一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

A氏夫妻と飲む(後編)・結婚相手に求めるものとは

2011-09-22 00:05:14 | プライベート
「なんで」
私は訊く。
「炎上して、大沢さんがブログを止めざるを得なくなってほしい。そうすりゃ大沢さんが小説を書き出すかもしれないでしょ。書く能力を持っている人って、絶対どこか、書く場を求めるからね。ボクは大沢さんの小説が読みたいんだよ」
「オレにそんな才能なんてないよ」
「あるよ。大沢さんは文才がある」
「ないよ」
「あるよ。あるけど大沢さんは、ブログのコメント欄が炎上しそうになっても、巧妙に切り返して、火を消しちゃうでしょ」
「大沢さんスゴイー」
奥さんが妙に感心する。
「うん。オレは実名で書いてるからね。ハンドルネームで書いてる人は、オレと本気でケンカできないよね。こっちが表へ出ろって言ったら、出て来られないもんね」
「書いてることもすごいじゃない? 私、こんなことまで書いちゃっていいの?って思うことあるもん」
「ヨネナガクニオのケツの穴が小さいとか? あれは当局のケツの穴が大きくて助かったね」
「あと林葉さんにひざまづいてサインもらう話とか。私あれ読んで笑っちゃった」
「大沢さん、コメントする人にも厳しいしね」
A氏が苦笑しながら言う。
「うん、オレはおもしろくないコメントにはダメ出ししちゃうから。こんなブログほかにはないよね、ハハ」
「この前も誰かバッサリ斬ってたじゃない」
「セサミンさん? あの人はその前にオレが、コメント大賞を出してたからね。だからあの人は、つまらないコメントを書いたらダメなレベルまで来てるの。この前のは明らかに、下品な笑い取りでしょ。オレああいうミエミエなのは認めないから。もっと筋よく笑わせてもらわないと」
「そういえば大沢さん、ブログに写真も載せないよね」
「あ、そうよねー。そういえば大沢さんのブログ、写真がない!」
奥さんが頓狂な声を上げた。
「うん。オレ、不親切だから。沖縄行っても北海道行っても、1回も載せたことない。景色を見たきゃ、自分で見に行けと。画像よりね、自分の目で見た方がはるかに綺麗なんだから。
将棋の図面だって載せない。文字だけで勝負。ハハ」
また料理が運ばれてきた。食欲はないが、3人でワイワイやっていると、自然と箸が進む。ありがたいと思う。
「それだけ不親切で読者にも厳しいのに、みんなが怒らない、っていうのが大沢さんの人徳なんだよ」
「人徳なんてないよ」
「あのね、大沢さんは大体、自分を卑下し過ぎてるよ。どうしてそんなに自分を低く見るの?」
A氏が二コリともせず、訴えかけるように言う。
「卑下してないよ。だけどオレには人に誇れるものがないんだから、しょうがない」
「あるよ。何度も言ってるでしょ。大沢さんの文才は大変なものだよ。ボクなんかよりはるかにある。何かの賞を獲れる人だと思う。ブログであれだけの量を1日も休まず書くなんて、普通の人にはできないよ」
「あんなの大したことじゃない」
「その凄さを自分で分かってないんだよ。何でかなー。
例えばさ、ボクがみんなと飲むときに大沢さんがいるとさ、いつも話の中心に大沢さんがいるじゃない、自然とさ。これは凄いことだよ。みんな、大沢さんの周りに集まってくるんだよ!?」
「そうか?」
「そうだよ。自分が気づいてないんだよ。ボクは芝浦の食事会はあまり行ったことないけど、そこでもきっと、そうなってるよ。たぶん、座る席も、大沢さんがいつも真ン中にいると思うよ」
「そうかなー」
私は大野教室やジョナ研の食事会での、席順を思い出す。そう言われれば、私は「王将席」に座ることが多いような気がする。
