付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「マリア様がみてる/大きな扉 小さな鍵」 今野緒雪 25

2009-09-23 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 今年も新聞部から持ち込まれたバレンタイン企画に紅薔薇さま、黄薔薇さまは乗り気。当事者たる由乃は心穏やかではないが、気がつけば孤立無援……。
 一方、こじれたままの祐巳と瞳子の関係を周囲は気づかって何とかしてやりたいと思うのだが、できることは見つからない。そんなとき、柏木が不味い手土産と共にスキーから帰ってきたのだが……。
 「キーホルダー」と「ハートの鍵穴」の2編収録。

 今回は「ひねくれてしまったツンデレ少女が鼻っ柱をぶん殴られて目が覚める話」と酷いまとめ方をするとかわいそうなので、「瞳子が乃梨子の友情に気がつく話」としておきましょう。

「あなたが変わらなければ、祐巳さんとは一緒に歩くことはできないわ」

 演劇部の部長さんも真剣です。よく見ています。
 瞳子との一連のやりとりの中で祐巳がさらにグレードアップしたことを確認させてくれる巻でもありますね。成績優秀にして眉目秀麗なメンバーに囲まれて右往左往するだけだった少女が、しっかりものの「妹」となり、そして今は頼れる「姉」への第一歩を踏み出そうとしている姿を追わせてもらってます。冗長にならないように、しっかりそれぞれの心の動きを描いています。
 一方、柏木さんもあいかわらず良い役回り。いい加減そうに見えて押さえるべき点は押さえていて、いざというときに頼れる先輩という点では佐藤聖さんと同じなのに、何がそんなに嫌われるのでしょうか(ヒント:自業自得)。まあ、けっこう酷い目にあっているらしい祐麒が、それでも信頼して慕っているあたり、もっと評価してあげても良いのにね。

【マリア様がみてる】【大きな扉 小さな鍵】【今野緒雪】【好き】【バレンタイン企画】【大人げない】【おしっこ】【百を数える】
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「学園カゲキ」 山川進

2009-09-23 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 増え続ける放送チャンネルに番組を供給するため、人材育成機関として放送芸術特区「歌劇市」に設立されたのが私立歌劇学園。今では独自の放送チャンネルすら持ち、クラス毎に番組すら持つ歌劇学園だったが、新入生1年B組1番の会澤拓海はテレビのない家で育てられたため、学園のことはおろか最近のテレビ番組にも疎いという少年だった……。
 放送作家、演出家、カメラマン、メイクアップアーティスト、大道具といった放送に従事する人材を育成するというKAGEKIプロジェクト。歌劇学園はその基盤となるべき施設なのだそうですが、生徒は大スターを夢見る生徒ばかりが集まり、主人公をはじめとしてテレントや俳優をめざさない者は全体の1割以下……という状況だそうです。演出や脚本は原則的に教師が務めているようですが、肝心の裏方はどこで育成しているんですかね。カメラマンや大道具はいちいち外から呼ぶのでしょうか? ドラマ以外の作品は製作しないのでしょうか? 歌劇というけどミュージカルとか歌番組は? ドラマしか作らせてないわりにのぞき見番組みたいなのは幾つも放送されているみたいだけれど……と、話は面白かったのですが、こうした基本的な設定が最後まで気になりました。放送芸術=アイドルタレントじゃないでしょ、他の所はどうなっているの?と。
 大人は汚い、芸能界は所詮プライバシーを切り売りする世界、他人を感動させてナンボという現状を肯定したまま、そのまま無理矢理にハッピーエンドに持っていっているあたりも、エピローグの山田さんちのお父さんと同じ感想しか持てませんでした。所詮はヤラセだぞ、感動するなんて欺されているだけぞ。
 ドキュメンタリーを作っている生物部だとか、大道具に命を賭ける美術部だとか、作曲まで手がけている吹奏楽部とか、いろいろ裾野を広げられる話だけれど、続刊の内容をちらちら見ていると結局「アイドル養成高校」という位置づけに固まったらしく残念。大人の都合に振り回される子供の話はもう十分です。

