「いやいや中井先生のことは好きですよ。だけど私が中井先生にどうこう言ってるのはシャレですからシャレ! LikeであってLoveじゃありません」
私は慌て気味に弁解する。だいたい、中井広恵女流六段の横に植山悦行七段が座っているのに、
「ふたりの間に障害はありますが、私は本気です」
などと言えるわけがない。それにしてもHi氏、ずいぶん思い切ったことを聞くものだ。さすがの私も、驚いた。
行きにも寄ったパーキングエリアで一休み。ここでふらふらしていたら、もう出発の時間になったらしく、中井女流六段から私のスマホに電話があったようだ。しかしスマホは旅行カバンの中に入っていたので、出られなかった。せっかくのマドンナからの電話だったのに、惜しいことをした。
もっとも行きのときも、大野八一雄七段から私のスマホに電話があったのだが、このときは電源さえ入れていなかった。これではスマホを持っている意味がない。
そもそも、私はなぜスマホを買わされたのか。それはAyakoさんとメアド交換をするためではなかったのか? それが、Ayakoさんとの飲み会が潰れ、スマホを持つ意味がなくなった。これはやっぱり、Ayakoさんとの飲み会の席を作らなきゃダメなのだろうか。
ああ、Ayakoさんに会いてぇなあ…。
3台は高速道路を快調に走る。17時をすぎた。晩秋の日暮れは早い。辺りはすでに真っ暗だ。行きにも寄った、高坂サービスエリアに入る。ここで最後の晩餐となる。
建物の端にあるレストランに、15人で入る。レジでメニューをオーダーして、指定されたテーブルの席に、順繰りに座る。私の右には中井女流六段がいた。しかし6人掛けの席に8人が座っており、少し窮屈だ。と、店員さんが新たな席を提供してくれた。それでKun氏と私は移動したのだが、そのとき中井女流六段が(行っちゃうの?)という顔をした気がした。
私が座ったテーブルはゆったりした4人席。右にKun氏、向かいにHon氏、その横にMi氏が座った。類は友を呼ぶ。将棋愛が強いメンバーの中で、私たち4人は、比較的正常な将棋愛の持ち主である。
しかしHon氏が心なしか寂しげだ。もう合宿も終わってしまう。事情は痛いほど分かるが、なんだかんだ言っても立派な家庭を持っているのだから、幸せなことには違いない。
そのHon氏、私よりあとに料理が運ばれてきたのに、私より先に料理を平らげてしまった。いつも思うのだがHon氏、何かに急き立てられるようにして、食事を摂る。もう少しゆっくり味わえないものかと思う。
腹もくちて、みんなは土産物コーナーを物色する。私はこれといって買うものはないが、自宅用にお菓子を買った。しかし買わずもがなだ。
ここからは東京(埼玉)までノンストップだ。中井女流六段らとはここでお別れとなる。楽しかったね、また合宿やろうね、と言葉を交わして、私はHonカーに乗車した。
しかし話はまだ終わらない。ここからHonカーは、蕨駅近くのサイゼリヤに滑り込んだ。1年前に入ったのと同じところだ。ここで時間の許す限り、将棋談議をしようというハラである。今回の席の配置は以下である。
Kun Hon R
壁
Y 一公 Fuj Kaz
まず話題に上ったのが、里見香奈倉敷藤花に清水市代女流六段が挑戦した、倉敷藤花戦第1局だ。きょう6日、島根県で行われ、清水女流六段が勝ったのだ。
これ、挑戦者決定戦で室谷由紀女流初段が勝っていたら、私は合宿を蹴って、島根県まで乗りこんでいたかもしれない。「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」では、2位の中井女流六段より、室谷女流初段のほうが上。ファンランキングの1位ということは私にとって、そのくらい重い(想い)ものなのだ。
この将棋、里見倉敷藤花の捌きに、清水女流六段の「忍の角」が出たらしい。いまは棋譜をケータイで調べられるが、Hon氏は布盤と駒を出し始める。みんなで鑑賞しようということだ。本当に私たちは、どこまでバカなのだろう。
ところが駒を並べて、▲7六歩△8四歩、とやったときに店員が現れ、
「ゲームはご遠慮ください」
と注意されてしまった。
ドッチラケる私たち。しかしこれが、ふつうの対応なのだ。ファミレスは食事をするところ。遊技場ではないのだ。
しかしそれだけに、駒込ジョナサンはありがたいファミレスだとあらためて痛感した。夜6時に入って将棋盤を取り出し、12時近くまで、食事だけで6時間も粘る。
これ、一見客だったら、とうに叩き出されているところだ。
