平成23年11月6日
長野県南佐久郡川上村「信濃わらび山荘」
第2回最恐戦
先手:七段 植山悦行
後手:七段 大野八一雄
▲7六歩△3四歩→△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩▲2六歩△3四歩▲6八銀△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△5二金右▲5七銀右△4三金▲4六銀△6二銀▲7八金△5三銀▲6九玉△3二金▲3六歩△4五歩
植山、▲7六歩。大野は△3四歩。大盤解説の中井広恵女流六段が
「ふたりの対局だから矢倉になるでしょう」
と言った。
それを聞いた大野が△3四歩を戻し、△8四歩と指し直した。これは大野、ずいぶん堂々と「待った」をしたものだ。大野、中井女流六段の予想にそって、矢倉志向にしたのだ。
しかし植山が▲5六歩と突いたので△8五歩▲7七角と進み、矢倉の可能性も少なくなった。中井解説は、今度は振り飛車をにおわす。
ところが植山は▲2六歩。
「聞いてること全部外すなよ」
と大野が笑って言う。
▲2五歩。お互い飛車先の歩を2つ伸ばし、古風な序盤戦になった。
なおも続く中井女流六段の「怪説」に、
「困っちゃうな」
と植山がボヤいて、▲5七銀右。
「これは雁木もありますね」
と中井女流六段。と、場内がドッと沸いた。「雁木」「穴熊」「棒銀」は、私の前では禁句となっている。どうもおもしろくない。
続いて中井女流六段が、植山とのペア将棋の裏ばなしをする。ふたりは棋風が違うので、ペアを組んだときは、いろいろと苦労があったようだ。
「本局のふたりは受け90%だから、どうなることか…」
と言った。
植山、▲4六銀と出て、攻めてるじゃん、と再びボヤく。しかし△6二銀に、最初の長考に入った。序盤の作戦の岐路らしい。植山、チャッ、と▲7八金と上がった。
さらに植山、▲3六歩。
「いまは攻めてるけど、やがて受けに回ると思います」
と中井女流六段。
対して大野、決断の△4五歩。24手目にして、初めて駒がぶつかった。
▲5七銀引△2二銀▲5八金△7七角成▲同銀△3三銀▲7九玉△4一玉▲6六歩△3一玉▲8八玉△7四歩▲9六歩△1四歩▲1六歩△9四歩▲6七金右△2二玉▲4八飛
観戦のみんなは、ジュースを飲み、お菓子の袋を拡げ、寛ぎながら聞いている。日曜の午前に、棋士のナマ対局を女流棋士のナマ解説付きで鑑賞する。将棋ファンには堪えられない時間であろう。
△4五歩に▲同銀は、△2二角から△3三桂がある。さすがに取り切れず、▲5七銀引。これでは丸々の2手損だが、手損がそのまま形勢を損ねることにならないのが、将棋のむずかしいところ。むしろ△4五歩が争点になる可能性もあり、その場合、後手がこの位を守れるかどうかがカギとなる。
植山、▲5八金。ここで大野が長考に沈んだ。口元にハンカチを当ててこんこんと考える。残り時間は、植山20分、大野は15分を切った。
両者とも盤上を凝視している。指導対局のときにはない、戦う男の表情だ。将棋を指しているときのプレーヤーは、男女問わず魅力度100%UPとなる。
中井女流六段が、大野陣は菊水矢倉にする手もあるという。ところで菊水矢倉の由来は何か? 一同が首を傾げていると、R氏がケータイで調べた。
Wikipediaによると「菊水矢倉」は、昭和20年代に高島一岐代九段が考案し、氏の出身地の河内八尾の偉人・楠木正成の家紋「菊水」にちなんで命名したものだという。
ケータイがあれば、なんでもタチドコロに調べがつく。いまさらながら、恐ろしい世の中になったものである。
大野、先ほどからお腹をさすっている。失礼、と断って、本局2回目のトイレに行った。ふだんから体を鍛え、屈強の肉体美を誇る大野ではあるが、トイレが近いのが、唯一の弱点だ。
トイレから戻り、大野、△7七角成と角を換えた。
植山、長考で▲8八玉と入る。消費時間は逆転し、いまは植山のほうが少なくなっている。
9六→1四→1六→9四と、虚々実々の端歩の突き合い。中井女流六段、
「動きのない将棋ですねー」
とボヤく。きょうはみんなボヤいてばかりだ。
大野も△2二玉と入城する。3手目からは予想もつかなかったが、気がつけば堂々の相矢倉である。
しかし、お互い手を出しにくい形になった。うかつに動けば角打ちのスキを作ってしまう。下手をすれば千日手の懸念もある。まさかとは思うが、まったくないとはいえない。
「これは、次の最恐戦は、組み合わせを代えないとダメですねー」
と中井女流六段が嘆く。女流将棋だったら、もうとっくにケンカ(開戦)が始まっているだろう。
植山、▲4八飛と回る。これには△2七角が目につく。歩得と馬が無条件で約束されるが、植山、大丈夫なのだろうか?
