付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「嵐の中の動物園~三日月小学校理科部物語(1)」 川端裕人

2009-09-05 | 時間SF・次元・平行宇宙
「理科する心とは、冒険する心。冒険する心は、たくさんの不思議を引き寄せてしまう」
 森久保ルナ先生の言葉。

 三日月小学校は創立105年の伝統校。5年生のリョータ、翔、ケンシローの3人が遅刻した朝、学校の階段で水に濡れた不審な足跡が発見された。
 環境保護部、通称エコ部の七実と共に足跡の追跡をするリョータたちは、やがて謎の多い第二理科室の理科部に辿り着くのだが……。

 「SFマガジン」の09年8月号にレビューが掲載されていたけれど、『夏のロケット』の川端裕人が書いた学園タイムスリップ小説というところがポイントであって、理屈っぽいSFではなく児童ファンタジー。メアリー・ポープ・オズボーンの『マジック・ツリーハウス』シリーズと同じ傾向の作品です。小学生向きのつばさ文庫ですし。
 天気図作成が趣味のリョータ、お屋敷に住んでいて町の歴史に詳しいケンシロー、運動神経が良い翔という3人の個性はよく出ていて、それが活躍につながるのだけれど、エコ部の七実は典型的なヒールになっているのが気の毒。環境保護を最優先するあまりに視野狭窄に陥り、自分が仲間から聞いた伝聞以外は信用せず、科学そのものに不信感をいだいていて頭から敵視し、人に指図するだけで自分はほとんど動かない女性エコロジスト……って、読めますよね? まあ、包丁で傷だらけになるところは「やれることはやっているんだな」と思いますが、それも他の人の方が上手だったりしては立つ瀬がありません。
 まだまだ話は続き、科学部や顧問教諭の謎については語られそうですが、くれぐれも「頭でっかちなエコロジストが改心して科学技術のすばらしさに開眼する」という話にはなりませんように。

 そういや、うちの次男が『マジック・ツリーハウス』が好きだったから、ちょっと読ませてみよう。

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「光瀬龍 SF作家の曳航」 編:大橋博之

2009-09-04 | その他SF(スコシフシギとかも)
 歯医者の待合室に座っている間に出された1冊。この本とかSFマガジンの最新号をパラパラやりながら、「スレイヤーズを王道ファンタジーと読んで良いのか」などと語り合っていたわけですが、そんな日もあるのです。
 平成11年に亡くなった作家・光瀬龍の単行本未収録のエッセイ39編や短編13編を写真や略年譜などと共にまとめ、それに大橋博之が注釈を付けたもの。

「世界の人口の半分は女性であり、その女性のものの考え方、精神構造を知らなくて文化や文明を論ずることはできないのではないか?」
 『ロン先生の青春期』より。

 光瀬龍の作品というとなんとなく『百億の昼と千億の夜 』とか『宇宙叙事詩』が真っ先に名前が挙がり、壮大な宇宙ロマンの作家だというイメージがあったのだけれど、よくよく思い返してみれば70年代にジュブナイルSFで育った世代は光瀬龍で生きてきたような部分があります。NHKの少年ドラマにもなった『夕映え作戦』とか『暁はただ銀色』とか。山田隆夫や長門勇が出演した『夕映え作戦』は好きだったなあ。今でも、あのスクラムを組んで敵陣を突破するシーンは忘れられません。宇宙ロマンというより、もっと身近でちょっと不思議な世界というのでしょうか。
 なお、収録されている『暁はただ銀色』は雑誌での初出バージョンだそうです。これはこれで良し。

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「戦闘糧食の三ツ星をさがせ!」 大久保義信

2009-09-04 | 食・料理
「イタリア人はジェラートがないと生きていけないからね」
 アルバニアのイタリア軍補給連隊の大尉の言葉。
 イギリス軍が戦場でも紅茶がないと生きていけないように、イタリア軍にはアイスクリームが不可欠なようです。まあ、湾岸戦争時のアメリカ軍だってハンバーガーとコカコーラは前線でも食べることができたわけですし、自衛隊だって砂漠で寿司を食うのに四苦八苦してたわけで……。
 ちなみに、この取材時点でのイギリス軍の1日分のレーションには、かつて6パック入っていた紅茶のティーパックが4パックしか入っていなかったそうです。

 軍事ジャーナリストである著者が1993年からボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、マケドニア、コソボ、東ティモールと世界各地の紛争地を巡り、そこで出会った戦闘糧食22カ国・27種類・70食について紹介して星をつけるという異色のグルメ本であり、この手のミリメシ本の先駆け。

 「戦闘糧食」とは通称「レーション」、最近では「ミリメシ」などと呼ばれることもある、戦地で食べる携行食です。昔から関心を持つ人はいましたし、沖縄あたりへ観光旅行に行くと夜店で賞味期限がいつなのかも判らない米軍放出品を買うこともできましたが、一般に広まったのは、この本がきっかけかも。
 「レーション」や「ミリメシ」が一般的な単語とはいいませんが、少なくとも昔は駅前大型書店がミリメシを扱った書籍のコーナーを設置したりはしませんでした……。
 カラーは巻頭の16頁のみですが、そのぶん読み応えたっぷりで各国のお国柄や紛争地帯での様子を知ることができます。

