JRバスは「ルオント前」を通過した。結局私は降りなかった。せいわ温泉ルオントと幌加内そば、「夜の雪質日本一フェスティバル」より、「夜の旭川冬まつり・氷彫刻世界大会」を取ったのだ。
これはこれで立派な選択だったが、宗谷本線で特急列車を使えば、名寄と旭川、両方の「夜」の雪まつりを楽しめたことが分かったいまでは、かなりの後悔を禁じ得ない。次回からは、特急列車の利用も視野に入れたい。
朱鞠内、14時07分着。ここで旅行者の若い女性が降りた。宿のスタッフと思しき男女が、彼女を迎えに来ていた。
朱鞠内にはユースホステルがあり、美味い幌加内そばを食べさせてくれる。一度泊まってみたいが、その機会は訪れないだろう(注:このユースは現在、民宿として営業しているようである)。
バスの乗客は私ひとりになった。地方の路線バスはどこもガラガラだ。深名線の幌加内発名寄行きは1日4本(土・休日は3本)しかないが、それもやむを得ないと思う。
トイレタイムになったので、バスから降りて、写真を撮る。ルオント前もこの辺りも、ものすごい雪である。この雪がすべて融けるのは、いつになるのだろう。数分後、発車。
運転手さんとは、いまだ会話なし。私がこのバスに乗り続けた理由は、深名線沿線を明るいうちに鑑賞したかったのと、この運転手さんの運転を、もう少し味わいたかったこともある。
次の停留所はエンジン橋だ。どこからどこまでがエンジン橋か分からぬが、深名線沿線の白眉がこの辺りである。
しかし雪の嵩が高すぎて、ベストショットがない。車内からカメラを構えては止める、を繰り返す。撮りますか? と運転手さんが言って、バスを止めてくれた。左を見ると、一面が雪に覆われてよく見えぬが、朱鞠内湖らしい。いままでは通過するだけだったから、分からなかった。
乗客ひとりだから受けられるサービスであろう。私はバスから降りると、あたりを写真に撮った。
「この辺は冬になると白と黒の景色だからねえ。観光路線じゃないし、おもしろすくないでしょ?」
「その風景がいいのです」
ようやく初めての会話がなった。そのあとも二言三言話すが、また運転手さんは運転に専念した。
15時13分、名寄駅前よりひとつ手前の、「西3条南6丁目」で下車する。ここが「なよろ雪質日本一フェスティバル」の最寄バス停なのである。
料金は深川駅から2,400円。運転手さんのドライブテクニックと雪景色を3時間半堪能し、後半はほとんど貸し切り状態だった。これで実質2,200円なら安いものである。
右に約500m行くと、「なよろ親林館」が見えてきた。この広大な敷地の「南広場」がフェスティバル会場である。国際雪像ジャパンカップと全日本学生対抗スノーオブジェ競技会があり、それぞれ約10基が展示されている。いずれも力作ぞろいで、私は道内各地の冬まつりを見てきたが、名寄のそれが一番見応えがある。
さっそく鑑賞するが、空の明るさと辺り一面の雪とで、肝心の雪像が映えない。やはり昼に来たのは失敗だったかと思う。
とりあえず出店に行く。回廊式になっていて、歩いているだけでも楽しい。しかし私が食べたのは300円のかけそばと、120円のたいやきだった。なんで一人旅になると、食事内容がさびしくなるのだろう。
大雪像はマンガ「ワンピース」のトニートニーチョッパー。その手前は「N-1フェスティバル」と称して、「鍋物」の食の祭典をやっていた。2年前までは雪像と数軒の屋台があるだけの地味なイベントだったが、ここ2年でずいぶん内容が様変わりした。
さて旭川に向かうとするが、JRとバス、ここでも2手段がある。
「人生は選択の連続である」
は、私の言葉だ。
JRは1,600円、路線バスなら1,250円なので、迷わず路線バスを選ぶ。16時40分の旭川行きがあるが、バスはこれが最終である。
道北バスの簡易券売所で、1,000円で1,100円ぶん使えるカード型回数券を買い、定刻に乗車した。このバスは旭川冬まつり会場である旭橋河畔を通るので便利だ。車窓を見る、うつらうつらする、を繰り返し、バスは会場近くまで来た。しかし私は逸って、18時46分、ひとつ前の護国神社前で降りてしまった。私の旅にはこういうポカがときどきある。
