第61期王位戦の挑戦者に、藤井聡太七段が名乗りを上げた。木村一基王位は、いちばんイヤな相手に出てこられたと思っただろう。だが長い歴史で見た場合、藤井七段とタイトル戦で戦うことは勲章のひとつになる。とにかく木村王位は、力いっぱい戦うしかない。
七番勝負第1局は1日・2日で、愛知県豊橋市で行われることになった。愛知県在住の藤井七段には移動の負担が少なくて済んだわけだが、これも主催社の計らいだったのだろうか。
ちなみに豊橋市には、全国的に珍しくなった路面電車が走っている。私はかつてそれに乗るために豊橋で下車し、乗りつぶしをしたものだ。いまの私はどこかへ出かける気力もカネもなく、第一東京都が不要不急の外出を控えるよう唱えている。
対局室は特設会場で、もとは音楽堂らしい。ずいぶん空間が多いが、これは3密を避けたのか、あるいは室内の見栄えを優先させたのか。たぶん両方だろう。
王位戦は持ち時間8時間。さすがの藤井七段も1局の将棋を2日かけたことはないはずで、スタミナ配分などの課題も含め、未知の領域に入ることになる。
将棋は角換わり腰掛け銀になった。そしてお互い右金をまっすぐ立ち、飛車をひとつ引くあの形になった。
そこで▲4五歩と仕掛けると先手の勝率が7割近いらしい。しかも先手を持っているのは藤井七段である。果たして藤井七段は9分で▲4五歩と行き、数手後木村王位は△5二玉。これが木村王位の用意していた対策だった。
藤井七段▲7四歩の桂取りに、木村王位は△9二角。もし▲7三歩成なら△2九角成と飛車を取る手を見ている。しかし7四歩を取られるわけにはいかないから、▲7三歩成はこの一手。ここで木村王位が封じた。
部屋は1泊数万円だったそうだが、藤井七段はぐっすり眠れたらしい。
私などは貧乏症だから、もし数万円の部屋に泊まったらもったいなくて、一晩中起きているところだ。
明けて2日目、木村王位の封じ手は△2九角成だった。ここ△7三同金は桂の取られ損で、指しきれないだろう。
藤井七段は▲6二とと金を取り、木村王位は△4三玉。さすがの手で、ここ△6二同玉は▲4四角で後手が負けらしい。このあたりは双方読みが入っていて、指し手がそのまま定跡になる感じだ。
以下藤井七段は▲4四歩~▲5二と~▲5三銀。この▲5三銀が意外で、打つなら八方に利く角がいいと素人は思う。だが藤井七段が打ったのだからこれが正着、という鉄壁の信用がある。
藤井七段▲4四桂。これも俗手で控室の評判はよくなかったが、数手進むと後手玉はかなり寒いことになっていた。さすがは藤井七段、とまた評価が上がったのである。
ところがそこで木村王位は△3一金! ▲同とと取らせることでと金の利きをなくす手筋で、凌ぎの次の一手にはよく出てくる。とはいえ実戦で現れるのは珍しい。
藤井七段は▲2二角から迫るが、木村王位は△3一桂!! これがまた受けの妙手で、アマ同士の戦いなら後手が受け切り勝ちとなる。実際、ここでは木村王位がよくなったのではないかと思った。まさに「千駄ヶ谷の受け師」の面目躍如である。
だがここで藤井七段が腰を落とし、▲1五歩△同歩▲2六金と指したのが好手だった。簡単にいえば、「端玉には端歩」ということだ。この翌日「バイキング」に出演した山口恵梨子女流二段は、この順を絶賛したものである。
山口女流二段の解説はいつも分かりやすく、フジテレビが重用するのも分かる。ちなみに来年以降は、この席に竹俣紅アナが座るのだろうか。
以下、藤井七段の正確な寄せに、木村王位が「参りました」と投了した。投了図は、遊び気味?だった▲5三銀がよく働いており、私は背筋が寒くなった。
なお藤井七段の指し手のうち、駒を引いたのは、33手目▲2九飛と、87手目▲1二と、91手目▲1三との3手のみだった。
しかし飛車引きは自陣の一段目に利かす手だし、と金引きは寄せの好手だった。つまり駒を引く手は一手もなかったことになる。
実は同じ意味で、木村王位にも駒を引く手はなかった。疑問手らしい疑問手もなく、終盤は受けの好手も連発した。それで明快な一手負けでは、内心不愉快だっただろう。
もはや私たちは、藤井七段が先手番の利を活かして勝った、と考えるしかない。
局後は大仰な勝利者インタビューが行われた。藤井七段は疲労困憊のテイで、「2日目午後は疲れました」とのことだった。▲5三銀~▲4四桂あたりの指し手をいっていたのかもしれないが、それが致命傷にならなかったあたり、全盛時の羽生善治九段を思わせた。
さて、タイトル戦は、挑戦者が先勝すると面白くなる。だが今回は別で、木村王位が勝たねばならなかった。今はそのくらい、双方の勢いに差があるのだ。
もっとも前期は、豊島将之王位(名人)に0勝2敗から逆転奪取した。したが、さすがに昨年のようなわけにはいくまい。何しろ今年の相手は、宇宙人なのだ。よって木村王位が次局も負けたら、防衛は絶望的と見てよい。
