時刻は午前2時を過ぎた。続いてHi氏と対局。Hi氏もスタミナがある。さっきはR氏と10秒将棋を2局指し、引き続き3局目を指そうとしたところ、R氏に「もう勘弁してください」と逃げられた。R氏の将棋好きも相当だが、そのR氏にギブアップ宣言をさせたのだからすごい。
私の先手で▲7六歩△3二飛。Fuj氏はこの△3二飛戦法がイヤで、初手に▲7六歩と突けなくなったというが、本気で言っているのだろうか。こんなもん、ふつうに応対すれば何でもない。
とはいえ本局、私もアツくなって3筋から逆襲する。▲3五歩~▲3六金~▲4五歩~▲4六銀と位を張って十分と思いきや、Hi氏に△5二飛と転戦され、次△5五銀からの決戦が受からない。こうなると、▲3六金がソッポだ。なんてことだ…。クサッた私はここで投了した。
Hi氏は、それはないだろう、という顔で苦笑したが、「相手に気持ちのいい手は指させない」は、私のポリシーである。
まだ眠る気にはなれず、R氏と10秒将棋。これは私が幸いした。
続いてY氏とも10秒将棋。大苦戦になったが何とか相手玉に喰らいつき、最後は私の玉がギリギリ詰まず、私の勝ち。
まだまだ眠る気にはなれず、Y氏ともう一局。周りを見ると、Hi氏が就寝し、R氏とKaz氏を残すのみとなった。
Y氏の振り飛車にまたも大苦戦となったが、10秒将棋はこちらの土俵である。やっぱりじりじりと晩回し、▲4七角の王手竜取り。ここで形勢が逆転したようだ。以下数手進んで、▲6一竜▲8四飛 持駒:金、△6三銀△7二銀△7三桂△9一香△9二玉△9三銀△9四歩 の局面で、▲7二竜△同銀▲8一銀まで、私の勝ち。以下は△8一同銀▲8三金まで。
時刻は3時を過ぎた。朝食まで4時間あまりあるが、ここいらで寝るのがスジであろう。私たちは名残惜しく、各部屋に消えた。きょうは結局、18局指した。
明けて6日(日)朝。楽しかった合宿も、いよいよ最終日である。
きょうは前日より眠った気がした。明け方ウトウトしたが、夢の中で未明に指した将棋を考えていた。対Kaz戦の最終盤、Kaz氏の▲8八歩に私は△7八角と打ったが、ここは△6九角と打つべきだった。それなら同じ手順で進んだとき、最後の△6七角成に換えて、△7八金で先手玉を詰ますことができる。
問題は△6九角のとき、後手玉が飛、角、金で詰むかどうかだが、わずかに詰まないと思う。
では▲8八歩が疑問か。これに換えて▲7九金の受けはないか、と後日考えたが、これも同様に△6九角があり、以下▲6八飛△8八金▲同飛△同歩成▲同銀△8七歩で、やはり私の勝ちは動かないようである。しかし検討で勝っても意味がない。実戦で勝たなければダメである(注:▲8八歩に△6九角は、▲9六角の受けがあると、読者からご指摘をいただいた。調べてみるとそのとおりで、この順は後手難局、と訂正します)。
最終のY戦も、夢の中で考えた。最後、私は▲7二竜と銀を取って詰ましたが、こんなことをしなくても、たんに▲8一竜と捨てて、簡単な詰みだった。
早起きのHi氏に朝の挨拶。Hi氏は結局、私たちと同じスケジュールをこなした。恐るべき体力である。
7時すぎに食堂へ入る。きょうも泣き出しそうな空だ。私は例によって端のテーブルに座った。ここは3人席だ。ナナメ前にKub氏が座り、ご飯をよそいに行く。と、中井広恵女流六段もこちらへ来た。
最初はKub氏の席に座ったが、Kub氏が先着だったことに気づき、横にズレた。すなわち私の向かいだ。中井女流六段は、いいよね、という感じでそのまま座る。マジ!?