それがそうならないのは、旧金サロ時代、毎週駒込ジョナサンに顔を出していた、という実績があるからだが、それにしたって私たちは、駒込ジョナサンの好意に甘えすぎだと思う。まあ、ジョナ研はいまや旧金サロメンバーの憩いの場なので、たまにお邪魔したときは、せいぜい料理をオーダーしようと思う。
この1週間前に行われた社団戦の話になる。我がLPSA星組は、準優勝で見事3部昇級を果たした。私はまったく戦力にならなかったが、我が将棋人生で、大いに誇れる快挙だった。
ところで今回、星組の監督を務めたY氏と久しぶりに話をしたのだが、私の勝負観とは微妙に違うことが判明した。すなわち――。
この最終日の2戦目が、優勝を争う首位攻防戦だった。つまり本リーグの大一番である。この対局、Y監督はSa氏をスターティングメンバーから外したとのこと。Sa氏は星組の若手エースであり、勝率もよい。その彼を、なぜ外したのか分からない。
私は当日バックレたので、それをY監督に質すと、Sa氏を休ませるのはローテーションだから、と言った。監督によれば、当日の参加選手は満遍なく使うことを旨としており、選手間に2局以上の対局数の差が出ないようにしているらしい。よって、彼にも1回休んでもらったのだという。
その考え方も一理あるが、「Y方程式」をすべて当てはめるのは無理があると思う。優勝を争う大一番の場合、原則は無視し、実力者を上から並べて、ベストメンバーで臨むのがスジではないだろうか。
こんなY監督の下では、来期LPSAのゼッケンを付けて戦いたくないな、と思った。
――というカタイ話もあったが、全体的には、将棋のバカ話に終始した。
最後はHon氏に蕨駅前まで送っていただき、ここで本当の解散となった。
横浜方面の京浜東北線に乗り、Fuj氏とも別れて、一息つく。
ふーっ。シートに座って目をつむると、あんなこと、こんなことが、走馬灯のようによみがえる。今回もいろいろあったけど、楽しい3日間だった。また合宿をしたいな。
…ン? あれっ? ああっ? うああ、しまったあああーーーーっっっ!!
A、Ayakoさんに、お、お土産を買うのを忘れたあああああーーーーっっっ!!
なんだこれ、なんだこれ、なんで忘れっちゃったんだ、うああああーーーーっ!!
今回の合宿で、一番のうっかり者は、私だった。
(完)
私は慌て気味に弁解する。だいたい、中井広恵女流六段の横に植山悦行七段が座っているのに、
「ふたりの間に障害はありますが、私は本気です」
などと言えるわけがない。それにしてもHi氏、ずいぶん思い切ったことを聞くものだ。さすがの私も、驚いた。
行きにも寄ったパーキングエリアで一休み。ここでふらふらしていたら、もう出発の時間になったらしく、中井女流六段から私のスマホに電話があったようだ。しかしスマホは旅行カバンの中に入っていたので、出られなかった。せっかくのマドンナからの電話だったのに、惜しいことをした。
もっとも行きのときも、大野八一雄七段から私のスマホに電話があったのだが、このときは電源さえ入れていなかった。これではスマホを持っている意味がない。
そもそも、私はなぜスマホを買わされたのか。それはAyakoさんとメアド交換をするためではなかったのか? それが、Ayakoさんとの飲み会が潰れ、スマホを持つ意味がなくなった。これはやっぱり、Ayakoさんとの飲み会の席を作らなきゃダメなのだろうか。
ああ、Ayakoさんに会いてぇなあ…。
3台は高速道路を快調に走る。17時をすぎた。晩秋の日暮れは早い。辺りはすでに真っ暗だ。行きにも寄った、高坂サービスエリアに入る。ここで最後の晩餐となる。
建物の端にあるレストランに、15人で入る。レジでメニューをオーダーして、指定されたテーブルの席に、順繰りに座る。私の右には中井女流六段がいた。しかし6人掛けの席に8人が座っており、少し窮屈だ。と、店員さんが新たな席を提供してくれた。それでKun氏と私は移動したのだが、そのとき中井女流六段が(行っちゃうの?)という顔をした気がした。
私が座ったテーブルはゆったりした4人席。右にKun氏、向かいにHon氏、その横にMi氏が座った。類は友を呼ぶ。将棋愛が強いメンバーの中で、私たち4人は、比較的正常な将棋愛の持ち主である。
しかしHon氏が心なしか寂しげだ。もう合宿も終わってしまう。事情は痛いほど分かるが、なんだかんだ言っても立派な家庭を持っているのだから、幸せなことには違いない。
