一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

本日は社団戦団体個人戦!

2011-09-25 02:07:28 | 社団戦
日付変わって本日25日(日)は、社団戦団体個人戦である。
団体個人戦とは、スイス式トーナメントで、16人1組となって優勝(4勝0敗)を争うものである。個人が優勝してもチームの得点にはならないが、同じチームがある程度の勝ち星を挙げると、勝ち点がつく。
これは「0.1」でも大きく、12.1勝3敗と12勝3敗では、もちろん前者のほうが順位が上になる。また勝ち点「1」はチームの1勝に相当するので、13勝3敗と12勝3敗では、後者が勝率がいいにもかかわらず、順位は前者が上になるのだ。
昨年の社団戦5部最終局では、我がLPSA星組と2位チームが優勝を争いガチンコ勝負をしたが、実は3位チームの星如何では、勝ち点の有無の差で、LPSAが3位に落ちる可能性があった。
かように重要な団体個人戦だが、私は勝負弱いので、きょうの個人戦には出ない。しかしLPSA星組からは、7人が参戦すると聞いている。実に頼もしい「神7」だ。
その7人には、ヘタレの私の分まで、思う存分戦ってほしい。
キーはいつも言っているように、イメージである。自分の勝利を頭に描いて、それに向かって邁進する。これが大事である。
では、皆さまの健闘を祈ります。
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嘆きのジョナ研(後編)・中井広恵の女の貌