東京のファミレスや居酒屋では、中井女流六段が何度も私の向かいや横に来て慣れっこなのに、違う場であらたまった席になると、妙に緊張してしまう。だって、女流棋士ファンランキング2位の中井女流六段と、向かい合わせで朝食である。これで緊張するなと言うほうが無理だ。
私は視線を上げられず、うつむいたまま、黙々と食事を摂る。初日の夜に中井女流六段とツーショットの食事を遠慮して、絶好のチャンスを逃したと悔やんでいた。ところがその機会が再び、何の前触れもなく訪れたのだ。とにかく私は、緊張の極みだった。途中、何か中井女流六段に話しかけたが、内容は忘れてしまった。
夢のような食事が終わった。味が全然分からない、妙な朝食だった。しかし日本全国に、中井女流六段と向かい合わせで朝食を摂った将棋ファンがどれだけいるか。このとき私は確実に、幸せだった。
朝食のあとはコテージに戻り、布団を畳んで、将棋盤と駒を食堂に運ぶ。お世話になったコテージとは、来年までしばしのお別れだ。
9時からは本合宿のメインイベント「信濃わらび杯・最恐戦」である。プロ棋士の対局を、解説つきで鑑賞しようというものだ。前回は中井女流六段と植山悦行七段のカードが組まれ、中井女流六段が快勝した。今回は参加者投票の結果、植山七段-大野八一雄七段の一戦が採用された。些少ながら賞金もつく、真剣な対局である。
所定の席に植山七段、大野七段が座る。記録・棋譜読み上げは不肖ながら私が務める。大盤解説は中井女流六段。駒操作兼聞き手はY氏。
8時55分、粛々と駒が並べられる。振り駒は前回と同じく蕨市役所将棋部OB氏にお願いし、その結果、植山七段の先手と決まった。持ち時間はチェスクロック使用で各30分。それを使い切ると、1手60秒の秒読みである。
9時02分、即席報道陣のカメラのシャッターが切られる中、植山七段の▲7六歩で、第2回信濃わらび杯・最恐戦は始まった。
(つづく)
私の先手で▲7六歩△3二飛。Fuj氏はこの△3二飛戦法がイヤで、初手に▲7六歩と突けなくなったというが、本気で言っているのだろうか。こんなもん、ふつうに応対すれば何でもない。
とはいえ本局、私もアツくなって3筋から逆襲する。▲3五歩~▲3六金~▲4五歩~▲4六銀と位を張って十分と思いきや、Hi氏に△5二飛と転戦され、次△5五銀からの決戦が受からない。こうなると、▲3六金がソッポだ。なんてことだ…。クサッた私はここで投了した。
Hi氏は、それはないだろう、という顔で苦笑したが、「相手に気持ちのいい手は指させない」は、私のポリシーである。
まだ眠る気にはなれず、R氏と10秒将棋。これは私が幸いした。
続いてY氏とも10秒将棋。大苦戦になったが何とか相手玉に喰らいつき、最後は私の玉がギリギリ詰まず、私の勝ち。
まだまだ眠る気にはなれず、Y氏ともう一局。周りを見ると、Hi氏が就寝し、R氏とKaz氏を残すのみとなった。
Y氏の振り飛車にまたも大苦戦となったが、10秒将棋はこちらの土俵である。やっぱりじりじりと晩回し、▲4七角の王手竜取り。ここで形勢が逆転したようだ。以下数手進んで、▲6一竜▲8四飛 持駒:金、△6三銀△7二銀△7三桂△9一香△9二玉△9三銀△9四歩 の局面で、▲7二竜△同銀▲8一銀まで、私の勝ち。以下は△8一同銀▲8三金まで。
時刻は3時を過ぎた。朝食まで4時間あまりあるが、ここいらで寝るのがスジであろう。私たちは名残惜しく、各部屋に消えた。きょうは結局、18局指した。
明けて6日(日)朝。楽しかった合宿も、いよいよ最終日である。
