付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「有川夕菜の抵抗値」 時田唯

2009-07-07 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「二度失敗したなら、三度目をやり直せばいい。それだけの事、か」
 千春に叱責されて生徒会長・末長が復活する。

 タイトルを見て『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいだなあと思い、冒頭いきなり「最初によく聞いておけ。私は貴様らのような連中が大嫌いだ」と言い放つあたりで、やっぱりと確信したのだけれど、すぐに間違いと判明。

 花音高校に転校した姉の様子がおかしいと天音はピンときた。
 ぶっきらぼうでいつもふくれっ面の夕菜が、顔を赤くして怒っている。微妙に困った感じで、でも本当は嬉しそうで、朝「行ってきます」と挨拶して学校へ出かけるのだ。何か素敵なことが起こっている。
 素敵な変人が現れたに違いない!
 感情が高ぶると高圧電流を発してしまう夕菜はパラライザー。遺伝病の一種だが、触った相手を感電させてしまうため、他人との接触を嫌っていたのだ……。

 第5章とエピローグである「終」章の間にもう1冊分の物語が隠れていると思いますし、そのあたりを読みたいと思います。そう期待する価値はあります。でも、イラストはコミックの一コマとしてならいいけれど、今ひとつ好みじゃなかったです。自分がちょっと高いレベルの挿絵を要求しちゃっているのかな。
 
【有川夕菜の抵抗値】【時田唯】【りちゅ】【トラウマ】【悲劇のヒロイン】【変人】【貧乳】
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「アンの青春」 ルーシー・モード・モンゴメリ

2009-07-06 | その他フィクション
「変化はすべてがありがたいもんじゃないが、変わるということは大事なことだ。2年も同じままというのは長すぎる。それ以上続いたらコケが生えちまうさ」
 ジェイムズ・A・ハリソンの言葉。

 進学を断念し、プリンスエドワード島の教師となった16歳のアン・シャーリーの2年間を綴った物語。
 一筋縄ではいかない子供たちや保護者にもまれる教師生活の傍ら、マリラがひきとった双子を育て、ギルバートたちと始めた村の改善協会で空回りしつつも奮闘。そして親友ダイアナの婚約。
 穏やかな日々の中にもさまざまな出会いと別れが訪れるが……。

 松本侑子訳による「赤毛のアン」シリーズの2作目で、あいかわらず若さゆえの過ちがてんこもり。同名邦題の映画は別物。前作では、すぐに空想にふけって仕事がお留守になってしまうアンの教育に手を焼くマリラに感情移入しちゃいましたが、今回は双子のしつけに右往左往するマリラとアンに感情移入。子供が親の手を焼かせるのは古今東西変わらないってことですか……。

【アンの青春】【L.M.モンゴメリ】【ミス・ラヴェンダー】【嵐】【結婚式】
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「名人誕生~面白南極料理人」 西村淳

2009-07-06 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 1988年夏。巡視船<えさん>の西村主計士に、入港後ただちに管区本部に出頭せよとの命令が届く。それが西村淳が第30次越冬隊に参加する事の始まりだった。
 別に南極観測隊への参加はどちらでも良かった西村だが、断るなら断ってやるぞという上司の態度にむかっ腹を立て勢いで参加。
 著者が他の隊員候補者と顔を合わせ、越冬準備にとりかかり、やがて海を渡って第29次越冬隊と交代するまでの物語。

 今まで料理のエピソードとして断片的に語られていた、南極探検に参加したあれこれの顛末をいちばん最初から語り直してみましょうという1冊。なので、まだやっと南極についたところです。
 まかりまちがっても「料理人の心得や料理の神髄」とか「南極観測の学術的意義」なんてことに言及するようなものではなく、期待する方が愚かという点だけは念押し。いや、そういうことを期待して裏切られたという人がいるようです。
 ただ、各地各団体から集まってくる、一見ヘンな人たちが実はスゴイ人たちで、そんな人たちに囲まれて正式な調理師としての勉強もしていない著者が、なんとかみんなに美味いといってもらおうとあれこれ画策する話ですが、やっと南極料理人としての活躍が始まったばかり。
 ただ、20年後に届いたメールから、いろいろ大変なことが多くて気晴らしも難しい南極では、おいしいものを食べることがイライラの解消となり、明日への意欲の原動力だったと指摘されます。
「食事が、気分だけではなく、円滑な人間関係にも大きく影響を与えると悟りました」