【学園カゲキ】【山川進】【よし☆ヲ】【曲がり角でバッタリ】【豚肉カレー】【アドリブ】
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「夜光怪人」 江戸川乱歩

2009-09-22 | ミステリー・推理小説
 きもだめしに挑んだ少年探偵団の少年7人は、そこで闇夜に浮かぶ銀色に光る生首を目撃する。それが夜光怪人の登場だった……。

 緑色に光る一体さんのような怪人の登場です。でも正体は怪人四十面相。バレても夜光怪人に扮し続けているところを見ると、けっこう気に入っていたみたい。
 さて、少女探偵・花崎マユミの足跡を追いつづけていますが、今回は留守番していたところに夜光怪人が出現し挑戦状を叩きつけてきますが、 あっさり逃げられてしまいます。出番は以上! どこが探偵助手なんだー。ただの電話番じゃないか。
 でも、あのエレベーターのトリックは乱歩オリジナルではなく、誰か海外作家の発案だった気がするのだけれど、どうだったかなあ。黒タイツで闇夜に姿を消す、小川一水みたいな携帯用ヘリコプターで空を飛ぶ、明智小五郎に変装、依頼主に変装と共に少年探偵基本トリックの1つですが……。

【夜光怪人】【少年探偵】【江戸川乱歩】【柳瀬茂】【柳家喬太郎】【花崎マユミ】【エレベーター】【怪人四十面相】
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「宇宙港物語」 川又千秋

2009-09-22 | 宇宙・スペースオペラ
「あたしたち女性は、この身体そのものが時計なのよ。この肉体そのものが、時間を創り出しているってわけ」
 火星生まれの思考体オペレーター、ジーン・CATの言葉。

 光速を超える《飛光船》の実用化によって、2198年からの2世紀で人類は銀河中へ拡散した。
 これは後に「胞子の時代」と呼ばれることになる……。

 銀河系全域に広まった人類の情景を14のエピソードから構成した短編集。
 異文明が残した宇宙港と思しき遺跡を探索する調査隊の遭難、負け戦で宇宙港へと撤退していく傭兵たちの戦い、囚人惑星で繰り広げられる殺し合い、地球人の文明をコピーするだけでなく姿形もコピーしてしまう異星人ガトゥールがいる街など、宇宙港で、宇宙港から、宇宙港へと始まる物語の数々。
 しかし、ガトゥールの徹底ぶりはホーカすら凌駕しますねえ……。

【宇宙港物語】【川又千秋】【佐藤道明】【傭兵】【監獄】【仮面武闘会】【迷宮】【模倣種族】【13日の金曜日】
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「エイキエイキのぶっちゃけ隊!!」 影木栄貴

2009-09-21 | エッセー・人文・科学
「批判を受けて当然って言われる公人や有名人の人達も同じ人間だってコト……。そしてその人達にも家族がいるってコト……。時々でいいから想い出してあげて下さい……」
 大好きな家族が悪人のように言われるのは誰だってツライわけです。想像力と優しさの問題だと思いますが……。

【エイキエイキのぶっちゃけ隊!!】【影木栄貴】【DAIGO】【竹下登】【消費税】【トリビアの泉】【世界バリバリ☆バリュー】【選挙事務所】
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「幼年期の終り」 アーサー・C・クラーク

2009-09-21 | 破滅SF・侵略・新世界
 創元推理文庫でのタイトルは『地球幼年期の終わり』。クラークの宇宙SFの代表作であり、人類進化テーマの傑作。ただし、傑作すぎてタイトルとオチばかり先行して有名になっている気がします。ケイブンシャの『世界の怪獣大百科』にオーバーロードが出てくるくらいだもの……。

 大国間の宇宙開発競争が激化していた20世紀後半。突如として地球に大船団で襲来した正体不明の異星人たちは、高度な知能と能力を備えた全能者“オーバーロード”であり、瞬く間に地球を掌握して全面的に管理すると理想社会を建設してしまう。
 しかし、オーバーロードたちはいつまで経っても人間たちの前に姿を見せない。彼らの真意はどこにあるのか……?

