付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「マリア様がみてる/妹オーディション」 今野緒雪 20

2009-07-16 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「別の環境で育った未知の人と、新たな関係を築いていくのは、何ていうのかな、すごく清々しい感じがする」
 島津由乃の言葉。

 また、由乃さんがやってくれました!
 なにがなんでも早いとこ「妹」を決めなくてはいけないのに何にも決まっていないものだから、オーディションで決めるのよ!と言い出したのです。
 さすがにこれはどうよ?とみんな思わないではなかったけれど、紅薔薇さまたちの後押しもあって企画を煮詰めていくうちに、なんとなくもっともらしい形になっていくのですが……。

 内藤笙子ちゃんが『バラエティギフト』以来の再登場。この巻は合コン話ではなく、笙子ちゃんの再会話ですね。祐巳さんが余裕でさばいているあたりが頼もしい感じ。言動に余裕が出てきましたね。由乃さんも猪突猛進のようでいて自分にいたらない点があることを理解していて友達の言葉に傾ける耳を持っている。
 そして、有馬菜々の登場編。初っ端から一筋縄でいかないところを見せてくれました。こりゃあ、『ハローグッバイ』まで一気に読みたくなる展開です。

【マリア様がみてる】【妹オーディション】【今野緒雪】 【茶話会】【ねるとん紅鯨団】【マリア様の星】【お節介】【置いてけ堀】【恐ろしい遊び】
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「マリア様がみてる/フレーム オブ マインド」 今野緒雪 28

2009-07-15 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「完敗ってかなり清々しいものなのよね」
 自分の考え違いに気づかされた立浪繭の言葉。

 バレンタインの宝捜し企画の直後。写真部の部室から追い出されて教室で写真の整理をしている蔦子と出会った祐巳は、薔薇の館で作業をすればいいよと誘いをかけるが……という『フレーム オブ マインド』
を軸に、蔦子や祐巳が見始める写真の中からさまざまな姉妹たちの喜怒哀楽が浮かび上がり挿入される短編集。
 事故に遭い10ヶ月眠り続けていた少女が再び登校した学校で感じる不思議な既視感と少女たちの友情を描く『四月のデジャブ』。
 余所の姉妹にちょっかいかけては破局させていた立浪繭が価値あるものを突きつけられる『三つ葉のクローバー』は黄薔薇革命の後日譚の1つで、最初のバレンタインデーイベントでの裏話。
 江利子をライバル視していた内藤姉が主役の『枯れ木に芽吹き』。内藤姉にはすごく親近感を抱いていたので、こういう形で救いが与えられると嬉しいです。
 江利子と令の出会いを描いた『黄色い糸』。いかにも江利子らしい話でした。最初の出会いがこういう形なら、そりゃあ元気になった由乃をいじめたくなるのも解ります。
 とても痛い話だけれど、こういう話は案外とありふれた事だと思う『不器用姫』。簡単に弱者と強者は入れ替わるんです。あえていうなら、みんな不器用な話です。
 祐巳が忘れていた可南子の出会い『光のつぼみ』。見る人が代わればこんな風に見えるんだよという話。タイトルからして「え~っ!?」ではないかと思います。「一編の詩のよう」に美しい……って誰?
 いつも誰かが世話をしている謎の温室の物語『温室の妖精』はちょっと学園奇譚っぽい話。話としてはいちばん好きだけれど、実際にこういう会話をしている光景をのぞき見したらかなり引いてしまいます。きっと。
 夜の学校で肝試しをしていた少女が遭遇するもう1人の自分『ドッペルかいだん』は、じっくり考えると真相らしきものに辿り着いて「え~っ!?」となる話。
 そして妹の方の内藤さんの物語『A Roll of Film』の10編を収録。

 スケッチ程度の話ではなく、起承転結がきちんとしていてバリエーションも豊富で、短編集としてじっくり愉しめる巻です。個人的には読んでいると70年代の萩尾望都の絵が脳裏に浮かんできます。