△4四銀右▲6五歩△2七角▲4一角△3六角成▲6三角成△2五馬▲6四馬△9二飛▲7四馬△3五歩▲6四歩△3六歩▲4六歩△2六馬▲4五歩△3五銀▲2八飛△5九馬▲6八銀右△4九馬▲6三歩成△3四金
大野、長考で△4四銀右▲6五歩の交換を入れ、△2七角。打てと言われて打てないようでは、男ではない、というところか。しかしここは△7三角だった、という大野の感想があった。以下▲1八飛に、△2四歩と逆襲する。これもあったかもしれない。
植山は▲4一角。これが△2七角に対する答えだった。もし△6二飛なら、▲3二角成△同玉に▲3七金がある。以下△5九角▲2七金△4八角成▲同銀は、大野の駒損がひどく指し切れない。
大野、長考に入る。ここで再び消費時間が逆転した。△6二飛は不利と見て、△3六角成。植山も▲6三角成とし、均衡を保つ。お互い金銀四枚に固め、馬を作る。個人的には「金銀四枚」とか「馬」という単語にもつらいイメージがあるのだが、それはともかく、いかにも両者らしい戦いとなった。
ここで大野の持ち時間が切れた。私がそれを告げると大野は、ハイハイ、と言った。△2五馬と歩を取って、ひとつ引く。ここからはしばらく、歩と馬しか動かない地味な展開となった。
55手目を考慮中、植山も持ち時間が切れた。
Hon氏が、
「外は晴れなのに、雨が降ってますね」
と言う。今回の合宿では植山、一公の雨男が参加したが、晴れ男も何名か参加したようだ。盤外でも、お互いの意地が激突していた。
63手目、▲6八銀右。四枚矢倉をさらに固めた。この矢倉に名前はないと思ったが、「市松矢倉」という命名はどうだろうか。
大野、△3四金。植山の金銀が四角く固まったのに対し、大野のそれは棒になった。しかし今度は持将棋の気配も漂ってきた。この将棋、決着がつくのだろうか。
▲5五歩△3九馬▲2七飛△4二飛▲5三と△4五飛▲2四歩△同歩▲4三歩△4一歩▲同馬△3八馬▲5七飛△2九馬▲4二歩成△同銀▲同と△同飛▲同馬△同金▲5四歩△5二歩▲5三歩成△同歩▲5四歩 まで、91手で植山七段の勝ち。
植山、味よく▲5五歩。これに相手はできないので、大野、△3九馬と寄る。大野は馬を働かさないことには、話にならない。しかし飛車馬交換もしたくないところで、このあたりは大野、もどかしい指し手だったと思われる。
植山、6三に作ったと金を5三に寄せる。俗に、「5三のと金に負けはなし」という。将棋の格言を全部覚えれば、それだけでアマ初段の棋力はあるという。
大野、予定どおり飛車を4五に出るが、苦しい形勢だ。
植山、▲4三歩。70手を過ぎて、ここまで両者の駒台には、角と歩しか載っていない。したがって地味な攻めにならざるを得ないが、元手がかかってないぶん、こうした攻めは受けが利かないのだ。
大野、秒読みに追われて△4一歩。本局で唯一、大野が慌てた瞬間だった。しかしこれは▲同馬でタダ。これで大勢決した。
4二の地点で駒を清算して、▲5四歩。ここ、▲4九飛の馬金両取りが目に付くが、それはウソ手ということだろう。本譜はあくまでも、歩による攻めを貫いた。
大野のやむない△5二歩に、▲5三歩成と捨て、再び▲5四歩。ここで大野が投了。対局のふたりに、惜しみない拍手が送られた。