「うん。大沢さんは生活力もあるし、絶対自信を持っていいと思う」
「そう、それに身長もあるし」
奥さんが付け加える。
「生活力なんてないよ。オレ、収入も少ないし。まぁ身長はあるけどさ、たしかに。ハハ」
「それは経済力でしょ。ボクの言ってるのは生活力。大沢さんには大切な女性を幸せにしていく生活力が備わっている。湯川博士さんとかはそうだよ。人生はこれがいちばん大事なんだよ」
「大沢さんは魅力的よ。私、主人より先に大沢さんと知り合ってたら、大沢さんと結婚してた」
奥さんが衝撃的なことを言う。
「それはそれは…。でもオレのほうが、結婚を承諾するかどうか」
「……」
奥さんがおもしろくなさそうに、ビールの追加を頼んだ。
「だから大沢さんのその才能を見抜けなかった船戸さんは、大沢さんの結婚相手には相応しくなかった、ということなんだよ」
「うっ…」
力づくの論理で、A氏が結論を述べた。
A氏、それが言いたかったのか――。さすがに作家の面を持つA氏、ほかの棋友とは視点が違う、一味違う慰め方だった。
「この前のワインサロンは、ブログに書くの?」
何杯めかのビールを飲み干して、A氏が問うた。9月1日、私と船戸陽子女流二段で1対1になってしまった、LPSA木曜ワインサロンのことだ。
「書くよ。3回に分けて書く。でもあんときゃオレひとりだったからねー。ホント参った。まったく、何つー巡り合わせだよ。心の中で号泣してたもんね。我が人生最大の苦痛だった」
「書くのかぁ。いや、すごいエネルギーだね。書くのは大変だと思うけども」
「そりゃキツイよね。またあんときの苦痛に、真正面から向き合わなくちゃなんないんだから。あの時ああしてりゃ良かった、こうしてりゃ良かったって自問自答してね。そんなことしたって何にもならないのに。もう、死にそうなくらいさ。
でももう構想はできてるんだ。思いっきり自分を無様に書く。そんでいままで船戸さんに言えなかったことを、ひとつ残らず書く。もう遅いけどね。勝負はついちゃったんだから。
それで、最後の最後に、『錦糸町の風俗に行った』『だけど何も出なかった』って、2行に分けて、ボソッと書く」
「風俗? そりゃマズイよ。船戸さん、大沢さんのブログを読んでるよ」
A氏が箸を止め、半音上げた声で反論した。
「もう読んでねーよ」
「そうかなー。でも読んでなくてもさ、大沢さんがこんなことを書いてたって、やがて耳に入るよ」
「だけどその2行がなきゃ、オレのブログじゃねーんだよ。感動で盛り上げて、最後に、落とす」
「ウーン…。やっぱりマズイよ。風俗だ何だって書いたら、船戸さんが大沢さんのことを軽蔑するよ。大沢さんへの信頼度が100から40ぐらいに落っこっちゃうよ」
「うん……」
私は箸を持つ手を止め、しばし考えたのだった。

先月から身を切り刻まれるような毎日が続いているが、棋友とこうしていると、気が紛れる。しかし時間の経つのも早い。気がつけば、もうお開きの時間になっていた。A氏夫妻は東京都下に住んでいるので、若干早めの締めになるのだ。
会計では、私のほうから誘っておきながら、また私がご馳走されてしまった。いつもいつも申し訳なく思う。
3人で神田駅の改札を抜けた。
「大沢さん、錦糸町の風俗の件、本当に書くの?」
「書くよ」
「じゃあ船戸さんに軽蔑されてもいいんだね?」
「へっ、そんなの知ったことか!」
「よし、それでこそ大沢さんだ!」
私たちはハイタッチをし、笑顔で別れる。
私は、中央線ホームに向かうA氏夫妻の背中を見つめると、いつも私の相談に乗ってくれる彼らに、幸多かれと願うのだった。
コメント (7)
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