Kun―Tod戦は、Kun氏が△5七桂の両取り。もはや下手のジリ貧で、以後は指しても意味がない。植山七段がストップをかけ、強制終了となっていた。
Hos―Ok戦。私と植山悦行七段は詰み筋を読む。そのうち、植山七段が詰みを見つけたようだ。私も何とか見つける。(ね、詰みましたね)と植山七段。ところが読み直していたら、私のそれは不詰みだった。しかしさっき詰んだアクションを起こした手前、いまさら詰まなかったでは笑われてしまう。Hos氏が次の手を指す前に、私は詰み筋を見つけなければならなくなった。
やがて、3手一組の妙手が閃いた。

第3図以下の指し手。△1八銀▲1七玉△2七金▲同金△同銀成▲同玉(第4図)
Hos氏は△1八銀と打った。
「銀を打っちゃったかー」
と私たちは嘆息する。まだ対局中だが、ここで△2八金があることを私たちは教えた。以下▲1七玉に、ズルッと△1八金(参考図)と寄るのが妙手。▲同香に△2八銀と打って、以下は容易に詰む。この筋は、植山七段の指導対局でも見たことがある。しかしHos氏は△1八銀と打ってしまった。これでは詰まない。


第4図以下の指し手。△3七金▲同玉△4七と
まで、Hos氏の勝ち。
Hos氏は△3七金。詰まないので、ヤケクソになったのかと思った。
「あっ!!」
と植山七段が叫ぶ。
「?」「詰みか!」「えっ…? あっ!!」
▲3七同玉に△4七とがある!! 以下は▲2七玉△3八角成▲1七玉△2八馬まで! こんな詰みがあったのか!! 私は呆気に取られた。
実戦は△4七とまで、Ok氏が投了した。
「これでも詰んでいてよかったです」
とHos氏が安堵の表情を見せる。私は、
「これで(次の一手の)価値が落ちちゃったなー」
と苦笑い。植山七段は、
「いやいやー、面白い将棋でしたねー」
と満足気だ。もちろん私も同感である。名局の誕生に、棋力の高低は関係ないのだった(註:読者からの指摘で、上記2手順以外にも、複数の詰み手順があることが分かった。力試しにすべて読んでください)。
時刻は午後9時50分近く。散会してもいい時間だが、前局の余韻さめやらず、Hon氏はまだ対局を促す。いちばん門限が厳しいHon氏がそう言うなら、私たちも指さねばならない。今度はKun―Hos戦(平手)、一公―Ok戦(二枚落ち)となった。
前者はともかく、後者の手合いがよく分からないが、これで私が勝ち越しているのだからしょうがない。2局同時に対局開始となった。
Kun―Hos戦は横歩取りの雰囲気だったが、Kun氏は相横歩取り△3三桂の得意形がある。それを察知してかHos氏が避け、角交換相居飛車の手将棋となった。
こちらはOk氏の二歩突っ切り。▲3四歩△同歩▲同飛だが、下手の右銀が上がっていないので、△3三銀と突っ張った。Ok氏は▲3六飛と引き、▲3七桂…。
一段落して局面を見ると、2か月前の宴会将棋で指した将棋と似ている。というか、ほとんど同じだ。が、その時はOk氏の玉が▲4八だった。本局は▲6九玉のカニ囲いなので、下手が十分だ。

第1図以下の指し手。▲3五歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△3四歩▲3六飛△3五銀▲5六飛△4五歩▲3二銀△4四金▲7五歩△同歩▲8六飛△7二金▲4四角△同銀引▲7四金(第2図)
「上手はどこまで行ってもつらいっすねえ…」
植山七段がしみじみとつぶやく。上手で何千局と二枚落ちを指した実感だろう。聞くと、研修会でも二枚落ちを指しているらしい。
「相手は(アマ)二、三段ですか」
「四段はあるよ」
「……」
それで勝っているというから恐ろしい。
アマが棋士に指導対局を仰ぐ場合、駒落ちより平手のほうが、指導料は高いのだろう。でも私は、棋士に駒を盛大に落としてもらって、その秘術を見たいと本気で思う。
「でも壁銀が解消されてるもんねえ…」
話は局面に戻り、私の陣形のことを云っているらしい。「私もこの手で行ってみようかなあ」
過分なホメ言葉に、私は恐縮するばかりである。
局面は銀交換になり、Ok氏が▲3二銀と打つ。私は△4四金と逃げたが、やや危険だった。
Ok氏は▲7五歩と突き捨てて、▲8六飛。やむない△7二金に、角を切って▲7四金と、Ok流の攻めが出た。