【マリア様がみてる】【フレーム オブ マインド】【今野緒雪】【デジャブ】【肝試し】【卒業記念】【温室】【妖精】【ホームズ】【ドッペルゲンガー】
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「女子と鉄道」 酒井順子

2009-07-15 | エッセー・人文・科学
 女性向きの和のお稽古事といえば茶道、華道、香道。でも、これに鉄道が加わってもいいんじゃない?と鉄道マニアになりきれない著者が、好きで乗って周り、見て回った鉄道の話あれこれ。
 こういう鉄道本は特定の傾向に固まりがちなんだけれど、駅名は覚えられない、列車の形式なんかにも興味ない、駅弁は好きじゃないし、列車に乗ったらすぐに寝てしまう……そんな鉄道マニアにあるまじき著者だからこそ自由気ままに乗って回ります。英国鉄道や廃止が決まった夜行列車に乗ってみたかと思うとただ山手線を一周してみたり、大学の鉄道研究会や鉄道模型バーを覗いてみたりとあれもこれもと盛りだくさん。難しい話は抜きにして、単に鉄道に乗るのが好きでも良いじゃない?という1冊。(09/07/15)

 ……で、表紙の雰囲気が余りにも違っていたため、つい間違って単行本も購入してしまい、読んで気がつく失態を演じてしまう……。(10/02/07)

【女子と鉄道】【酒井順子】【女子にも乗れる鉄道入門】【リニア】【モノレール】【路面電車】【スイカペンギン】【もなか】【チカンいかん】
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「輪廻の山~京の味覚事件ファイル」 大石直紀

2009-07-14 | ミステリー・推理小説
 夫の転勤で京都に引っ越してきた主婦・凪子。彼女はこの機会に京野菜を極め、将来「奥様料理研究家」としてデビューするときの一助にしようとあれこれ調べてまわり、京都での料理生活を満喫しているのだが……。

 放置探偵。
 凪子はどうも強い霊感があるらしい、一度見た顔は忘れないくらい記憶力も良いらしい、1を聞いて10を知るくらい推理力もある。でも、基本“放置”。自分の興味のあることは積極的にかかわっていくくせに、興味のないことは右から左に聞き流し、これは危険だと感じたら一目散にその場を離れて知らんぷり。ドーヴァー警部みたいなアンチ・ヒーロー探偵とも違って事件にかかわる気すらない。
 うーん、こういう「君子危うきに近寄らず」タイプは初めて見たなー。ジャンル的に貴重かも。
 なので、ほのぼのした表紙に反して、後味の悪い短編集です。せめて、慣れない新任の地で苦労している旦那の愚痴くらい聞いてやれよ……。

【輪廻の山】【京の味覚事件ファイル】【大石直紀】【いもぼう】【聖護院かぶら】【筍】【伏流水】【ひろうす】【賀茂茄子】【白味噌】
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「ホロウ・ボディ」 米田淳一

2009-07-14 | 超能力・超人・サイボーグ
「時間は、基本的に全ての『心』の味方だ」
 民権党党首・大島薫の言葉。

 日本の首都・新淡路市に仕掛けられたバイオテロを皮切りに襲いかかる国際犯罪機関の罠。内閣調査庁は2人の少女を投入してこれを打ち砕こうとする。
 双子の少女型バイオロイド、シファとミスフィこそ日本政府の切り札、特等突破戦闘艦であった……。

 思春期に達しない少女の心は無人システムの制御に適しているという理屈で、無人機械が少女の姿をしているのが当たり前の22世紀。少女の姿形をしていてもシファとミスフィは能力的に「戦艦」にクラス分けされているというアイデアは素敵。美少女でも戦艦。2人でも艦隊! これなら軍を軍と言い張れない日本でも大丈夫。この設定は面白い。
 ただ、文章が若干読みづらいのと政治家などのキャラがパターン化しているのが難点。

【ホロウ・ボディ】【プリンセス・プラスティック】【米田淳一】【緒方剛志】【パワードスーツ】【粘菌】【無人空母】
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「“文学少女”はガーゴイルとバカの階段を昇る」 野村美月 他

