一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第91期棋聖戦第3局

2020-07-12 00:16:16 | 男性棋戦
9日は第91期棋聖戦第3局・渡辺明棋聖VS藤井聡太七段の一戦が行われた。
本局、藤井七段が勝てば17歳での最年少初タイトルとなる。もちろん世間は藤井新棋聖の誕生を期待しており、私も本局は、藤井七段が快勝すると思った。もはや渡辺棋聖には大変なアゲインストである。しかし逆境に強いのが強者でもある。渡辺棋聖はタイトル戦のストレート負けがいままでないらしく、おのがプライドに賭けても、本局はいつも以上に負けられない一戦だった。
将棋は予想通り角換わり腰掛け銀となった。しかし双方の指し手が早い早い。現在は棋士の考えも合理的になっていて、研究が行き届いているところは、無駄な考慮時間を使わない。
開始2時間足らずで、もう69手も進んでしまった。
そして70手目、後手の渡辺棋聖は△3七歩成。藤井七段は▲同金(第1図)。

そこで私なら当然△同桂成だが、渡辺棋聖は△8六歩▲同歩△8七歩▲同玉△8五歩。金を取らないのがいかにもプロっぽく、この辺の折衝は到底理解が及ばない。
80手目△8六歩のタタキに、藤井七段の▲同銀が強手。なぜなら△9九角成と香を取られるからだ。といって▲同銀以外の応手も難しいが、藤井七段があえてこの変化を選んだともいえる。
そこで藤井七段▲7七桂!(第2図) これまた驚きの一手だ。飛車の一段目の利きを利用して馬取り、はよくある手だが、それは自玉が反対側にいるのが常である。△9八角は怖くないのだろうか。

渡辺棋聖はもちろん△9八角。以下▲9七玉△8九角成▲同飛△同馬に、藤井七段は▲8八金!(第3図) こんな薄い受けでいいのか!?

先ほどの▲7七桂では▲9八金と打ちたいし、この▲8八金でも、「打」と1枚おごりたい。しかしどちらも前者の手で指せる、とする藤井七段の読みに舌を巻く。ホント、藤井将棋には驚かされてばかりだ。
なお本局ではABEMAがネット中継をしてくれたが、AIでの形勢判断は、ほぼ互角だった。これだけチャンバラをやりながら均衡を保っているのが信じられない。
第3図で渡辺棋聖は△9九飛の王手。あとで分かったのだが、渡辺棋聖はこの△9九飛まで研究して、後手指せる、と見ていたという。
一方の藤井七段はこの一手前、▲8八金で指せると見ていたらしい。しかし△9九飛を軽視していた。だけどこの王手は私も真っ先に打ちたくなる手で、この手が藤井七段にどうして見えなかったか、不可解なところではある。
むかし、私が「将棋ペン倶楽部」に投稿した話。これからは棋士がそれぞれ、愛用の将棋ソフトを持つことになる。そして、より深く手を読んだソフトを所持していた棋士が、将棋を有利に運ぶだろう、と夢物語を書いた。本局の渡辺棋聖と藤井七段はそうではないが、もはや将棋研究にAIは必須のアイテムであろう。
本譜、藤井七段は▲9八銀と受けた。私なら勢いで△9八同飛成か△8八馬としちゃうところだが、渡辺棋聖は△6七馬。当然かもしれないが、実に冷静である。
そしてこの前後から藤井七段の長考が目立ち、持ち時間の差が開いてきた。
数手進み、藤井七段が111手目▲8七金(第4図)と立ったところ。この時点で藤井七段の残り時間は数分、対して渡辺棋聖は1時間以上を残していた。

ABEMAの解説のひとりは森内俊之九段。朴訥とした語り口から鋭い変化を披露する。
第4図から△8六歩が森内九段の指摘で、先手がどう応じても後手がいい。
しかし渡辺棋聖は△7八馬(第5図)とした。よく分からないが、本局で私がいちばん感心したのはこの手である。

将棋は厳しく見える手ばかりが有効手ではない。△7八馬はいかにもふわっとしているが、次の厳しさを内包する雰囲気がある。羽生善治九段にこの類の手がよくあったと思う。
藤井七段は▲9四歩。そこで△8六歩が決め手になった。
が、藤井七段は王手を決めて▲3四香。これが逆転を秘めた一手で、アマチュア同士なら攻守逆転、先手が勝つと思う。だが渡辺棋聖はじっくり腰を落とし、△3三歩。
以下藤井七段は後手玉を受けなしにしたが、渡辺棋聖は△8七歩成から、先手玉を見事に詰まし上げた。
このあたり渡辺棋聖は一手一手に時間をかけ、持ち時間の使い方に一日の長があると思った。逆にいえば、そのあたりが藤井七段の課題ではあるまいか。
かくして棋聖戦は渡辺棋聖の1勝2敗となった。ここで踏ん張るのはさすがで、私は大いに感心した。塚田正夫名誉十段の「勝つことはえらいことだ」の至言が浮かんだ。
現在ふたりはダブルタイトル戦の真っ最中だが、藤井七段は13日~14日に北海道で王位戦第2局を戦ったあと、16日に大阪で棋聖戦第4局である。よって藤井七段だって、第3局でカタを付けたかったのだ。
藤井七段の誕生日は7月19日だから、決めるなら次である。最終局になったら、私は渡辺棋聖ノリである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする