杉本昌隆七段のスピーチはもちろん続く。
「今回は藤井七段のことだけではなく、板谷一門のことをいろいろ書きたいと思い、ああいう形になりました。
原稿では『藤井七段は勝って当然の顔をしている』と書いたんですが、藤井七段に見せたら『あれは緊張していたからです』と直しを入れられてしまいました。
私が藤井七段の師匠ということで、この2年くらいは、自分のことで聞かれたことがなかったので、今回の受賞はとてもうれしかったです」
続いて藤井猛九段。
「前回は2年前に技術部門の大賞をいただいたんですけれども、その時、これからは易しい内容のものを作っていきたいと申し上げました。私も『新手の藤井』と呼ばれているので、本でも新手を出したかったんですね。
だから今回も工夫したんですが、ちょっとやりすぎたところもありまして、今までは自信を持って出版していましたが、今回はスベるんじゃないか、という心配がありました。
だから今回ばかりは、読者の反応が気になりました。幸い好反響だったので、ホッとしました。
本作りの新手の可能性は、まだまだあるんじゃないか、と思っています。
フジイといえばソウタですが、彼は天才なので……。私は私なりの活躍の場があるので、そちらでも頑張ります」
藤井九段らしい、率直なスピーチだった。
続いて技術部門優秀賞・永瀬拓矢七段の代理の、美馬和夫氏。
「今回の本は永瀬流のおもいろい将棋が掲載されています。しかし内容がむずかしい。将棋を楽しむための本です。
以前、蒲田の道場で機会があって、永瀬さんに自戦解説をお願いしたことがあったんですが、これがメチャクチャおもしろかった。このおもしろさを、本で伝えられないかと思いました。
最初、永瀬さんは初級者向けでやりたいと言ったんですが、私が断りました。
それで永瀬さんの将棋を紹介することになったんですが、永瀬さんがここ(上の方)、読者がここ(下の方)にいるとして、私はその間にいて、両者を中継しなければいけないんです。だけど永瀬さんのレベルが高すぎて、私が追い着けないんですね。でも、おもしろい本に出来上がったと思います」
美馬氏、会心の笑みだった。
続いて、特別賞の横田ヒロキ氏。
「今回の受賞を山本に伝えましたところ、『受賞、光栄です』と一言だけメールが来ました。
今回の書籍は、私がインターネットに立ち上げた媒体が元になっています。そこにフトしたことから山本の連載が始まり、単行本を出すまでに至りました。
この間、TBSの『情熱大陸』で取り上げてもらったのが大きかった。また、藤井聡太七段の存在もあります。
実は藤井聡太七段の件で、(相乗効果で)本が余計に売れたのです」
何とここでも藤井七段が絡んできたのだった。
ここで柚月裕子さんが入場した。早速表彰式となる。壇上に立つ柚月裕子さん。そのお貌は会報誌で存じ上げていたが、ナマの彼女はさらに気品があり、お召し物もエレガントで、女優のように美しい。年齢も把握していたが、どう考えても10歳以上は若く見える。ここにロバート秋山がいたら、一発で落ちていただろう。かくいう私も、ここ数ヶ月で、最大の衝撃であった。天は時々、二物を与えることがあるのだと思った。
何だかスマホで写真を撮る手合いがかなり多くなった。もちろん私もそのひとりだ。…というか、いつの間にか参加者が増えてないか? 軽く50人は越えている。
まずは木村晋介会長の寸評。
「この本は冒頭で、死体が発見される。そしてその死体は、将棋の駒を抱いていたんですね。そこから話が展開するんですが、ここには小池重明をモデルにした人物が出てくる。彼が旅回りをしながら、真剣で生計を立てるんですが、そのあたりの描写には、講談か浪花節を聞いているおもしろさがありました。推理もおもしろかった」
すぐに柚月裕子さんのスピーチとなる。
「今回は遅れてしまったことを深くお詫びいたします。