引き続き、両者には大盤の前に出てきていただき、公開感想戦となった。
まず大野は、棋士人生で初めて「待った」をしたことを明かしてくれた。待ったをしてでも、中井女流六段の矢倉の予想に従いたかったという。その気持ちは痛いほど分かる。だって中井女流六段は…。
ここから本格的な感想戦に入る。一見なにげない手にも意味があり、ふたりの解説を拝聴していると、本当に勉強になる。
そしていちばんのポイントは、43手目の▲4八飛に、大野が△2七角を打つかどうかにあった。しかし前述のとおりこれは疑問、というか敗着に近い手で、角を打つなら△7三角。動かないなら、△4二金寄や△3一玉と引いて待つところだったという。しかしみんなの見ている前で、この手は指せなかった、と大野は言った。
また、このようなまったりした展開では、戦いが起こったときにはハッキリと優劣が決まる場合が多いのだという。それだけに、序中盤はもっと考えたかった、と植山は言った。これは、持ち時間を1時間に設定すべきだったかもしれない。次回の課題としたい。
感想戦も終わり、植山には賞金が手渡された。前回のそれはむきだしだったが、今回はのし袋に入れてあった。植山七段、おめでとうございます。
いまやこの最恐戦は、本合宿の目玉となっている。次回はどんなカードになるのだろう。いまから楽しみである。
最後に、今回も名局をつむいでくれた両対局者には、あらためて感謝を述べたい。また、硬軟織り交ぜて楽しい解説をしてくれた中井女流六段にも、同様に感謝の意を示して、結びとする。
(つづく)
長野県南佐久郡川上村「信濃わらび山荘」
第2回最恐戦
先手:七段 植山悦行
後手:七段 大野八一雄
▲7六歩△3四歩→△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩▲2六歩△3四歩▲6八銀△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△5二金右▲5七銀右△4三金▲4六銀△6二銀▲7八金△5三銀▲6九玉△3二金▲3六歩△4五歩
植山、▲7六歩。大野は△3四歩。大盤解説の中井広恵女流六段が
「ふたりの対局だから矢倉になるでしょう」
と言った。
それを聞いた大野が△3四歩を戻し、△8四歩と指し直した。これは大野、ずいぶん堂々と「待った」をしたものだ。大野、中井女流六段の予想にそって、矢倉志向にしたのだ。
しかし植山が▲5六歩と突いたので△8五歩▲7七角と進み、矢倉の可能性も少なくなった。中井解説は、今度は振り飛車をにおわす。
ところが植山は▲2六歩。
「聞いてること全部外すなよ」
と大野が笑って言う。
▲2五歩。お互い飛車先の歩を2つ伸ばし、古風な序盤戦になった。
なおも続く中井女流六段の「怪説」に、
「困っちゃうな」
と植山がボヤいて、▲5七銀右。
「これは雁木もありますね」
と中井女流六段。と、場内がドッと沸いた。「雁木」「穴熊」「棒銀」は、私の前では禁句となっている。どうもおもしろくない。
続いて中井女流六段が、植山とのペア将棋の裏ばなしをする。ふたりは棋風が違うので、ペアを組んだときは、いろいろと苦労があったようだ。