 そもそもの最初に『面白南極料理人』の自費出版を持ちかけてきた印刷会社に「あんたの本を読みたいと思う者が全国で1000人もいるものか」と罵られたという南極料理人のシリーズも、来月8月には劇場公開。これだったら、子供を連れて観に行っても良いなあと思います。
 さあ、このあたりで上映してくれるかな?

【名人誕生】【面白南極料理人】【西村淳】【コンダラ】【住民税】【パンプキンスープ】【赤道祭】【自費出版】
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「「食」の自叙伝」 編:文藝春秋

2009-07-05 | 食・料理
「うどんは関西、そばは東京がいいね。そば屋でうどん注文する人、関西のうどん屋でそばを食べる人を見ると、バカ、思います」
 淀川長治の言葉。

 スポーツ選手から芸能人、写真家、皇族までさまざまな分野の著名人27人に、「食」を切り口にインタビューして個人史を語ってもらった雑誌記事をまとめたもの。食事も排泄も同じに思えるので食べながら人と話したくないというビートたけし、宇宙へ行ったら意外にもレトルトカレーが美味しかったという毛利衛、拘置所で食べたうずら豆が好物になった勝新太郎、鰻の蒲焼きが好きだという鉄人ルー・テーズ等々。あの「MARCOPOLO」に連載してたんですね……。

 中島らもの回で「大阪にはお雛様の時期にのり巻をかじる風習があるというのは本当ですか?」という質問があって、「やったことはないけど聞いたことはある」と答えていたのは恵方巻のことでしょう。まだ海苔屋がPR攻勢に出る前だったんですね。

【「食」の自叙伝】【文藝春秋】【宇宙飛行士】【アイヌ】【沖縄】【タイ】【下町】【韓国】
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「発動!タンポポ村救出作戦~銀河乞食軍団 合本版1」 野田昌宏

2009-07-05 | 宇宙・スペースオペラ
 うわっ、でかい。
 仕事の帰り道に本屋の店頭で平積みされていた合本に衝撃を受けると共に、こんな場所をとる大型本にスペースを割いてくれた書店に感謝。確かに最初から大型本とわかっていたけれど、目で見たときのインパクトはでかい。旧版を並べると825発電システム上のムサイみたい……。
 でも、そんなに重くはないしページもめくりやすいから、厚手の雑誌かムックと思えばそれほど読みづらくもなさそう。
 帰宅したらオンライン書店bk1から通販分が到着してました。
 ただ、もう少し表紙が厚いと思ったので、購入時にフィルムコートしてしまったんだよね。これをやると表紙が汚れにくく破れなくなる一方、もともと表紙の薄い本だとそのうち反ってしまうんですよね。引っ張られて。
 果たしてこの合本の表紙紙はフィルムコートの引張力に耐えられるのでしょうか。とりあえず合本2まで様子見です。

 銀河辺境の自治星系「星涯」に宇宙船の改体修理や貨物輸送を請け負う〈星海企業〉という小さな会社があった。だが、今から20年前にその会社を設立したのは元東銀河連邦宇宙軍中将のムックホッファと元中佐のロケ松。腐りきった星系政府やあこぎな大企業をむこうにまわし、弱きを助け強きをくじく銀河乞食軍団として知る人ぞ知るという存在となっていた。
 その星海企業を頼って1人の少女が現われた。
 少女パムは故郷のタンポポ村が忽然と姿を消し、しかも彼女の両親の幽霊が、はるか〈冥土河原〉星系で目撃されたと訴えた……。

 1982年にスタートした野田昌宏のスペース・オペラを第1巻から第6巻「炎石の秘密」までを収録した合本としたもの。 加藤直之のキャラクターイラストも好きだったけれど、鶴田謙二のキャラも捨てがたい。お七とネンネも良いけれど、いきなりのパムの目つきの悪さが最悪!(ミーだよ、こいつミーだよ)