 この作品の10年後にキース・ローマーが発表した『優しい侵略者』は明らかに意識してパロディにしている気がします。どちらも善意の存在みたいなものではあるけれど、『V』は違うね。

【幼年期の終り】【アーサー・C・クラーク】【人類進化】
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「魔法泥棒」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

2009-09-21 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「魂を踏みつけたところで、鍛えられるわけではない。ただ痕がつくだけだ」
 逆境が人を強くするなどありえないとトッド・ゴルダーノ。

 この世界は魔法使いによって護られている。少なくとも英国は。
 ヒトラーやナポレオンが英国本土に侵攻できなかったのもチェルノブイリ原発の事故の影響が最小限に食い止められたのも、すべて魔法使いによる陰からの支援があってのことなのだ。
 しかし、リングと呼ばれる魔法使い評議会はこれらすべての事件を仕組んでいる者がいることに気がついた。こちらの地球に大規模災害を意図的に発生させては、それを食い止めるために開発される科学技術や魔法を盗みとって異世界に送り込んでいるスパイがいるらしい。地球温暖化による海面上昇も、この正体不明の敵が画策した結果と予想された。
 この介入による収奪を阻止するべく異世界襲撃隊が結成されたのだが……。

 異世界の冒険あり、防諜戦あり、階級闘争ありのファンタジーなんだけれど、前半が取っつきにくくて読むのに苦労しました。登場人物がみんな疑心暗鬼で、他人を疑い、喧嘩し、ヒステリーめいた舌戦が続いたりしますので、読む方は青息吐息。

【魔法泥棒】【ダイアナ・ウィン・ジョーンズ】【地球温暖化】【密航者】【魔女】
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「七つのダイヤル」 アガサ・クリスティー

2009-09-20 | ミステリー・推理小説
 アガサ・クリスティーの作品には、若い女性が主人公で活躍するスパイ小説が何冊かあって、これもその1つ。本格ミステリにはスノッブな男性探偵ばかりで辟易していた時代があり、一服の清涼剤になりました。

 舞台は再び閑静な田舎にある大邸宅チムニーズ荘。
 滞在していたジェリー・ウェイドの朝寝坊をからかおうと、友人たちがこっそり彼の枕もとに8個の目覚まし時計をセットした。ところが翌朝、大量の目覚ましが鳴り響いてもジェリーは起きてこず、様子を見に入った友人たちはジェリーが死んでいるのを発見した。そして、枕元には7個の目覚し時計が……。
 ジェリーの死は睡眠薬の過量摂取とされたが、館の所有者であるケイタラム卿の娘、バンドルはそこに何者かの陰謀を感じ取っていた……。

 7つの「ダイヤル」というから電話のことだと思っていたら「目覚し時計」でした。創元は「ダイヤル」だけどハヤカワは「時計」なんだよなー。創元訳は凝りすぎ。

【七つのダイヤル】【アガサ・クリスティー】【バトル警視】【じゃじゃ馬】【チムニーズ荘】【スパイ】
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「エルメスの道」 竹宮惠子

2009-09-20 | 伝記・ノンフィクション
「遅く言っても早く言っても結果は同じ。だったら早く言う方がトクだわ」
 クリスティーヌ・エルメスの言葉。

【エルメスの道】【竹宮惠子】【社史】【馬具】【パリ万博】【ルノー】【鞄】【ファスナー】【ケリーバッグ】【ディスプレー】【スカーフ】
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「やんごとなき姫君たちの秘め事」 桐生操

2009-09-19 | エッセー・人文・科学
「1回などは試食に過ぎない、2回は紳士の礼儀、3回は淑女の務め、4回は妻の権利」
 夜のお勤めについてのルネサンスのことわざ。

