一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第30回将棋ペンクラブ大賞贈呈式・3

2018-09-19 10:35:40 | 将棋ペンクラブ
「…………。はい、昨年夏に工場を畳みまして、年末には廃業届を出しました」
関東交流会などでこの話はスピーチしたと思うのだが、まあいい。
「ああそうなの。それはオタクの景気が悪くなって?」
「いえいえ、ずうっと横ばいでした」
いやむしろここ数年は、売り上げが伸びていたくらいである。「でもオヤジと叔父が高齢になりまして……。私ひとりで仕事をやっていくか議論したんですけど、私の技術が伴わず、止めることになりました」
定期的かつ長期にいただいている仕事を手放したのだから、それは無念だった。
湯川博士氏も親戚に似た仕事をした人がいたとかで、その話が続く。私は言う。
「同業者の中にも指がない人が何人かいまして、オヤジは幸い大丈夫だったんですけど、これは奇跡的らしいです。私も金型を取り付けている時に指を挟んだことがありまして、指が倍に膨れ上がりました。今から考えると、あれからオヤジは私に、プレス作業をやらせなくなりました」
それが今の廃業に繋がるのだが、そんなものは言い訳で、私が本当に仕事を続けたければ、ブログなどすぐに休止して、オヤジに直談判し、機械仕事を覚えればよかったのだ。それを私は事務仕事に満足し、将来の廃業が分かっていながら、それを回避する努力をしなかった。まったく、私ほど自分自身に甘い男はいまい。自業自得を絵に描いたようだ。
湯川氏は一時期体調を崩していたようだが、眼の手術も成功したとのことで、今日も声に張りがあり、元気そうで何よりだった。
奥の部屋に行くと、東京の夜景をバックに、渡部愛女流王位が三面指しを行っていた。もはやお馴染みの光景である。
そしてその手前では、妙齢の女性を相手に、バトルロイヤル風間氏が似顔絵を描いていた。後方には多くの女性が並んでいる。ちょっと見たことのない光景で、バトル氏、至福の時間であろう。それにしても今年は女性の参加が多い。一昔前では考えられなかったことだ。
2度目の料理を取る。戻る途中に、Akさんとすれ違う。たぶん、将棋ペンクラブ最年少の女性幹事で、今日はカメラ係である。昔のHak氏の役回りというわけだ。
モグモグ食べていると美馬和夫氏と目が合い、声を掛けられた。
「いつもブログ読んでますヨ」
美馬氏と私とじゃ社長とヒラの関係みたいなもので、恐縮する。
「いやいやどーも、連載をいつも読んでいます。最新号の竹串を引くヤツ、あの話には参りました」
「あああれね、あれは私なりに効果があると思うんですよ」
「そうですよね、少なくとも漠然と引いているより、はるかにいいですよね」
竹串の件は先日のブログでもチラッと書いたが、要するに、美馬式抽選必勝法である。「だけど、棋士との指導対局で、角落ちはないでしょう」
「いやいや、角落ちは平手に近いんですよ。角になると、上手は斬り合いに来る。下手も守っていては潰されるから、斬り合いに応じなけりゃいけない。だから見た目以上に難しいんですよ」
何だか分かったような分からないような理論である。
「仕事のほうは見つかりましたか」
と、美馬氏が心配してくれる。もっとほかの業種が適しているのでは、ともアドバイスいただき、私は再び恐縮する。表面的に心配してくれる人は多いが、ここまで親身になってくれた方はほぼ初めてで、私はただただ感謝するだけだった。
その後も談笑していると、傍らに金子タカシ氏が見えた。金子氏も数々のアマタイトル歴を持つ強豪で、この2人が並ぶ姿は言っちゃあなんだが、その辺の若手棋士より壮観である。その場に私が加わっていることが信じられない。
駒落ちの話の続きで、私が灘蓮照九段の四枚落ちの話を持ち出す。昔「将棋マガジン」に、灘九段がアマ有段者に四枚落ちで戦うという1年間の連載があり、その戦績は11勝1敗だった。
「灘先生は駒落ちが強かったよねえ」
と美馬氏。
「四枚落ちにも(二枚落ち定跡の)▲4五歩で行くのがいいんじゃないかな。端が弱いのに攻めないのはアレだけれども」
と金子氏。
さらに上手独特の指し方など、両者でマニアックな話が続き、私は聞き入るばかりである。そうだ、おふたりはとんでもない将棋マニアだということをうっかりした。
渡部女流王位の指導対局を再び見に行く。美人女流棋士を鑑賞する癒しの時間である。
色紙を抱えている女性がいた。バトルロイヤル風間氏の似顔絵に違いないので、見せてもらう。
これが芸術的なまでに似ている。バトル氏の、対象物を瞬時に線描化する技術は天才的だと思う。
時は20時を8分過ぎた。ここで、来席の棋士にスピーチをしてもらう。まずは高見泰地叡王。技術部門優秀賞の永瀬拓矢七段とは蒲田の研究会で一緒のはずで、その絡みの来席であろう。と、考えることにする。
「叡王は絶対防衛します! 次は私の観戦記で、どなたか受賞してください」
続いて神谷広志八段。神谷八段は歯に衣着せぬ発言が多いので、今回も期待大である。
「今年の大賞は棋士が3人、賞を獲りましたね。(棋士)3人と(観戦記者など)3人なんで、棋士が多いかな。せめて2-4にしてください。
でも今年はこの前、先崎君が何か本を出しましたよねえ」
何やら神谷節が炸裂しそうである。
(つづく)
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