ここでやっと乾杯に入る。音頭は金子タカシ氏。
「私はMinervaの会員番号1番でして……」
これは相当な栄誉だろう。まあ誰かは1番を取るわけだが、それが金子氏とは……。だが、それにふさわしい人物とはいえる。
まずビールを注いで乾杯。私は酒類は飲まないが、ビールの最初の1杯は美味いと思う。
フロア中央には料理が並ぶ。たちまち人だかりができたが、私は待ってまで料理を取りたくないので、不動である。
だが落ち着いたころに行ってみたら、料理がほとんどなくなっていた。
これは料理の品数が少ないのか、参加者が多いのか。恐らく後者であろう。
テーブルには、知った顔の人が来た。彼はいつもどこかで見ているのだが、話したことがあるようなないような……。LPSAや将棋ペンクラブ、あるいは社団戦に行くと、このパターンが実に多い。
ちなみにカメラ担当のMatsumoto氏もそうで、あちらも私を識別できるはずだが、近づいてもお互い挨拶もせず、まだ話したことがない。だが私は、こういうヨソヨソしい関係が好きである。
時刻は午後7時にならんとしている。
先崎学九段が壇上に立った。大勢の前でスピーチ。これはもう、一般人と同じ行動である。否、私が同じ事をしたらあがってしまい話せないので、先崎九段は健常者と同じ、ということだ。
「改めておめでとうございます。よく勝ちましたネ」
これはみんなが思った、率直な気持ちだろう。もう雑談が始まっているので私の位置からは聞こえづらいのだが、先崎九段は「この1年くらい記憶がないんで、いい加減なんですが」と自虐ネタで笑いを取る。
「えー渡部さんのいいところは、えー非常に素直でマジメ」
先崎九段は、言葉の頭に「えー」を付けるにがクセだ。何か大胆な発言をしたらしく、「あ、これマズイですか?」。だいぶお酒が入っているのかもしれない。
続いて瀬川晶司五段のスピーチ。
「渡部さんとは研究会でご一緒させていただいています。いつかこういう日が来るとは思ってたんですけど、早かったですネ。
渡部さんは、いつもひとりで駒を並べてましたね。
……私も保護者の気分になって、ヘンな虫がついてないかとか心配してました」
これで終わりと思いきや、「でまあちょっと宣伝を……」とやったので、場内が爆笑の渦に包まれた。7日公開の映画「泣き虫しょったんの奇跡」である。
実はこの映画に、渡部愛女流王位が出演しているのだ。だが渡部女流王位があまりにも綺麗なので、スタッフだか出演者だかが、彼女を女優と勘違いしていたらしい。
さらに高見泰地叡王のスピーチ。高見叡王も研究会仲間のようだ。
だが私はKun氏とおしゃべりである。「しょったんの奇跡」についてのKun氏の見解が私とは着眼点が違い、大いに勉強になった。
高見叡王の言葉は、聞き洩らした。「これからもお互い頑張っていきましょう」は聞き取れた。
ここで渡部女流王位に関するクイズ大会となる。入場者全員に三択クイズが出され、優勝者には豪華景品が出るというものだ。回答はグー、チョキ、パーで行うので、必然的に全員参加だ。
私はこの時間、渡部女流王位の自戦解説があると思ったのだが(註:これは私の勘違いだった)、それは入場時に配ったプリントを参照してちょうだい、ということなのだろう。
私もクイズは好きだが、これはいかんせん参加者が多すぎる。
クイズは、
Q1.渡部女流王位の出身地はどこでしょう?
Q2.渡部女流王位の誕生日は何日でしょう?
この辺りは基本中の基本。近くに島井咲緒里女流二段がいらしたので、「島井先生は5月15日でしたよね」と点数を稼いでおく。
「はい」
「昭和30年の……」
「えっ!?」
「……あ間違えた、1980年でした」
将棋以外はすかさず咎めてくる島井女流二段であった。
Q3.渡部女流王位が2015年、2016年と連続優勝した棋戦は何でしょう?
Q4.渡部女流王位が将棋を始めたキッカケは何でしょう?
と続く。ここまでは何とか正解したが、次の
Q5.渡部女流王位の出身小学校は何という名前でしょう?