2011-09-25 00:04:40 | ジョナ研
「中井先生、オレいまさー、(ピー)のことを思って仕事を抜けだしちゃ、(ピーー)始末なんですよ。もう、人間として終わってるでしょう?」
「……」
「去年、オレが強く(ピーーーー)と思うんですよ。でもいざそうなった時、彼女を(ピーーー)がなかった。オレが(ピーー)大きな理由は、実はそれなんです。情けないけど」
「それはないでしょう?」
これ以上堕ちようがないので、私は何でも言ってしまう。とはいえ、日本を代表する女流棋士に、かつてこんな述懐をした将棋ファンがいただろうか。さすがの中井広恵女流六段も、これには苦笑いするしかないのだった。
セルフサービスのジュースを注ぎに行く。マドンナがいたので、改めて挨拶しておく。
「今回は無理に誘っちゃってゴメンネ。26日は、ただ楽しんでくれればいいから。よろしくお願いします」
W氏に言わせれば、これは余計な一言に違いない。
私は肝心な時に肝心なことを言わず、どうでもいい時にどうでもいいことを言う。去年はそれで、何度チャンスを逃したことか。しかし、もう遅い。すべては終わってしまったのだ。
W、Tod両氏は布盤を拡げ、自分の実戦譜を並べて、植山悦行、大野八一雄両七段にアドバイスを仰いでいる。これがいつものジョナ研風景ではある。しかし私は、将棋を勉強する気になれない。この3週間、私は生ける屍と化している。これでは10月の社団戦が思いやられる。
中井女流六段がメニューを見て、カロリーの低そうな一品料理を頼んだ。いまから食事なのか。聞くと、中井女流六段は、ダイエット中らしい。ダイエット。バカなことをしているもんだ。
「中井先生、先生はダイエットの必要なんかありません。先生はいまのままが、いちばん素敵です」
私は余計なことを言う。
「ありがとう。でも痩せなくちゃ」
「……」
なんで女性は、こうも痩せたがるのだろう。将来私に彼女ができても、そのひとはダイエットをするのだろうか。私は絶対にさせない。
大野七段が、今度はW氏とTod氏に、入玉形の詰将棋を出している。大野七段の詰将棋は筋が悪いので、詰将棋慣れした人には解きにくい。ましてや詰将棋アレルギーのW氏やTod氏に解けっこない。だが、ジョナ研メンバーがウンウン唸っている姿を見るのが、大野七段の至福の時間でもあるのだ。
Hon氏とTod氏が退席した。駒込という場所は、大抵のメンバーが利便性がいいが、それでもふたりは遠い。Hon氏がどこに住んでいるかは聞いたことはあるが、すっかり忘れた。私は、自分に興味のない事柄は、すぐに忘れる特技がある。
Kaz氏が、将棋指したい、と叫んで、向かいのKun氏と将棋を始めた。Kaz氏もKun氏も、本当に将棋が好きだ。彼らの爪の垢を煎じて、LPSA女流棋士(中井・石橋を除く)に飲ませてやりたい。
それはともかく、ジョナ研での実戦は珍しい。何とはなしに見ていると、相振り飛車になった。Kaz氏は居飛車党だが、芸域を拡げているようだ。
芸域といえば、最近は中井女流六段も相振り飛車を指すなど、さまざまな将棋を研究している。ジョナ研メンバーでも、振り飛車党のKun氏が、横歩取りを自分のものにしようとしている。十年一日同じ将棋を指しているLPSAの女流棋士(中井・石橋を除く)は、これらの事実をどう見るか。危機感を持ったら、やることは決まっている。将棋の勉強しかない。
11時もとうに過ぎ、ここでKun氏とKaz氏も退席となった。ふつうなら、じゃあ私たちも…と、いっしょに帰るところだが、ジョナ研は12時閉席。たとえ参加者が減ろうとも、とことんまで楽しむのである。
そのときだった。中井女流六段が私の目をじっと見て、
「みんなが帰ったから言うけど…」
と言った。
それは、私がいままで見たことのない、厳しくも妖しい貌だった。「女流棋士・中井広恵」ではなく、数々の修羅場をくぐってきた、「ひとりの女・中井広恵」の貌だった。その瞳には、世の中の表と裏、すべてを見てきたような、妖しい光が宿っていた。
私は、彼女の次の言葉を待った。
「(ピー)は、(ピー)には、(ピー)ないよ」
「……!!」
中井女流六段は、散文的に言う。しかしこれは、大胆な一言だった。
船戸陽子女流二段の結婚に際し、いままで似たような言葉で私を慰めてくれた棋友は何人もいた。しかし、これだけ重々しくもストレートな表現で見解を述べた人は、いなかった。
私はこれまで、自分の恥を忍んで、中井女流六段に、すべてをさらけだしてきた。だからこそ中井女流六段もひとりの女として、偽りのない言葉で述べてくれたのだろう。
この瞬間、私の体にのしかかっていた呪縛が、フッと解けた気がした。
私はハッと我に帰って、再び「女・中井広恵」を見る。と、もう彼女は、「女流棋士・中井広恵」の貌に戻っていた。
傷心の私に一瞬だけ見せてくれた、中井広恵の女の貌。あの貌は、一生忘れない。
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嘆きのジョナ研(前編)・扇子の一文字

2011-09-24 00:05:26 | ジョナ研
9日(金)は駒込で「ジョナ研」があった。「ジョナ研」とは、「ジョナサン研究会」の略。ジョナサンとはファミレスの名前で、かつてLPSAが駒込にあったころ、将棋のあとにみんなで立ち寄っていた、駒込第二の聖地である。
LPSAが芝浦に移転後も、私たち旧金サロメンバーは、駒込時代のよき雰囲気を懐かしむべく、月に1~2回、こうして集っているわけであった。
Tod氏と芝浦サロンを出た私は、その足で駒込に向かう。その車内では、私がTod氏に、また例の話をしてしまった。もう、どうしようもない。
午後8時すぎに、ジョナサンに入る。入口にマドンナがいたので、軽く飲みに誘ってみる。なんだか色よい返事だ。どうなっているのだろう。
先乗りのテーブルに行くと、植山悦行七段、大野八一雄七段、中井広恵女流六段、W氏、Kun氏、Hon氏、Kaz氏がいた。ファミレスでの雑談にプロ棋士が3人参加するという、妙な事態だ。3棋士には申し訳なく思うが、ただ先生方も、ジョナ研の雰囲気のよさは感じ取ってくれているのだろう。
Tod氏と私が着座。例によって、席の配置を記しておこう。

