10日(金)午前7時35分。カーテンから漏れる薄日で目がさめた。
というのはウソで、きのうは午前3時に床に就いてからも、10日のことを考えて、一睡もできなかった。
なんでこんな展開になったのだろう。数年来の知己である彼女から、まず某氏に連絡があったのが1月下旬だった。聞くと、彼女が北海道で私に会いたがっているとのことで、私は自分の耳を疑った。
私はいまだかつて女性とデートをしたことがないし、あっても食事に毛が生えた程度である。女性を前にするとアガッテしまって、まともに話すことができないのだ。ゆえに、今回彼女がどんな展開を望んでいるのか知らぬが、私は彼女の期待に応えられない自信があった。
彼女は、私が将棋を趣味にしていることも、ブログを書いていることも知っている。しかし、私がこれほど将棋にのめりこんでいるとは思っていない。ブログだって、世間では「変態ブログ」と呼ばれるムッツリスケベ全開のものであり、彼女が読んだら、あまりの内容に卒倒すること必至である。
将棋もブログも、私は前面に出したくないが、ふたりでおしゃべりをしていれば、必ずボロが出る。
「そこはそうする一手です」とか、「あっ、ムラムラしちゃいました」とか、「ああっ、な、なんか、い、いい感じです」とか、訳の分からないことを口走りそうである。
彼女の話は聞いても、自分から積極的に話したらダメだと、強く自分に言い聞かせた。
9時00分の千歳線で、苗穂に向かう。午前中のスケジュールは空白なので、余裕がある。事前の調べでは、ここ苗穂からバスで数十分走ったところに「千の湯」という温泉施設があった。まずはそこでサッパリしようというわけだ。
苗穂駅を出てバス停を探すが、よく分からない。ようやく見つけたと思ったら、反対方向だった。
対面を見ると、私の乗りたいバスがいましも出るところである。
なんてことだ…と横を見ると、なぜか「温泉」の看板が目に入った。なんと、苗穂駅前にも公共の温泉施設があったのだ。こんな情報、ネットのどこにもなかった。
とりあえずバスの時刻を確認すると、いま出たバスが10時04分。その次の「千の湯」行きが10時27分である。帰りの時間も考えると、かなりせわしない。
私はそのまま、先ほど見た看板の温泉「蔵ノ湯」に向かった。ここは通常料金が420円とまずまず。食事処も併設されていて、温泉と食事のセットメニューが700円もしくは900円と、かなりおトクだった。
とりあえず「700円」のセット券を購入して、まずは温泉に入る。平日の午前中から温泉に入る、この優越感――。と思いきや、かなりの客が温泉に入っていたのでビックリした。
苗穂の人はヒマなのだろうか。などと書くと苗穂の人に怒られるが、とにかくこれでは、ありがたみが薄れる。
まず、念入りにヒゲを剃る。LPSA芝浦サロンや大野教室に行くときはヒゲに頓着しないが、きょうは特別である。自分のできる範囲で、身だしなみを整えなければならない。
続いて温泉に浸かる。熱くもなくぬるくもなく、いい湯だ。出てから体を洗って、今度は露天風呂に入る。いつもならここで中倉宏美が登場するが、きょうはそんな妄想の余裕はない。
温泉から出ると、脱衣所のドライヤーが3分10円だった。金を取るのか! 一人旅なら自然乾燥だが、きょうは意地を張っていられない。大金10円を投入して、これも念入りに髪を乾かす。どうもてっぺんが薄くなった気がするが、考えないことにする。
食事処で牛丼をオーダーする。単品なら500円はするだろうから、温泉と合わせると、やはりおトクだ。
食事を終え、近くの郵便局で貯金をする。繰り返すが、きょうは平日である。「苗穂駅前郵便局」210円。
待ち合わせの場所に着いた。しかし約束の時間までは、まだ1時間ある。う~、緊張感で、気持ち悪くなってきた。ウンチがもれそうだ。いつもだったら、1時間あればネットカフェに飛び込んでブログのひとつも書くところだが、きょうはそんな気分にはなれない。
約束の時間になった。しかし彼女は現れない。ドキドキして、心臓が口から飛び出そうだ。
3分が過ぎた。…あっ、来た!! 彼女が本当に、来た!!
