中からは、中年の男性が出てきた。こちらの男性は見覚えがあって、ママさんの親戚だ。以前実家にお伺いした際、お会いしたことがある。
私は「ここの(女性)主人と知り合いで…失礼しました」と帰ろうとすると、男性は私のことを記憶していた。何か話したそうだったが、私は逃げるように店を出た。私も無職の身、ママさんにはやはり会わなくて正解だった。
再び枕崎駅舎に戻る。ホームの一角にはカメラ置き場があって、そこから撮ると、駅舎や列車が綺麗に入るらしい。私もそこから1枚撮ってみる。
次の指宿枕崎線は16時03分だから、まだ時間がある。枕崎文化センター「南溟館」に行った。小高い丘にある建物で、日によっては特別展示で美術品を展示している。
今回は水流園揚子(つるぞの・ようこ)という女流画家の油絵展で、「30年と新しき一歩」のタイトルが付く。色彩豊かな作品群で、美しい女性が木管楽器を吹いている絵が目立つ。これは娘さんをモデルにしているらしい。
なかなかの力作ぞろいで、とくに100号の「夜想曲」に惹かれた。
観覧料は無料だが、出入口に募金箱があったので、200円だけ投じて、部屋を出た。
駅前のスーパーに入って、缶コーヒーを買う(73円)。ささやかな贅沢である。
さて、指宿枕崎線である。私はこうした、ローカル線中のローカル線が好きだ。札沼線の末端区間とは違い、こちらは永久に生き延びるという安心感がある。
もう乗車可能だったので乗り込み、今宵の宿を決めるべく、スマホを繰った。
もうゴールデンウィークも終わりなので、選び放題である。結局「東横INN鹿児島中央東口」(朝食付3,888円)に予約を入れた。今回は宿泊料が安いので、有料ビデオも購入した(500円)。
定刻に出発。夕方の上り列車とあって、乗客はパラパラである。指宿枕崎線は、鹿児島中央近郊は通勤路線だが、山川以西は閑散路線となる。それもあって私が今乗っている区間は風光明媚で、今も右手に開聞岳が見えてきた。
学生のころだったか、開聞岳登山にチャレンジしたが、当時はペットボトルなどはなかったので、缶ジュースを1本携えていただけだった(と思う)。加えて荷物も肩から提げたまま登ったので疲労困憊、やがて喉も渇き、私は六合目あたりで引き返した。
一度登頂したかったが、もうその機会は失われてしまった。
西大山が近くなった。この駅は本土最南端の駅で有名である。駅名に「大山」と入っているのもよい。旅行者は「JR最南端の駅」の標と開聞岳、列車の3点セットを撮るのが定跡で、下り列車は3分間の停車時間が設けてある。
だが上りは停車時間がないようだ。しかもこの列車が2両編成で、私は後ろの2両目に乗っているのだが、こちらのドアは開かない。16時56分、西大山着。私はそのまま、シートに座っていた。
同時刻に発車し、17時12分、指宿に着いた(940円)。
駅前には鹿児島交通バスの事務所がある。まだ開いていたので、ルーティーンの意味も込めて、いわさきICカードに1,000円チャージする。今回の旅行では使いきれないが、余った分は来年使えばよい。
とはいえ「砂むし会館 砂楽」へはバスを使わず、歩いていく。
タイム15分で砂楽に着き、2階の受付で1,080円を払い、脱衣所に向かった。数年前の5月4日にお邪魔した時は、100以上はある脱衣所のロッカーが、ほとんど使われるほど、混んでいた。しかし今はさすがに、閑散としている。
浴衣に着替えて浜に向かうと、中途に簡易シャワーの個室が設えられていた。昨年まではなかったと思う。
そういえば、4月7日放送のテレビ東京「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」で一行は鹿児島を縦断し、最後にここ砂楽が出た。出川ももちろん砂むし温泉を楽しんだが、あのあと砂と汗を流さなければならない。私たちは隣接している大風呂に入るのだが、番組ではその部分がカットされていた。もしかしたら出川は、このシャワーを利用したかもしれない。
しかしタイミングよくシャワー室があったものだ。
スタッフ氏に、砂をかぶせてもらう。これもあまり長い間つかるものではなく、10分が目安となる。しかし我慢比べに似たところもあって、10分以内で上がる人は少ないようである。
私もたっぷり15分、熱砂にむされた。今年はさぞ、汚い汗が噴出したことだろう。