2009-07-13 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「『ヰタ・セクスアリス』よ、『仮面の告白』よ、オスカー・ワイルドよっっ! 『幸福の王子』は同性愛的視点で読むと、また別の味わいよ!」
 “文学少女”こと遠子先輩は一瞬で真相を見抜いたのだった……。

 一言で言って「混ぜるなキケン!」。
 『バカとテストと召喚獣』『“文学少女”』『吉永さんちのガーゴイル』『学校の階段』の4シリーズがコラボレーションで大混乱。互いの作品世界にキャラを乱入させての交流戦。たとえるなら『獣拳戦隊ゲキレンジャーVSボウケンジャー』とか『マジンガーZ対デビルマン』みたいに、召喚獣戦に挑む遠子先輩とか、階段を駈け上る吉永さんちの双葉ちゃんとか……。
 なんというか、こんなもの混ぜて大丈夫か!?と思ってしまったけれど、きちんとそういう話になっているんですね。「“文学少女”と乙女に集う召喚獣」では、ちゃんと『バカとテストと召喚獣』でもあり『“文学少女”』でもあるという絶妙なバランス感覚というかツッコミあい。
 みんな上手いし、互いの作品を尊重し合って良い感じのコラボでした。

【“文学少女”はガーゴイルとバカの階段を昇る】【コラボアンソロジー2】【野村美月】【井上堅二】【田口仙年堂】【櫂末高彰】【葉賀ユイ】【竹岡美穂】【日向悠二】【甘福あまね】
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「エンサイクロペディア国の恋」 ロバート・ベンチリー他

2009-07-13 | その他フィクション
 ユーモア・スケッチ抱腹編と副題が付けられたユーモア短編集……ということですが、私には笑えませんでした。1920年代のアメリカに生まれなくて良かった……。
 ユーモア話は好きです。ナンセンスもドタバタも好きです。文明批判のシニカルなものもOK。本来は。
 25編も入っているから、1つくらいは周波数が合うのがあると思ったけれどなあ。何本かは、志村けん主演とかよしもと新喜劇で映像化されてたら笑ってしまったかもしれないという話もありましたが、そういう話って文章で読んでも面白くない気がしませんか? 活字で読むと、なんかわけのわからないことばかり言ってやがる……となってしまいます。なんなんだろう? 短編だからエッセンスが濃縮されて濃すぎるのかな。カルピスの原液を飲んでいる気分。

「がんばりたまえ。がんばりつづけるかぎり、トラブルにまきこまれずにすむ。もしトラブルにまきこまれなければ、たいした女優にはなれない」
 ある女優にグルーチョ・マルクスが与えた助言。

【エンサイクロペディア国の恋】【ロバート・ベンチリー】【500億のマーサ】
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「やむなく覚醒!!~邪神大沼」 川岸殴魚

2009-07-12 | 学園小説(不思議や超科学あり)
『概ね生まれたばかりの初心者の邪神は力が弱く、身体が小さいため、野生動物の格好のターゲットとなります……』

 「特別付録 エッチでグラマラス、それでいてキュートなあれ付き! 18歳未満の方はご覧になれません」、その言葉に心が揺れて『邪神マニュアル』を手にとってしまったのが運のつき。私立川又高校2年の大沼貴幸の邪神人生が始まってしまったのだ……。

 こまかなイベントは幾つも起きているし怪しげな登場人物もどんどん出てくるけれど、起承転結でいえば「起」のままで終わってしまったような話。いきなり自分が邪神だといわれてしまいました!なんとなくそんな気がしないでもありません!……おしまい。
 でも笑える。
 会話の妙というか、マニュアルの勝利?

 step1.自分が邪神か確認しましょう。
 step2.スターターキットを使用しましょう。
 step3.邪神ライフをスタートさせましょう!
 step4.配下となる妖魔を召喚しましょう……