 植山 大野 中井  Kun

 W Tod 一公 Hon Kaz
      壁

人妻の香り高い中井女流六段は、いつものように私の向かい。愚痴をウンウンと聞いてくれるHon氏は私の右。いつも厳しい意見を言う植山・大野両七段とW氏は、隣のテーブルとなった。
先日のA氏夫妻との飲み会で、A氏が「大沢さんは真ん中の席に座っている」と推測していたが、たしかにきょうの私は「王将席」だ。席順は「運」だが、A氏に言わせると、私がテーブル中央に座ることも、中井女流六段の向かいに座ることも、「実力」ということになる。
さていつものジョナ研なら将棋談議か将棋研究なのだが、私がこんな有様なので、私の周りの人は、また私の「後悔節」を聞かされることになった。
「もうさー、せっかくのチャンスが巡って来てたのに、それをオレは見送ったんですよ。しかも何度も何度も! もう、バカですよバカ!! 死ねばいいんだ」
私はさっそく、いつもの咆哮を始めた。
中井女流六段らはもう聞き飽きただろうが、私のほうは毎回新たな後悔が湧き上がってくるので、「話し飽きた」ことは一度もない。
極論になるが、いま考えれば、船戸陽子女流二段の結婚を知った日が、いちばんショックが小さかった。
それから日を追うごとに、あの時ああすれば良かった、こうすれば良かった、という悔恨が、次から次へと湧いてきた。本当に、あふれるように湧いてきたのだ。
こんなだから、私の嘆きはいつまで経っても止まらないのだ。
マドンナが私にパスタを持ってきてくれたので、改めて飲みに誘ってみる。殊のほか、うまくいった。好きな人の前では思っていることの30分の1も言えないのに、それ以外の女性だと、ポンポンしゃべって、事がうまく運べてしまう。人間の心理は本当に不思議だ。
ともあれいまは、約束の26日が、唯一の希望の光である。
パスタは、何とか胃に流し込んだ。これらを本当に美味しく食せる日は、来るのだろうか。
大野七段が、LPSAの全女流棋士扇子を開く。名前の上に任意の一文字が揮毫されている、2011年バージョンだ。
「船戸さんは『ゆい』でしたよね。いまじゃそれ、見るのもつらいな。でもそれ、けっきょく買わなかったから、まだよかった」
私が力なく言う。
「松尾さんのは、何て書いてあるの」(大野)
「それね、『淑』じゃないんですよ」(中井)
「そうそう、駒音掲示板でも、オレが淑じゃないって言ってるのに、淑になっちゃった」(一公)
「しょうがないよ。LPSAのホームページにもそう書いてあるからね」(中井)
「で、何て読むのよ」(大野)
「(ピー)」(中井)
「ほう。とてもそうには見えないけどね」(大野)
「でも石橋さんが言うには、崩し字はそれでいいみたいよ」(中井)
「…ああっ!!」(一公)
「?」(大野、中井ら)
「ふ、船戸さんの一文字、結婚の『結』じゃないか!! …船戸さん、この時すでに、結婚のことが頭にあったのか…」(一公)
私はまた、頭を抱える。
「考えすぎだよ」
と、大野七段が苦笑しながら言う。
「あうう…、船戸さんの扇子がウチにあるのがつらいな…。もう、見たくない…。売っちゃおうか…」
「……」(一同)
ダメだ。さらに気が滅入ってきた。これは本当に、精神科の病院に行ったほうがいいかもしれない。
また私は、中井女流六段に嘆いた。
(つづく)
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9月9日のLPSA芝浦サロン・ふたりの新婚女流棋士

