13日、14日は、北海道札幌市で第61期王位戦第2局が行われた。ここまで木村一基王位の1敗だがすでに追い込まれている感じで、本局は木村王位にとって背水の陣だった。
将棋は先番木村王位の注文で、相掛かりとなった。藤井聡太七段も居飛車の手将棋が得意なので、この戦法は歓迎だ。
1日目はまだ序盤といえるところで指し掛け。9日の棋聖戦と違い、ずいぶんスローペースだ。だが相掛かりは木村王位に一日の長があったようで、木村王位が指しやすくなっていた。
2日目、フジテレビ「バイキング」に鈴木環那女流二段が出演した。MCの坂上忍に形勢判断を聞かれ、鈴木女流二段は「藤井七段がやや不利ですが、藤井七段は終盤力がすごいので、藤井七段が勝つと思います」と明快に答えた。
解説者の中にははっきりと勝者を告げない人もいるが、鈴木女流二段は潔い。私はさらに鈴木女流二段のファンになってしまった。
将棋は第1図で、藤井七段が△9五飛をひとつ△9六飛と浮いたところ。これがなかなかに味わい深い手で、▲3六銀を釘付けにしている。
ここで木村王位は▲8六角! △9八飛成なら▲9九香△8九竜▲7九金の飛車殺し……と思いきや、それは△7六桂▲同歩△8八竜▲同金△同角成で一杯食わされるらしい。
藤井七段は△9八飛成。そこで木村王位の▲2九飛が用意の手だった。
▲2九飛は次こそ▲9九香があり(△8九竜とできない)、攻めては▲2八香を見ている。本局、私が最も感心した手である。
実戦も△9二竜に▲2八香と進み、これは木村王位が一本取ったと思った。
ところが……。
第2図以下の指し手。△3三銀▲2三香成△2四香▲2五歩△2三金▲2四歩△同金▲2五歩△2八歩▲同飛△2七歩▲同飛△1五金(第3図)
私はこのシリーズ、どちらが勝ってもいい。別に私におカネが入ってくるわけではないからだ。ただ47歳の木村王位は、このシリーズで負けると、もうタイトル戦に出られない可能性もある。となれば、オジサン棋士を応援したくなるところである。
第2図で、藤井七段が平然と△3三銀と上がったので驚いた。
当然の▲2三香成に△2四香が継続手で、以下▲2二成香△2九香成は先手が一手負け。よって▲2四同成香としたいが、それも△同銀▲同飛△2三香で先手不利となる。結局▲2五歩と打つしかなく、2筋突破はならなかった。将棋は簡単に決まらないのだ。
とはいえ第3図の△1五金もすごい形で、花村元司九段の指し手を思わせる。それか、原田泰夫九段がNHKのお好み駒落ち対局で、グイッと△1五金(△2五金?)と出た将棋を思わせる。
棋聖戦第2局の△5四金もそうだったが、藤井七段には思いもよらぬ手が出てきて、見ていて面白い。
局面は進んで第4図。いろいろあったが第3図は先手が有利で、そこから木村王位が優位を拡げ、優勢になった。
ここで私なら▲5三金△6一玉▲3二竜△同銀▲6三金のような手を考えるが、それはヘボの追い方だ。
本譜木村王位は▲1一竜とした。ただこれは竜が逃げるだけの手で、本筋でない気がした。といって、代わる手はもう浮かばないのだが。
そこで藤井七段は△5三香! 名香が出た。
このあたり、私は「momonoki」からABEMAのネット中継に代え、観戦していた。戻って第4図では、▲4二金が正着だったようだ。ただ以下の変化も多岐に渡り、簡単ではない。思ったほど形勢は開いていなかったのかもしれない。
第5図の△5三香がナルホドという手で、守っては▲5三Xを防ぎ、攻めては△5七香成の殺到を見ている。藤井七段の駒は、いつも目いっぱい働いている。
しばらくすると▲7九玉が指されており、私はイヤな予感がした。木村王位としては、この手を指さずして藤井玉に詰めろ詰めろで迫りたかったと思う。第1局で藤井七段が▲6八玉形のまま、木村玉を寄り倒したのと同じように。本局はこの2手で、流れが変わった。
藤井七段は△2六角。これも厳しそうな手で、アマ同士ならもう、100%後手が勝つ。
