一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

残る謎

2020-07-03 00:53:28 | 将棋雑記
3年前の秋、私が大山康晴名人、中原誠名人、升田幸三九段らヴィンテージものの著書数十冊、それに昭和50年代の「近代将棋」「将棋世界」「将棋マガジン」「NHK将棋講座」、それに22年分の棋譜スクラップを処分してしまったのは、痛恨の極みだった。とくに大山、中原両名人の池田書店本を捨てたのは将棋ファンとしてあるまじき行為。なぜに工場の隅にでも保管しておかなかったのかと、いまでも強い後悔にさいなまれている。
先月上旬、私は所用で神保町に行く機会があり、その際に古書店街で、それらの棋書を探してみようと思った。
神保町で将棋本といえば「アカシヤ書店」である。ただここは、将棋本に特化していることで、モノによってはやや値が張るのがネックである。それに古書というものは、ふらっと入った店で偶然手にするところに醍醐味があると思っているので、なんでも揃っているところで入手しても、面白味はないのだ。だから今回は、アカシヤ書店は利用しない。……誤解なきように書くと、店主の星野氏にはとても懇意にさせてもらっているし、アカシヤ書店の存在は貴重だと心から思っている。
徒歩で台東区の職安に行ったあと、秋葉原の書泉ブックタワーまで歩いていく。もちろん運動のためである。
最近はネット販売に押され対面型販売の書店が危機で、大型書店の廃業も珍しくない。幸い書泉ブックタワーは持ちこたえているようで、そこそこ客がいた。
そのあと神保町に行った。いよいよ本番である。
街の古書店も例外ではなく、呆れるくらいなくなっている。ブックオフのようなチェーン店が幅を利かせているうえ、個人経営者の代替わりが叶わず、店舗の老朽化での建替えを機にそのまま廃業してしまうのだ。そんななか、ここ神保町はよく頑張っていると思う。高田馬場の古書店街に元気がなくなっているいま、ここ神保町が古書店の最後の砦だと思う。
まず、三省堂書店に入ってみる。すると2階に、アウトレットブックコーナーがあった。書店がこうしたコーナーを併設するのは珍しい。しかも、売れ残りの本を値引きで売っているのかと思いきや、古書も売っているのでビックリした。
将棋コーナーに行くと、ヴィンテージものが置かれてあり、中原誠名人の「中原の将棋定跡」(池田書店)があった。もちろん、私が持っていた本だ。だが値付けを見ると1,000円だった。定価が600円だったから結構な額だ。これでは買えない。
ほかは升田幸三九段「升田の中飛車」(弘文社)もあった。これも実戦が豊富に載っており私は持っていたが、やはり捨ててしまった。まったく、気が滅入るばかりである。
この値付けは1,000円で、やはり買えなかった。私は自身が設定する値段を越えると、いくら欲しい品物でも買わない主義である。
このコーナーは品揃えがいいが、値段がネックになり、どうも私には縁がなかった。
その後、古書店街を片っ端からあたっていく。だが将棋の本を売っている店は少ない。というか、ない。棋書はやはりアカシヤ書店に集約されているのだろうか。
それにしても、私は何をやっているのだろう。ここで血眼になって探すくらいなら、3年前に捨てなければよかった、という話だ。
だがあの時は会社が廃業になり、多くのプレス機器をどうやって処分するか、で頭がいっぱいだった。それに付随して身の回りの物を処分しなければならない雰囲気にもなっており、一種のマインドコントロールに陥っていた。とても棋書の保管を言い出せる雰囲気ではなかったのだ。
新たな古書店に入る。やっぱり将棋本はなかったが、案内板を見ると、地下に将棋コーナーがあるようだった。
行くと、木村義雄八段や土居市太郎八段らの古棋書があった。かなりのレア本だが、私が持つべきものではなさそうだ。
ほかには「米長邦雄名局集」があった。これは筑摩書房が1980年から発刊した「現代将棋名局集」シリーズで、たしかタイトル経験者11名が名を連ねていた。私は「大山康晴名局集」を所持していたが、米長九段のものはなかった。
これは定価1,800円で、値付けは600円だった。これもかなりの額だが、定価の3分の1だから、十分購入範囲だ。
で、これを買った。今回の収穫はこれだけだった。もう、処分した棋書を都内で見つけることは困難だと思う。3年前の私が、バカだった。バカは死ななきゃ治らない。

帰宅して、中を見てみる。名局集25局の自戦解説に、勝局集25局が収録されていた。
その名局集の中に、角換わりの将棋があった。二上達也八段(当時)との一戦で、その陣立てが、現代の角換わり最新形と寸分違わない。将棋の戦法が巡り巡って古典に回帰することがあるが、これなどその典型的な例であろう。
というところへ、1日の女流王座戦・貞升南女流初段VS中澤沙耶女流初段の一戦が角換わりの将棋になった。
私はどこかで見た将棋だと思い、「米長邦雄名局集」を確認してみる。すると、同一局面が現れていたので本当にビックリした。
というわけでこれをブログのネタにしたのだが、私がヴィンテージ棋書を処分したから書けたもので、複雑な気持ちだった。

さて、ここでひとつ謎が残る。「米長邦雄名局集」は勝局集ではないので、敗局を載せても構わない。だが二上八段戦は米長六段の完敗譜で、とても掲載に値しない。しかもこれはタイトル戦ではなく、予選局である。それをどうして載せたのか、理解に苦しむのだ。
まさか、2020年に私がこの本を発掘するのを見越し、あえて掲載したということか? 1960年代に、すでに角換わりの最新形を指していたことを知らしめるために……。
「大沢君、よく見つけてくれたね」
米長永世棋聖が、泉下で微笑んでいるような気がする。
コメント (4)
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