「本局のふたりは受け90%だから、どうなることか…」
と言った。
植山、▲4六銀と出て、攻めてるじゃん、と再びボヤく。しかし△6二銀に、最初の長考に入った。序盤の作戦の岐路らしい。植山、チャッ、と▲7八金と上がった。
さらに植山、▲3六歩。
「いまは攻めてるけど、やがて受けに回ると思います」
と中井女流六段。
対して大野、決断の△4五歩。24手目にして、初めて駒がぶつかった。
▲5七銀引△2二銀▲5八金△7七角成▲同銀△3三銀▲7九玉△4一玉▲6六歩△3一玉▲8八玉△7四歩▲9六歩△1四歩▲1六歩△9四歩▲6七金右△2二玉▲4八飛
観戦のみんなは、ジュースを飲み、お菓子の袋を拡げ、寛ぎながら聞いている。日曜の午前に、棋士のナマ対局を女流棋士のナマ解説付きで鑑賞する。将棋ファンには堪えられない時間であろう。
△4五歩に▲同銀は、△2二角から△3三桂がある。さすがに取り切れず、▲5七銀引。これでは丸々の2手損だが、手損がそのまま形勢を損ねることにならないのが、将棋のむずかしいところ。むしろ△4五歩が争点になる可能性もあり、その場合、後手がこの位を守れるかどうかがカギとなる。
植山、▲5八金。ここで大野が長考に沈んだ。口元にハンカチを当ててこんこんと考える。残り時間は、植山20分、大野は15分を切った。
両者とも盤上を凝視している。指導対局のときにはない、戦う男の表情だ。将棋を指しているときのプレーヤーは、男女問わず魅力度100%UPとなる。
中井女流六段が、大野陣は菊水矢倉にする手もあるという。ところで菊水矢倉の由来は何か? 一同が首を傾げていると、R氏がケータイで調べた。
Wikipediaによると「菊水矢倉」は、昭和20年代に高島一岐代九段が考案し、氏の出身地の河内八尾の偉人・楠木正成の家紋「菊水」にちなんで命名したものだという。
ケータイがあれば、なんでもタチドコロに調べがつく。いまさらながら、恐ろしい世の中になったものである。
大野、先ほどからお腹をさすっている。失礼、と断って、本局2回目のトイレに行った。ふだんから体を鍛え、屈強の肉体美を誇る大野ではあるが、トイレが近いのが、唯一の弱点だ。
トイレから戻り、大野、△7七角成と角を換えた。
植山、長考で▲8八玉と入る。消費時間は逆転し、いまは植山のほうが少なくなっている。
9六→1四→1六→9四と、虚々実々の端歩の突き合い。中井女流六段、
「動きのない将棋ですねー」
とボヤく。きょうはみんなボヤいてばかりだ。
大野も△2二玉と入城する。3手目からは予想もつかなかったが、気がつけば堂々の相矢倉である。
しかし、お互い手を出しにくい形になった。うかつに動けば角打ちのスキを作ってしまう。下手をすれば千日手の懸念もある。まさかとは思うが、まったくないとはいえない。
「これは、次の最恐戦は、組み合わせを代えないとダメですねー」
と中井女流六段が嘆く。女流将棋だったら、もうとっくにケンカ(開戦)が始まっているだろう。
植山、▲4八飛と回る。これには△2七角が目につく。歩得と馬が無条件で約束されるが、植山、大丈夫なのだろうか?