そのHon氏、私よりあとに料理が運ばれてきたのに、私より先に料理を平らげてしまった。いつも思うのだがHon氏、何かに急き立てられるようにして、食事を摂る。もう少しゆっくり味わえないものかと思う。
腹もくちて、みんなは土産物コーナーを物色する。私はこれといって買うものはないが、自宅用にお菓子を買った。しかし買わずもがなだ。
ここからは東京(埼玉)までノンストップだ。中井女流六段らとはここでお別れとなる。楽しかったね、また合宿やろうね、と言葉を交わして、私はHonカーに乗車した。
しかし話はまだ終わらない。ここからHonカーは、蕨駅近くのサイゼリヤに滑り込んだ。1年前に入ったのと同じところだ。ここで時間の許す限り、将棋談議をしようというハラである。今回の席の配置は以下である。
Kun Hon R
壁
Y 一公 Fuj Kaz
まず話題に上ったのが、里見香奈倉敷藤花に清水市代女流六段が挑戦した、倉敷藤花戦第1局だ。きょう6日、島根県で行われ、清水女流六段が勝ったのだ。
これ、挑戦者決定戦で室谷由紀女流初段が勝っていたら、私は合宿を蹴って、島根県まで乗りこんでいたかもしれない。「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」では、2位の中井女流六段より、室谷女流初段のほうが上。ファンランキングの1位ということは私にとって、そのくらい重い(想い)ものなのだ。
この将棋、里見倉敷藤花の捌きに、清水女流六段の「忍の角」が出たらしい。いまは棋譜をケータイで調べられるが、Hon氏は布盤と駒を出し始める。みんなで鑑賞しようということだ。本当に私たちは、どこまでバカなのだろう。
ところが駒を並べて、▲7六歩△8四歩、とやったときに店員が現れ、
「ゲームはご遠慮ください」
と注意されてしまった。
ドッチラケる私たち。しかしこれが、ふつうの対応なのだ。ファミレスは食事をするところ。遊技場ではないのだ。
しかしそれだけに、駒込ジョナサンはありがたいファミレスだとあらためて痛感した。夜6時に入って将棋盤を取り出し、12時近くまで、食事だけで6時間も粘る。
これ、一見客だったら、とうに叩き出されているところだ。
それがそうならないのは、旧金サロ時代、毎週駒込ジョナサンに顔を出していた、という実績があるからだが、それにしたって私たちは、駒込ジョナサンの好意に甘えすぎだと思う。まあ、ジョナ研はいまや旧金サロメンバーの憩いの場なので、たまにお邪魔したときは、せいぜい料理をオーダーしようと思う。
この1週間前に行われた社団戦の話になる。我がLPSA星組は、準優勝で見事3部昇級を果たした。私はまったく戦力にならなかったが、我が将棋人生で、大いに誇れる快挙だった。
ところで今回、星組の監督を務めたY氏と久しぶりに話をしたのだが、私の勝負観とは微妙に違うことが判明した。すなわち――。
この最終日の2戦目が、優勝を争う首位攻防戦だった。つまり本リーグの大一番である。この対局、Y監督はSa氏をスターティングメンバーから外したとのこと。Sa氏は星組の若手エースであり、勝率もよい。その彼を、なぜ外したのか分からない。
私は当日バックレたので、それをY監督に質すと、Sa氏を休ませるのはローテーションだから、と言った。監督によれば、当日の参加選手は満遍なく使うことを旨としており、選手間に2局以上の対局数の差が出ないようにしているらしい。よって、彼にも1回休んでもらったのだという。
その考え方も一理あるが、「Y方程式」をすべて当てはめるのは無理があると思う。優勝を争う大一番の場合、原則は無視し、実力者を上から並べて、ベストメンバーで臨むのがスジではないだろうか。
こんなY監督の下では、来期LPSAのゼッケンを付けて戦いたくないな、と思った。
――というカタイ話もあったが、全体的には、将棋のバカ話に終始した。
最後はHon氏に蕨駅前まで送っていただき、ここで本当の解散となった。
横浜方面の京浜東北線に乗り、Fuj氏とも別れて、一息つく。
ふーっ。シートに座って目をつむると、あんなこと、こんなことが、走馬灯のようによみがえる。今回もいろいろあったけど、楽しい3日間だった。また合宿をしたいな。
…ン? あれっ? ああっ? うああ、しまったあああーーーーっっっ!!
A、Ayakoさんに、お、お土産を買うのを忘れたあああああーーーーっっっ!!
なんだこれ、なんだこれ、なんで忘れっちゃったんだ、うああああーーーーっ!!
今回の合宿で、一番のうっかり者は、私だった。
(完)