第48期棋王戦第3局は5日、新潟市で行われた。ここまで渡辺明棋王0勝、藤井聡太竜王2勝。両者の対戦成績は同2勝、15勝で意外な大差である。先日「将棋フォーカス」に勝又清和教授が出演し、一流棋士同士で星が偏る理由を挙げていたが、藤井竜王がらみは別だと思う。藤井竜王が異次元の強さを発揮しているからにすぎない。
ともあれそんなわけだから、本局も藤井竜王が快勝して、20歳の六冠王が誕生すると思った。ところが……。
将棋は藤井竜王の先手で、角換わり相腰掛け銀。それも両者右金をまっすぐ立ち、飛車を引く例の形に落ち着いた。もはや指定局面である。
藤井竜王は右桂を跳ね、中央に捨てる。これも藤井将棋にはよく出る筋だ。
そこから藤井竜王も桂を取り返し、二度目の角交換をし、双方異筋に桂を打ち合って、難しい局面になった。
ここでABEMAの解説陣(森内俊之九段、戸辺誠七段)は、桂成りや歩成りで攻める手を解説していた。実際それで先手の攻めが続くし、攻めるか受けるかなら、藤井竜王は攻めを選ぶ。てっきりそう指すと思った。
ところが長考した藤井竜王は、銀で相手の銀を取った。これがちょっと意外で、結果的に渡辺棋王が指し易くなった。歩を成る手くらい私でも考えるのに、天才の思考はまるで分からぬ。30手先にイヤな手が見えたのだろうか。
だが将棋は難しい。その後渡辺棋王も熟考後に緩手を指し、そのリードが吹っ飛んでしまった。この流れは、藤井竜王の勝ちである。
しかし渡辺棋王は頑張った。そこから最善手を続け、再度リードを拡げていく。
だがこれはAIの形勢バーを見ているから言えるのであって、対局者がどれほどの形勢の差を感じ取っていたかは分からない。
ただ終盤は、明らかに藤井竜王が劣勢だった。だがここが強者の証というか、明快な決め手を与えない。後手も決め手が何度かあったのだが、ちょっと盲点に入る手があったりして、正着を逃す。棋王戦の持ち時間4時間でそれを求めるのは無理だ。
藤井竜王、金の王手。ここで渡辺棋王がナナメに玉を上がったのが微妙で、角成りが入ると詰む形になった。
さらに渡辺棋王は間違える。藤井竜王の角出の詰めろに、渡辺棋王が質駒の金を取れば勝ちだった。だけど1分将棋では読み切れない。飛車を引いたのは冷静だった。
終盤、渡辺棋王が敵陣めがけて桂を打つ。ところが形勢バーは86%から57%まで減ってしまった。戸辺七段は「この手でもいいと思いますが」と首を傾げたが、この手には異筋に金を受ける好手があった。果たして藤井竜王がそれを指す。私は唸った。それは渡辺棋王も同じで、混乱した棋王が端に金を打った手が大悪手。形勢バーが10%まで下がってしまった。やはりこうなるのか!
さらに手が進み、藤井竜王が馬で銀を取って王手。さっきの玉のナナメ上がりが、この王手を可能にしてしまった。
渡辺棋王は玉で取り、ここで形勢バーは藤井竜王の99%となった。恐ろしき藤井将棋。これはもう、藤井竜王の勝ちである。
ここで藤井竜王が歩を打てば、後手玉は詰み。詰み筋は分からなくとも、指していくうちに詰む。
ところが藤井竜王はたんに飛車を出た。途端に形勢バーが、1:99から、99:1になった。こんな展開があるのか!?
ここまで来たら、渡辺棋王は逃さない。というか、分かりやすい応手ばかりになった。詰んでも詰まなくても、ベストと思われる手を指せば、勝ちは転がり込んでくる。
数手指し、藤井竜王はガックリと首を垂れた。それは渡辺玉の不詰みを読んだか、あるいはその前の即詰みの順に気付いたか。
さらに数手進んで、画面は両者を俯瞰で映す。それは藤井竜王が投了すると見たからだが、藤井竜王はもう一手指した。投げ切れないのだ。
そこで渡辺棋王が着手。藤井竜王が投了した。手数174手。終了時間は、持ち時間4時間ではかなり遅い、20時13分だった。
すぐに局後のインタビューが行われたが、勝った渡辺棋王は疲労困憊、まるで負けたようだ。そのくらい、藤井竜王に勝つのは容易でないのだ。実際、悪い局面でも巧みに粘る藤井竜王の指し手は参考になった。大山康晴十五世名人は、勝った将棋より負けた将棋のほうが、粘り方を学ぶという意味で参考になる、ともいわれたが、藤井竜王にもそれがいえる。
しかし、棋士も難儀な職業だ。こんな将棋ばかりじゃ、ホントに寿命が削られる。私が棋士になっていたら(絶対にないが)、とっくにカラダを悪くしていただろう。
藤井竜王にもインタビューが取られた。最終盤、渡辺玉の即詰みを逃した点にも触れられたが、藤井竜王にそこまでの悔しさは見られなかった。もとが悪かったので、割り切っていたのだ。
ともあれ本局は、掛け値なしの名局。本局の観戦記者は、相当なアドバンテージを得た。ここは執筆の腕の見せどころだろう。