会場は国道の右手にあるが、そちらに渡り損ね、大回りをしてしまった。つごう、20分以上の大損である。しかしそのお陰で掘り出し物のある古本屋にも巡り会えたし、悪いことばかりではなかった。
旭橋河畔会場は世界一の大雪像があるが、第1回よりデザインを手がけていた桜木稔が亡くなってから、大雪像のデザインが大ぶりになって、面白味がなくなった。
今年の大雪像もそうで、鑑賞に堪えられるものではなかった。市民雪像も一瞥して終わりとする。出店はズラッと並んでいたが、結局何も買わなかった。ここへはどちらにしても、あす朝また来る。
帰りは常盤公園を通って帰るが、辺りは真っ暗である。2、3年前まではここも冬まつりの会場で、2、3の大氷像とステージ、雪あかりドームなどが併設されていた。
昨年もわずかに機能していたが、今年はついに廃止になったようである。あす向かう「さっぽろ雪まつり」もそうだが、雪まつり業界も将棋界と同じく、世間の不況を受け、年々規模が小さくなっている。
旭川駅前から貫通している平和通買物公園会場に行く。ここは氷彫刻世界大会を行っている。名寄の雪像が日本一ならば、旭川の氷像は日本一だ。これらを鑑賞するだけでも、旭川に来る価値がある。
一体一体鑑賞するが、今年はとくにレベルが高い。つい写真に収めてしまう。8条通から始めて、駅前の1条通まで来る。と、目の前に真新しい駅舎が目に入った。特急電車が高架をすべりこんで来たのが見える。新装なった旭川駅である。
利用したい、と思うが、駅の顔でもある駅舎はのっぺりしていて、写真を撮りたいとは思わなかった。
時刻は午後8時40分。遅くなったが夕食である。旭川に来ると必ず寄る寿司屋「八角寿司」があるが、今回はパス。2年前に入った中華料理屋「敦煌」で食べた五目ソバが美味かったので、そこに入る。
チャーハンとラーメンのセットを頼む。出されたチャーハンをかっ食らってようやく一息つき、スマホを見る。彼女からメールが2件入っていた。
私のようなアナログ人間にスマホは使いこなせないし、たまにサイトや画像を見ればスクロールがめまぐるしく、最近は乱視が進んだような気がするのだが、スマホがあればあったで女性からメールが来たりして、それを補って余りある利点がある。
私はニヤニヤしながら、たどたどしい手つきで、彼女にメールを返した。
(つづく)
これはこれで立派な選択だったが、宗谷本線で特急列車を使えば、名寄と旭川、両方の「夜」の雪まつりを楽しめたことが分かったいまでは、かなりの後悔を禁じ得ない。次回からは、特急列車の利用も視野に入れたい。
朱鞠内、14時07分着。ここで旅行者の若い女性が降りた。宿のスタッフと思しき男女が、彼女を迎えに来ていた。
朱鞠内にはユースホステルがあり、美味い幌加内そばを食べさせてくれる。一度泊まってみたいが、その機会は訪れないだろう(注:このユースは現在、民宿として営業しているようである)。
バスの乗客は私ひとりになった。地方の路線バスはどこもガラガラだ。深名線の幌加内発名寄行きは1日4本(土・休日は3本)しかないが、それもやむを得ないと思う。
トイレタイムになったので、バスから降りて、写真を撮る。ルオント前もこの辺りも、ものすごい雪である。この雪がすべて融けるのは、いつになるのだろう。数分後、発車。
運転手さんとは、いまだ会話なし。私がこのバスに乗り続けた理由は、深名線沿線を明るいうちに鑑賞したかったのと、この運転手さんの運転を、もう少し味わいたかったこともある。
次の停留所はエンジン橋だ。どこからどこまでがエンジン橋か分からぬが、深名線沿線の白眉がこの辺りである。
しかし雪の嵩が高すぎて、ベストショットがない。車内からカメラを構えては止める、を繰り返す。撮りますか? と運転手さんが言って、バスを止めてくれた。左を見ると、一面が雪に覆われてよく見えぬが、朱鞠内湖らしい。いままでは通過するだけだったから、分からなかった。
乗客ひとりだから受けられるサービスであろう。私はバスから降りると、あたりを写真に撮った。
「この辺は冬になると白と黒の景色だからねえ。観光路線じゃないし、おもしろすくないでしょ?」
「その風景がいいのです」
ようやく初めての会話がなった。そのあとも二言三言話すが、また運転手さんは運転に専念した。
15時13分、名寄駅前よりひとつ手前の、「西3条南6丁目」で下車する。ここが「なよろ雪質日本一フェスティバル」の最寄バス停なのである。