【発動!タンポポ村救出作戦】【銀河乞食軍団】【合本版】【野田昌宏】【鶴田謙二】【バニシング・エンジン】【星系軍】【怪僧】
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「遙かなる星3~我等の星 彼等の空」 佐藤大輔

2009-07-04 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「道義心はつねに人生を豊かにしてくれる」
「面倒は若い連中にまかせる。これが気楽に生きる秘訣だ」

 北崎重工会長となった原田克也に語った黒木の言葉。

 1989年になっても世界はぐちゃぐちゃなままだった。西欧の大半は無人地帯となり、中国大陸も北米も諸勢力に分裂しての争いが続いている。
 それでも、それだからこそ、日本の宇宙開発への取り組みは進んでいた。
 その原動力は科学への探求心でもなければ政治的プロパガンダでもなく、ただ次の全面戦争に生き残るためのシェルターとして新天地を求めるための作業であり、一度動き出したプロジェクトは大規模な公共事業としてもはや止まるところを知らなかった。そして息子を失った屋代幸男はNASDAの新宇宙港JSP-03が建設されつつあるトラック諸島にいた……。

 自由主義陣営の盟主ともいうべき地位についても日本は日本。新聞は右寄りっぽくなっていたものの、教員は赤っぽいし、国際貢献で北米へ陸上自衛隊を派遣しても使用する火力におかしな制限をつけてしまって大損害。現場を知らない人間が、安全なところから言いそうなことです。
 さて、話的には宇宙への道筋が付き、物語の中心となっていた北崎や黒木たちも老い、あるいは鬼籍に入り、ちょうど切りよく3巻完結と思いこんでもいいのですが、世代交代で登場してきた若い新顔たちがまだまだこれから!……という感じにさせてしまいます。
 「平凡な女性」職員であることから(本人の知らぬ間にモルモットとして)JSP-03の要員に抜擢された穂積綾乃、平和作文コンクールに入賞して沖縄基地JSP-02に招待された高校生・島村和人、和人のガイドとして現れた榊原管制長の娘・琴音。そして綾乃の上司であり、ARMS担当責任者の児玉三佐。この4人もまだまだ活躍しそうだし、琴音と和人などはほとんど顔見せの出番なだけに続きを楽しみにしていたのに……もう干支が一回りしちゃったよ……。
 さて、余談。
 宇宙飛行士をめざす少女の物語『ふたつのスピカ』をNHKがアニメに続いて実写ドラマ化。好きな人がいるんだろうなあ。良い話だと思うけれど、「日本初の有人ロケットが市街地に墜落して多くの死傷者をだした」という前提条件でもう素直に愉しめません。
 日本で打ち上げて市街に落ちるって、どういうことしてるの? 地球の自転エネルギーを打ち上げに利用するので、できるだけ赤道近くから東に向かって打ち上げるのが一般的。市街地に落ちるって、どこからどっちに向かって打ち上げたの? 西に向かって打ち上げる国はイスラエルくらいだよ? せっかくJAXAが協力してるんだから、なんとかもっともらしく辻褄合わせてほしいものです。

【遙かなる星】【我等の星 彼等の空】【佐藤大輔】【鶴田謙二】【ゼロテスター】【超時空要塞マクロス】【新世紀エヴァンゲリオン】【金比羅】【硬式宇宙服ARMS】【宇宙英雄ユーリ・ガガーリン】【機動警察パトレイバー】
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「猫耳父さん」 松原真琴

2009-07-04 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
『まさか、エロマンガ界の猫耳王ことおれが、猫耳を疎ましく思う日がくるとは……』
 日村賢一郎の述懐。

 中学生2年生の日村ななこはマンガ家の父親と二人暮らし。かつては少年誌の人気マンガ家だった父・日村賢一郎は妻を交通事故で失って以来ラブコメを描く気を失い、今はペンネームを変えてエロマンガ家となっている。
 それでも、ななこは父が大好きだった。
 けれどもある朝、父親の頭に猫耳が、お尻に尻尾が生えてきてしまったときは、さすがのななこも応えるすべを知らなかった……。