2011-09-23 00:03:57 | LPSA芝浦サロン
9日(金)はLPSA芝浦サロンに行った。きょうの担当は島井咲緒里女流初段。
船戸陽子女流二段や島井女流初段の結婚に関係なく、最近は芝浦サロンへ行く意義を感じないので、足が遠のく形になっている。
しかし島井女流初段とはチョコレート勝負を継続中だし、何より沖縄土産を渡さなければならない。きょう9日は夜に「ジョナ研」があるが、そんなわけで、サロンへも寄ったのだった。
午後5時すぎにサロンに入ると、島井女流初段が指導対局中だった。結婚後の島井女流初段を見るのは初めてだが、とくに「幸せオーラ」は感じなかった。
むしろ7月にお邪魔したときのほうが、彼女を美しく感じた。それは当時のブログにも書いてあるはずだ。
この時間に入ったので、すぐに指導対局が指せるかと思いきや、3時半の回の指導対局が長引いているのか、4面すべてが埋まっていた。中にはTod氏の姿もあった。さすがに島井女流初段、結婚しても人気が高い。
その島井女流初段が一息ついたところで、私は「沖縄限定リラックマミニぬいぐるみ」2体を、島井女流初段に渡した。
「沖縄旅行中に島井先生の結婚を知っちゃってさァ、それを知らなきゃ、もっとお土産買ってきたのに…スミマセン」
私は言う。船戸女流二段相手なら、絶対に出ないセリフだ。しかしセリフの中身は本当で、島井女流初段には、リラックマトランプやリラックマシャープペン、アクビ娘Tシャツなど、もっと買って帰ってくるつもりだった。だが旅行中は、さすがに追加のお土産は買えなかった。
ただ今回島井女流初段に会ってみて、屈辱的な緊張感は、意外なほどなかった。旅行中に結婚の報を読んだときの、あのショックは何だったのかと思う。
というわけで、彼女とは、いままでどおりフランクに話せる。しかし船戸女流二段には、会うことすらできない。それどころか、「船戸陽子」という文字を見るだけでダメなのだ。「船」とか「陽」の1文字ですらやばい。
こんなに彼女のことが好きだったのなら、もっと早く動けばよかったのだ。何で自分の心に素直にならなかったのかと思う。
しかし、もう遅い。これらは感想戦にすぎない。対局はもう、終了してしまったのだ。

Tod氏の対局が終わった。島井女流初段に二枚(飛車角)を落としてもらって、Tod氏の完敗だった。彼は女流棋士とこんな手合いではない。しかも、お世辞にも駒落ちの指し方がうまいとはいえない島井女流初段に負けるとは、理解に苦しむ。
島井女流初段との指導対局は急いでいないので、手合い係の大庭美樹女流初段に頼んで、Tod氏との対局をつけてもらう。
手合いは私が望んで、私の二枚落ちとした。島井女流初段-Tod戦が二枚なのだから、私もそれでなければおかしいからだ。ただTod氏は、私と平手で指すつもりだったらしい。ずいぶん私もナメられたものだ。
ともかく対局を行う。私は本気の△5五歩~△5四金。結果は私の快勝となった。
とても将棋を考えられる状態ではなかったが、怒りだけで指した。怒り。これは人を動かすエネルギーとなる。
ようやく、島井女流初段との指導対局に入る。もちろんチョコレート勝負である。
「いまとなってはこの勝負にどのくらいの意義があるのかなあ。ダンナに買ってもらえって話ですよね」
私はジョークで言ったが、島井女流初段はクスリともしなかった。私生活には触れられたくない、という感じだった。LPSAでは「女流棋士・島井咲緒里」であって、「人妻・横山咲緒里」ではない、ということなのだろう。
指導対局開始。途中、島井女流初段の結婚指環が目に入って、ちょっとつらくなった。船戸女流二段も…と思うと、目の前が暗くなった。
指導対局が終わると、やることがない。私はTod氏といっしょに、駒込に向かった。
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A氏夫妻と飲む(後編)・結婚相手に求めるものとは