きょうは前日より眠った気がした。明け方ウトウトしたが、夢の中で未明に指した将棋を考えていた。対Kaz戦の最終盤、Kaz氏の▲8八歩に私は△7八角と打ったが、ここは△6九角と打つべきだった。それなら同じ手順で進んだとき、最後の△6七角成に換えて、△7八金で先手玉を詰ますことができる。
問題は△6九角のとき、後手玉が飛、角、金で詰むかどうかだが、わずかに詰まないと思う。
では▲8八歩が疑問か。これに換えて▲7九金の受けはないか、と後日考えたが、これも同様に△6九角があり、以下▲6八飛△8八金▲同飛△同歩成▲同銀△8七歩で、やはり私の勝ちは動かないようである。しかし検討で勝っても意味がない。実戦で勝たなければダメである(注:▲8八歩に△6九角は、▲9六角の受けがあると、読者からご指摘をいただいた。調べてみるとそのとおりで、この順は後手難局、と訂正します)。
最終のY戦も、夢の中で考えた。最後、私は▲7二竜と銀を取って詰ましたが、こんなことをしなくても、たんに▲8一竜と捨てて、簡単な詰みだった。
早起きのHi氏に朝の挨拶。Hi氏は結局、私たちと同じスケジュールをこなした。恐るべき体力である。
7時すぎに食堂へ入る。きょうも泣き出しそうな空だ。私は例によって端のテーブルに座った。ここは3人席だ。ナナメ前にKub氏が座り、ご飯をよそいに行く。と、中井広恵女流六段もこちらへ来た。
最初はKub氏の席に座ったが、Kub氏が先着だったことに気づき、横にズレた。すなわち私の向かいだ。中井女流六段は、いいよね、という感じでそのまま座る。マジ!?
東京のファミレスや居酒屋では、中井女流六段が何度も私の向かいや横に来て慣れっこなのに、違う場であらたまった席になると、妙に緊張してしまう。だって、女流棋士ファンランキング2位の中井女流六段と、向かい合わせで朝食である。これで緊張するなと言うほうが無理だ。
私は視線を上げられず、うつむいたまま、黙々と食事を摂る。初日の夜に中井女流六段とツーショットの食事を遠慮して、絶好のチャンスを逃したと悔やんでいた。ところがその機会が再び、何の前触れもなく訪れたのだ。とにかく私は、緊張の極みだった。途中、何か中井女流六段に話しかけたが、内容は忘れてしまった。
夢のような食事が終わった。味が全然分からない、妙な朝食だった。しかし日本全国に、中井女流六段と向かい合わせで朝食を摂った将棋ファンがどれだけいるか。このとき私は確実に、幸せだった。
朝食のあとはコテージに戻り、布団を畳んで、将棋盤と駒を食堂に運ぶ。お世話になったコテージとは、来年までしばしのお別れだ。
9時からは本合宿のメインイベント「信濃わらび杯・最恐戦」である。プロ棋士の対局を、解説つきで鑑賞しようというものだ。前回は中井女流六段と植山悦行七段のカードが組まれ、中井女流六段が快勝した。今回は参加者投票の結果、植山七段-大野八一雄七段の一戦が採用された。些少ながら賞金もつく、真剣な対局である。
所定の席に植山七段、大野七段が座る。記録・棋譜読み上げは不肖ながら私が務める。大盤解説は中井女流六段。駒操作兼聞き手はY氏。
8時55分、粛々と駒が並べられる。振り駒は前回と同じく蕨市役所将棋部OB氏にお願いし、その結果、植山七段の先手と決まった。持ち時間はチェスクロック使用で各30分。それを使い切ると、1手60秒の秒読みである。
9時02分、即席報道陣のカメラのシャッターが切られる中、植山七段の▲7六歩で、第2回信濃わらび杯・最恐戦は始まった。
(つづく)