16日(金)のLPSA芝浦サロンは、中井広恵女流六段(天河)の担当だった。代表理事を退いて久しい中井女流六段の芝浦登板は何回かあるが、いずれも私はお邪魔していない。例えばこの12日も「LPSAマンデーレッスンS」のゲスト講師だったが、私が受けなかったため、対局は叶わなかった。
最近は中井女流六段に恋愛相談ばかりしているので、きょうこそ将棋の指導対局を受けたい。なかんずく今回は、かつてLPSA金曜サロンの顔だった某氏が、スペシャルゲストの手合い係として復活する、との噂があった。1年ぶりに、金曜サロンの雰囲気を味わえるのか? 私の胸は、久しぶりに高鳴ったのだった。
きょうは午後3時で仕事を上げ、芝浦に向かう。入室すると、中井女流六段のハツラツとした姿とともに、多くの会員の姿があった。中井女流六段は6面指し。S夫妻は、久しぶりの夫婦揃いぶみだった。やはり「中井効果」は大きい。
ただ、手合い係は大庭美夏女流1級だった。スペシャルゲストは、どこへ行ったのか。
まず、大庭女流1級から、島井咲緒里女流初段の直筆扇子をいただく。芝浦サロンポイントカード・100ポイントの賞品だ。しかし島井女流初段が結婚してしまったいまは、喜びも半分である。それを知るのがあと1ヶ月早かったら、別の女流棋士を所望していたのにと思う。
中井女流六段の指導はまだ空きがないので、一般対局を行う。まずはKus氏との角落ち戦。Kus氏は最近、二段に昇段したそうだ。LPSAの昇段規定は厳しいので、この昇段は誇っていい。上手角落ちは厳しいが、これがLPSAサロン流。手合いは下手が自由に決められるのだ。
将棋は、Kus氏の猛攻を受け大苦戦。▲2六桂▲6一竜、△3二玉の局面で、下手が▲1四香と打ったのが好手。やむない△同香に▲同桂△1三銀▲1一角△3一金(△1四銀は▲2二金で寄り)と進む。
ここで下手が▲2二金と詰ましにいったのがマズかった。△2二同金▲同桂成△同銀▲同角成△同玉▲3一銀△3三玉は、上手の玉が逃れてしまった。
こんなに慌てずとも、真綿で首の指し方をしていれば、上手は指しようがなかった。
下手に緩めてもらった一局。
時間はたっぷりあるので、中井女流六段とはまだ指さない。
2局目はTod氏と。あまり約束を守らないTod氏、きょうここへ来るのは怪しかったが、しっかり来た。彼に対する評価を改めなければならない。
手合いは私の二枚落ち。前回は同じ手合いで私の快勝だったが、今回はTod氏が力を出した。私の△5五歩~△5四金に正面から迎え討ち、飛車角を切っての猛攻に、私もタジタジ。さすがに敗局を覚悟した。
▲6三と、△7三桂△8三玉の局面で、下手が▲7三とと桂を取ったのが敗着。△同玉で上手玉が広くなってしまった。▲7三とでは▲7二金と張りつかれていたら、次の▲7三とが厳しく、上手が負けだった。▲6三とのような攻め駒は、タネ駒として活用したほうがよい。
これで2連勝。私は心身ともズタズタの状態なのに、勝負は勝ってしまう。ここが将棋の難しくもおもしろいところだ。
スペシャルゲスト氏が、W氏とともに入室した。遅い昼食を摂っていたらしい。手合い係をしないのは残念だが、これで役者は揃った。金曜サロンの復活である。
一休みしていると、Tod氏がパチパチやりながら、▲9八香、▲9九玉、▲8九桂、▲8七銀、▲7七銀、▲8八金、と並べ始めた。
「…お、おぉいTodさん!! 何を並べてるんだよ!!」
「えっ? …あっ!!」
「オレの前で穴熊を並べるなんて、何のイヤミだよ!!」
「ご、ごめん、つい…」
まったく、なんだコイツは! 油断も隙もありゃしない。
すっかり気分を害して、3局目、いよいよ中井女流六段に教えてもらう。
思えば半月前、ここであのひとに、最後の将棋を教わったのだ。あのときの苦痛がよみがえる。
「サイン勝負で、お願いします」
私は内心の動揺を隠して、懐かしいフレーズを述べる。
対局開始。私の三間飛車に、中井女流六段は居飛車。「穴熊は指せないし…」とつぶやき、天守閣四枚美濃に囲った。
くっ…ここでもか。しかし、指しづらくなった。本当に将棋が、指しづらくなった。穴熊も棒銀も、これから事あるごとに出てくる。そのたびに心をかき乱されていては、体がもたない。
中井女流六段は無理攻めに出る。これは私が咎め、角桂交換の駒得になった。
しかし私が頑張れたのは、そこまでだった。ちょっと、将棋を指すのがつらくなった。
中井女流六段、△8六歩の垂らしに、私は「負けました」と投了した。
「エエーッ!?」
大仰に驚く、中井女流六段。
「もうダメです。戦意喪失」
「だってこっちが不利の局面でしょ。これじゃ、感想戦ができないじゃない」
「…すみません」