2011-09-22 00:05:14 | プライベート
「なんで」
私は訊く。
「炎上して、大沢さんがブログを止めざるを得なくなってほしい。そうすりゃ大沢さんが小説を書き出すかもしれないでしょ。書く能力を持っている人って、絶対どこか、書く場を求めるからね。ボクは大沢さんの小説が読みたいんだよ」
「オレにそんな才能なんてないよ」
「あるよ。大沢さんは文才がある」
「ないよ」
「あるよ。あるけど大沢さんは、ブログのコメント欄が炎上しそうになっても、巧妙に切り返して、火を消しちゃうでしょ」
「大沢さんスゴイー」
奥さんが妙に感心する。
「うん。オレは実名で書いてるからね。ハンドルネームで書いてる人は、オレと本気でケンカできないよね。こっちが表へ出ろって言ったら、出て来られないもんね」
「書いてることもすごいじゃない? 私、こんなことまで書いちゃっていいの?って思うことあるもん」
「ヨネナガクニオのケツの穴が小さいとか? あれは当局のケツの穴が大きくて助かったね」
「あと林葉さんにひざまづいてサインもらう話とか。私あれ読んで笑っちゃった」
「大沢さん、コメントする人にも厳しいしね」
A氏が苦笑しながら言う。
「うん、オレはおもしろくないコメントにはダメ出ししちゃうから。こんなブログほかにはないよね、ハハ」
「この前も誰かバッサリ斬ってたじゃない」
「セサミンさん? あの人はその前にオレが、コメント大賞を出してたからね。だからあの人は、つまらないコメントを書いたらダメなレベルまで来てるの。この前のは明らかに、下品な笑い取りでしょ。オレああいうミエミエなのは認めないから。もっと筋よく笑わせてもらわないと」
「そういえば大沢さん、ブログに写真も載せないよね」
「あ、そうよねー。そういえば大沢さんのブログ、写真がない!」
奥さんが頓狂な声を上げた。
「うん。オレ、不親切だから。沖縄行っても北海道行っても、1回も載せたことない。景色を見たきゃ、自分で見に行けと。画像よりね、自分の目で見た方がはるかに綺麗なんだから。
将棋の図面だって載せない。文字だけで勝負。ハハ」
また料理が運ばれてきた。食欲はないが、3人でワイワイやっていると、自然と箸が進む。ありがたいと思う。
「それだけ不親切で読者にも厳しいのに、みんなが怒らない、っていうのが大沢さんの人徳なんだよ」
「人徳なんてないよ」
「あのね、大沢さんは大体、自分を卑下し過ぎてるよ。どうしてそんなに自分を低く見るの?」
A氏が二コリともせず、訴えかけるように言う。
「卑下してないよ。だけどオレには人に誇れるものがないんだから、しょうがない」
「あるよ。何度も言ってるでしょ。大沢さんの文才は大変なものだよ。ボクなんかよりはるかにある。何かの賞を獲れる人だと思う。ブログであれだけの量を1日も休まず書くなんて、普通の人にはできないよ」
「あんなの大したことじゃない」
「その凄さを自分で分かってないんだよ。何でかなー。
例えばさ、ボクがみんなと飲むときに大沢さんがいるとさ、いつも話の中心に大沢さんがいるじゃない、自然とさ。これは凄いことだよ。みんな、大沢さんの周りに集まってくるんだよ!?」
「そうか?」
「そうだよ。自分が気づいてないんだよ。ボクは芝浦の食事会はあまり行ったことないけど、そこでもきっと、そうなってるよ。たぶん、座る席も、大沢さんがいつも真ン中にいると思うよ」
「そうかなー」
私は大野教室やジョナ研の食事会での、席順を思い出す。そう言われれば、私は「王将席」に座ることが多いような気がする。
「うん。大沢さんは生活力もあるし、絶対自信を持っていいと思う」
