一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第32回将棋ペンクラブ大賞、決まる

2020-07-24 02:07:33 | 将棋ペンクラブ
第32回将棋ペンクラブ大賞の最終選考会が18日に行われ、各賞が決定した。

【観戦記部門】
大賞:
諏訪景子「第77期名人戦七番勝負第3局・佐藤天彦VS豊島将之」(朝日新聞・2019年5月24日~6月6日掲載)

優秀賞:
椎名龍一「第77期名人戦七番勝負第3局・佐藤天彦VS豊島将之」(毎日新聞・2019年5月24日~6月7日掲載)

【文芸部門】
大賞:
北野新太「木村の二十一秒 不撓の河を渉れ」(将棋世界・2019年12月号掲載)

優秀賞:
新井政彦「時空棋士」(マイナビ出版・2020年1月発行)

【技術部門】
大賞:
若島正「盤上のフロンティア」(河出書房新社・2019年6月発行)

優秀賞:
佐藤慎一「1手ずつ解説! 将棋の筋が良くなる棋譜並べ上達法」(マイナビ出版・2020年2月発行)

最終選考委員
木村晋介(弁護士・作家)、西上心太(文芸評論家)、所司和晴(棋士七段)


今年の観戦記大賞は、奇しくも同じ将棋になった。佐藤天彦名人VS豊島将之二冠の第77期名人戦第3局である。
朝日新聞の諏訪さんは確かな筆力の持ち主で、毎回水準以上の観戦記を発表している。2年前も最終候補に残ったが、長蛇を逸した。その時は、選考委員に保守的な面があるのでは、と訝ったが、今回は堂々の大賞受賞となった。なお女性の大賞受賞は、現行の規定になってからは、第25回の湯川恵子さん以来、2人目である。

毎日新聞の椎名氏はあらためて述べるまでもないベテラン観戦記者である。「週刊将棋」の編集者時代は遊駒スカ太郎名で執筆したのでギャグ観戦記者と捉えられがちだが、その実はマジメな観戦記者である。本作は、ポーカーと絡めた描写が秀逸だった。
両作品とも、甲乙つけがたい出色の出来だった。「名人戦の競作」を、「将棋ペン倶楽部」で再び楽しみたい。

文芸部門は北野氏が大賞初受賞。昨年は同優秀賞だったので、ようやく大願成就となった。また第26回では、観戦記「大賞」を受賞している。
北野氏はスポーツ報知の記者で、「透明の棋士」「等身の棋士」を2015年と2017年に上梓している。棋士を見る目が温かく、読んでほっこりする。
今回の題名は、木村一基王位がタイトルを獲得したのだが、その合同取材の時に木村王位が感極まり、21秒間沈黙したところからきている。「――棋士」シリーズの木村一基版といえよう。
ちなみに私は棋士を見る目が冷たいので、もし同じ場にいたら「木村王位が20秒以上も黙っているので、さすがにイライラした」とか書いてすべてをぶち壊す。

優秀賞の荒井政彦氏はベテラン作家。本書はタイムスリップものだが、奨励会三段の主人公が現実を受け入れ、天野宗歩と対局したい、と壮大な夢を見るところがキモである。
タイムスリップものは結末をどう着地させるかで読後感が変わってくるが、本書は希望の持てる終わり方で、さわやかな印象を残した。

技術部門の若島氏は2001年に「盤上のファンタジア」を上梓し、今回はその続編にあたる。
若島氏の詰将棋は一言でいえば華麗。現在「将棋世界」に懸賞詰将棋を出題しているが、あの少ない駒数からどうしてあんな複雑な変化が出現するのかと、毎回感心している。「天才」とは若島氏のことをいう。将棋界に例えれば、不沈艦のタイトルホルダーというところだ。
本書は自選傑作集だから、面白いのは当然。詰キストなら、バイブルとして書棚に奉納しておきたい。

佐藤五段の著作は、実戦の一手一手を詳細に解説するものらしい。今から35年以上前、一流棋士による「一手精読・名局シリーズ」(筑摩書房)が発刊されたが、コンセプトはそれに近いと思う。
最近のプロ棋戦は持ち時間が短くなり、将棋が軽く扱われている気がするのだが、棋士の読みは膨大であり、盤上に現れた指し手はそのごく一部にすぎない。その表面に現れない変化を解説することは大いに意味がある。

以上、受賞の皆様、おめでとうございます。
なお、毎年9月に行われている将棋ペンクラブ大賞贈呈式は、今年は新型コロナウイルスの関係で、開催されないことが決定している。諏訪さん、若島氏あたりは生で拝見したかったのだが、残念である。
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