私は映画の麻雀放浪記が好きでして、男の熱い世界を描きたいと渇望しておりました。
そしてある時『聖の青春』を読みまして、いかに奨励会が厳しいか、棋士になるのが難しいかを痛感しました。
私はまったく将棋を指さないんですが、取材をすると、プロ棋士の一手の読み、いかにプロ棋士が考えているかが分かりました。
将棋は実力の世界。あくまでフェアな世界に、強く魅かれました。
お陰さまで、対局を観戦する機会にも恵まれました。
この小説を書いて、よかったです」
実に素晴らしいスピーチだった。当代きっての売れっ子女流作家も表彰してしまう将棋ペンクラブの大きさに、私はあらためて唸った。
これにて表彰式は終わり。長田衛氏がスタート時に「(柚月裕子さんが間に合うように)なるべく長め(のスピーチ)に」と言ったものだから、皆さん実に饒舌だった。
続いて乾杯となる。テーブルにはアルコールの類がなく、店のスタッフさんが、あらかじめビールを注がれたグラスを配っていた。私とIn氏はそれを取り損ね、ソフトドリンクを取る。
乾杯! 私はIn氏とグラスを合わせた。
渡部愛女流王位が呼ばれたようだ。壇上に向かう途中、私に挨拶をしてくれた。この上ない光栄である。
渡部女流王位が壇上に立つ。
「私は10代のころから将棋ペンクラブにお世話になっておりまして……」
渡部女流王位は、今年も指導対局をしてくださることになっている。
「では奥の部屋へ…」と長田氏が言ったものだから、周りが苦笑した。
しばらくして、バトルロイヤル風間氏もスピーチする。バトル氏は似顔絵を描くのだ。
「奈良検定、美人検定、ブ男検定……」
要するにバトル氏が感じたまま似顔絵にするので、そこは寛大な心で……ということらしい。
各受賞者に知己はいないので、私は手持無沙汰になった。小腹も空いたので、食事を取りに行く。今年は、かなり手の込んだ料理が並んでいた。
しばらくして、湯川博士氏が来てくれた。
「おぉ大沢君、仕事のほうがマズいんだって?」
(つづく)
「今回は藤井七段のことだけではなく、板谷一門のことをいろいろ書きたいと思い、ああいう形になりました。
原稿では『藤井七段は勝って当然の顔をしている』と書いたんですが、藤井七段に見せたら『あれは緊張していたからです』と直しを入れられてしまいました。
私が藤井七段の師匠ということで、この2年くらいは、自分のことで聞かれたことがなかったので、今回の受賞はとてもうれしかったです」
続いて藤井猛九段。
「前回は2年前に技術部門の大賞をいただいたんですけれども、その時、これからは易しい内容のものを作っていきたいと申し上げました。私も『新手の藤井』と呼ばれているので、本でも新手を出したかったんですね。
だから今回も工夫したんですが、ちょっとやりすぎたところもありまして、今までは自信を持って出版していましたが、今回はスベるんじゃないか、という心配がありました。
だから今回ばかりは、読者の反応が気になりました。幸い好反響だったので、ホッとしました。
本作りの新手の可能性は、まだまだあるんじゃないか、と思っています。
フジイといえばソウタですが、彼は天才なので……。私は私なりの活躍の場があるので、そちらでも頑張ります」
藤井九段らしい、率直なスピーチだった。
続いて技術部門優秀賞・永瀬拓矢七段の代理の、美馬和夫氏。
「今回の本は永瀬流のおもいろい将棋が掲載されています。しかし内容がむずかしい。将棋を楽しむための本です。
以前、蒲田の道場で機会があって、永瀬さんに自戦解説をお願いしたことがあったんですが、これがメチャクチャおもしろかった。このおもしろさを、本で伝えられないかと思いました。
最初、永瀬さんは初級者向けでやりたいと言ったんですが、私が断りました。
それで永瀬さんの将棋を紹介することになったんですが、永瀬さんがここ(上の方)、読者がここ(下の方)にいるとして、私はその間にいて、両者を中継しなければいけないんです。だけど永瀬さんのレベルが高すぎて、私が追い着けないんですね。でも、おもしろい本に出来上がったと思います」