が難問で、私は小学校名が聞き取れず、間違えた。もっとも聞き取れても私は知らなかったから、間違えていたと思う。
この会には愛フリークが多いのか、かなり問題を消化しても、あまり参加人数が減らない。
だが上級問題がやはり難しく、徐々に脱落者が出る。藤森奈津子女流四段は残っていたが、自発的にフェードアウトしたようだ。
そしてふと顔を上げてみれば、壇上に6人の勝ち残り者が上がっていた。
いや私はこんなに目立ちたくないので、早々に敗れて正解だった。
壇上は残り3人になったところで、クイズがネタ切れになったのか、じゃんけんで決着となった。いかにも愛ファンという男性が優勝し、幕は下りた。
私は最初のテーブルから不動だったが、気が付くと将棋ペンクラブ幹事のアカシヤ書店・星野氏と、Kan氏が来ていた。
Kun氏も会員なので、ここで観戦記談議になった。湯川博士氏の近況を確認したあと、あの観戦記者はいい、あの観戦記者はどうなの? など、歯に衣着せぬ意見が飛ぶ。何だか、最後のほうになって、おもしろくなってきた。
だが午後8時、閉会の時間になった。締めの音頭は、カンジの男性氏。LPSAのイベントなどでもよく見かける方だが、カンジとは……?
「監督の監に、ジです」
と、近くにいた大庭美樹女流初段が、漢字を教えてくれた。
監事氏はふつうに締めの言葉を述べて終わった。私は一本締めくらいあるかと思い、叩く用意をしていたので、カクッときた。ちなみに将棋ペンクラブだったら、確実に一本締めをやっている。
帰りは、渡部女流王位らが出入口に立ち、みなに挨拶する。この2時間、私は渡部女流王位を遠巻きに見ていたので、たぶん彼女は私に気付いていない。
私は蛸島彰子女流六段に一声掛けさせていただき、堀彩乃女流2級にはハッパをかけた。次は堀女流2級が、渡部女流王位に続かなければならないのだ。
中倉宏美女流二段は、私の頭部を見て、言葉を失ったように見えた……のは気のせいだろうか。
渡部女流王位が私を認めると、「ああ大沢さん!」と両手を差し出してきた。
私はこの両手に、どう挨拶するべきか。
(つづく)
「私はMinervaの会員番号1番でして……」
これは相当な栄誉だろう。まあ誰かは1番を取るわけだが、それが金子氏とは……。だが、それにふさわしい人物とはいえる。
まずビールを注いで乾杯。私は酒類は飲まないが、ビールの最初の1杯は美味いと思う。
フロア中央には料理が並ぶ。たちまち人だかりができたが、私は待ってまで料理を取りたくないので、不動である。
だが落ち着いたころに行ってみたら、料理がほとんどなくなっていた。
これは料理の品数が少ないのか、参加者が多いのか。恐らく後者であろう。
テーブルには、知った顔の人が来た。彼はいつもどこかで見ているのだが、話したことがあるようなないような……。LPSAや将棋ペンクラブ、あるいは社団戦に行くと、このパターンが実に多い。
ちなみにカメラ担当のMatsumoto氏もそうで、あちらも私を識別できるはずだが、近づいてもお互い挨拶もせず、まだ話したことがない。だが私は、こういうヨソヨソしい関係が好きである。
時刻は午後7時にならんとしている。
先崎学九段が壇上に立った。大勢の前でスピーチ。これはもう、一般人と同じ行動である。否、私が同じ事をしたらあがってしまい話せないので、先崎九段は健常者と同じ、ということだ。
「改めておめでとうございます。よく勝ちましたネ」
これはみんなが思った、率直な気持ちだろう。もう雑談が始まっているので私の位置からは聞こえづらいのだが、先崎九段は「この1年くらい記憶がないんで、いい加減なんですが」と自虐ネタで笑いを取る。
「えー渡部さんのいいところは、えー非常に素直でマジメ」
先崎九段は、言葉の頭に「えー」を付けるにがクセだ。何か大胆な発言をしたらしく、「あ、これマズイですか?」。だいぶお酒が入っているのかもしれない。
続いて瀬川晶司五段のスピーチ。
「渡部さんとは研究会でご一緒させていただいています。いつかこういう日が来るとは思ってたんですけど、早かったですネ。
渡部さんは、いつもひとりで駒を並べてましたね。
……私も保護者の気分になって、ヘンな虫がついてないかとか心配してました」
これで終わりと思いきや、「でまあちょっと宣伝を……」とやったので、場内が爆笑の渦に包まれた。7日公開の映画「泣き虫しょったんの奇跡」である。
実はこの映画に、渡部愛女流王位が出演しているのだ。だが渡部女流王位があまりにも綺麗なので、スタッフだか出演者だかが、彼女を女優と勘違いしていたらしい。
さらに高見泰地叡王のスピーチ。高見叡王も研究会仲間のようだ。
だが私はKun氏とおしゃべりである。「しょったんの奇跡」についてのKun氏の見解が私とは着眼点が違い、大いに勉強になった。
高見叡王の言葉は、聞き洩らした。「これからもお互い頑張っていきましょう」は聞き取れた。
ここで渡部女流王位に関するクイズ大会となる。入場者全員に三択クイズが出され、優勝者には豪華景品が出るというものだ。回答はグー、チョキ、パーで行うので、必然的に全員参加だ。
私はこの時間、渡部女流王位の自戦解説があると思ったのだが(註:これは私の勘違いだった)、それは入場時に配ったプリントを参照してちょうだい、ということなのだろう。
私もクイズは好きだが、これはいかんせん参加者が多すぎる。
クイズは、
Q1.渡部女流王位の出身地はどこでしょう?
Q2.渡部女流王位の誕生日は何日でしょう?
この辺りは基本中の基本。近くに島井咲緒里女流二段がいらしたので、「島井先生は5月15日でしたよね」と点数を稼いでおく。
「はい」
「昭和30年の……」
「えっ!?」
「……あ間違えた、1980年でした」
将棋以外はすかさず咎めてくる島井女流二段であった。
Q3.渡部女流王位が2015年、2016年と連続優勝した棋戦は何でしょう?
Q4.渡部女流王位が将棋を始めたキッカケは何でしょう?
と続く。ここまでは何とか正解したが、次の
Q5.渡部女流王位の出身小学校は何という名前でしょう?
が難問で、私は小学校名が聞き取れず、間違えた。もっとも聞き取れても私は知らなかったから、間違えていたと思う。
この会には愛フリークが多いのか、かなり問題を消化しても、あまり参加人数が減らない。
だが上級問題がやはり難しく、徐々に脱落者が出る。藤森奈津子女流四段は残っていたが、自発的にフェードアウトしたようだ。
そしてふと顔を上げてみれば、壇上に6人の勝ち残り者が上がっていた。
いや私はこんなに目立ちたくないので、早々に敗れて正解だった。
壇上は残り3人になったところで、クイズがネタ切れになったのか、じゃんけんで決着となった。いかにも愛ファンという男性が優勝し、幕は下りた。
私は最初のテーブルから不動だったが、気が付くと将棋ペンクラブ幹事のアカシヤ書店・星野氏と、Kan氏が来ていた。
Kun氏も会員なので、ここで観戦記談議になった。湯川博士氏の近況を確認したあと、あの観戦記者はいい、あの観戦記者はどうなの? など、歯に衣着せぬ意見が飛ぶ。何だか、最後のほうになって、おもしろくなってきた。
だが午後8時、閉会の時間になった。締めの音頭は、カンジの男性氏。LPSAのイベントなどでもよく見かける方だが、カンジとは……?
「監督の監に、ジです」
と、近くにいた大庭美樹女流初段が、漢字を教えてくれた。
監事氏はふつうに締めの言葉を述べて終わった。私は一本締めくらいあるかと思い、叩く用意をしていたので、カクッときた。ちなみに将棋ペンクラブだったら、確実に一本締めをやっている。
帰りは、渡部女流王位らが出入口に立ち、みなに挨拶する。この2時間、私は渡部女流王位を遠巻きに見ていたので、たぶん彼女は私に気付いていない。
私は蛸島彰子女流六段に一声掛けさせていただき、堀彩乃女流2級にはハッパをかけた。次は堀女流2級が、渡部女流王位に続かなければならないのだ。
中倉宏美女流二段は、私の頭部を見て、言葉を失ったように見えた……のは気のせいだろうか。
渡部女流王位が私を認めると、「ああ大沢さん!」と両手を差し出してきた。
私はこの両手に、どう挨拶するべきか。
(つづく)