「そう、それに身長もあるし」
奥さんが付け加える。
「生活力なんてないよ。オレ、収入も少ないし。まぁ身長はあるけどさ、たしかに。ハハ」
「それは経済力でしょ。ボクの言ってるのは生活力。大沢さんには大切な女性を幸せにしていく生活力が備わっている。湯川博士さんとかはそうだよ。人生はこれがいちばん大事なんだよ」
「大沢さんは魅力的よ。私、主人より先に大沢さんと知り合ってたら、大沢さんと結婚してた」
奥さんが衝撃的なことを言う。
「それはそれは…。でもオレのほうが、結婚を承諾するかどうか」
「……」
奥さんがおもしろくなさそうに、ビールの追加を頼んだ。
「だから大沢さんのその才能を見抜けなかった船戸さんは、大沢さんの結婚相手には相応しくなかった、ということなんだよ」
「うっ…」
力づくの論理で、A氏が結論を述べた。
A氏、それが言いたかったのか――。さすがに作家の面を持つA氏、ほかの棋友とは視点が違う、一味違う慰め方だった。
「この前のワインサロンは、ブログに書くの?」
何杯めかのビールを飲み干して、A氏が問うた。9月1日、私と船戸陽子女流二段で1対1になってしまった、LPSA木曜ワインサロンのことだ。
「書くよ。3回に分けて書く。でもあんときゃオレひとりだったからねー。ホント参った。まったく、何つー巡り合わせだよ。心の中で号泣してたもんね。我が人生最大の苦痛だった」
「書くのかぁ。いや、すごいエネルギーだね。書くのは大変だと思うけども」
「そりゃキツイよね。またあんときの苦痛に、真正面から向き合わなくちゃなんないんだから。あの時ああしてりゃ良かった、こうしてりゃ良かったって自問自答してね。そんなことしたって何にもならないのに。もう、死にそうなくらいさ。
でももう構想はできてるんだ。思いっきり自分を無様に書く。そんでいままで船戸さんに言えなかったことを、ひとつ残らず書く。もう遅いけどね。勝負はついちゃったんだから。
それで、最後の最後に、『錦糸町の風俗に行った』『だけど何も出なかった』って、2行に分けて、ボソッと書く」
「風俗? そりゃマズイよ。船戸さん、大沢さんのブログを読んでるよ」
A氏が箸を止め、半音上げた声で反論した。
「もう読んでねーよ」
「そうかなー。でも読んでなくてもさ、大沢さんがこんなことを書いてたって、やがて耳に入るよ」
「だけどその2行がなきゃ、オレのブログじゃねーんだよ。感動で盛り上げて、最後に、落とす」
「ウーン…。やっぱりマズイよ。風俗だ何だって書いたら、船戸さんが大沢さんのことを軽蔑するよ。大沢さんへの信頼度が100から40ぐらいに落っこっちゃうよ」
「うん……」
私は箸を持つ手を止め、しばし考えたのだった。

先月から身を切り刻まれるような毎日が続いているが、棋友とこうしていると、気が紛れる。しかし時間の経つのも早い。気がつけば、もうお開きの時間になっていた。A氏夫妻は東京都下に住んでいるので、若干早めの締めになるのだ。
会計では、私のほうから誘っておきながら、また私がご馳走されてしまった。いつもいつも申し訳なく思う。
3人で神田駅の改札を抜けた。
「大沢さん、錦糸町の風俗の件、本当に書くの?」
「書くよ」
「じゃあ船戸さんに軽蔑されてもいいんだね?」
「へっ、そんなの知ったことか!」
「よし、それでこそ大沢さんだ!」
私たちはハイタッチをし、笑顔で別れる。
私は、中央線ホームに向かうA氏夫妻の背中を見つめると、いつも私の相談に乗ってくれる彼らに、幸多かれと願うのだった。
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