そこで木村王位は▲4二歩! 私は無言で絶叫してしまった。
ABEMAでは画面右下に推奨手が出るが、私はそこまで見ていなかった。音も出していないので、誰が解説かも分からなかった。
さて第6図の▲4二歩。一見銀取りで厳しそうだが、この瞬間後手玉は「Z」。いわゆる絶対詰まない形で、後手は自由に反撃ができる。しかもこの▲4二歩、次に▲4一歩成としても、後手玉が詰めろでない可能性が高い。とすると、「▲4二歩△○○○▲4一歩成」のときに、藤井七段が詰めろ詰めろで迫れば、藤井七段が勝つことになるのだ。
果たしてAIも▲4二歩を見て、藤井七段優勢と断じた。まさかの逆転である。
第6図以下の指し手。△4八角成▲4一歩成△5七銀不成▲9七銀△9八金▲5一と△6二玉▲5二と△7二玉▲6二と△8三玉▲6九香△5六桂(第7図)
以下、藤井七段の勝ち。
△4八角成▲4一歩成に△5七銀不成の詰めろで、速度が入れ替わった。木村王位は▲9七銀と逃げ道を開けるが、△9八金が非情の待ち駒である。これがあるなら▲9七銀では▲9九銀かと思うが、それでも先手が負けなのだろう。
木村王位は4一のと金で後手玉を追うが、藤井七段は逃げる、逃げる。こうなると、8五に桂が利いているのも大きい。勝ち将棋鬼のごとしで、93手目▲9三歩△同桂の交換が、ここでは後手に生きてきている。
ここで木村王位は▲6九香と受けに回ったが、△5六桂と数を足されて、もういけない。数手後に投了となった。
(なんでこの将棋を負けた?)とばかり、放心状態で虚空を見つめる木村王位。その模様が痛々しく、私は正視できなかった。
実際、この敗戦はこのうえなく痛かった。もし勝っていれば1勝1敗で仕切り直し。だが負けて2敗、は残り5局を4勝1敗で乗り切らねばならず、かなり苦しくなった。
いっぽう藤井七段は、ほっとしたことだろう。負ければ疲労が倍になるが、勝てば疲労は半分になる。後のハードスケジュールを考えても、この勝利は果てしなく大きかった。
そして藤井七段は休む間もなく16日、棋聖戦第4局に臨んだのである。
将棋は先番木村王位の注文で、相掛かりとなった。藤井聡太七段も居飛車の手将棋が得意なので、この戦法は歓迎だ。
1日目はまだ序盤といえるところで指し掛け。9日の棋聖戦と違い、ずいぶんスローペースだ。だが相掛かりは木村王位に一日の長があったようで、木村王位が指しやすくなっていた。
2日目、フジテレビ「バイキング」に鈴木環那女流二段が出演した。MCの坂上忍に形勢判断を聞かれ、鈴木女流二段は「藤井七段がやや不利ですが、藤井七段は終盤力がすごいので、藤井七段が勝つと思います」と明快に答えた。
解説者の中にははっきりと勝者を告げない人もいるが、鈴木女流二段は潔い。私はさらに鈴木女流二段のファンになってしまった。
将棋は第1図で、藤井七段が△9五飛をひとつ△9六飛と浮いたところ。これがなかなかに味わい深い手で、▲3六銀を釘付けにしている。
ここで木村王位は▲8六角! △9八飛成なら▲9九香△8九竜▲7九金の飛車殺し……と思いきや、それは△7六桂▲同歩△8八竜▲同金△同角成で一杯食わされるらしい。
藤井七段は△9八飛成。そこで木村王位の▲2九飛が用意の手だった。
▲2九飛は次こそ▲9九香があり(△8九竜とできない)、攻めては▲2八香を見ている。本局、私が最も感心した手である。
実戦も△9二竜に▲2八香と進み、これは木村王位が一本取ったと思った。
ところが……。
第2図以下の指し手。△3三銀▲2三香成△2四香▲2五歩△2三金▲2四歩△同金▲2五歩△2八歩▲同飛△2七歩▲同飛△1五金(第3図)
私はこのシリーズ、どちらが勝ってもいい。別に私におカネが入ってくるわけではないからだ。ただ47歳の木村王位は、このシリーズで負けると、もうタイトル戦に出られない可能性もある。となれば、オジサン棋士を応援したくなるところである。
第2図で、藤井七段が平然と△3三銀と上がったので驚いた。