大風呂でサッパリして、砂楽を後にする。
やや早い晩飯、というか最後の晩餐になるかもしれないが、駅への途中にある「紅龍」に入った。指宿に来て、もし可能なら入る中華料理屋だが、昼過ぎから夕方まで休憩で、時間的に食べられないことも多い、私にとっては幻の店なのである。
入店する前はラーメンとギョーザを食す予定だったが、気が変わって揚げ焼そばを注文した(760円)。そういえば今回の旅行では、ラーメンを食べてない気がするが、どうだったか。
揚げ焼そばはもちろん、美味かった。
駅に戻る。その途中にカレーを食べさせてくれる軽食喫茶があったが、もうお腹いっぱいだ。
鹿児島中央行きの列車は19時48分。少し時間があったので、明日の飛行機を決めた。
宮崎空港20時10分発のANA618便で、株主優待券利用で20,840円。飛行機でこの値段なら安いのだろう。スマホで予約を確定、カード払いで終了である。
私はケータイを持たない主義で40代半ばまで持たなかったが、あればあるで重宝する。
19時48分の列車に乗る。次の二月田までは、昨年は歩いていったのだ。その途中にあった弥次ヶ湯温泉が気になったが、やはり今年は入ることはなかった。
そのまま列車に揺られ、タイム1時間5分で、終点鹿児島中央に着いた(1,000円)。
夜の鹿児島を楽しむ手もあるが、そろそろ私は気分が重たくなり、そのままホテルにチェックインした。
受付嬢が、「シングルルームにビデオ鑑賞ですね」と確認した。まあ確かにその通りなのだが、私はこのあとの行動を見透かされた気分で、ややバツが悪い。
「これで7泊目です」。東横インクラブ会員は、10泊すると、無料宿泊券をくれるのだ。蛭子さんが東横インを贔屓にする訳が、何となく分かった気がした。
この部屋も、広くてよかった。チェーン店だとどの部屋もレイアウトが同じなので新鮮味には欠けるが、私は宿で寝るだけなので、まあ構わない。
最後の夜も、適当なところで寝た。
翌7日(月)、朝。長かったゴールデンウイーク旅行も、今日がついに最終日である。
翌日から仕事がある人も気が重いだろうが、翌日から職探しを再開する身も、かなり気分が重たいものがある。
しかも表は、雨だった。
(つづく)
私は「ここの(女性)主人と知り合いで…失礼しました」と帰ろうとすると、男性は私のことを記憶していた。何か話したそうだったが、私は逃げるように店を出た。私も無職の身、ママさんにはやはり会わなくて正解だった。
再び枕崎駅舎に戻る。ホームの一角にはカメラ置き場があって、そこから撮ると、駅舎や列車が綺麗に入るらしい。私もそこから1枚撮ってみる。
次の指宿枕崎線は16時03分だから、まだ時間がある。枕崎文化センター「南溟館」に行った。小高い丘にある建物で、日によっては特別展示で美術品を展示している。
今回は水流園揚子(つるぞの・ようこ)という女流画家の油絵展で、「30年と新しき一歩」のタイトルが付く。色彩豊かな作品群で、美しい女性が木管楽器を吹いている絵が目立つ。これは娘さんをモデルにしているらしい。
なかなかの力作ぞろいで、とくに100号の「夜想曲」に惹かれた。
観覧料は無料だが、出入口に募金箱があったので、200円だけ投じて、部屋を出た。
駅前のスーパーに入って、缶コーヒーを買う(73円)。ささやかな贅沢である。
さて、指宿枕崎線である。私はこうした、ローカル線中のローカル線が好きだ。札沼線の末端区間とは違い、こちらは永久に生き延びるという安心感がある。
もう乗車可能だったので乗り込み、今宵の宿を決めるべく、スマホを繰った。
もうゴールデンウィークも終わりなので、選び放題である。結局「東横INN鹿児島中央東口」(朝食付3,888円)に予約を入れた。今回は宿泊料が安いので、有料ビデオも購入した(500円)。
定刻に出発。夕方の上り列車とあって、乗客はパラパラである。指宿枕崎線は、鹿児島中央近郊は通勤路線だが、山川以西は閑散路線となる。それもあって私が今乗っている区間は風光明媚で、今も右手に開聞岳が見えてきた。
学生のころだったか、開聞岳登山にチャレンジしたが、当時はペットボトルなどはなかったので、缶ジュースを1本携えていただけだった(と思う)。加えて荷物も肩から提げたまま登ったので疲労困憊、やがて喉も渇き、私は六合目あたりで引き返した。
