2日(日)は東京・銀座7丁目にて、渡部愛新女流王位の誕生記念パーティーがあった。5日に日本将棋連盟と主催社とで正式な就位式があるが、今回はLPSAが独自で行うものである。私はもちろん出席予定である。
思えば今からちょうど30年前の9月2日、私は東北を旅行中で、その日「角館の美女」と運命的な出会いをしたのだ。
あれから30年か……。私の人生設計は、どこかで狂ったと思う。
開演は午後6時からなので、準備に余裕がある。久しぶりにスーツを着用したので、銀座に行く前に、インスタント証明写真を撮りに行った。履歴書貼付用である。
某駅近くのボックスに入り鏡を見て、顔の位置を調整する。その時、我が頭頂部があまりにも禿げあがっているので、愕然とした。
少なくとも1年前に撮影した際は、もう少し頭頂部に髪があった。黒髪も多かった。それが今年の春に撮った時は妙に白髪の割合が多くなり、そして現在は、髪自体がなくなっている。たった1年で、どれだけ老化しちゃったんだろう。
就職できない焦りが、仕事以上のストレスを生む。恐ろしいことだと思った。
自宅最寄り駅の1つ先から電車に乗ったので、銀座7丁目の最寄り駅である新橋より、1つ手前の有楽町で降りたほうが、11円安くなることが分かった。節約のため、有楽町で降りた。
銀座をブラブラすると、交差点の一角に、巨大な水槽があった。中では優雅に魚が泳いでいる。これが臨時の設置なのか常設なのか知らないが、銀座の新たな名物になりそうだ。
しばらく歩くと、歩行者天国があった。今は新宿くらいしか見かけないが、ここ銀座でもやっていたのだ。私も東京に生まれて半世紀余だが、こういうトレンドにはとんと弱い。
今回のパーティーは、7丁目13番の「Sun-mi高松」で行われる。5月にLPSAのパーティーが行われた時も、この近くだった。
5時35分ごろ入ると、スタッフのS氏と会った。
「久しぶりです」
「久しぶりです」
「ささ、どうぞお入りください」
「いやいや私、事前申し込みを忘れちゃったので、ここでおカネを払わなきゃいけないんです」
「あー、そうなんですか。Minervaへの更新はしてくれたのに」
まったくその通りで、入金をぐずぐずしたため事前締切が過ぎ、今日は現金で当日料金を払わねばならない。2,000円も余計の出費となり、気が狂いそうになった。これじゃ11円を節約したところで、焼け石に水である。
受付を終えると、パンフレットをいただいた。それには渡部女流王位の写真がふんだんに載っており、女流王位獲得までのミニヒストリーになっていた。奪取を決めた第4局の棋譜とその解説も添付されており、愛ファンにはたまらないプレゼントだった。
会場には、大勢の客がいた。もっと閑散としているかと思ったが、意外に多い。
Kun氏とSak氏がいたので挨拶する。Kun氏はともかく、Sak氏がいるとは珍しい。
「いやー、最近頭が薄くなっちゃって」
渡部女流王位や飯野愛女流初段にはこのアタマを見せているからいいが、久しぶりの知人には衝撃であろう。自らこの話題を振るしかない。
しかし2人は、何も答えない。私の言葉が大袈裟でないので、否定できないのだ。
周りを見渡せば、LPSAファン氏の姿もあった。もっと奥に行けばまた知った顔があるかもしれないが、面倒なので、そこに留まった。
右を見ると、先崎学九段と、遠藤正樹アマが談笑していた。その右にいるのは瀬川晶司五段である。先崎九段、完全に寛解しているようで、何よりである。
例の著書では、似たようなパーティーで、自身が誰にも話し掛けられないので苦痛に感じた、とあったが、それは棋士同士の論理であろう。アマ側から見れば、一将棋ファンが棋士に話しかけるなど大それたことであって、とてもそんな真似はできない。
それでしばらく佇んでいたのだが、先崎九段が話を終え、クルリと振り返ると、九段が正面から私を見る形になった。これでは私も声を掛けざるを得ない。
「先生、先生のご著書、読ませていただきました」
「ああどうも」
「先生、先生のあれ、私は映画になると思っています。その際は(忙しくなるから)マネージャーを付けてください」
「あああ、どうも」
先崎九段はどこかへ行ってしまった。ま、こんな感じになる。