当然の▲2三香成に△2四香が継続手で、以下▲2二成香△2九香成は先手が一手負け。よって▲2四同成香としたいが、それも△同銀▲同飛△2三香で先手不利となる。結局▲2五歩と打つしかなく、2筋突破はならなかった。将棋は簡単に決まらないのだ。
とはいえ第3図の△1五金もすごい形で、花村元司九段の指し手を思わせる。それか、原田泰夫九段がNHKのお好み駒落ち対局で、グイッと△1五金(△2五金?)と出た将棋を思わせる。
棋聖戦第2局の△5四金もそうだったが、藤井七段には思いもよらぬ手が出てきて、見ていて面白い。
局面は進んで第4図。いろいろあったが第3図は先手が有利で、そこから木村王位が優位を拡げ、優勢になった。
ここで私なら▲5三金△6一玉▲3二竜△同銀▲6三金のような手を考えるが、それはヘボの追い方だ。
本譜木村王位は▲1一竜とした。ただこれは竜が逃げるだけの手で、本筋でない気がした。といって、代わる手はもう浮かばないのだが。
そこで藤井七段は△5三香! 名香が出た。
このあたり、私は「momonoki」からABEMAのネット中継に代え、観戦していた。戻って第4図では、▲4二金が正着だったようだ。ただ以下の変化も多岐に渡り、簡単ではない。思ったほど形勢は開いていなかったのかもしれない。
第5図の△5三香がナルホドという手で、守っては▲5三Xを防ぎ、攻めては△5七香成の殺到を見ている。藤井七段の駒は、いつも目いっぱい働いている。
しばらくすると▲7九玉が指されており、私はイヤな予感がした。木村王位としては、この手を指さずして藤井玉に詰めろ詰めろで迫りたかったと思う。第1局で藤井七段が▲6八玉形のまま、木村玉を寄り倒したのと同じように。本局はこの2手で、流れが変わった。
藤井七段は△2六角。これも厳しそうな手で、アマ同士ならもう、100%後手が勝つ。
そこで木村王位は▲4二歩! 私は無言で絶叫してしまった。
ABEMAでは画面右下に推奨手が出るが、私はそこまで見ていなかった。音も出していないので、誰が解説かも分からなかった。
さて第6図の▲4二歩。一見銀取りで厳しそうだが、この瞬間後手玉は「Z」。いわゆる絶対詰まない形で、後手は自由に反撃ができる。しかもこの▲4二歩、次に▲4一歩成としても、後手玉が詰めろでない可能性が高い。とすると、「▲4二歩△○○○▲4一歩成」のときに、藤井七段が詰めろ詰めろで迫れば、藤井七段が勝つことになるのだ。
果たしてAIも▲4二歩を見て、藤井七段優勢と断じた。まさかの逆転である。
第6図以下の指し手。△4八角成▲4一歩成△5七銀不成▲9七銀△9八金▲5一と△6二玉▲5二と△7二玉▲6二と△8三玉▲6九香△5六桂(第7図)
以下、藤井七段の勝ち。
△4八角成▲4一歩成に△5七銀不成の詰めろで、速度が入れ替わった。木村王位は▲9七銀と逃げ道を開けるが、△9八金が非情の待ち駒である。これがあるなら▲9七銀では▲9九銀かと思うが、それでも先手が負けなのだろう。
木村王位は4一のと金で後手玉を追うが、藤井七段は逃げる、逃げる。こうなると、8五に桂が利いているのも大きい。勝ち将棋鬼のごとしで、93手目▲9三歩△同桂の交換が、ここでは後手に生きてきている。
ここで木村王位は▲6九香と受けに回ったが、△5六桂と数を足されて、もういけない。数手後に投了となった。
(なんでこの将棋を負けた?)とばかり、放心状態で虚空を見つめる木村王位。その模様が痛々しく、私は正視できなかった。
実際、この敗戦はこのうえなく痛かった。もし勝っていれば1勝1敗で仕切り直し。だが負けて2敗、は残り5局を4勝1敗で乗り切らねばならず、かなり苦しくなった。
いっぽう藤井七段は、ほっとしたことだろう。負ければ疲労が倍になるが、勝てば疲労は半分になる。後のハードスケジュールを考えても、この勝利は果てしなく大きかった。
そして藤井七段は休む間もなく16日、棋聖戦第4局に臨んだのである。