 この調子で続くわけで、チェックシートやQ&Aもあって、なかなか親切なマニュアルです。たいていのことは付録のスターターキットこと序列56番目の悪魔ゴモリーっぽいのがやってくれますし……。
 読み終わって何も残らないけれど、とにかく笑えてしまうのが困りものです。おれ、まだ笑えたんだ……。

【やむなく覚醒!!邪神大沼】【川岸殴魚】【クトゥルー】【ソロモン七十二柱】【明けの明星号】【中日ドラゴンズ】【勇者処たなか】【替え玉無料券】
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「れじみる。」 藤原祐

2009-07-12 | 超能力・超人・サイボーグ
「衛生兵! 衛生兵はどこですか!?」

 何かを失うことを代償に異能を手に入れた少年少女が殺し合う『レジンキャストミルク』の幕間劇集を集めたコメディ短編集。弁当勝負に命をかけたり、海水浴場のウミウシで死にかけたり、保健室で制服したり。イントロがわりに各短編の冒頭に掲載されている椋本夏夜のコミックもなかなか……というか絶品。 

【れじみる。】【藤原祐】【椋本夏夜】【ぶつ森】【海水浴】【夏祭り】【白いスクール水着】【手作り弁当】【ホームズ】【ネコミミ】
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「マレー半島すちゃらか紀行」 若竹七海・加門七海・高野宣李

2009-07-11 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「マレーシア? 行く行く、ハリマオ様のいるところでしょ?」
 30代の女性3人が好奇心のおもむくまま行き当たりばったりにマレー半島を蹂躙した16日間の記録。

 旅行記って好きなんですよ。本を読むことで他人の知識や経験を自分のものとすることができる……というのが読書の効能なら、もっとも得られるものの多いジャンルではないでしょうか。(実際の役に立つかどうかは別として。)
 そして旅行記といえば、行った先とは関係無しに自分の思索についてばかり語りたがるものもあるけれど、やはり行く先々の文化や風俗、気候や自然について語るのが本来で、そして旅に困難があればあるほど面白いけれど、自分自身にあまり元気のない時はあまりに悲惨すぎる旅はちょっと読むのが辛い。
 そういうわけで、これくらいの旅がちょうど良いのです。

 参加メンバーのわがままというか思いつきや気まぐれやこだわりで計画は二転三転。はっきり言って行き当たりばったり。炎天下の河原で焚き火をし、ジャングルトレインことマレー鉄道東海岸線で時刻表に無いと言われた列車に飛び乗り、ボート上で首吊りにされ、自分の手すら見えない暗闇のジャングルで一晩を過ごし、虫に刺され日焼けに苦しみオオトカゲをいじめてと楽しさ満載。
 話を聞いていると楽しいけれど、自分は絶対に経験したくない旅の話ですね。あとがきを読むと、困ったときに誰かが助けてくれるのは女3人旅だけらしいし……。

【マレー半島すちゃらか紀行】【若竹七海】【加門七海】【高野宣李】【トイレ】【憑き物】【ゲマス】【グレート・ムサ】
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「海竜めざめる」 ジョン・ウィンダム

2009-07-10 | 怪獣小説・怪獣映画
「政府のおえらがたをはじめ人びとの大部分は、新事態に直面すると、それを認めまいとあがくものなのだ」
 アラステア・ボッカー博士の言葉。

 宙から飛来した火球群が次々に大西洋に落下して深海へと沈んでいく。調査に送り込まれた潜水球は次々に破壊され、やがて世界各地で海難事故が頻発するようになるが、これを宇宙から飛来して海底に潜んでいる知的生命体の仕業と主張するボッカー博士の説は嘲笑される。
 それから5年。世界各地の小島や沿岸部の集落に巨大な水母のような物体が上陸して人々を呑み込み始めるに至ってボッカー説は見直され始めるが、潜海生物(ゼーバス)と名づけられた宇宙からの侵略者と人類の戦いは人類劣勢のまま推移した。制海権を失い、さらには両極の氷が溶け出して海面上昇が始まり……

