5月22日に将棋ペンクラブ関東交流会が行われた際、出席者にある案内が配られた。それは「美馬和夫シニア東日本名人、祝勝会のお知らせ」で、7月10日の開催であった。
美馬氏は誰もが知るアマ強豪で、将棋ペンクラブ会報には「将棋狂の詩」を連載中である。ライターとしても多くの棋士の著作に携わり、「将棋世界」では前年まで「アマのための月刊B級ファン」を連載していた。
まさに将棋漬けの生活で、それが「シニア東日本名人」の栄冠に結びついた、ともいえる。
ただ、じゃあ私も祝勝会に参加しよう、となると話は別で、美馬氏とは住む世界が違う。私には無縁の案内だと思った。
ところがしばらく経って、湯川博士幹事から直筆の案内が来た。今回は将棋ペンクラブ幹事が発起人なので、湯川氏も盛り上げに八方手を尽くしているのだ。
湯川氏の筆は流麗なのか悪筆なのか分からぬが、こちらの意向の有無を言わせぬ迫力がある。ともあれ10日はよろこんで参加させていただくことにした。
開催場所は、おなじみ「御徒町将棋センター」。開演は午前10時である。当日はいろいろ趣向が凝らされているが、追って紹介しよう。
室内には、主役の美馬氏、将棋ペンクラブ幹事諸氏に加え、加部康晴元朝日アマ名人、金子タカシ元アマ竜王の姿があった。
加部氏は元奨励会二段で、現在は宮城県に在住。「杜の都加部道場」を開き、後進の育成に努めている。東北アマ将棋界の中心的存在である。
金子氏は「美濃崩し200」「寄せの手筋200」(いずれも浅川書房)など、名著も多数。
やっぱりどうも、私は場違いな場所に来た気もした。
さて、まずは自由対局である。今回は加部道場の生徒さんも遠方から参加され、にぎやかである。
私は初戦で、その生徒と思しき、坊主頭の小学生と当たった。家族4人での来場である。わざわざ東京まで遠征とはお疲れ様で、それも加部氏の人徳であろう。
将棋はもちろん平手。私の先手で、横歩取りに進んだ。と、少年は角を換わって△2八歩~△4五角。いわゆる「△4五角戦法」で、少年の生まれるはるか前に流行った戦法だ。
▲2四飛以下定跡どおりに進み、第1図が分岐点。
第1図以下の指し手。△6六銀▲5八金△3八飛▲4八飛△同飛成▲同玉△6九飛▲3九飛△6七銀成▲同金左△同飛成▲同金△同角成(第2図)
第1図は△8七銀や△6六銀など有力手がある。少年の選択は△6六銀だった。私は定跡を忘れ、▲5八金右と応じる。最善手ではないかもしれないが、疑問手ではない。
△3八飛には▲4八飛と合わせ、▲4八同玉の形は私の1手得と思いきや、少年は空いた隙間に△6九飛と打ち込んできた。
私は▲3九飛と合わせたが、7九に打つのだったか。
本譜△6七銀成には▲6九飛と取りたいが、△5八成銀▲同玉△7八角成で悪いと見たがそこで▲6三飛成も相当で、こちらを選ぶべきだった。
本譜△6七同角成に、次の手が敗着。
第2図以下の指し手。▲8七飛△5八金▲3八玉△5七馬▲8一飛成△4八金▲2七玉△3九金▲6二歩△同玉(投了図)
まで、少年の勝ち。
私は両取りに▲8七飛と打ったが、敗着。少年に△5八金から△5七馬と寄られ、先手玉は一手一手の受けなしとなった。
以下、△6二同玉まで投了。感想戦では、第2図から▲5八銀が示された。むろん私もそれを読んでいたが、▲8七飛の一瞬の両取りに目がくらみ、ついふらふらと打ってしまった。
なお▲5八銀以下は、△7六馬▲3三香成でいい勝負。本譜は不完全燃焼で終わってしまった。
