私は棋書を定価で買わないほうで、自宅には数十冊の棋書があるが、そのほとんどが古書店で入手したものである。
これらの中で、最も古い棋書は何か。それは25年以上前に某所で購入した、土居市太郎八段・影山稔雄共著の「將棋の指し方」である。
これは昭和13年12月、新潮社から発行されたもので、私のは15年6月発行の第20版。当時のベストセラーだったことが分かる。判型はB6判。全326頁。表回りは厚紙が施され、パラフィン紙がかけられている。定価は1円30銭。これを私は、400円で購入した。
奥付には「外地定価」とあり、これは1割上乗せされて、1円43銭になっていた。よく分からぬが、地方で購入した場合は、割増料金を取ったのかもしれない。こういう例は現在でもあり、たとえば沖縄県西表島で雑誌を購入しようとすると、石垣島より高い(注:読者から、外地とは満州や朝鮮のことでしょう、のご指摘があった。その通りだと思う)。
話を戻すが、土居八段は大正から昭和にかけて活躍した名棋士で、第2期名人戦(昭和15年)七番勝負に登場している。昭和24年に引退し、29年に名誉名人の称号を贈られた。
影山稔雄(としお)氏はよく知らないが、著名な将棋ライターだったようで、当時はほかに何冊も棋書を上梓していた。
現在で将棋ライターの著書はゴーストライターの位置づけだが、当時は堂々と共著で名を連ねていたのだ。
本編は旧仮名遣いで、横書きの場合は右から書かれている。冒頭に木村義雄名人の「推薦の辭」が掲げられているが、一文を記せば、
「將棋指導書の最大の目的は、讀者に、讀みの力を與へること、讀むための目のつけどころを教へること、これであります。そのためには指導書の役目は、讀者に對してあくまでも忠實且つ懇切でなくてはなりません。」
という按配である。
では目次から、その内容を記しておこう。
第一編 將棋入門第一歩
第一章 上達の近道
第二章 棋譜の讀み方
第三章 駒組の要諦
第四章 駒の使ひ方
第五章 ルールと用語
第二編 定跡活用篇
平手戰術―序盤駒組法―
第一章 櫓圍ひ駒組法
第二章 四間飛車駒組法
第三章 石田流駒組法
第四章 中飛車駒組法
第五章 向飛車駒組法
第六章 袖飛車駒組法
第七章 腰掛銀駒組法
第八章 棒銀駒組法
第九章 筋違角駒組法
第十章 相懸り駒組法
駒落戰術―駒組と攻防作戰術―
第一章 香落戰術
第二章 角落戰術
第三章 飛車落戰術
第四章 二枚落戰術
第五章 六枚落戰術
第三編 陣立崩し戰術篇
第一章 櫓圍ひ作戰術
第二章 四間飛車作戰術
第三章 石田流作戰術
第四章 中飛車作戰術
第五章 向飛車作戰術
第六章 袖飛車作戰術
第七章 腰掛銀作戰術
第八章 棒銀作戰術
第九章 筋違角作戰術
第十章 相懸り作戰術
第四編 攻めの急所と詰め手
第一章 攻めの狙ひ方
第二章 合駒の打ち方
第三章 必至の掛け方
第四章 詰め手の掛け方
第五編 將棋心得帖
第一章 盤面に向つての心得
第二章 將棋の歴史と故實
第三章 盤と駒の見分け方・手入れの心得
附録 始めて將棋を覺える人に
第一章 將棋とはどんなものか
第二章 駒の性質を呑みこむこと
以上、なかなかに興味をそそられる内容である。中を読むと、現代の目から見れば陳腐なものもあるが、温故知新で斬新なものもあり、とても勉強になる。ちょっと本文の一部も記してみよう。
「さて、後手が、一旦自重して、三三銀と上つたら、先手は、二、三、四筋攻破の目的で四六銀と繰り出します。そこで後手は、八筋強襲の方針の下に、八六歩打と、叩きます。同歩、同銀、八七歩打。この時、後手は、銀を逃げては、強襲策が採れません。同銀成と強く切り込むのです。先手、同銀とこれを取れば、後手には、四四角打――飛車取りか九九角成か――があります。」