△4四銀右▲6五歩△2七角▲4一角△3六角成▲6三角成△2五馬▲6四馬△9二飛▲7四馬△3五歩▲6四歩△3六歩▲4六歩△2六馬▲4五歩△3五銀▲2八飛△5九馬▲6八銀右△4九馬▲6三歩成△3四金
大野、長考で△4四銀右▲6五歩の交換を入れ、△2七角。打てと言われて打てないようでは、男ではない、というところか。しかしここは△7三角だった、という大野の感想があった。以下▲1八飛に、△2四歩と逆襲する。これもあったかもしれない。
植山は▲4一角。これが△2七角に対する答えだった。もし△6二飛なら、▲3二角成△同玉に▲3七金がある。以下△5九角▲2七金△4八角成▲同銀は、大野の駒損がひどく指し切れない。
大野、長考に入る。ここで再び消費時間が逆転した。△6二飛は不利と見て、△3六角成。植山も▲6三角成とし、均衡を保つ。お互い金銀四枚に固め、馬を作る。個人的には「金銀四枚」とか「馬」という単語にもつらいイメージがあるのだが、それはともかく、いかにも両者らしい戦いとなった。
ここで大野の持ち時間が切れた。私がそれを告げると大野は、ハイハイ、と言った。△2五馬と歩を取って、ひとつ引く。ここからはしばらく、歩と馬しか動かない地味な展開となった。
55手目を考慮中、植山も持ち時間が切れた。
Hon氏が、
「外は晴れなのに、雨が降ってますね」
と言う。今回の合宿では植山、一公の雨男が参加したが、晴れ男も何名か参加したようだ。盤外でも、お互いの意地が激突していた。
63手目、▲6八銀右。四枚矢倉をさらに固めた。この矢倉に名前はないと思ったが、「市松矢倉」という命名はどうだろうか。
大野、△3四金。植山の金銀が四角く固まったのに対し、大野のそれは棒になった。しかし今度は持将棋の気配も漂ってきた。この将棋、決着がつくのだろうか。
▲5五歩△3九馬▲2七飛△4二飛▲5三と△4五飛▲2四歩△同歩▲4三歩△4一歩▲同馬△3八馬▲5七飛△2九馬▲4二歩成△同銀▲同と△同飛▲同馬△同金▲5四歩△5二歩▲5三歩成△同歩▲5四歩 まで、91手で植山七段の勝ち。
植山、味よく▲5五歩。これに相手はできないので、大野、△3九馬と寄る。大野は馬を働かさないことには、話にならない。しかし飛車馬交換もしたくないところで、このあたりは大野、もどかしい指し手だったと思われる。
植山、6三に作ったと金を5三に寄せる。俗に、「5三のと金に負けはなし」という。将棋の格言を全部覚えれば、それだけでアマ初段の棋力はあるという。
大野、予定どおり飛車を4五に出るが、苦しい形勢だ。
植山、▲4三歩。70手を過ぎて、ここまで両者の駒台には、角と歩しか載っていない。したがって地味な攻めにならざるを得ないが、元手がかかってないぶん、こうした攻めは受けが利かないのだ。
大野、秒読みに追われて△4一歩。本局で唯一、大野が慌てた瞬間だった。しかしこれは▲同馬でタダ。これで大勢決した。
4二の地点で駒を清算して、▲5四歩。ここ、▲4九飛の馬金両取りが目に付くが、それはウソ手ということだろう。本譜はあくまでも、歩による攻めを貫いた。
大野のやむない△5二歩に、▲5三歩成と捨て、再び▲5四歩。ここで大野が投了。対局のふたりに、惜しみない拍手が送られた。
引き続き、両者には大盤の前に出てきていただき、公開感想戦となった。
まず大野は、棋士人生で初めて「待った」をしたことを明かしてくれた。待ったをしてでも、中井女流六段の矢倉の予想に従いたかったという。その気持ちは痛いほど分かる。だって中井女流六段は…。
ここから本格的な感想戦に入る。一見なにげない手にも意味があり、ふたりの解説を拝聴していると、本当に勉強になる。
そしていちばんのポイントは、43手目の▲4八飛に、大野が△2七角を打つかどうかにあった。しかし前述のとおりこれは疑問、というか敗着に近い手で、角を打つなら△7三角。動かないなら、△4二金寄や△3一玉と引いて待つところだったという。しかしみんなの見ている前で、この手は指せなかった、と大野は言った。
また、このようなまったりした展開では、戦いが起こったときにはハッキリと優劣が決まる場合が多いのだという。それだけに、序中盤はもっと考えたかった、と植山は言った。これは、持ち時間を1時間に設定すべきだったかもしれない。次回の課題としたい。
感想戦も終わり、植山には賞金が手渡された。前回のそれはむきだしだったが、今回はのし袋に入れてあった。植山七段、おめでとうございます。
いまやこの最恐戦は、本合宿の目玉となっている。次回はどんなカードになるのだろう。いまから楽しみである。
最後に、今回も名局をつむいでくれた両対局者には、あらためて感謝を述べたい。また、硬軟織り交ぜて楽しい解説をしてくれた中井女流六段にも、同様に感謝の意を示して、結びとする。
(つづく)