私はうなだれた。せっかくの中井女流六段との指導対局だったのに、なんてことだと思う。
こんな体たらくでは、私が芝浦サロンをフェードアウトするのも、時間の問題であろう。
(つづく)
最近は中井女流六段に恋愛相談ばかりしているので、きょうこそ将棋の指導対局を受けたい。なかんずく今回は、かつてLPSA金曜サロンの顔だった某氏が、スペシャルゲストの手合い係として復活する、との噂があった。1年ぶりに、金曜サロンの雰囲気を味わえるのか? 私の胸は、久しぶりに高鳴ったのだった。
きょうは午後3時で仕事を上げ、芝浦に向かう。入室すると、中井女流六段のハツラツとした姿とともに、多くの会員の姿があった。中井女流六段は6面指し。S夫妻は、久しぶりの夫婦揃いぶみだった。やはり「中井効果」は大きい。
ただ、手合い係は大庭美夏女流1級だった。スペシャルゲストは、どこへ行ったのか。
まず、大庭女流1級から、島井咲緒里女流初段の直筆扇子をいただく。芝浦サロンポイントカード・100ポイントの賞品だ。しかし島井女流初段が結婚してしまったいまは、喜びも半分である。それを知るのがあと1ヶ月早かったら、別の女流棋士を所望していたのにと思う。
中井女流六段の指導はまだ空きがないので、一般対局を行う。まずはKus氏との角落ち戦。Kus氏は最近、二段に昇段したそうだ。LPSAの昇段規定は厳しいので、この昇段は誇っていい。上手角落ちは厳しいが、これがLPSAサロン流。手合いは下手が自由に決められるのだ。
将棋は、Kus氏の猛攻を受け大苦戦。▲2六桂▲6一竜、△3二玉の局面で、下手が▲1四香と打ったのが好手。やむない△同香に▲同桂△1三銀▲1一角△3一金(△1四銀は▲2二金で寄り)と進む。
ここで下手が▲2二金と詰ましにいったのがマズかった。△2二同金▲同桂成△同銀▲同角成△同玉▲3一銀△3三玉は、上手の玉が逃れてしまった。
こんなに慌てずとも、真綿で首の指し方をしていれば、上手は指しようがなかった。
下手に緩めてもらった一局。
時間はたっぷりあるので、中井女流六段とはまだ指さない。
2局目はTod氏と。あまり約束を守らないTod氏、きょうここへ来るのは怪しかったが、しっかり来た。彼に対する評価を改めなければならない。
手合いは私の二枚落ち。前回は同じ手合いで私の快勝だったが、今回はTod氏が力を出した。私の△5五歩~△5四金に正面から迎え討ち、飛車角を切っての猛攻に、私もタジタジ。さすがに敗局を覚悟した。
▲6三と、△7三桂△8三玉の局面で、下手が▲7三とと桂を取ったのが敗着。△同玉で上手玉が広くなってしまった。▲7三とでは▲7二金と張りつかれていたら、次の▲7三とが厳しく、上手が負けだった。▲6三とのような攻め駒は、タネ駒として活用したほうがよい。
これで2連勝。私は心身ともズタズタの状態なのに、勝負は勝ってしまう。ここが将棋の難しくもおもしろいところだ。
スペシャルゲスト氏が、W氏とともに入室した。遅い昼食を摂っていたらしい。手合い係をしないのは残念だが、これで役者は揃った。金曜サロンの復活である。
一休みしていると、Tod氏がパチパチやりながら、▲9八香、▲9九玉、▲8九桂、▲8七銀、▲7七銀、▲8八金、と並べ始めた。
「…お、おぉいTodさん!! 何を並べてるんだよ!!」
「えっ? …あっ!!」
「オレの前で穴熊を並べるなんて、何のイヤミだよ!!」
「ご、ごめん、つい…」
まったく、なんだコイツは! 油断も隙もありゃしない。
すっかり気分を害して、3局目、いよいよ中井女流六段に教えてもらう。
思えば半月前、ここであのひとに、最後の将棋を教わったのだ。あのときの苦痛がよみがえる。
「サイン勝負で、お願いします」
私は内心の動揺を隠して、懐かしいフレーズを述べる。
対局開始。私の三間飛車に、中井女流六段は居飛車。「穴熊は指せないし…」とつぶやき、天守閣四枚美濃に囲った。
くっ…ここでもか。しかし、指しづらくなった。本当に将棋が、指しづらくなった。穴熊も棒銀も、これから事あるごとに出てくる。そのたびに心をかき乱されていては、体がもたない。
中井女流六段は無理攻めに出る。これは私が咎め、角桂交換の駒得になった。
しかし私が頑張れたのは、そこまでだった。ちょっと、将棋を指すのがつらくなった。
中井女流六段、△8六歩の垂らしに、私は「負けました」と投了した。
「エエーッ!?」
大仰に驚く、中井女流六段。
「もうダメです。戦意喪失」
「だってこっちが不利の局面でしょ。これじゃ、感想戦ができないじゃない」
「…すみません」
私はうなだれた。せっかくの中井女流六段との指導対局だったのに、なんてことだと思う。
こんな体たらくでは、私が芝浦サロンをフェードアウトするのも、時間の問題であろう。
(つづく)