 フランスの大学に留学していた女性2人が西洋史を中心にした歴史上のエピソードをまとめたもの。イギリスの男は少年時代に家庭教師から鞭打たれていたのがクセになるからマゾが多いんだとか、中世の修道院も乱れまくっているし尼僧院は娼家みたいなものだったとか、正しい夫婦生活は1日6回とアラゴンの王女が永遠不変の法則に定めたとか、古代エジプトから近世ヨーロッパや中国まで性に関する話題を中心にあれこれ。近親相姦や堕胎なら金貨5枚で免罪符が買えたという時代もあったんだぜとか、無用の雑学が身につきそうです。
 ただ、フランスにまで留学して文学や歴史を学んだという著者の本にしては、参考文献がKKベストセラーズとか歴史読本とかすべて国内で手に入る日本語文献ばかりで、しかも西洋史等の専門書より雑学系からの孫引きが多いようなので、どこまで真実か話半分で読んでおいた方が良いかもしれません。噂の伝聞のさらに引用になってしまうんで、この本を出典にしてさらに何か書くのは危険な臭いがします。
 もう少し頑張って、一次二次文献で裏付けしてくれれば信頼できるものになるのでしょうが……。

【やんごとなき姫君たちの秘め事】【桐生操】【神殿娼婦】【チェーザレ・ボルジア】【女法王】【割礼】
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2009 「翔べ!ガンダム」&「永遠にアムロ」

2009-09-19 | 巨大ロボット
 この歳になって誕生日を祝ってもらうとかプレゼントをもらうとかそうそう無いんだけれど、今年は珍しく誕生日プレゼントをもらいました。子供たちからバラの花束とか「自衛官三姉妹」の缶パンとか……。
 そのついでに、おだったさんからいただいたのが、『機動戦士ガンダム』30周年記念Maxiシングルの30thイベント会場版。「翔べ!ガンダム」と「永遠にアムロ」の2曲をこれまでガンダムのテーマ曲を歌ってきた9人によってカバーされた1枚。たぶん2009年10月21日に発売されるであろうMaxiシングルとカラオケ・バージョンがないことを除けば同じではないかと予想。
 男性アーティスト中心の「翔べ!ガンダム」は、まあ、普通のカバーであったけれど、女性アーティストがメインの「永遠にアムロ」は『ウイ・アー・ザ・ワールド』っぽく仕上がって予想外に良かったな。もともと女声向きなのかも。

【2009】【翔べ!ガンダム】【永遠にアムロ】【麻倉あきら(RO-M)】【鮎川麻弥】【鵜島仁文】【川添智久】【TSUKASA】【長友仍世】【MIQ】【森口博子】【米倉千尋】
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「メグレ罠を張る」 ジョルジュ・シムノン

2009-09-18 | ミステリー・推理小説
「私は科学的あるいは技術的用語を一言も使おうとは思いません。何しろそれらの言葉は、往々にして私たちの無知を匿すだけの役割しか果たさないのですからね」
 精神病医であるティソオ教授の言葉。

 フランスの名探偵といって名前があがる筆頭格が、メグレ警視。そういや、少年探偵マンガにももじった名前のキャラがでていましたっけ。
 メグレ警視の捜査はひたすら正攻法。この話ではモンマルトルで発生した連続殺人事件の被害者たちが、出身地も職業も違い、互いに面識もなく、普段の生活ですれ違った可能性がないことまで調べ上げるのが彼らの捜査方法の第一歩。
「もともとわたしはそれから何か得られるとは考えていませんでした。が、調べてみないわけにはいかないのです。われわれはどんな小さな可能性でも検討せぬまま放っておく権利は持っていないのです」
 真夏のパリを舞台にした連続殺人犯と警部の対決の結果はいかに!?


【メグレ罠を張る】【ジョルジュ・シムノン】【モンマルトル】
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「仮面の恐怖王」 江戸川乱歩

2009-09-18 | ミステリー・推理小説
「怪しい事件となれば、犯人はもう決まったようなもの。そう、怪人二十面相のしわざだ」
 言ってはいけないことをあとがきで言い放った法学部教授・許光俊の解説。

 ロウ人形館より出現した謎の鉄仮面。その鉄仮面が秘宝「星の宝冠」を所有する有馬邸に出現したとの知らせを受けて駆けつけようとした名探偵明智小五郎は、背後から何者かに襲われ、気がつけば洋上の虜となっていた……。