…………。
いまは11日(土・祝)、午前2時である。きのうは夢のような1日だった。しかしそれで幸せとは言えなかった。私は十分シミュレーションをしたが、理論と実戦は違う、ということをイヤというほど思い知らされた。
私は少しでも彼女を楽しませようと奮闘したが、やることなすことすべてが裏目に出た。もう、出だしから読みにない手が出現した。しかし私はオロオロするばかりで、なんの手助けもできなかった。こんなに二人旅の勝手が違うとは思わなかった。
いま、彼女はどうしているのだろう。せっかくふたりの時間を取ってくれたのに、期待に応えられず、申し訳なかったと思う。でも今回の彼女の厚意には、本当に感謝している。心から御礼を申しあげます。ありがとう。
(つづく)
というのはウソで、きのうは午前3時に床に就いてからも、10日のことを考えて、一睡もできなかった。
なんでこんな展開になったのだろう。数年来の知己である彼女から、まず某氏に連絡があったのが1月下旬だった。聞くと、彼女が北海道で私に会いたがっているとのことで、私は自分の耳を疑った。
私はいまだかつて女性とデートをしたことがないし、あっても食事に毛が生えた程度である。女性を前にするとアガッテしまって、まともに話すことができないのだ。ゆえに、今回彼女がどんな展開を望んでいるのか知らぬが、私は彼女の期待に応えられない自信があった。
彼女は、私が将棋を趣味にしていることも、ブログを書いていることも知っている。しかし、私がこれほど将棋にのめりこんでいるとは思っていない。ブログだって、世間では「変態ブログ」と呼ばれるムッツリスケベ全開のものであり、彼女が読んだら、あまりの内容に卒倒すること必至である。
将棋もブログも、私は前面に出したくないが、ふたりでおしゃべりをしていれば、必ずボロが出る。
「そこはそうする一手です」とか、「あっ、ムラムラしちゃいました」とか、「ああっ、な、なんか、い、いい感じです」とか、訳の分からないことを口走りそうである。
彼女の話は聞いても、自分から積極的に話したらダメだと、強く自分に言い聞かせた。
9時00分の千歳線で、苗穂に向かう。午前中のスケジュールは空白なので、余裕がある。事前の調べでは、ここ苗穂からバスで数十分走ったところに「千の湯」という温泉施設があった。まずはそこでサッパリしようというわけだ。
苗穂駅を出てバス停を探すが、よく分からない。ようやく見つけたと思ったら、反対方向だった。
対面を見ると、私の乗りたいバスがいましも出るところである。
なんてことだ…と横を見ると、なぜか「温泉」の看板が目に入った。なんと、苗穂駅前にも公共の温泉施設があったのだ。こんな情報、ネットのどこにもなかった。
とりあえずバスの時刻を確認すると、いま出たバスが10時04分。その次の「千の湯」行きが10時27分である。帰りの時間も考えると、かなりせわしない。
私はそのまま、先ほど見た看板の温泉「蔵ノ湯」に向かった。ここは通常料金が420円とまずまず。食事処も併設されていて、温泉と食事のセットメニューが700円もしくは900円と、かなりおトクだった。
とりあえず「700円」のセット券を購入して、まずは温泉に入る。平日の午前中から温泉に入る、この優越感――。と思いきや、かなりの客が温泉に入っていたのでビックリした。
苗穂の人はヒマなのだろうか。などと書くと苗穂の人に怒られるが、とにかくこれでは、ありがたみが薄れる。
まず、念入りにヒゲを剃る。LPSA芝浦サロンや大野教室に行くときはヒゲに頓着しないが、きょうは特別である。自分のできる範囲で、身だしなみを整えなければならない。
続いて温泉に浸かる。熱くもなくぬるくもなく、いい湯だ。出てから体を洗って、今度は露天風呂に入る。いつもならここで中倉宏美が登場するが、きょうはそんな妄想の余裕はない。
温泉から出ると、脱衣所のドライヤーが3分10円だった。金を取るのか! 一人旅なら自然乾燥だが、きょうは意地を張っていられない。大金10円を投入して、これも念入りに髪を乾かす。どうもてっぺんが薄くなった気がするが、考えないことにする。
食事処で牛丼をオーダーする。単品なら500円はするだろうから、温泉と合わせると、やはりおトクだ。
食事を終え、近くの郵便局で貯金をする。繰り返すが、きょうは平日である。「苗穂駅前郵便局」210円。
待ち合わせの場所に着いた。しかし約束の時間までは、まだ1時間ある。う~、緊張感で、気持ち悪くなってきた。ウンチがもれそうだ。いつもだったら、1時間あればネットカフェに飛び込んでブログのひとつも書くところだが、きょうはそんな気分にはなれない。
約束の時間になった。しかし彼女は現れない。ドキドキして、心臓が口から飛び出そうだ。
3分が過ぎた。…あっ、来た!! 彼女が本当に、来た!!
…………。
いまは11日(土・祝)、午前2時である。きのうは夢のような1日だった。しかしそれで幸せとは言えなかった。私は十分シミュレーションをしたが、理論と実戦は違う、ということをイヤというほど思い知らされた。
私は少しでも彼女を楽しませようと奮闘したが、やることなすことすべてが裏目に出た。もう、出だしから読みにない手が出現した。しかし私はオロオロするばかりで、なんの手助けもできなかった。こんなに二人旅の勝手が違うとは思わなかった。
いま、彼女はどうしているのだろう。せっかくふたりの時間を取ってくれたのに、期待に応えられず、申し訳なかったと思う。でも今回の彼女の厚意には、本当に感謝している。心から御礼を申しあげます。ありがとう。
(つづく)