「じゃあ、名のりましょう。びっくりしないように気をおちつけて聞いてください。ぼくはね、カイジン、シジュウメンソウです」
名探偵・明智小五郎の助手は小林芳雄だけではない。『妖人ゴング』事件以来、明智の姪である花崎マユミも助手として事務所に住み込んでいる。
そんなマユミに憧れて、なかば押しかけるように弟子になった中学1年生の淡谷スミ子と森下トシ子だったが、3人はある日、林の向こうに建つ洋館の時計塔に奇妙な人影を目撃する……。
怪人四十面相が初っ端から名乗りを上げる比較的珍しい話です。まあ、宇宙人だろうが電人だろうが、結局、怪人四十面相ということは読者には丸わかりではありますが。
雑誌『少女クラブ』に連載していたということもあって、明智小五郎のもう1人の助手・花崎マユミの他に、探偵志願の少女たちも加わっての怪事件です。ところが、活躍しないんですよね。少女探偵マユミさんが。
冒頭に出てきて怪人にびっくり、続いて暗い庭で張り番していて警官に犯人と間違えられて取り押さえられて出番はおしまい。ひどい扱いです。そりゃあ、小林少年のキャリアにはかないませんが、これじゃああんまりです。思わず出番は本当にこれだけか再確認してしまいました。
怪人四十面相に狙われた家に乗り込むのも、年ごろの少女がいる家なのにまず小林少年。マユミさんは庭で張り番です。最後に捕まっていた少女の身代わりとなって入れ替わるのも「少女のようなきれいな顔」の少年探偵団員です(まあ、マユミさんは18歳前後で中学生の少女たちとは頭1つ分背が違いますが)。それにイラストも3箇所ありますが、いずれも冴えない容姿。表紙のクリクリ目の小林少年の方がなんぼか可愛いという扱いです。少年探偵シリーズといえばまず柳瀬茂画伯だけれど、武部本一郎画伯の担当だったらもうちょい美人になっていたはず。ちなみにカット左は『塔上の奇術師』本編挿絵の山内版マユミ、右は『夜光人間』の柳瀬版。
冒頭に出てきて、物語中途でチョイ役、大団円には出番無し……あんまりです。でも、電話番しか出番の無かった『仮面の恐怖王』事件の時よりはマシかもしれません。
このあたりが戦後という時代だったのかもしれません。今なら、最低でも小林少年率いる少年探偵団と花崎マユミ率いる少女探偵団でどちらが犯人をつかまえるか競争する話になっていたことでしょう。『夜光怪人』事件ではもう少し活躍しているらしいので、こちらも近々読んでみることにします。
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