列車の中に、制服姿の女性が見えた。彼女はえちぜん鉄道が擁する「アテンダント」である。えちぜん鉄道発足と同時に誕生したもので、車内での車掌業務に従事する。以前何かのテレビで特集されたのを観て、一度拝見したいと思っていた。今朝の下り列車に彼女らが乗車していなかったのは、朝が早かったせいだろう。
乗車してシートに座ると、アテンダントさんが会釈してくれた。クリーム色の制服に、黒のハットが愛らしい。これは心ときめく旅になりそうである。
10時39分発車。いま来た道を戻るのは味が悪いが、乗りつぶしでは仕方がない。
と、「次は三国です」の車内アナウンスがあった。アテンダントさんは列車の前方にいるが、この類の案内はしないようだ。
駅に止まり、人が降りれば深々とお辞儀をし、乗車すれば丁寧な挨拶をする。たったそれだけのことだが、それが絶妙の癒し感を醸し出していた。
何とか彼女の写真を撮りたいが、それではカメラ小僧になってしまう。今回は電車マニアとして乗っているので、その欲求はギリギリに抑えた。
気が付くと、この列車は「キッズおえかきでんしゃ」だった。地元「安田幼保園」ちびっこ諸君の力作が、網棚の上のスペースに整然と飾られていた。路線バスではできない、ナイスな企画であった。
11時25分、福井口着。ここで勝山永平寺線に乗り換える。えちぜん鉄道2線は、ここを基点に左右に分かれているのだ。アテンダントさんも引き続き、勝山永平寺線に乗るようだ。
11時30分、列車はもちろん1両で出発した。勝山永平寺線も30分ヘッドなので、分かりやすい。えちぜん鉄道も経営はラクでないはずだが、多くの列車を発着させているのは頭が下がる。
11時50分、永平寺口着。永平寺をお参りするには、ここからさらにバスに乗らなければならない。もちろんお参りしたいが、ここで2択である。乗客の大半が降りたが、私はそのまま勝山に向かった。乗りつぶしを優先したのだ。
列車は広大な畑の中を、淡々と走る。うっすらと雪化粧をした冬の景色がまばゆい。これぞ典型的なローカル線旅だと思う。
12時19分、終点勝山着。福井口から小1時間の旅で、このくらいの長さがちょうどよい。これでえちぜん鉄道は全線完乗である。アテンダントの山田さん、ありがとうございました。
駅前には恐竜の巨大オブジェがあった。この地方から恐竜の骨が発掘されたのか、勝山は恐竜を全面に押し出している。付近には「恐竜渓谷ふくい恐竜ジオパーク」や「恐竜博物館」があるが、これを見学していたら、永平寺をお参りできなくなってしまう。
とりあえず、昼食である。駅前に食堂があったので、入る。「福井名物セット」はみそカツ丼とおろしそばのセットで、これを頼む(850円)。みそのカツ丼は大好きというわけではないが、どちらも美味しくいただいた。
きょうは月曜日で、私はもうひとつやることがある。旅行貯金だ。駅前を流れる九頭竜川を渡ると、勝山郵便局があった。有人駅の近くに郵便局アリ、だ。きょうは12月30日なので、1,230円の貯金となる。1年でいちばん高い貯金額である。
小銭をほとんど吐き出したら1,230円になったので、ちょっとイヤな予感がしたが、これを窓口に出す。ゴム印には、恐竜のワンポイントが入っていた。
帰り、橋のたもとにも恐竜のオブジェがあった。改めて勝山は、恐竜の街なのだった。
13時20分の列車に乗る。上りももちろん、アテンダントさんが乗ってくれる。私に会釈してくれたのがうれしかった。
永平寺口13時48分着。アテンダントの中島さんとは、ここでお別れである。ありがとうございました。
さて永平寺へは、以前は列車で行った記憶があるのだが、その路線は2002年に廃止されてしまった。まったく永平寺への鉄路が無くなるとは、モータリゼーションの波はどれだけ高いのだ。
現在は京福バスの利用となる。隣接のバス停に駆けると、13時50分のバスがあった。が、なかなかバスが来ない。近くにはいつの間にか4人組の女性がいたが、彼女らは駅舎に向かってしまった。
そこで時刻表を見ると、きょう12月30日から休日ダイヤが適用されており、何と13時50分のバスは削減されていた。ここでも年末の余波か…。
それよりも私は、郵便局で大悪手を指していたことを再認識していた。
このとき私の所持金は壱万円札3枚に50円玉1枚、10円玉1枚、1円玉15枚しかなかった。これではバスに乗っても、おカネが払えない! 車内で万札は両替してくれないだろう。うあ、こんなことなら郵便局で壱万円札を使えばよかったと後悔したが、もう遅い。
付近に京福バスの事務所はなく、私は永平寺口駅舎に入るが、窓口には「両替お断り」の貼り紙があった。そうか…まあそうであろう。京福バスの便宜を、えちぜん鉄道が図ってくれるわけがない。
私は、待合室の入口付近でグズグズしている4人組の女性を一瞥して、表へ出る。商店かどこかで買物をしようと思ったのだが、辺りにそれらしき店はない。