昔の棋書は、書く方も気合が入っていた。私もいま一度全編を再読し、古くて新しい思想を吸収しようと思う。
これらの中で、最も古い棋書は何か。それは25年以上前に某所で購入した、土居市太郎八段・影山稔雄共著の「將棋の指し方」である。
これは昭和13年12月、新潮社から発行されたもので、私のは15年6月発行の第20版。当時のベストセラーだったことが分かる。判型はB6判。全326頁。表回りは厚紙が施され、パラフィン紙がかけられている。定価は1円30銭。これを私は、400円で購入した。
奥付には「外地定価」とあり、これは1割上乗せされて、1円43銭になっていた。よく分からぬが、地方で購入した場合は、割増料金を取ったのかもしれない。こういう例は現在でもあり、たとえば沖縄県西表島で雑誌を購入しようとすると、石垣島より高い(注:読者から、外地とは満州や朝鮮のことでしょう、のご指摘があった。その通りだと思う)。
話を戻すが、土居八段は大正から昭和にかけて活躍した名棋士で、第2期名人戦(昭和15年)七番勝負に登場している。昭和24年に引退し、29年に名誉名人の称号を贈られた。
影山稔雄(としお)氏はよく知らないが、著名な将棋ライターだったようで、当時はほかに何冊も棋書を上梓していた。
現在で将棋ライターの著書はゴーストライターの位置づけだが、当時は堂々と共著で名を連ねていたのだ。
本編は旧仮名遣いで、横書きの場合は右から書かれている。冒頭に木村義雄名人の「推薦の辭」が掲げられているが、一文を記せば、
「將棋指導書の最大の目的は、讀者に、讀みの力を與へること、讀むための目のつけどころを教へること、これであります。そのためには指導書の役目は、讀者に對してあくまでも忠實且つ懇切でなくてはなりません。」
という按配である。
では目次から、その内容を記しておこう。
第一編 將棋入門第一歩
第一章 上達の近道
第二章 棋譜の讀み方
第三章 駒組の要諦
第四章 駒の使ひ方
第五章 ルールと用語
第二編 定跡活用篇
平手戰術―序盤駒組法―
第一章 櫓圍ひ駒組法
第二章 四間飛車駒組法
第三章 石田流駒組法
第四章 中飛車駒組法
第五章 向飛車駒組法
第六章 袖飛車駒組法
第七章 腰掛銀駒組法
第八章 棒銀駒組法
第九章 筋違角駒組法
第十章 相懸り駒組法
駒落戰術―駒組と攻防作戰術―
第一章 香落戰術
第二章 角落戰術
第三章 飛車落戰術
第四章 二枚落戰術
第五章 六枚落戰術
第三編 陣立崩し戰術篇
第一章 櫓圍ひ作戰術
第二章 四間飛車作戰術
第三章 石田流作戰術
第四章 中飛車作戰術
第五章 向飛車作戰術
第六章 袖飛車作戰術
第七章 腰掛銀作戰術
第八章 棒銀作戰術
第九章 筋違角作戰術
第十章 相懸り作戰術
第四編 攻めの急所と詰め手
第一章 攻めの狙ひ方
第二章 合駒の打ち方
第三章 必至の掛け方
第四章 詰め手の掛け方
第五編 將棋心得帖
第一章 盤面に向つての心得
第二章 將棋の歴史と故實
第三章 盤と駒の見分け方・手入れの心得
附録 始めて將棋を覺える人に
第一章 將棋とはどんなものか
第二章 駒の性質を呑みこむこと
以上、なかなかに興味をそそられる内容である。中を読むと、現代の目から見れば陳腐なものもあるが、温故知新で斬新なものもあり、とても勉強になる。ちょっと本文の一部も記してみよう。
「さて、後手が、一旦自重して、三三銀と上つたら、先手は、二、三、四筋攻破の目的で四六銀と繰り出します。そこで後手は、八筋強襲の方針の下に、八六歩打と、叩きます。同歩、同銀、八七歩打。この時、後手は、銀を逃げては、強襲策が採れません。同銀成と強く切り込むのです。先手、同銀とこれを取れば、後手には、四四角打――飛車取りか九九角成か――があります。」
昔の棋書は、書く方も気合が入っていた。私もいま一度全編を再読し、古くて新しい思想を吸収しようと思う。