2局目はA氏と指す。勝敗はともかく、気心の知れた相手と指すのは精神的ストレスがかからなくてよい。
将棋はA氏の四間飛車に、私の棒銀。この銀がうまく捌けて、私が幸いした。
3局目は、加部道場生徒の中年氏と指す。
私の四間飛車に、中年氏は早めの△1四歩。これに受けず別の手を指したら、すかさず△1五歩と伸ばされた。
さらに△4四角~△3三桂。次に△2五桂と跳ばれたら、△1七桂成からの殺到が受からない。これは大変なことになったとアオくなっていたら、中年氏は△4五桂と、私の歩を取りつつこちら側へ跳んできた。これは先手の危機が回避されたようだ。
私は▲4六歩と桂取りに打ち、十分と考えていた。
第1図以下の指し手。△8六歩▲同歩△同角▲8八飛△8七歩▲同飛△8五歩▲4六歩△△7七角成▲同飛△5七歩▲6九銀△8八角▲4五歩△7七角成▲同桂△5二飛▲5六歩△8九飛▲6八銀△9九飛成(第2図)
△8六歩は当然。6手後の△8五歩に私は▲4六歩を優先したが、どうだったか。中年氏は△7七角成ときたが若干ありがたく、ここは△5三角と引き、次に△8六歩を狙われたら悪かった。
本譜の飛車角交換は歓迎である。△5七歩▲6九銀は利かされたが、▲4五歩と桂を取り切り十分。
△9九飛成に次の手は。
第2図以下の指し手。▲6六角△4二香▲5七銀△2二銀▲6四歩△7二金▲6一角△6二飛▲7二角成△同飛▲6三歩成△6七角(第3図)
▲6六角が、次の▲4四歩を見て味が良すぎる。△4二香に▲5七銀と歩を払って、これはよほどのことがない限り負けないと思った。
▲6四歩はとりあえず突いた感じだが、中年氏は△7二金。しかしこれには▲6一角が絶好で、角金交換ののち▲6三歩成とし、これはもう勝ったと思った。
が、△6七角に次の手がマズかった。
(つづく)
美馬氏は誰もが知るアマ強豪で、将棋ペンクラブ会報には「将棋狂の詩」を連載中である。ライターとしても多くの棋士の著作に携わり、「将棋世界」では前年まで「アマのための月刊B級ファン」を連載していた。
まさに将棋漬けの生活で、それが「シニア東日本名人」の栄冠に結びついた、ともいえる。
ただ、じゃあ私も祝勝会に参加しよう、となると話は別で、美馬氏とは住む世界が違う。私には無縁の案内だと思った。
ところがしばらく経って、湯川博士幹事から直筆の案内が来た。今回は将棋ペンクラブ幹事が発起人なので、湯川氏も盛り上げに八方手を尽くしているのだ。
湯川氏の筆は流麗なのか悪筆なのか分からぬが、こちらの意向の有無を言わせぬ迫力がある。ともあれ10日はよろこんで参加させていただくことにした。
開催場所は、おなじみ「御徒町将棋センター」。開演は午前10時である。当日はいろいろ趣向が凝らされているが、追って紹介しよう。
室内には、主役の美馬氏、将棋ペンクラブ幹事諸氏に加え、加部康晴元朝日アマ名人、金子タカシ元アマ竜王の姿があった。
加部氏は元奨励会二段で、現在は宮城県に在住。「杜の都加部道場」を開き、後進の育成に努めている。東北アマ将棋界の中心的存在である。
金子氏は「美濃崩し200」「寄せの手筋200」(いずれも浅川書房)など、名著も多数。
やっぱりどうも、私は場違いな場所に来た気もした。
さて、まずは自由対局である。今回は加部道場の生徒さんも遠方から参加され、にぎやかである。
私は初戦で、その生徒と思しき、坊主頭の小学生と当たった。家族4人での来場である。わざわざ東京まで遠征とはお疲れ様で、それも加部氏の人徳であろう。
