先週ごろから右目の瞼の裏に違和を感じるようになった。ちょっとかゆみもある。先日耳鼻科に行った際、ついでという形で目薬を処方してもらったのだがあまり効かず、今日夕方、改めて眼医者に行くことにした。
今日は午前中にも歯医者に行っており、いまや医者通いの毎日だ。あぁ、歳は取りたくない。
駅前の眼医者は信頼できるところで、2年9か月ぶりに診てもらったら、いつものアレルギーとのことだった。重大な事態でなくてよかった。私も超ド近眼で眼球が丈夫ではないのだが、とりあえずホッとした次第。
その足で新橋へ向かう。前述の通り、今日は駅前で大内延介九段による竜王戦解説会がある。棋界最高峰の戦いが一流棋士の解説にて無料で聴ける。将棋ファンなら行く一手であろう。
眼医者の横にある宝くじ売場でミニロトなんかを買っていたから、上野東京ラインに乗り遅れた。ふつうに山手線に乗り、新橋に着いたのは午後6時すぎだった。
改札の手前から大盤が見える。今シリーズでは初めて、SL前からの解説で、久しぶりに見る光景である。
大盤の近くに行くと、大内九段、藤森奈津子女流四段、梶浦宏孝四段といつものメンバーが揃っていた。
その前にはミニ椅子が数列置かれ、10人以上の将棋ファンが着座していた。その後方にもかなりの見物客がいる。待ち合わせ場所のメッカとはいえ、私も気分がいい。
意外に女性も多い。私の前にいたOLがスマホで写真を撮り、にっこりほほ笑んでその場を去った。珍しいものを見た、というところか。
初手から並べて、渡辺明竜王▲6八銀(第1図)のところで進行が止まった。
「(丸山忠久九段の)こういう構想は初めてですね。これは丸山さん、相当研究してきたと思います」
と大内九段。「三浦さんの件があって、負けて元々というのか、のびのび指しているのが分かります。(本局も)攻めの気持ちが表れています」
大内九段も怒濤の攻めを得意にしていたから、丸山九段の指し手には共感を覚えるのだろう。
第1図以下の指し手。△1四歩▲1六歩△1三角(封じ手)▲4八飛△6五歩▲同歩△2二角▲7七桂△9五歩▲同歩△7五歩▲同歩△5五銀左▲同銀△同角▲5六銀△7七角成▲同銀(第2図)
△1四歩▲1六歩の後、注目の封じ手は△1三角だった。「これはなかなか打ちにくい角ですね」。
私には考えもつかない手だが、プロも驚いたようだ。ところがこれに▲4七銀や▲3七角だと、後手が十分になる。▲4八飛は仕方ないところ、と大内九段。
ただし後の△7五歩では、「すぐに△5五銀左がよかったんじゃないか」と異を唱えた。
今気付いたのだが、SL前の飾りがクリスマス仕様になっていた。もうクリスマスか…。
銀交換後の▲5六銀に、丸山九段は△7七角成と行った。大内九段ではないが、丸山九段、実に思い切りがいい。丸山怒濤流だ。
▲7七同銀に、「ここで次の丸山さんの手には感心しました」と大内九段。となれば、次の手が私に分かるはずもない。
第2図以下の指し手。△8五桂打▲8六歩△7七桂成▲同金上△6五桂▲6六桂△7七桂成▲同玉△5九銀▲2八飛△6八銀打▲8七玉△6五銀▲同銀△同飛▲7六銀△5五飛(第3図)
ここで丸山九段は△8五桂と打った。跳ねたのではない、打ったのである。
「△8五桂打が切れない攻めで、素晴らしいと思いました」
ここ、△8五に桂を置くなら、ふつうは跳ねたくなる。しかし△7三の桂は△6五に跳ねたいのだ。この順が実現すれば後手が十分になるので、渡辺竜王も▲8六歩と催促した。
大内九段「この手(△8五桂)は渡辺竜王も読んでたのかねぇ」
藤森女流四段「▲8六歩の消費時間は11分です」
以心伝心というか、さすがに対局者はよく読んでいる。
丸山九段△5九銀。これは渡辺竜王も読んでいなかったのではないか。
「これがまたすごい攻めでね」
と大内九段。続く△6八銀打に▲同金は△同銀不成▲同飛△7六歩▲同玉△6五金で攻めが続く。「(△6八銀打は)もうギリギリの攻めですよ」。
以下△5五飛まで、これが6時現在の局面であった。
第3図以下の指し手。▲8九桂△6五歩▲5六金△同飛▲同歩△6六歩▲6一飛△6七歩成(第4図)
1手だけ進行した。▲8九桂。大内九段らは解説前の控室で、▲5六桂を検討していた。これで丸山九段が攻め切るのは大変と見ていたようである。
以下、指し手が少しずつ入り、△6七歩成(第4図)まで。
「この時点で残り時間は渡辺竜王27分、丸山九段3分です」
藤森女流四段が散文的に言う。
「▲6七同飛成と取るとどうするつもりかねぇ」
大内九段は首を傾げる。「ちょっと後手が息切れしたかもしれないねぇ」
そして、「…分からないけど」と付け加えた。
(つづく)