 ネコ娘になるなら娘の方だろ!?と思いつつ、猫耳と尻尾を生やした中年男性ってのは気持ち悪いなーと正直に。イラストもカットレベルでやけにこまかく入っており、インパクト倍増。電車の中では読めないなー。笑いのツボにはまりそうなんだけれど、今の自分としては死んだ妻の回想の方が読んでいて辛いもの。美女と野獣というけれど、本人たちが幸せなら良いよね。馬に蹴られるようなことをしちゃいけない。

 他に短編『未来の世界の犬型ロボット』も収録。どちらも父娘の絆を描いた佳作だけれど、なにか月光仮面的に「憎まず殺さず許しましょう」というのが基本コンセプトなので、ハムラビ法典の信奉者としては「それでいいのか?」と思わないでもありません。憎しみの連鎖を絶てる人たちの物語でした。

【猫耳父さん】【松原真琴】【大岩賢次】【いじめ】【ペットロボット】【ペット葬】【モスバーガー】【ストーカー】
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「たいした問題じゃないが」 編:行方昭夫

2009-07-03 | エッセー・人文・科学
「事実についての自分の解釈を疑ってみるのはよい習慣であり、また、他者の動機についての自分の解釈を疑ってみるのはもっと良い習慣である。十中八、九間違っているものだ」
 A.G.ガードナーの言葉。
 だいたい他人の思惑を推測すると間違っているものだし、こちらの言動だって誤解されるもの。だから、せめて友人同士や仲間うちの話なら何かあったらざっくばらんに直接聞くのが最善と祐巳さんも言ってます。

 19世紀末から第一次世界大戦くらいまでのイギリスの新聞コラムから、代表的なコラムニスト4人の文章をまとめたもの。ミルンは『くまのプーさん』でもお馴染みのA.A.ミルンです。時事的なネタは今となっては当時の空気を知るくらいの役にしか立ちませんが、今に通じる言葉も多く、それをユーモアと皮肉に包んだあたりがいかにもイギリス的。

【たいした問題じゃないが】【イギリス・コラム傑作選】【行方昭夫】【ガードナー】【ルーカス】【リンド】【ミルン】【ホームズ】【無関心】【時間厳守】
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「マリア様がみてる/リトル ホラーズ」 今野緒雪 34

2009-07-03 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「この世界が素敵な人でいっぱいになるためには、まず自分が素敵にならないと」
 公弥さんの気持ち。どうにもならない他人のせいにする前に、まず自分からという気持ちが大事なんです。

 「祥子&祐巳」編が終わって新章突入。今のところ「祐巳&瞳子」というより「由乃&菜々」編といった感じですが、もともと少女群像劇みたいな話ですのでのんびり見ていきたいと思います。作者としてはここらで別の話も書きたいんじゃないかなあと勝手な憶測をしてしまいましたが、よく見たらリリアン女学園が舞台というだけで既に好き放題に書いてますよね……。

 今回は入学直後の菜々の放課後を描いた『リトルホラーズ』を軸に、単発のホラーというか幻想譚というかファンタジーというか、ちょっと不思議っぽい話をサンドイッチした短編集。後味のよくない話も何本か。
 小さな怪物がクラスメイトになった『チナミさんと私』、幸福も不幸も連鎖するのならという『ハンカチ拾い』、狼に食われてしまった少女の話『ホントの嘘』、「王蘭高校ホスト部」を連想してしまったそっくりの双子と行方不明になった青年教師の話『ワンペア』、蔦子さんが「わたしはおっさんではない」と主張する『胡蝶の夢』、そして「リトルホラーズ」の裏話『リトル パニック』の7編。

 白薔薇さまの志摩子さんはあいかわらず物静かで優しくて、紅薔薇さまとなった祐巳さんは落ちついていて人の心を穏やかにさせ、黄薔薇さまとなった由乃さんは……あいかわらず由乃さんで、お姉さま補正・先輩補正がかかっていてさえ全然変わっていませんでした。「嘘つきは妹にしておく」という小説もありましたが、これは「嘘つきは姉にしておく」。今、いちばん成長株というか、成長させがいのある姉妹です。