 自分にとっては『青い世界の怪物』と並ぶ海洋SFの双璧。こちらの方が、侵略テーマ色が強く、滅亡テーマだったりする分、SFらしいといえばSFらしいのかな。英国の放送局EBC(BBCと比較すると二流局らしい)の局員夫婦の視点で話が進みますので、終盤は他に誰もいなくなった世界に2人きり。世界の他の場所で何が起こっているのかほとんど解らなくなり、終末っぽさが際だちます。
 そして、最後の方になるまで立ち位置が解らなかったのがボッカー博士。いろいろ鋭い考察はするのだけれど、基本的に山師っぽくて周囲から全然信用されていないし失敗も多い。侵略が明白になってこれから活躍するのかと思えば主人公たちの前から消えて音信不通。事件を解決する天才博士でもなければ周囲を煽り立てるだけのダメ扇動家でもなく、こいつ何者なんだ?と思っていたけれど、読み終えてなんとなく思うのは「鳥」の人なのかなということ。
 ノアの箱船から放たれて、知らせを持ち帰ることなく消えてしまったオオガラスとオリーブの小枝をくわえ戻ってきたハトの一人二役。最後に飛び去るシーンを読んで、そんなことを思いました。

 岩崎書店版は斎藤伯好訳で長新太絵、早川書房版は星新一訳で中西信行絵。ところが2009年2月に福音館書店から発刊された「ボクラノエスエフ」シリーズでは、訳が星新一で絵が長新太という不思議な組み合わせ。なんだかなあ。長新太は絵本作家としては好きでも、こういう作品のイラストとしてはシュールすぎる気がしますが、インターネットでひととおり検索してみると、長新太イラストのファンはかなり多いようです。やはり原体験は強烈ということでしょう。
 
【海竜めざめる】【ジョン・ウィンダム】【ハヤカワ文庫SF】【深海の敵】【海面上昇】【人類滅亡】【日本の技術は世界一】
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「征服娘。」 神楽坂淳

2009-07-09 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「商売というものはな。目はしのきいた人間だけが賛成して、あとの人間が全員反対するものが良いのだ」
 ドラヴィア十人委員会ジャコモ・コントラーリの言葉。
 第4章では警察長官と名前が間違えられていて気の毒。次男は親父の名前くらい覚えろよ!……というか、編集者はきちんと校正チェックしてやりなよ。他にも誤植が目に付いたし……。

「人生は、くだらないと思うことが一番大切だったりするのさ。そうじゃないと人の気持ちがわからない大人になっちまう」
 ラウラ・ヴェニエルの言葉。

 3人の兄たち以上に商売の才覚があると自負していても、そして現実に彼ら以上に交易で利益を上げていても、マリア・コントラーリに未来はなかった。それはマリアが女だからだ。
 女は何も手にできない。
 貴族の女はただ結婚し、子供を産み、サロンで社交に興じるだけの人生だ。
 そして、マリアはそれに我慢できなかった……。

 ヴェネツィアをモチーフにしたような交易で栄えているドラヴィアを舞台に、13歳の少女マリアが侍女アッシャと共に野望を達成すべく動き出す。

「海ってのは優しい反面、簡単に人の命を奪う。だから、どうやって生きるかっていうより、どう死ぬかが大切なんですよ」
 死ぬのは自分たちの仕事だというマリアの部下、マルコの言葉。

 かなり面白くなりそうなので、この先に期待。ただ、荒削りな部分があるので……と思ったら同じ作者の『激辛!夏風高校カレー部』も似たような感想でした。ダメじゃん。こりゃあ、担当編集がかなり大雑把な人物と見た。

【征服娘。】【神楽坂淳】【貧者のベーコン】【貿易商人】【政略結婚】【カカオ】【胸の大きさ】【虚と実】【カフェ】
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「<蒼橋>義勇軍、出撃!~銀河乞食軍団 黎明篇1」 鷹見一幸

2009-07-08 | ミリタリーSF・未来戦記
「野郎ども、蒼橋一世一代の大仕事だ。いいか、仕事ってのは適当にやっていい加減に仕上げるもんだ、分かってるな」
 正しい意味で理解して欲しい、開戦にあたっての義勇軍司令長官、滝乃屋仁左衛門の檄。