瀬川五段も一瞬だけ、手すきのようである。こちらは7日(金)から「泣き虫しょったんの奇跡」が封切りになり、公私ともども絶好調といったところ。だが話しかけても私がネタ切れになりそうなので、黙って開演を待った。
午後6時、中倉彰子女流二段の司会で、パーティーが始まった。奥にはテレビ局の取材もきていた。
まずは渡部女流王位を呼ぶ。何と私たちと同じ入口からの登場となる。私たちは拍手をもって迎える。渡部女流王位は青の振袖で、ひときわ美しかった。
中倉宏美代表理事の挨拶となる。
「本日は大勢お集まりいただき、ありがとうございます。そして渡部愛さん、おめでとうございます。
愛さんはタイトル挑戦が初めて。女流王位戦はLPSAも主催なので私も同行したんですけども…」
そのうち、宏美代表理事の声が小さくなったので、これは感激にむせび声を詰まらせたのか……と思ったら、たんにマイクの調子が悪くなっただけだった。再度スピーチ。
「まさかと言ったら失礼なんですけども――」
ここで場内爆笑となる。「里見さんからタイトルを獲るのは大変で、そこをよく獲ったと思います。LPSAも有名になって、ありがたいことだと思います」
この後、宏美代表理事から渡部女流王位に、女流王位就位状が渡された。また女流三段昇段も果たしたので、その免状も渡された。
蛸島彰子女流六段が引退した今、LPSAの現役で女流三段は最高位である。名実ともに、渡部女流王位はLPSAの顔となったわけだ。
続いて来賓の挨拶。東大名誉教授、その他さまざまな肩書を持つ、木村ヒデノリ氏が壇上に立った。
教授はポソポソと語るが、声が小さいので何を言ってるのか聞こえない。マイクを調節すると、聞こえるようになった。教授は、Minerva会員としてよろこばしい、みたいなことを語ったあと、「チェスのプロの女子は1%です」と続けた。その理由は「要するに、数の問題」だった。
つまり将棋界も、もっと女性のプレイヤーが多くなれば、奨励会三段リーグを抜けてのプロ四段もぞくぞくと出てくるだろう、とのことだった。
何だか、何かの講義を聴いているかのようだった。
続いて、野月浩貴八段の祝辞。これはおもしろい話が聞けそうである。
(つづく)
思えば今からちょうど30年前の9月2日、私は東北を旅行中で、その日「角館の美女」と運命的な出会いをしたのだ。
あれから30年か……。私の人生設計は、どこかで狂ったと思う。
開演は午後6時からなので、準備に余裕がある。久しぶりにスーツを着用したので、銀座に行く前に、インスタント証明写真を撮りに行った。履歴書貼付用である。
某駅近くのボックスに入り鏡を見て、顔の位置を調整する。その時、我が頭頂部があまりにも禿げあがっているので、愕然とした。
少なくとも1年前に撮影した際は、もう少し頭頂部に髪があった。黒髪も多かった。それが今年の春に撮った時は妙に白髪の割合が多くなり、そして現在は、髪自体がなくなっている。たった1年で、どれだけ老化しちゃったんだろう。
就職できない焦りが、仕事以上のストレスを生む。恐ろしいことだと思った。
自宅最寄り駅の1つ先から電車に乗ったので、銀座7丁目の最寄り駅である新橋より、1つ手前の有楽町で降りたほうが、11円安くなることが分かった。節約のため、有楽町で降りた。
銀座をブラブラすると、交差点の一角に、巨大な水槽があった。中では優雅に魚が泳いでいる。これが臨時の設置なのか常設なのか知らないが、銀座の新たな名物になりそうだ。
しばらく歩くと、歩行者天国があった。今は新宿くらいしか見かけないが、ここ銀座でもやっていたのだ。私も東京に生まれて半世紀余だが、こういうトレンドにはとんと弱い。
今回のパーティーは、7丁目13番の「Sun-mi高松」で行われる。5月にLPSAのパーティーが行われた時も、この近くだった。
5時35分ごろ入ると、スタッフのS氏と会った。
「久しぶりです」
「久しぶりです」
「ささ、どうぞお入りください」
「いやいや私、事前申し込みを忘れちゃったので、ここでおカネを払わなきゃいけないんです」
「あー、そうなんですか。Minervaへの更新はしてくれたのに」