いやー、大変である。
七番勝負第1局は1日・2日で、愛知県豊橋市で行われることになった。愛知県在住の藤井七段には移動の負担が少なくて済んだわけだが、これも主催社の計らいだったのだろうか。
ちなみに豊橋市には、全国的に珍しくなった路面電車が走っている。私はかつてそれに乗るために豊橋で下車し、乗りつぶしをしたものだ。いまの私はどこかへ出かける気力もカネもなく、第一東京都が不要不急の外出を控えるよう唱えている。
対局室は特設会場で、もとは音楽堂らしい。ずいぶん空間が多いが、これは3密を避けたのか、あるいは室内の見栄えを優先させたのか。たぶん両方だろう。
王位戦は持ち時間8時間。さすがの藤井七段も1局の将棋を2日かけたことはないはずで、スタミナ配分などの課題も含め、未知の領域に入ることになる。
将棋は角換わり腰掛け銀になった。そしてお互い右金をまっすぐ立ち、飛車をひとつ引くあの形になった。
そこで▲4五歩と仕掛けると先手の勝率が7割近いらしい。しかも先手を持っているのは藤井七段である。果たして藤井七段は9分で▲4五歩と行き、数手後木村王位は△5二玉。これが木村王位の用意していた対策だった。
藤井七段▲7四歩の桂取りに、木村王位は△9二角。もし▲7三歩成なら△2九角成と飛車を取る手を見ている。しかし7四歩を取られるわけにはいかないから、▲7三歩成はこの一手。ここで木村王位が封じた。
部屋は1泊数万円だったそうだが、藤井七段はぐっすり眠れたらしい。
私などは貧乏症だから、もし数万円の部屋に泊まったらもったいなくて、一晩中起きているところだ。
明けて2日目、木村王位の封じ手は△2九角成だった。ここ△7三同金は桂の取られ損で、指しきれないだろう。
藤井七段は▲6二とと金を取り、木村王位は△4三玉。さすがの手で、ここ△6二同玉は▲4四角で後手が負けらしい。このあたりは双方読みが入っていて、指し手がそのまま定跡になる感じだ。
以下藤井七段は▲4四歩~▲5二と~▲5三銀。この▲5三銀が意外で、打つなら八方に利く角がいいと素人は思う。だが藤井七段が打ったのだからこれが正着、という鉄壁の信用がある。
藤井七段▲4四桂。これも俗手で控室の評判はよくなかったが、数手進むと後手玉はかなり寒いことになっていた。さすがは藤井七段、とまた評価が上がったのである。
ところがそこで木村王位は△3一金! ▲同とと取らせることでと金の利きをなくす手筋で、凌ぎの次の一手にはよく出てくる。とはいえ実戦で現れるのは珍しい。
藤井七段は▲2二角から迫るが、木村王位は△3一桂!! これがまた受けの妙手で、アマ同士の戦いなら後手が受け切り勝ちとなる。実際、ここでは木村王位がよくなったのではないかと思った。まさに「千駄ヶ谷の受け師」の面目躍如である。
だがここで藤井七段が腰を落とし、▲1五歩△同歩▲2六金と指したのが好手だった。簡単にいえば、「端玉には端歩」ということだ。この翌日「バイキング」に出演した山口恵梨子女流二段は、この順を絶賛したものである。
山口女流二段の解説はいつも分かりやすく、フジテレビが重用するのも分かる。ちなみに来年以降は、この席に竹俣紅アナが座るのだろうか。
以下、藤井七段の正確な寄せに、木村王位が「参りました」と投了した。投了図は、遊び気味?だった▲5三銀がよく働いており、私は背筋が寒くなった。
なお藤井七段の指し手のうち、駒を引いたのは、33手目▲2九飛と、87手目▲1二と、91手目▲1三との3手のみだった。
しかし飛車引きは自陣の一段目に利かす手だし、と金引きは寄せの好手だった。つまり駒を引く手は一手もなかったことになる。
実は同じ意味で、木村王位にも駒を引く手はなかった。疑問手らしい疑問手もなく、終盤は受けの好手も連発した。それで明快な一手負けでは、内心不愉快だっただろう。
もはや私たちは、藤井七段が先手番の利を活かして勝った、と考えるしかない。
局後は大仰な勝利者インタビューが行われた。藤井七段は疲労困憊のテイで、「2日目午後は疲れました」とのことだった。▲5三銀~▲4四桂あたりの指し手をいっていたのかもしれないが、それが致命傷にならなかったあたり、全盛時の羽生善治九段を思わせた。
さて、タイトル戦は、挑戦者が先勝すると面白くなる。だが今回は別で、木村王位が勝たねばならなかった。今はそのくらい、双方の勢いに差があるのだ。
もっとも前期は、豊島将之王位(名人)に0勝2敗から逆転奪取した。したが、さすがに昨年のようなわけにはいくまい。何しろ今年の相手は、宇宙人なのだ。よって木村王位が次局も負けたら、防衛は絶望的と見てよい。
いやー、大変である。