一度登頂したかったが、もうその機会は失われてしまった。
西大山が近くなった。この駅は本土最南端の駅で有名である。駅名に「大山」と入っているのもよい。旅行者は「JR最南端の駅」の標と開聞岳、列車の3点セットを撮るのが定跡で、下り列車は3分間の停車時間が設けてある。
だが上りは停車時間がないようだ。しかもこの列車が2両編成で、私は後ろの2両目に乗っているのだが、こちらのドアは開かない。16時56分、西大山着。私はそのまま、シートに座っていた。
同時刻に発車し、17時12分、指宿に着いた(940円)。
駅前には鹿児島交通バスの事務所がある。まだ開いていたので、ルーティーンの意味も込めて、いわさきICカードに1,000円チャージする。今回の旅行では使いきれないが、余った分は来年使えばよい。
とはいえ「砂むし会館 砂楽」へはバスを使わず、歩いていく。
タイム15分で砂楽に着き、2階の受付で1,080円を払い、脱衣所に向かった。数年前の5月4日にお邪魔した時は、100以上はある脱衣所のロッカーが、ほとんど使われるほど、混んでいた。しかし今はさすがに、閑散としている。
浴衣に着替えて浜に向かうと、中途に簡易シャワーの個室が設えられていた。昨年まではなかったと思う。
そういえば、4月7日放送のテレビ東京「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」で一行は鹿児島を縦断し、最後にここ砂楽が出た。出川ももちろん砂むし温泉を楽しんだが、あのあと砂と汗を流さなければならない。私たちは隣接している大風呂に入るのだが、番組ではその部分がカットされていた。もしかしたら出川は、このシャワーを利用したかもしれない。
しかしタイミングよくシャワー室があったものだ。
スタッフ氏に、砂をかぶせてもらう。これもあまり長い間つかるものではなく、10分が目安となる。しかし我慢比べに似たところもあって、10分以内で上がる人は少ないようである。
私もたっぷり15分、熱砂にむされた。今年はさぞ、汚い汗が噴出したことだろう。
大風呂でサッパリして、砂楽を後にする。
やや早い晩飯、というか最後の晩餐になるかもしれないが、駅への途中にある「紅龍」に入った。指宿に来て、もし可能なら入る中華料理屋だが、昼過ぎから夕方まで休憩で、時間的に食べられないことも多い、私にとっては幻の店なのである。
入店する前はラーメンとギョーザを食す予定だったが、気が変わって揚げ焼そばを注文した(760円)。そういえば今回の旅行では、ラーメンを食べてない気がするが、どうだったか。
揚げ焼そばはもちろん、美味かった。
駅に戻る。その途中にカレーを食べさせてくれる軽食喫茶があったが、もうお腹いっぱいだ。
鹿児島中央行きの列車は19時48分。少し時間があったので、明日の飛行機を決めた。
宮崎空港20時10分発のANA618便で、株主優待券利用で20,840円。飛行機でこの値段なら安いのだろう。スマホで予約を確定、カード払いで終了である。
私はケータイを持たない主義で40代半ばまで持たなかったが、あればあるで重宝する。
19時48分の列車に乗る。次の二月田までは、昨年は歩いていったのだ。その途中にあった弥次ヶ湯温泉が気になったが、やはり今年は入ることはなかった。
そのまま列車に揺られ、タイム1時間5分で、終点鹿児島中央に着いた(1,000円)。
夜の鹿児島を楽しむ手もあるが、そろそろ私は気分が重たくなり、そのままホテルにチェックインした。
受付嬢が、「シングルルームにビデオ鑑賞ですね」と確認した。まあ確かにその通りなのだが、私はこのあとの行動を見透かされた気分で、ややバツが悪い。
「これで7泊目です」。東横インクラブ会員は、10泊すると、無料宿泊券をくれるのだ。蛭子さんが東横インを贔屓にする訳が、何となく分かった気がした。
この部屋も、広くてよかった。チェーン店だとどの部屋もレイアウトが同じなので新鮮味には欠けるが、私は宿で寝るだけなので、まあ構わない。
最後の夜も、適当なところで寝た。
翌7日(月)、朝。長かったゴールデンウイーク旅行も、今日がついに最終日である。
翌日から仕事がある人も気が重いだろうが、翌日から職探しを再開する身も、かなり気分が重たいものがある。
しかも表は、雨だった。
(つづく)