まったくその通りで、入金をぐずぐずしたため事前締切が過ぎ、今日は現金で当日料金を払わねばならない。2,000円も余計の出費となり、気が狂いそうになった。これじゃ11円を節約したところで、焼け石に水である。
受付を終えると、パンフレットをいただいた。それには渡部女流王位の写真がふんだんに載っており、女流王位獲得までのミニヒストリーになっていた。奪取を決めた第4局の棋譜とその解説も添付されており、愛ファンにはたまらないプレゼントだった。
会場には、大勢の客がいた。もっと閑散としているかと思ったが、意外に多い。
Kun氏とSak氏がいたので挨拶する。Kun氏はともかく、Sak氏がいるとは珍しい。
「いやー、最近頭が薄くなっちゃって」
渡部女流王位や飯野愛女流初段にはこのアタマを見せているからいいが、久しぶりの知人には衝撃であろう。自らこの話題を振るしかない。
しかし2人は、何も答えない。私の言葉が大袈裟でないので、否定できないのだ。
周りを見渡せば、LPSAファン氏の姿もあった。もっと奥に行けばまた知った顔があるかもしれないが、面倒なので、そこに留まった。
右を見ると、先崎学九段と、遠藤正樹アマが談笑していた。その右にいるのは瀬川晶司五段である。先崎九段、完全に寛解しているようで、何よりである。
例の著書では、似たようなパーティーで、自身が誰にも話し掛けられないので苦痛に感じた、とあったが、それは棋士同士の論理であろう。アマ側から見れば、一将棋ファンが棋士に話しかけるなど大それたことであって、とてもそんな真似はできない。
それでしばらく佇んでいたのだが、先崎九段が話を終え、クルリと振り返ると、九段が正面から私を見る形になった。これでは私も声を掛けざるを得ない。
「先生、先生のご著書、読ませていただきました」
「ああどうも」
「先生、先生のあれ、私は映画になると思っています。その際は(忙しくなるから)マネージャーを付けてください」
「あああ、どうも」
先崎九段はどこかへ行ってしまった。ま、こんな感じになる。
瀬川五段も一瞬だけ、手すきのようである。こちらは7日(金)から「泣き虫しょったんの奇跡」が封切りになり、公私ともども絶好調といったところ。だが話しかけても私がネタ切れになりそうなので、黙って開演を待った。
午後6時、中倉彰子女流二段の司会で、パーティーが始まった。奥にはテレビ局の取材もきていた。
まずは渡部女流王位を呼ぶ。何と私たちと同じ入口からの登場となる。私たちは拍手をもって迎える。渡部女流王位は青の振袖で、ひときわ美しかった。
中倉宏美代表理事の挨拶となる。
「本日は大勢お集まりいただき、ありがとうございます。そして渡部愛さん、おめでとうございます。
愛さんはタイトル挑戦が初めて。女流王位戦はLPSAも主催なので私も同行したんですけども…」
そのうち、宏美代表理事の声が小さくなったので、これは感激にむせび声を詰まらせたのか……と思ったら、たんにマイクの調子が悪くなっただけだった。再度スピーチ。
「まさかと言ったら失礼なんですけども――」
ここで場内爆笑となる。「里見さんからタイトルを獲るのは大変で、そこをよく獲ったと思います。LPSAも有名になって、ありがたいことだと思います」
この後、宏美代表理事から渡部女流王位に、女流王位就位状が渡された。また女流三段昇段も果たしたので、その免状も渡された。
蛸島彰子女流六段が引退した今、LPSAの現役で女流三段は最高位である。名実ともに、渡部女流王位はLPSAの顔となったわけだ。
続いて来賓の挨拶。東大名誉教授、その他さまざまな肩書を持つ、木村ヒデノリ氏が壇上に立った。
教授はポソポソと語るが、声が小さいので何を言ってるのか聞こえない。マイクを調節すると、聞こえるようになった。教授は、Minerva会員としてよろこばしい、みたいなことを語ったあと、「チェスのプロの女子は1%です」と続けた。その理由は「要するに、数の問題」だった。
つまり将棋界も、もっと女性のプレイヤーが多くなれば、奨励会三段リーグを抜けてのプロ四段もぞくぞくと出てくるだろう、とのことだった。
何だか、何かの講義を聴いているかのようだった。
続いて、野月浩貴八段の祝辞。これはおもしろい話が聞けそうである。
(つづく)