【マリア様がみてる】【マーガレットにリボン】【今野緒雪】【カネゴン】【双子】【幽霊】【水道管】【二つの世界】【ポチョムキン】
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「日本の朝ごはん」 向笠千恵子

2009-07-02 | 食・料理
 朝食には、その人なり家庭なりの健康や生き方についての考え方が表れていると、日本全国津々浦々訊ね歩いて食べて回った朝食の記録。
 一般家庭の朝ごはんがあれば旅館やホテルの朝食あり、北海道の朝ごはんがあれば沖縄の朝ごはんあり、フランス人シェフのプティ・デジュネがあれば中国人妻の朝粥あり。本当にまるまる1冊朝ごはんな本でした。
 でも、吉野屋や駅の立ち食いまで来るなら、名古屋のモーニングまで見に来れば良いのに……と思いました。
 そして、いろいろ指摘されている点の1つは日本人は特殊だということ。食に関してはたいていの国民は保守的で、世界のどこに旅行しようと慣れ親しんだもの以外を食べたがらないけれど、日本人はけっこう平気ですよねと。まあ、すぐに醤油味が恋しくなるというかグルタミン酸中毒ですけど、それでも食に対する適応力が高い方なんでしょうね。

【日本の朝ごはん】【向笠千恵子】【4群点数法】【うめぼし】
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「最後の星戦~老人と宇宙3」 ジョン・スコルジー

2009-07-02 | ミリタリーSF・未来戦記
「征服によって生まれた帝国は長続きしない。支配者の強欲や果てしない戦争への渇望によって内部から崩れていく」
 コンクラーベのガウ将軍の言葉。つい「根比べ」と置き換えたくなりますが、実際に根比べです。

 なぜか邦訳タイトルが名作や名画のパロディになっている『老人と宇宙』シリーズの第3弾は「最後の星戦」。いかがなものかと思わないではないけれど、確かに内容にふさわしい邦訳なので文句はつけられません……。

 コロニー防衛軍を無事に退役したジョン・ペリーは、戦闘用ではない肉体を手に入れ、ゴースト部隊出身の妻ジェーンと養女ゾーイと共に植民惑星ハックルベリーで穏やかな日々を過ごしていた。
 そこに突然降って湧いたのは、新たに植民される惑星ロアノークを率いる行政官職の任命。各植民惑星の思惑が絡んでしまった新たな植民には、中立な立場の軍出身者であり、かつ植民者としての経験を積んでいる者がふさわしいというのだが……。

 やっぱり罠でした。
 老いさらばえて死ぬよりはと宇宙世界で若い肉体を手に入れて戦争に飛び込むジョン・ペリーの物語だった『老人と宇宙』、ジェーン・セーガンが所属していたゴースト部隊兵士の物語『遠すぎた星』に続くのは、退役し結婚したペリーとジェーンの物語です。ひとことで総括すれば「人間は実現性は高いけれど聞きたくない答より、実現性は低くても聞きたい答を望む」でしょう。それから「イヤなやつだと思っていても、そしてどれだけつき合っても好きになれなくても、互いの能力を認めるかどうかは別問題」。気にくわない相手でも有能であれば能力は認めてつきあえるというあたりが、さすがペリーは老人だと思いました。頭脳は老人、体は若者。
 
 最近、読書スピードが落ちていますが、それでもさくさくと読めるというか、読みたくなるテンポの良い展開と先の読めないハラハラ感が最後まで続きます。

 キャラ的には今回初登場の監査官助手サヴィトリ・グントゥパーリがお気に入り。あまのじゃくで堅物でいつも不機嫌そうなのに有能。控えめだけれど超有能。田舎に眠らせておくのがもったいない。しかし主人公を食ってしまうような大活躍をするのではなく、ポイントをきちんと抑え、主人公たちの道を整えるといった役どころ。でも目立つ。そこがいいのだ。
 一方、すごく重要な役目を与えられながら、途中で物語の舞台から消えてしまうゾーイについては4作目であらためて体験が語られることになるそうです。1作目と2作目の関係と同じですね。
 でも、狼男はどうなったんでしょう?