料金は深川駅から2,400円。運転手さんのドライブテクニックと雪景色を3時間半堪能し、後半はほとんど貸し切り状態だった。これで実質2,200円なら安いものである。
右に約500m行くと、「なよろ親林館」が見えてきた。この広大な敷地の「南広場」がフェスティバル会場である。国際雪像ジャパンカップと全日本学生対抗スノーオブジェ競技会があり、それぞれ約10基が展示されている。いずれも力作ぞろいで、私は道内各地の冬まつりを見てきたが、名寄のそれが一番見応えがある。
さっそく鑑賞するが、空の明るさと辺り一面の雪とで、肝心の雪像が映えない。やはり昼に来たのは失敗だったかと思う。
とりあえず出店に行く。回廊式になっていて、歩いているだけでも楽しい。しかし私が食べたのは300円のかけそばと、120円のたいやきだった。なんで一人旅になると、食事内容がさびしくなるのだろう。
大雪像はマンガ「ワンピース」のトニートニーチョッパー。その手前は「N-1フェスティバル」と称して、「鍋物」の食の祭典をやっていた。2年前までは雪像と数軒の屋台があるだけの地味なイベントだったが、ここ2年でずいぶん内容が様変わりした。
さて旭川に向かうとするが、JRとバス、ここでも2手段がある。
「人生は選択の連続である」
は、私の言葉だ。
JRは1,600円、路線バスなら1,250円なので、迷わず路線バスを選ぶ。16時40分の旭川行きがあるが、バスはこれが最終である。
道北バスの簡易券売所で、1,000円で1,100円ぶん使えるカード型回数券を買い、定刻に乗車した。このバスは旭川冬まつり会場である旭橋河畔を通るので便利だ。車窓を見る、うつらうつらする、を繰り返し、バスは会場近くまで来た。しかし私は逸って、18時46分、ひとつ前の護国神社前で降りてしまった。私の旅にはこういうポカがときどきある。
会場は国道の右手にあるが、そちらに渡り損ね、大回りをしてしまった。つごう、20分以上の大損である。しかしそのお陰で掘り出し物のある古本屋にも巡り会えたし、悪いことばかりではなかった。
旭橋河畔会場は世界一の大雪像があるが、第1回よりデザインを手がけていた桜木稔が亡くなってから、大雪像のデザインが大ぶりになって、面白味がなくなった。
今年の大雪像もそうで、鑑賞に堪えられるものではなかった。市民雪像も一瞥して終わりとする。出店はズラッと並んでいたが、結局何も買わなかった。ここへはどちらにしても、あす朝また来る。
帰りは常盤公園を通って帰るが、辺りは真っ暗である。2、3年前まではここも冬まつりの会場で、2、3の大氷像とステージ、雪あかりドームなどが併設されていた。
昨年もわずかに機能していたが、今年はついに廃止になったようである。あす向かう「さっぽろ雪まつり」もそうだが、雪まつり業界も将棋界と同じく、世間の不況を受け、年々規模が小さくなっている。
旭川駅前から貫通している平和通買物公園会場に行く。ここは氷彫刻世界大会を行っている。名寄の雪像が日本一ならば、旭川の氷像は日本一だ。これらを鑑賞するだけでも、旭川に来る価値がある。
一体一体鑑賞するが、今年はとくにレベルが高い。つい写真に収めてしまう。8条通から始めて、駅前の1条通まで来る。と、目の前に真新しい駅舎が目に入った。特急電車が高架をすべりこんで来たのが見える。新装なった旭川駅である。
利用したい、と思うが、駅の顔でもある駅舎はのっぺりしていて、写真を撮りたいとは思わなかった。
時刻は午後8時40分。遅くなったが夕食である。旭川に来ると必ず寄る寿司屋「八角寿司」があるが、今回はパス。2年前に入った中華料理屋「敦煌」で食べた五目ソバが美味かったので、そこに入る。
チャーハンとラーメンのセットを頼む。出されたチャーハンをかっ食らってようやく一息つき、スマホを見る。彼女からメールが2件入っていた。
私のようなアナログ人間にスマホは使いこなせないし、たまにサイトや画像を見ればスクロールがめまぐるしく、最近は乱視が進んだような気がするのだが、スマホがあればあったで女性からメールが来たりして、それを補って余りある利点がある。
私はニヤニヤしながら、たどたどしい手つきで、彼女にメールを返した。
(つづく)