 野田昌宏のスペースオペラ『銀河乞食軍団』はじまりの物語を、野田昌宏自身の原案に基づいて鷹見一幸が書き上げたもの。没後企画ではなく、存命中にスタートしていたのですね。表紙が加藤直之でなくなったのは残念だけれど、鷹見一幸+ラノベ風のイラストに惹かれて手に取った人が本編も読んでくれることを期待します。

 東銀河系南東部の辺境で、小さな紛争が起きようとしていた。
 〈紅天〉星系資本により開発された自治星系〈蒼橋〉が、〈紅天〉の圧政に耐えかね、ついに完全独立を訴えて蜂起したのだ。放置しておけば、不平等条約によって軍備すら制限されている〈蒼橋〉に勝機はないと思われたが、それを見逃すことは政治的に不安定な〈紅天〉が豊富な鉱物資源を背景に連邦内での勢力を強化することにつながる。そこで、政治的安定を優先する連邦艦隊は、ムックホッファ准将が率いる艦隊を派遣するのだが……。

 ムックホッファ准将が連邦艦隊を辞めるまでの話の〈銀河乞食軍団〉誕生秘話だとか。なんとなく蒼橋動乱の話で続きそうに思っていましたが、最終的にジェリコ・ムックホッファは中将にまで辿り着き<星海>星系基地司令官になるはずなので、そうなるとA・B・チャンドラーの銀河辺境シリーズみたいな展開になるのでしょうか。
 定評のある長編シリーズをスタッフ一新で前史から描くというと、ちょうど公開中の『スタートレック』劇場版みたいです。スタッフが違うからやはり違うところは違うのだけれど、基本のポイントは押さえてあるので新作としても続きとしても愉しめますね。この巻はミリタリーテイストがやや強め。それもムックホッファ准将の第108任務部隊ではなく、採鉱師や宇宙鳶らで構成された義勇軍の奮戦が中心。そこに星湖トリビューン特派員の新米特派員ロイス・クレインや連邦宇宙軍機関大尉・熊倉松五郎らが飛び込んで……という話。
 現場の汗と油で真っ黒になっていそうな空気がうまいこと野田節を再現できている気がします。もうちょっとガラが悪い方が野田昌宏っぽい気もしますけど、そこは鷹見テイスト。銀河乞食軍団前史というだけでなく、独立したスペースオペラとして面白かったです。

【<蒼橋>義勇軍、出撃!】【銀河乞食軍団 黎明篇】【鷹見一幸】【野田昌宏】【鷲尾直広】【碁盤】【小惑星帯】【天邪鬼】
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「新人類戦線~“失われた十支族”禁断の系譜」 今野敏

2009-07-08 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「私は信ずるべきものは自分で選ぶ。自分の人生を他人に捧げてしまうほど愚かではないつもりだ」
 元ドイツ空軍少佐ヘルムート・ウルブリヒトの言葉。ドイツ空軍からイギリス軍、そしてネオナチスと転々とした男は結局、軍人に向いていなかったのだ。

 買い始めてしまったものの、途中で出版社は変わるし、タイトルは変わるし、通し番号すらついていないしと、本当に同じシリーズなのか、抜けはないか、最後の最後まで気が抜けなかったのが今野敏の新人類戦線シリーズ。今もタイトルを変えた改題版の刊行が続いていて、1冊目刊行後20年以上かけて新書から文庫へと点々とし、その間にシリーズ名も「新人類戦線」から「封印の血脈」(学研M文庫)、「特殊防諜班」(講談社文庫)へと変わってます。たぶん全7巻。根強い人気はあるみたいです。

 第一空挺団普通科所属の一等陸尉だった真田武男はいきなり組織から放り出された。高い能力持ちながら単独行動を好む真田は正規の組織に居場所はなかったのだ。
 彼に与えられた新たな所属は自衛隊陸幕第2部別室「特殊防謀班」。そのただ1人のメンバーとなった真田に与えられた最初の任務は日本各地で相次ぐ新興宗教団体の教主や拝み屋が誘拐されるという事件の調査だった。
 だが、この奇妙な事件こそ、ヒットラーの遺した負の遺産「新人類委員会」による遥か古代から受け継がれた血の伝承を狙う巨大な陰謀だったのだ!

