一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

藤井新棋聖誕生

2020-07-18 00:22:06 | 男性棋戦
16日は関西将棋会館で、第91期棋聖戦第4局が行われた。ここまで藤井聡太七段が2勝1敗。勝てば「17歳初タイトル」で日本中がフィーバーする。渡辺明棋聖が勝てば2勝2敗となり、最終局に向けて弾みがつく。いずれにしても、将棋ファンには目が離せない一戦だった。
渡辺棋聖の先手で始まり、▲7六歩△8四歩。藤井七段は2手目△8四歩を常用するので、ここで渡辺棋聖の作戦が問われる。回答は「▲6八銀」で、矢倉志向だった。
第1局、第2局は相矢倉で藤井七段の快勝だったが、第2局は渡辺棋聖に納得いかない部分があった。すなわち△5三歩型の金矢倉から奇手連発で敗れたからで、この形は先手が有利にできると思ったはずだ。そこで研究を重ね、再び先手矢倉をぶつけたわけだ。
もちろん藤井七段も追随し、第2局と同じ進行になった。シリーズで同じ形になることはよくあり、「中原・米長・加藤一二三」のタイトル戦では、毎回同じ形を指していたものだ。

第1図は40手目△2二角まで。多少の手順前後はあったが、図の局面は第2局より▲9六歩△1四歩の交換が入った形だ。先手は△8七歩▲同金△9五桂の筋が消えているので、条件はよりよい。よって渡辺棋聖は満足のいく進行だったと思われる。
そして第1図から▲3五歩が渡辺棋聖の改良手。第2局はここで▲2四飛△2三歩▲2九飛だったが、本局は先手らしくバリバリ攻めたわけだ。
以下△3五同歩▲2四飛△2三歩▲2九飛△3四金▲3三歩△同桂▲同桂成△同銀▲2六桂(第2図)。

この桂が渡辺棋聖期待の一着に思われたが、藤井七段は8筋から動き、渡辺棋聖は▲8五歩と、突き捨てられて上がった歩をさらに突きあげた。しかしこんな手は見たことがない。
藤井七段は△7三桂と力を溜めたが、渡辺棋聖はなおも▲9五歩!(第3図)

なんと、さらに藤井七段の攻めを催促したのだ。
以下△8六桂▲6八金左△4六歩▲同銀△2五金(第4図)と進んだ。

△8六桂は当然。▲6八金左に藤井七段の指し手が難しいが一転、△4六歩が玄妙な手だった。▲同銀と取らせたことにより、のちの△5四桂を見ているのだ。そして64手目、△2五金と逃げてしまった。
この手があるなら、渡辺棋聖は早く▲3四桂と金を取りたかった。思えば渡辺棋聖は第3局も中盤で、△3七歩成▲同金で金を取れる形にしながら、▲2六金と逃がしてしまった。本局はさらに条件が悪く、金取りのために桂を打っているのだ。取れないなら打つべきではなかった、ということにならないか?
本譜は第4図以下▲9七角△2六金となったが、先手は▲2六同飛と取り返せないのが痛い(△3四桂がある)。よって渡辺棋聖は▲8六角と桂を取ったが、△3六金と活用されては、私的にいえば「先手クサッタ」である。
それにしても藤井七段の金の動きは力強い。先の王位戦第2局でも金の出張があったが、ちょっとAIのニオイもして、このような金の使い方をする棋士は、米長邦雄永世棋聖くらいしか思いつかない。
以下も緊迫の攻防が続いたが、これは藤井七段が勝つ流れである。渡辺棋聖も相手玉に向かってはいるのだが、何となく攻めがダサい。

そして80手目、△3八銀(第5図)が好手だった。ここで飛車の取り合いはできないので渡辺棋聖は▲5九飛と逃げたが、そこで黙って△8六桂(第6図)が決め手級の好手だった。

戻って▲5九飛には△4二飛がアマ的考えだが、プロでもこう指す棋士は多いと思う。だが△8六桂の第6図はいきなり先手玉が狭くなっており、▲8二馬は△4七桂で後手必勝となる。
渡辺棋聖は▲4八歩と受けたが、そこでゆうゆう△4二飛がニクイ。先手玉は一歩も動けず、息苦しい。AIの形勢判断を見るまでもなく、これは藤井七段が勝ったと思った。
89手目▲5七金に、90手目△4五桂の跳躍も気持ちがいい。そもそもこの桂は74手目、△6一に耐え忍んで打ったものである。藤井七段には、こうした二段活用が実に多い。
渡辺棋聖はまだ投げてないものの、もう勝負の厳しさは残っておらず、視線をあらぬほうへ向け、(どこでおかしくしたんだ?)と、「ひとり感想戦」を始めている。
この光景、どこかで見たと思ったら、先の王位戦第2局の、木村一基王位のデジャヴだった。
最後、渡辺棋聖の竜の王手に、△4一桂(棋聖誕生図)で、渡辺棋聖投了! ここに「17歳棋聖」が誕生した。

以降は想像にたがわず、大変な騒ぎになった。「藤井新棋聖」はテレビにテロップが流れ、ネットではトップニュースになった。





私が現在プーなのが嘆かわしいが、おかげで歴史的瞬間を見られたと考えるべきか。

藤井新棋聖は局後のインタビューで、「タイトルを獲得できたのは非常にうれしい。まだ実感がないというのが、正直なところです」と述べた。また翌日の記者会見では、色紙に「探究」と揮毫した。いかにも藤井棋聖らしい言葉だと思う。
いっぽう渡辺前棋聖は深夜のブログで、「終盤は△8六桂が読めてないところで完全に競り負けました」と述懐した。
ヤケ酒でもかっくらいたいところでこの更新は頭が下がるが、ブログに発信することで悔しさを紛らわせた、と考えることもできる。ともあれ渡辺先生、お疲れ様でした。
日本将棋連盟では、佐藤康光会長、羽生善治九段、屋敷伸之九段(前・最年少タイトル保持者)、師匠の杉本昌隆八段がお祝いコメントを寄せた。もし大山康晴十五世名人、米長永世棋聖、河口俊彦八段が存命だったら、どんな言葉を寄せただろう。
さて今後の期待は、藤井棋聖が八冠を達成できるかどうかだろう。世の将棋ファンの多くがその可能性は大と見ているし、むろん私もそのひとりである。
ただ、それをやすやすと許すほど、将棋界は甘くない。今後の勝負が楽しみである。
最後になるが、藤井先生、初タイトル、おめでとうございます。
コメント
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