将棋はもちろん平手。私の先手で、横歩取りに進んだ。と、少年は角を換わって△2八歩~△4五角。いわゆる「△4五角戦法」で、少年の生まれるはるか前に流行った戦法だ。
▲2四飛以下定跡どおりに進み、第1図が分岐点。
第1図以下の指し手。△6六銀▲5八金△3八飛▲4八飛△同飛成▲同玉△6九飛▲3九飛△6七銀成▲同金左△同飛成▲同金△同角成(第2図)
第1図は△8七銀や△6六銀など有力手がある。少年の選択は△6六銀だった。私は定跡を忘れ、▲5八金右と応じる。最善手ではないかもしれないが、疑問手ではない。
△3八飛には▲4八飛と合わせ、▲4八同玉の形は私の1手得と思いきや、少年は空いた隙間に△6九飛と打ち込んできた。
私は▲3九飛と合わせたが、7九に打つのだったか。
本譜△6七銀成には▲6九飛と取りたいが、△5八成銀▲同玉△7八角成で悪いと見たがそこで▲6三飛成も相当で、こちらを選ぶべきだった。
本譜△6七同角成に、次の手が敗着。
第2図以下の指し手。▲8七飛△5八金▲3八玉△5七馬▲8一飛成△4八金▲2七玉△3九金▲6二歩△同玉(投了図)
まで、少年の勝ち。
私は両取りに▲8七飛と打ったが、敗着。少年に△5八金から△5七馬と寄られ、先手玉は一手一手の受けなしとなった。
以下、△6二同玉まで投了。感想戦では、第2図から▲5八銀が示された。むろん私もそれを読んでいたが、▲8七飛の一瞬の両取りに目がくらみ、ついふらふらと打ってしまった。
なお▲5八銀以下は、△7六馬▲3三香成でいい勝負。本譜は不完全燃焼で終わってしまった。
2局目はA氏と指す。勝敗はともかく、気心の知れた相手と指すのは精神的ストレスがかからなくてよい。
将棋はA氏の四間飛車に、私の棒銀。この銀がうまく捌けて、私が幸いした。
3局目は、加部道場生徒の中年氏と指す。
私の四間飛車に、中年氏は早めの△1四歩。これに受けず別の手を指したら、すかさず△1五歩と伸ばされた。
さらに△4四角~△3三桂。次に△2五桂と跳ばれたら、△1七桂成からの殺到が受からない。これは大変なことになったとアオくなっていたら、中年氏は△4五桂と、私の歩を取りつつこちら側へ跳んできた。これは先手の危機が回避されたようだ。
私は▲4六歩と桂取りに打ち、十分と考えていた。
第1図以下の指し手。△8六歩▲同歩△同角▲8八飛△8七歩▲同飛△8五歩▲4六歩△△7七角成▲同飛△5七歩▲6九銀△8八角▲4五歩△7七角成▲同桂△5二飛▲5六歩△8九飛▲6八銀△9九飛成(第2図)
△8六歩は当然。6手後の△8五歩に私は▲4六歩を優先したが、どうだったか。中年氏は△7七角成ときたが若干ありがたく、ここは△5三角と引き、次に△8六歩を狙われたら悪かった。
本譜の飛車角交換は歓迎である。△5七歩▲6九銀は利かされたが、▲4五歩と桂を取り切り十分。
△9九飛成に次の手は。
第2図以下の指し手。▲6六角△4二香▲5七銀△2二銀▲6四歩△7二金▲6一角△6二飛▲7二角成△同飛▲6三歩成△6七角(第3図)
▲6六角が、次の▲4四歩を見て味が良すぎる。△4二香に▲5七銀と歩を払って、これはよほどのことがない限り負けないと思った。
▲6四歩はとりあえず突いた感じだが、中年氏は△7二金。しかしこれには▲6一角が絶好で、角金交換ののち▲6三歩成とし、これはもう勝ったと思った。
が、△6七角に次の手がマズかった。
(つづく)