 女王陛下の007ならぬ「総理大臣の特殊防謀班」。ユダヤの“失われた十支族”の血脈は古代日本に受け継がれており、それをヒトラーの残した秘密組織が狙うという、トンデモ陰謀系スーパー伝奇アクション(超能力女子高生付)
 ちょうど菊地秀行の闇ガードとか“念法使い”工藤明彦シリーズを読んでいた頃なので、そっち方面を期待していたけれど敵はけっこう真っ当です。みんな傭兵とかテロリストで、弾丸で頭を吹き飛ばされたら死ぬような連中ばかりでした。ハリアーは手強かったけど……。
 そもそも、主人公からして優秀な成績ではあるけれど普通の人間でしたしね……というあたりで、超人的なキャラばかりの話を読みすぎだと自覚しました。

『新人類戦線~“失われた十支族”禁断の系譜』広済堂ブルー・ブックス
『聖卍(スワスティカ)コネクション』広済堂ブルー・ブックス
『ユダヤ・プロトコルの標的~新人類戦線シリーズ』広済堂ブルー・ブックス
『過去(シュパンダウ)からの挑戦者~新人類戦線シリーズ』天山ノベルス
『失われた神々の戦士~新人類戦線シリーズ』天山ノベルス
『黒い翼の侵入者~新人類戦線シリーズ』天山ノベルス
『千年王国の聖戦士(メシア)~新人類戦線シリーズ』天山ノベルス

 広済堂版はだんだん飲み屋のチーママとチンピラ風の表紙になっていますが、天山版になって一気に若返りました。人間レーダーサイトと化した少女・芳賀恵理がどこか富田靖子っぽいよね。

【新人類戦線】【失われた十支族】【禁断の系譜】【今野敏】【ハル・マジェドン】【山の民】【ルドルフ・ヘス】【聖拳】【ハリアーII】
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「宇宙からのメッセージ」 野田昌宏

2009-07-07 | 宇宙・スペースオペラ
 1977年に『スターウォーズ』が全米公開され予想外に大ヒットし、こいつが翌年夏に日本公開される前に二番煎じで一儲けしようと東宝が『惑星大戦争』を、東映が『宇宙からのメッセージ』を急遽製作して公開。そりゃあもう、どちらも日本SF映画のダメな点を一身に背負ったような映画で、公開された瞬間にB級カルト映画になることが約束されたようなシロモノでした。
 公開直前にテレビ放映された特番だけでも観る気を無くし、後のテレビ放映で確認して「あー、観に行かなくて良かった」と思ったシロモノですが、このノベライズを野田昌宏が書いていたのだと先日の『銀河乞食軍団』合本のあとがきを読んでいて思い出しました。
 そんなボロクソに言っていても本はちゃんと買ってあるのが律儀なところです(かなり黴びてましたが……)。

 映画の出来が箸にも棒にもかからないものだからストーリーは完全オリジナル。今読み直してみれば、確かにそこかしこに『銀河乞食軍団』の片鱗が伺えます。〈星河原〉星系とか東銀河連邦といった世界を舞台に、べらんめえ口調で弱きを助け強きをくじく荒くれ者たちの冒険譚。敵は異次元から侵攻し惑星ジルーシアで住民虐殺を繰り広げるガバナス帝国の皇帝ロクセイア!
 前半の地方権力者や秘密警察とのかけひきのあたりはそのまま『銀河乞食軍団』の外伝といっても通じるくらいで物語がいちばん活き活きしています。その反動かクライマックスがちょっと投げやりっぽく、そのあたりの印象が小説版も高く評価できない原因ですね。

【宇宙からのメッセージ】【野田昌宏】【石森章太郎】【リアベの実】
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