第2図以下の指し手。△8四歩▲同飛△8二歩▲7三歩△7一金▲2三銀成△5五角▲3三成銀△3七角成▲3四成銀△1九馬(第3図)
「攻めの方向がなァ…」
と植山七段がつぶやく。話が前後するが、局後、▲8六飛では▲2六飛があった、と植山七段の指摘があった。それは私も恐れていたが、以下△1五角▲2三飛成△3七角成で、この岐れなら上手はしょうがないと思っていた。
さて本譜▲7四金に△6一角は論外として、ここはいろいろ手があるところ。△7三桂と跳ね、▲8三金に△8五歩を狙う手もあるが、冷静に▲7五金と引かれ、次に▲7四歩を狙われるとまずい。ただ、上手がマジメに考えていたらどの手を指しても負けるわけで、どこかでテキトーな手を指さなければいけない。上手が勝つコツ、それは下手の最善手を考えないこと、これに尽きる。
本譜に戻り、△8四歩~△8二歩が習いある手。以下△1九馬までと進んだが、この手に植山七段は
「大沢さん、わざと緩めましたね」
と言った。

第3図以下の指し手。▲5六桂△5五銀▲4四歩△4一香▲4三歩成△同香▲4四歩△同香▲同桂△同銀引(第4図)
私は緩めてなどなく、次の△8三香に期待したのだ。ただ植山七段は、この香を3一に打つと思っていたらしい。なるほどそちらのほうが本筋っぽい。
△1九馬では△3三歩か△4二桂が植山七段の推奨手だった。△4二桂などは、まったく浮かばなかった。
Ok氏はすぐに▲5六桂と打った。▲4四成銀と清算せずに、攻めをためたのがうまい。私は△5五銀~△4一香。ここに香を打つとは予定変更で、微妙な挟み撃ちに遭い、ここでは形勢を悪くしたと思った。
Ok氏は2歩を犠牲に香を取る。ちょっと局面がサッパリして、ここは一息ついたと思ったのだが…。

(つづく)
Hos―Ok戦。私と植山悦行七段は詰み筋を読む。そのうち、植山七段が詰みを見つけたようだ。私も何とか見つける。(ね、詰みましたね)と植山七段。ところが読み直していたら、私のそれは不詰みだった。しかしさっき詰んだアクションを起こした手前、いまさら詰まなかったでは笑われてしまう。Hos氏が次の手を指す前に、私は詰み筋を見つけなければならなくなった。
やがて、3手一組の妙手が閃いた。

第3図以下の指し手。△1八銀▲1七玉△2七金▲同金△同銀成▲同玉(第4図)
Hos氏は△1八銀と打った。
「銀を打っちゃったかー」
と私たちは嘆息する。まだ対局中だが、ここで△2八金があることを私たちは教えた。以下▲1七玉に、ズルッと△1八金(参考図)と寄るのが妙手。▲同香に△2八銀と打って、以下は容易に詰む。この筋は、植山七段の指導対局でも見たことがある。しかしHos氏は△1八銀と打ってしまった。これでは詰まない。