美馬氏、会心の笑みだった。
続いて、特別賞の横田ヒロキ氏。
「今回の受賞を山本に伝えましたところ、『受賞、光栄です』と一言だけメールが来ました。
今回の書籍は、私がインターネットに立ち上げた媒体が元になっています。そこにフトしたことから山本の連載が始まり、単行本を出すまでに至りました。
この間、TBSの『情熱大陸』で取り上げてもらったのが大きかった。また、藤井聡太七段の存在もあります。
実は藤井聡太七段の件で、(相乗効果で)本が余計に売れたのです」
何とここでも藤井七段が絡んできたのだった。
ここで柚月裕子さんが入場した。早速表彰式となる。壇上に立つ柚月裕子さん。そのお貌は会報誌で存じ上げていたが、ナマの彼女はさらに気品があり、お召し物もエレガントで、女優のように美しい。年齢も把握していたが、どう考えても10歳以上は若く見える。ここにロバート秋山がいたら、一発で落ちていただろう。かくいう私も、ここ数ヶ月で、最大の衝撃であった。天は時々、二物を与えることがあるのだと思った。
何だかスマホで写真を撮る手合いがかなり多くなった。もちろん私もそのひとりだ。…というか、いつの間にか参加者が増えてないか? 軽く50人は越えている。
まずは木村晋介会長の寸評。
「この本は冒頭で、死体が発見される。そしてその死体は、将棋の駒を抱いていたんですね。そこから話が展開するんですが、ここには小池重明をモデルにした人物が出てくる。彼が旅回りをしながら、真剣で生計を立てるんですが、そのあたりの描写には、講談か浪花節を聞いているおもしろさがありました。推理もおもしろかった」
すぐに柚月裕子さんのスピーチとなる。
「今回は遅れてしまったことを深くお詫びいたします。
私は映画の麻雀放浪記が好きでして、男の熱い世界を描きたいと渇望しておりました。
そしてある時『聖の青春』を読みまして、いかに奨励会が厳しいか、棋士になるのが難しいかを痛感しました。
私はまったく将棋を指さないんですが、取材をすると、プロ棋士の一手の読み、いかにプロ棋士が考えているかが分かりました。
将棋は実力の世界。あくまでフェアな世界に、強く魅かれました。
お陰さまで、対局を観戦する機会にも恵まれました。
この小説を書いて、よかったです」
実に素晴らしいスピーチだった。当代きっての売れっ子女流作家も表彰してしまう将棋ペンクラブの大きさに、私はあらためて唸った。
これにて表彰式は終わり。長田衛氏がスタート時に「(柚月裕子さんが間に合うように)なるべく長め(のスピーチ)に」と言ったものだから、皆さん実に饒舌だった。
続いて乾杯となる。テーブルにはアルコールの類がなく、店のスタッフさんが、あらかじめビールを注がれたグラスを配っていた。私とIn氏はそれを取り損ね、ソフトドリンクを取る。
乾杯! 私はIn氏とグラスを合わせた。
渡部愛女流王位が呼ばれたようだ。壇上に向かう途中、私に挨拶をしてくれた。この上ない光栄である。
渡部女流王位が壇上に立つ。
「私は10代のころから将棋ペンクラブにお世話になっておりまして……」
渡部女流王位は、今年も指導対局をしてくださることになっている。
「では奥の部屋へ…」と長田氏が言ったものだから、周りが苦笑した。
しばらくして、バトルロイヤル風間氏もスピーチする。バトル氏は似顔絵を描くのだ。
「奈良検定、美人検定、ブ男検定……」
要するにバトル氏が感じたまま似顔絵にするので、そこは寛大な心で……ということらしい。
各受賞者に知己はいないので、私は手持無沙汰になった。小腹も空いたので、食事を取りに行く。今年は、かなり手の込んだ料理が並んでいた。
しばらくして、湯川博士氏が来てくれた。
「おぉ大沢君、仕事のほうがマズいんだって?」
(つづく)