まったくひどい味だった。
食事のあとは、駅近くの喫茶店に行く。ここで本格的に、大野先生に悩みをぶちまけた。悩み? そんな高尚なものではない。哀れな中年男の、見苦しい吐露だ。
大野先生は私の懊悩を、うんうん、と聞いてくれた。
「うん、彼女は確かに、大沢さんに火がついたことがあるかもしれないよ。でもね、その火を大沢さんが自分から消しちゃったんだよ」
大野先生は、私の将棋を見終わったあとの講評を述べるように、努めて冷静に言った。
「……。でも、白黒をつけるのがこわかった。勝負できませんでした」
「だって、どこかで勝負手を放たなくちゃいけないじゃないか!」
「グッ……。ウワアアアアアーーーッ!!」
大野先生のカウンセリングは厳しい。私を慰めるどころか、傷口をさらに拡げる。
そこで私も、分かる人には分かるイヤミで反撃した。
「▲3四歩△同銀を入れずに、すぐに▲3一飛と打てば良かったんですね」
「うっ、それを言うのかよ。せっかく忘れかけてきたのに」
溜飲が下がると思いきや、私の心は晴れなかった。
W氏やIs氏も話に加わる。
「バレンタインデーのときとかもさー、オレ、宏美先生にワイングラスをプレゼントするほうを優先しちゃったんだよなー。だって船戸先生には、もうたんまり北海道土産を渡してたからさ、問題ないと思ってたんだよ」
「女はさ、たとえ相手の男に気がなくても、ほかの女性にプレゼントされるのは面白くないもんなんだよ」
「…そうなのか?」
「そりゃそうだよ」
「そもそもさ、なんで宏美さんにプレゼントするわけ? 宏美さんは眼中になかったんでしょ? そんなの買う必要ないじゃん」
「それは宏美先生にだって、お世話になってるから」
「ボクなら、絶対に渡さないよ。ボクが先生と話すときは、ほかの先生の話は絶対にしなかったもん」
「……。オレだめなんだよなー。去年のLPSAの指し初め式のときもさ、宏美先生のきもの姿、素敵ですよねーって、船戸先生に同意を求めてるんだから」
「最悪だよそれ」
「……」
こいつらも、私を慰めてくれない。
やはり、無料でカウンセリングを受けようというのが図々しかったのだろう。私は来たときと同じ精神状態で、そのまま帰宅したのだった。
しかし、どうしてこんな事態になってしまったんだろう。
傷心の一公、どこへゆく。
先月私の身に降りかかったショッキングな出来事を、室長の大野八一雄先生に聞いてもらうためである。
予約を入れず、夕方にお邪魔した。私は教室に入るや否や、
「グワアアアアーーーッ!!」
と咆哮する。
この教室では将棋教室も行われており、そちらの生徒は困惑していたが、私は構わず、悩みをぶちまけた。もう完全に、精神がおかしくなっていた。
「まあ待ちなさい。そこで将棋でも指して」
と大野先生。
棋友のFuj氏がいたので、一局指す。とても将棋を考えられる状態ではないのだが、適当に指していたら、相手が終盤で間違えてくれた。
Fuj氏にはここまで2連敗だったので、初勝利、しかも矢倉での勝利はうれしかった。
ここで、教室の終了時間が来てしまった。Kun氏、Hon氏は所用があるとかで、退室。
大野先生、W氏、Is氏、Fuj氏が食事に出る。もちろん私も同行する。駅の近くに坦坦麺の専門店ができたとかで、そこに行くことになった。
私は黒ゴマの坦坦麺を頼む。数分して、それが運ばれてきた。私は沖縄から帰京してからまったく食欲がなく、きょうもここまで、牛乳1杯しか胃に入れていない。それなのに、量の少ない坦坦麺でさえ、食べきれる自信はなかった。
麺を口に運ぶが、まったく味がしない。かろうじて辛味だけが分かる程度だ。胃が受けつけず、まるで、大食い選手権決勝戦の、20杯目のラーメンを食べているようだった。私の体調が万全なら美味しい坦坦麺だったのだろうが、まったくひどい味だった。
食事のあとは、駅近くの喫茶店に行く。ここで本格的に、大野先生に悩みをぶちまけた。悩み? そんな高尚なものではない。哀れな中年男の、見苦しい吐露だ。
大野先生は私の懊悩を、うんうん、と聞いてくれた。
「うん、彼女は確かに、大沢さんに火がついたことがあるかもしれないよ。でもね、その火を大沢さんが自分から消しちゃったんだよ」
大野先生は、私の将棋を見終わったあとの講評を述べるように、努めて冷静に言った。
「……。でも、白黒をつけるのがこわかった。勝負できませんでした」
「だって、どこかで勝負手を放たなくちゃいけないじゃないか!」
「グッ……。ウワアアアアアーーーッ!!」
大野先生のカウンセリングは厳しい。私を慰めるどころか、傷口をさらに拡げる。
そこで私も、分かる人には分かるイヤミで反撃した。
「▲3四歩△同銀を入れずに、すぐに▲3一飛と打てば良かったんですね」
「うっ、それを言うのかよ。せっかく忘れかけてきたのに」
溜飲が下がると思いきや、私の心は晴れなかった。
W氏やIs氏も話に加わる。
「バレンタインデーのときとかもさー、オレ、宏美先生にワイングラスをプレゼントするほうを優先しちゃったんだよなー。だって船戸先生には、もうたんまり北海道土産を渡してたからさ、問題ないと思ってたんだよ」
「女はさ、たとえ相手の男に気がなくても、ほかの女性にプレゼントされるのは面白くないもんなんだよ」
「…そうなのか?」
「そりゃそうだよ」
「そもそもさ、なんで宏美さんにプレゼントするわけ? 宏美さんは眼中になかったんでしょ? そんなの買う必要ないじゃん」
「それは宏美先生にだって、お世話になってるから」
「ボクなら、絶対に渡さないよ。ボクが先生と話すときは、ほかの先生の話は絶対にしなかったもん」
「……。オレだめなんだよなー。去年のLPSAの指し初め式のときもさ、宏美先生のきもの姿、素敵ですよねーって、船戸先生に同意を求めてるんだから」
「最悪だよそれ」
「……」
こいつらも、私を慰めてくれない。
やはり、無料でカウンセリングを受けようというのが図々しかったのだろう。私は来たときと同じ精神状態で、そのまま帰宅したのだった。
しかし、どうしてこんな事態になってしまったんだろう。
傷心の一公、どこへゆく。