【最後の星戦】【老人と宇宙】【ジョン・スコルジー】【前嶋重機】【ゲーム番組】【ドッジボール】【狼男】
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「遙かなる星2~この悪しき世界」 佐藤大輔

2009-07-01 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「必ず勝つ。敗北などしない。絶対に認めない。わたしが認める敗北は、自分の寿命にかぎりがあること、それだけだ」
 男が病室の妻へ誓った言葉。

 1970年になっても世界の主要各国は10年前の第三次世界大戦の災禍からいまだ復興してはいなかった。幸運にも日本の都市を射程に収めていた潜水艦が開戦前に沈んだことから(沖縄以外は)ほぼ無傷で乗り越えた日本にしても、世界経済と治安の悪化とは無縁ではいられない。とはいえ、日本はいまや自由主義社会一の兵器輸出国となっており、先制攻撃をしたことで大国の地位を保つだけの力を残すことができたソ連と対峙している。
 その頃、北崎重工から宇宙開発公団へと移籍していた黒木正一は、宇宙計画調整部長として経済性の高い対軌道輸送機の開発を推進していた……。

 実業家である北崎望、技術者である黒木正一、軍人としてドイツに派遣された原田克也、ロケット好きな少年だった屋代幸男の4人を軸に、太平洋戦争期からの日本の宇宙開発を描く『遙かなる星』の第2巻です。彼らがどういう想いで宙を見上げていたかの物語。

「自分の職場についている看板をおもいだせ。俺たちは宇宙を冒険したいわけじゃない。好きなように使いたいのだ」
 宇宙は冒険するところではない。日常の延長線上に位置すべき場所に過ぎないのだという黒木正一の言葉。宇宙空間で納豆ご飯を。

 北崎は第三次世界大戦の惨禍の中から日本の航空宇宙産業を掌握し、黒木は宇宙計画の基幹に居座り、航空自衛隊の空佐となっていた原田克也は新たなプロジェクトのために北崎重工へと引き抜かれます。面識もない他の3人が着々と星への道を歩み続けている中、小さな商社の営業マンでしかなかった屋代幸男にも転機が訪れます。息子の昌幸が宇宙機の副操縦士に選抜されたのです……。
 キューバ危機の顛末以外はほぼ史実通りだった前巻に対し、いよいよ異なる歴史が流れ始めます。とはいえ、その歴史は前途洋々たるものではなく、混乱しきった世界の中でいかに日本が生き残っていくかが問われ続けるものです。日本は棚ぼた式にかつてのアメリカに似た立場となりますが、同じようにやろうとすればたちまち国家が崩壊することも目に見えているわけです。そのあたり、見えているだけ立派、立派。タイやブラジルが頑張っていますね。

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「植物図鑑」 有川浩

2009-07-01 | 食・料理
 珍しく軍人が出てこないナーと思ったけれど、考えてみれば『阪急電車』も『三匹のおっさん』も『レインツリーの国』も出てませんね。思いこみって怖いな。

『女の恋は上書き式、男の恋は保存式。女はどれだけ引きずろうと悪あがきしようと、次の恋が見つかって走り出したら昔の恋人など思い出から記憶に格下げだ』

 だから、男の方が基本的にロマンチストなんですよ。同窓会に行けばわかるでしょうが……。

 彼は道ばたに落ちていた。
「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか? 咬みません。躾のできたよい子です」
 で、酔っぱらったOLが拾ってしまったことから始まる恋の物語。

……というか、読後感は「実践!野草料理マニュアル(レシピ付)」ですね。携帯小説サイトに連載したものに短編2本付。甘く切ない“雑草”に彩られた四季の物語です。もしかしたら料理小説というものかもしれません。
 竹沢くん、必要以上にイイヒトすぎ。彼にも幸せがおとずれますように。

【植物図鑑】【有川浩】【カスヤナガト】【携帯小説】【雑草という名の草はない】
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