第4図以下の指し手。△3七金▲同玉△4七と
まで、Hos氏の勝ち。
Hos氏は△3七金。詰まないので、ヤケクソになったのかと思った。
「あっ!!」
と植山七段が叫ぶ。
「?」「詰みか!」「えっ…? あっ!!」
▲3七同玉に△4七とがある!! 以下は▲2七玉△3八角成▲1七玉△2八馬まで! こんな詰みがあったのか!! 私は呆気に取られた。
実戦は△4七とまで、Ok氏が投了した。
「これでも詰んでいてよかったです」
とHos氏が安堵の表情を見せる。私は、
「これで(次の一手の)価値が落ちちゃったなー」
と苦笑い。植山七段は、
「いやいやー、面白い将棋でしたねー」
と満足気だ。もちろん私も同感である。名局の誕生に、棋力の高低は関係ないのだった(註:読者からの指摘で、上記2手順以外にも、複数の詰み手順があることが分かった。力試しにすべて読んでください)。
時刻は午後9時50分近く。散会してもいい時間だが、前局の余韻さめやらず、Hon氏はまだ対局を促す。いちばん門限が厳しいHon氏がそう言うなら、私たちも指さねばならない。今度はKun―Hos戦(平手)、一公―Ok戦(二枚落ち)となった。
前者はともかく、後者の手合いがよく分からないが、これで私が勝ち越しているのだからしょうがない。2局同時に対局開始となった。
Kun―Hos戦は横歩取りの雰囲気だったが、Kun氏は相横歩取り△3三桂の得意形がある。それを察知してかHos氏が避け、角交換相居飛車の手将棋となった。
こちらはOk氏の二歩突っ切り。▲3四歩△同歩▲同飛だが、下手の右銀が上がっていないので、△3三銀と突っ張った。Ok氏は▲3六飛と引き、▲3七桂…。
一段落して局面を見ると、2か月前の宴会将棋で指した将棋と似ている。というか、ほとんど同じだ。が、その時はOk氏の玉が▲4八だった。本局は▲6九玉のカニ囲いなので、下手が十分だ。

第1図以下の指し手。▲3五歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△3四歩▲3六飛△3五銀▲5六飛△4五歩▲3二銀△4四金▲7五歩△同歩▲8六飛△7二金▲4四角△同銀引▲7四金(第2図)
「上手はどこまで行ってもつらいっすねえ…」
植山七段がしみじみとつぶやく。上手で何千局と二枚落ちを指した実感だろう。聞くと、研修会でも二枚落ちを指しているらしい。
「相手は(アマ)二、三段ですか」
「四段はあるよ」
「……」
それで勝っているというから恐ろしい。
アマが棋士に指導対局を仰ぐ場合、駒落ちより平手のほうが、指導料は高いのだろう。でも私は、棋士に駒を盛大に落としてもらって、その秘術を見たいと本気で思う。
「でも壁銀が解消されてるもんねえ…」
話は局面に戻り、私の陣形のことを云っているらしい。「私もこの手で行ってみようかなあ」
過分なホメ言葉に、私は恐縮するばかりである。
局面は銀交換になり、Ok氏が▲3二銀と打つ。私は△4四金と逃げたが、やや危険だった。
Ok氏は▲7五歩と突き捨てて、▲8六飛。やむない△7二金に、角を切って▲7四金と、Ok流の攻めが出た。

第2図以下の指し手。△8四歩▲同飛△8二歩▲7三歩△7一金▲2三銀成△5五角▲3三成銀△3七角成▲3四成銀△1九馬(第3図)
「攻めの方向がなァ…」
と植山七段がつぶやく。話が前後するが、局後、▲8六飛では▲2六飛があった、と植山七段の指摘があった。それは私も恐れていたが、以下△1五角▲2三飛成△3七角成で、この岐れなら上手はしょうがないと思っていた。
さて本譜▲7四金に△6一角は論外として、ここはいろいろ手があるところ。△7三桂と跳ね、▲8三金に△8五歩を狙う手もあるが、冷静に▲7五金と引かれ、次に▲7四歩を狙われるとまずい。ただ、上手がマジメに考えていたらどの手を指しても負けるわけで、どこかでテキトーな手を指さなければいけない。上手が勝つコツ、それは下手の最善手を考えないこと、これに尽きる。
本譜に戻り、△8四歩~△8二歩が習いある手。以下△1九馬までと進んだが、この手に植山七段は
「大沢さん、わざと緩めましたね」
と言った。

第3図以下の指し手。▲5六桂△5五銀▲4四歩△4一香▲4三歩成△同香▲4四歩△同香▲同桂△同銀引(第4図)
私は緩めてなどなく、次の△8三香に期待したのだ。ただ植山七段は、この香を3一に打つと思っていたらしい。なるほどそちらのほうが本筋っぽい。
△1九馬では△3三歩か△4二桂が植山七段の推奨手だった。△4二桂などは、まったく浮かばなかった。
Ok氏はすぐに▲5六桂と打った。▲4四成銀と清算せずに、攻めをためたのがうまい。私は△5五銀~△4一香。ここに香を打つとは予定変更で、微妙な挟み撃ちに遭い、ここでは形勢を悪くしたと思った。
Ok氏は2歩を犠牲に香を取る。ちょっと局面がサッパリして、ここは一息ついたと思ったのだが…。

(つづく)