 アルセーヌ・ルパンの変装だった黄金仮面や怪人二十面相が正体であった青銅の魔人などの蝋人形が置かれたロウ人形館から物語が始まりますが、これって単に「鉄仮面が最初に出現した場所」という意味以外、何もないんですよね。本物そっくりの明智探偵と小林少年の蝋人形があったというエピソードすら、なんの伏線にもなってない。ロウ人形館の中曾夫人も汽船の少女もその場限り。掲載誌が少女雑誌ではなく『少年』だったせいか、少女探偵マユミさんも単なる電話番。人気作家が児童向け雑誌で書き飛ばしているといった感じです。なんだかなー。

【仮面の恐怖王】【江戸川乱歩】【武部本一郎】【許光俊】【黄金仮面】【花崎マユミ】【スクーター】【怪人二十面相】【ゴリラ】【埋蔵金】
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「海底二万里」 ジュール・ヴェルヌ

2009-09-17 | 水の世界・海洋冒険SF
 学生時代は「あんたに薦められた本を読んでみたけれど、そんなに面白くなかったぞ」と良く言われたもんです。いや、どんな本にでも誉めるところ見るべき点はあるわけだし、つまらない点だけを大声でまくし立てても野暮ってもんでしょ?
 自分の好きな本が「良書」とか「名作」とは限らないし(逆も真なり)、「好きな本」と「人に勧めたい本」も同じとは限りません。書かれた時代や目的も考えないといけませんよね。
 個人的な記録としては★で評価するのも良いと思うのだけれど、ブログとして公開するのであれば、時代性とか歴史上の意義まで含めて「作品」として評価するのか、あくまで自分の「好み」として評価するのか、スタンスが定まらないのならやらない方が良いですね。

 さて、そこでジュール・ヴェルヌの『海底二万里』です。

 1866年。次々と海難事故を引き起こす「動く暗礁」を調査するため、パリ科学博物館のアロナックス教授らは太平洋に向かうが、その船もまた謎の怪物によって沈められてしまう。
 だが、漂流する教授らを救ったのは潜水艦<ノーチラス号>だった。怪物とは海中を走る船だったのだ!

 この作品も今のラノベ感覚で読むと、ちっとも面白くないと思います。キャラクター性は弱いし、期待に反してメカはあまり活躍しないし、海底の描写ばかり延々と続くし、しかもやたらと長い。じっくりと神秘と驚異の海底の旅を仮想体験するのが目的のような本だから当然。
 もう21世紀として科学知識はそれなりに普及しているので「未知の世界に触れる興奮」というのはかなり薄まっていますし、ラノベ的に「想像の余地がないわかりやすさ」を求めてもいけません。個人的には後日譚的な『神秘の島』の方が面白い気がします。

【海底二万里】【ジュール・ヴェルヌ】【ネモ船長】【ノーチラス】
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「ゾティーク幻妖怪異譚」 クラーク・アシュトン・スミス

2009-09-17 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 遙かなる未来。魔術や降霊術が横行する地球最後の大陸ゾティークを舞台に繰り広げられる美と頽廃の終末世界の物語17篇。

 ラヴクラフトの盟友スミスによる幻想怪奇小説集。ゾティークものを全篇収録だそうです。短い作品ばかりなので、枕元において毎晩1編という読み方ができる本ですが、最近、夢見が悪いのはこの本のせいかもしれません。
 ただただ、町が滅び、人が死に、砂漠には白骨死体が埋もれ、海岸には腐乱死体が流れ着き、死者は甦生し、拷問人は考えつく限りの技を駆使し、鳥や獣や虫はひたすら人の身体を貪り、魑魅魍魎が跋扈するという話が続きます。本の内容紹介では「滑稽譚」と紹介されている『エウウォラン王の航海』にしても、ラストの1シーンだけ見れば滑稽かも知れませんが、そこに辿り着くまでが死屍累々。そりゃ、単なる「酷刑譚」ですってばよ。
 逆に言えば、これだけ同じ素材で同じトーンの話が続きながら、似たような話がほとんど無いというのはスゴイです。

【ゾティーク幻妖怪異譚】【クラーク・アシュトン・スミス】【大瀧啓裕】【東逸子】【降霊術師】【死体蘇生】【拷問】【銀死病】
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