さて、藤井竜王の先手番28連勝を止めた渡辺棋王だが、ストレート負けを回避したにすぎず、まだ苦しい戦いは続く。
第4局は19日。引きつづき、渡辺棋王の奮闘を期待したい。
ともあれそんなわけだから、本局も藤井竜王が快勝して、20歳の六冠王が誕生すると思った。ところが……。
将棋は藤井竜王の先手で、角換わり相腰掛け銀。それも両者右金をまっすぐ立ち、飛車を引く例の形に落ち着いた。もはや指定局面である。
藤井竜王は右桂を跳ね、中央に捨てる。これも藤井将棋にはよく出る筋だ。
そこから藤井竜王も桂を取り返し、二度目の角交換をし、双方異筋に桂を打ち合って、難しい局面になった。
ここでABEMAの解説陣(森内俊之九段、戸辺誠七段)は、桂成りや歩成りで攻める手を解説していた。実際それで先手の攻めが続くし、攻めるか受けるかなら、藤井竜王は攻めを選ぶ。てっきりそう指すと思った。
ところが長考した藤井竜王は、銀で相手の銀を取った。これがちょっと意外で、結果的に渡辺棋王が指し易くなった。歩を成る手くらい私でも考えるのに、天才の思考はまるで分からぬ。30手先にイヤな手が見えたのだろうか。
だが将棋は難しい。その後渡辺棋王も熟考後に緩手を指し、そのリードが吹っ飛んでしまった。この流れは、藤井竜王の勝ちである。
しかし渡辺棋王は頑張った。そこから最善手を続け、再度リードを拡げていく。
だがこれはAIの形勢バーを見ているから言えるのであって、対局者がどれほどの形勢の差を感じ取っていたかは分からない。
ただ終盤は、明らかに藤井竜王が劣勢だった。だがここが強者の証というか、明快な決め手を与えない。後手も決め手が何度かあったのだが、ちょっと盲点に入る手があったりして、正着を逃す。棋王戦の持ち時間4時間でそれを求めるのは無理だ。
藤井竜王、金の王手。ここで渡辺棋王がナナメに玉を上がったのが微妙で、角成りが入ると詰む形になった。
さらに渡辺棋王は間違える。藤井竜王の角出の詰めろに、渡辺棋王が質駒の金を取れば勝ちだった。だけど1分将棋では読み切れない。飛車を引いたのは冷静だった。
終盤、渡辺棋王が敵陣めがけて桂を打つ。ところが形勢バーは86%から57%まで減ってしまった。戸辺七段は「この手でもいいと思いますが」と首を傾げたが、この手には異筋に金を受ける好手があった。果たして藤井竜王がそれを指す。私は唸った。それは渡辺棋王も同じで、混乱した棋王が端に金を打った手が大悪手。形勢バーが10%まで下がってしまった。やはりこうなるのか!
さらに手が進み、藤井竜王が馬で銀を取って王手。さっきの玉のナナメ上がりが、この王手を可能にしてしまった。
渡辺棋王は玉で取り、ここで形勢バーは藤井竜王の99%となった。恐ろしき藤井将棋。これはもう、藤井竜王の勝ちである。
ここで藤井竜王が歩を打てば、後手玉は詰み。詰み筋は分からなくとも、指していくうちに詰む。
ところが藤井竜王はたんに飛車を出た。途端に形勢バーが、1:99から、99:1になった。こんな展開があるのか!?
ここまで来たら、渡辺棋王は逃さない。というか、分かりやすい応手ばかりになった。詰んでも詰まなくても、ベストと思われる手を指せば、勝ちは転がり込んでくる。
数手指し、藤井竜王はガックリと首を垂れた。それは渡辺玉の不詰みを読んだか、あるいはその前の即詰みの順に気付いたか。
さらに数手進んで、画面は両者を俯瞰で映す。それは藤井竜王が投了すると見たからだが、藤井竜王はもう一手指した。投げ切れないのだ。
そこで渡辺棋王が着手。藤井竜王が投了した。手数174手。終了時間は、持ち時間4時間ではかなり遅い、20時13分だった。
すぐに局後のインタビューが行われたが、勝った渡辺棋王は疲労困憊、まるで負けたようだ。そのくらい、藤井竜王に勝つのは容易でないのだ。実際、悪い局面でも巧みに粘る藤井竜王の指し手は参考になった。大山康晴十五世名人は、勝った将棋より負けた将棋のほうが、粘り方を学ぶという意味で参考になる、ともいわれたが、藤井竜王にもそれがいえる。
しかし、棋士も難儀な職業だ。こんな将棋ばかりじゃ、ホントに寿命が削られる。私が棋士になっていたら(絶対にないが)、とっくにカラダを悪くしていただろう。
藤井竜王にもインタビューが取られた。最終盤、渡辺玉の即詰みを逃した点にも触れられたが、藤井竜王にそこまでの悔しさは見られなかった。もとが悪かったので、割り切っていたのだ。
ともあれ本局は、掛け値なしの名局。本局の観戦記者は、相当なアドバンテージを得た。ここは執筆の腕の見せどころだろう。
さて、藤井竜王の先手番28連勝を止めた渡辺棋王だが、ストレート負けを回避したにすぎず、まだ苦しい戦いは続く。
第4局は19日。引きつづき、渡辺棋王の奮闘を期待したい。