千円札を入手するために、ほかにどんな手があるんだ…。
次のバスは14時20分である。私は途方に暮れた。
(7月7日につづく)
乗車してシートに座ると、アテンダントさんが会釈してくれた。クリーム色の制服に、黒のハットが愛らしい。これは心ときめく旅になりそうである。
10時39分発車。いま来た道を戻るのは味が悪いが、乗りつぶしでは仕方がない。
と、「次は三国です」の車内アナウンスがあった。アテンダントさんは列車の前方にいるが、この類の案内はしないようだ。
駅に止まり、人が降りれば深々とお辞儀をし、乗車すれば丁寧な挨拶をする。たったそれだけのことだが、それが絶妙の癒し感を醸し出していた。
何とか彼女の写真を撮りたいが、それではカメラ小僧になってしまう。今回は電車マニアとして乗っているので、その欲求はギリギリに抑えた。
気が付くと、この列車は「キッズおえかきでんしゃ」だった。地元「安田幼保園」ちびっこ諸君の力作が、網棚の上のスペースに整然と飾られていた。路線バスではできない、ナイスな企画であった。
11時25分、福井口着。ここで勝山永平寺線に乗り換える。えちぜん鉄道2線は、ここを基点に左右に分かれているのだ。アテンダントさんも引き続き、勝山永平寺線に乗るようだ。
11時30分、列車はもちろん1両で出発した。勝山永平寺線も30分ヘッドなので、分かりやすい。えちぜん鉄道も経営はラクでないはずだが、多くの列車を発着させているのは頭が下がる。
11時50分、永平寺口着。永平寺をお参りするには、ここからさらにバスに乗らなければならない。もちろんお参りしたいが、ここで2択である。乗客の大半が降りたが、私はそのまま勝山に向かった。乗りつぶしを優先したのだ。
列車は広大な畑の中を、淡々と走る。うっすらと雪化粧をした冬の景色がまばゆい。これぞ典型的なローカル線旅だと思う。
12時19分、終点勝山着。福井口から小1時間の旅で、このくらいの長さがちょうどよい。これでえちぜん鉄道は全線完乗である。アテンダントの山田さん、ありがとうございました。
駅前には恐竜の巨大オブジェがあった。この地方から恐竜の骨が発掘されたのか、勝山は恐竜を全面に押し出している。付近には「恐竜渓谷ふくい恐竜ジオパーク」や「恐竜博物館」があるが、これを見学していたら、永平寺をお参りできなくなってしまう。
とりあえず、昼食である。駅前に食堂があったので、入る。「福井名物セット」はみそカツ丼とおろしそばのセットで、これを頼む(850円)。みそのカツ丼は大好きというわけではないが、どちらも美味しくいただいた。
きょうは月曜日で、私はもうひとつやることがある。旅行貯金だ。駅前を流れる九頭竜川を渡ると、勝山郵便局があった。有人駅の近くに郵便局アリ、だ。きょうは12月30日なので、1,230円の貯金となる。1年でいちばん高い貯金額である。
小銭をほとんど吐き出したら1,230円になったので、ちょっとイヤな予感がしたが、これを窓口に出す。ゴム印には、恐竜のワンポイントが入っていた。
帰り、橋のたもとにも恐竜のオブジェがあった。改めて勝山は、恐竜の街なのだった。
13時20分の列車に乗る。上りももちろん、アテンダントさんが乗ってくれる。私に会釈してくれたのがうれしかった。
永平寺口13時48分着。アテンダントの中島さんとは、ここでお別れである。ありがとうございました。
さて永平寺へは、以前は列車で行った記憶があるのだが、その路線は2002年に廃止されてしまった。まったく永平寺への鉄路が無くなるとは、モータリゼーションの波はどれだけ高いのだ。
現在は京福バスの利用となる。隣接のバス停に駆けると、13時50分のバスがあった。が、なかなかバスが来ない。近くにはいつの間にか4人組の女性がいたが、彼女らは駅舎に向かってしまった。
そこで時刻表を見ると、きょう12月30日から休日ダイヤが適用されており、何と13時50分のバスは削減されていた。ここでも年末の余波か…。
それよりも私は、郵便局で大悪手を指していたことを再認識していた。
このとき私の所持金は壱万円札3枚に50円玉1枚、10円玉1枚、1円玉15枚しかなかった。これではバスに乗っても、おカネが払えない! 車内で万札は両替してくれないだろう。うあ、こんなことなら郵便局で壱万円札を使えばよかったと後悔したが、もう遅い。
付近に京福バスの事務所はなく、私は永平寺口駅舎に入るが、窓口には「両替お断り」の貼り紙があった。そうか…まあそうであろう。京福バスの便宜を、えちぜん鉄道が図ってくれるわけがない。
私は、待合室の入口付近でグズグズしている4人組の女性を一瞥して、表へ出る。商店かどこかで買物をしようと思ったのだが、辺りにそれらしき店はない。
千円札を入手するために、ほかにどんな手があるんだ…。
次のバスは14時20分である。私は途方に暮れた。
(7月7日につづく)