【ミリタリー・グルメ】【戦闘糧食の三ツ星をさがせ!】【大久保義信】【ミリメシ】【紛争地帯の餓えた子供でも米軍Cレーションは食べない】
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「蠱猫~人工憑霊蠱猫01」 化野燐

2009-09-03 | 本屋・図書館・愛書家
 黒鬼コレクションとして届いた中の1冊。

 巨大な学園都市を構成する美袋学園では、常に幾つものプロジェクトが動いている。大きいものも小さいものも、重要なものもそうでないものも。図書館別館の土蔵に収納されている本草関係の蔵書整理や人類学研究室を中心とした鬼神データベース作りなどもその一環だ。
 だが、比較的オカルトや疑似科学を肯定的に扱う研究者の多い美袋学園では、妖怪を具現化する力を手に入れることで世界を根底から揺るがそうという有鬼派と、それを闇に葬ろうという無鬼派との攻防が密かに繰り広げられていたのだ……。

 1冊の妖怪図鑑をめぐり、2つの勢力が学園内で死闘を繰り広げる妖怪伝奇バイオレンスっぽい話。話としては、起承転結の承くらいまでで何の決着もついていないし、有鬼派は好き勝手に暴れ回り、対抗する主人公たちはまとまることのないまま翻弄されているだけです。
 面白かったけれど、すぐに続きが読みたくなるかというと、虚実入り混じった妖怪論、鬼神論が繰り広げられ、その図書館の様子を読むだけで満足というかお腹いっぱい。
 続きはまた落ちついてから探しましょう。

【蠱猫】【人工憑霊蠱猫01】【化野燐】【toi8】【京極夏彦】【鬼神】
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「煙突の上にハイヒール」 小川一水

2009-09-03 | その他SF(スコシフシギとかも)
 背負って使用する個人用ヘリコプターMewを衝動買いした女性の物語やメイドロボットが開発され普及していく世界の物語など「小説宝石」に掲載された5編の物語を収めた作品集です。
 「煙突の上にハイヒール」以下最初の4編が少しだけテクノロジーが今より発展した時代のボーイ・ミーツ・ガールとかガール・ミーツ・アレなどの物語なのですが、最後の作品「白鳥熱の朝に」だけはちょっと毛色が変わっています。最初はヤン・ウェンリーとユリアンなのか!?と思わないでもありませんでしたが、別種の、もっと重くてもっと身近な話でした。ちょうどインフルエンザの流行で高校野球の応援がどうのとか合唱コンクールがこんな形でとか報道されている時期でしたからなおさらそう思えたのでしょうか。確かにこれもテクノロジーの発展によるエピソードに違いありませんが、なにより客観的な報道を装ったマスコミのセンセーショナル優先の姿勢に怒りを覚えたのでした。
 少し先の未来の話ではあるけれどそんなに堅苦しいテクノロジーの話が出てくるわけでもない、SFよりは一般文芸にかなり寄っていった作品です。あいかわらず面白く、とりあえず周囲に薦めて回ります。

【煙突の上にハイヒール】【小川一水】【車載カメラ】【個人用ヘリコプター】【ロボット】【ウィルス】【不気味の谷】
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「泣き夜叉」 高橋義夫

2009-09-02 | 時代・歴史・武侠小説
 幕末から明治維新を生き抜いた遊び人辰五郎の生き様を描く……というほど立派な人物でも無し。小悪党ってやつですね。貧乏長屋で呑んだくれ、博奕ですってんてんになっては誑かした女を売り飛ばし、盗みに入っては失敗し……という人間のクズですが、運に恵まれたことからいっぱしの男と売り出して……というか周囲が勘違い。おりしも風雲急を告げる幕末の江戸で何をしでかす!?辰五郎?

 ……いや、てきとーにその場その場をやりすごしているだけなんですが、何が面白いかよくわからなかったな。共感できないもん。
 まあ、小悪党にも小悪党なりの人生があったっつぅことで。

【泣き夜叉】【高橋義夫】【大政奉還】【雪子】
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「さよならの次にくる(新学期編)」 似鳥鶏

2009-09-02 | 学園小説(ミステリ)
「(子供が)いなくてもいいと思う人はいるだろう。だが失っていいと思う人はいない」
 伊神進の言葉。

 ちょっと女の子みたいな優しい顔の少年が主人公。とても推理が得意な先輩が卒業してしまったんだけれど、今はたった1人で美術部を守って後輩が入ってくるのを待っているのね。ところが、ふとしたことから小柄な1年生女子が飛び込んできて部員になるのだけれど、どうやらその少女は少年に恋しているみたいなんだな……とあらすじを紹介していたら、高校生の長男が「それ、なんていう“文学少女”外伝?」というツッコミをいれてきた。
 確かに自分でも説明していてそう思ったし、読んでいてキャラのイメージが交錯してしまって苦労したけれど全然違う話です。

 謎の1つ1つはそんなにすごくはありません。最初のトリックは『刑事コロンボ』の「魔術師の幻想」と同じネタだし。ただ、それらを二重三重に組み合わせ、物語を二転三転させて最後まで予断を許さなくしているところが巧さです。しかもこうして読むと、意味不明だった前編「卒業式編」の断章もすんなり収まってしまいます。
 デビュー作、『理由(わけ)あって冬に出る』ではちょっと唐突感があったラストの二転三転も、この『さよならの次にくる』前後編ではうまくストンと落ち着いて、良い感じのオチになっていました。
 柳瀬さんもけっこう鋭いし、野暮天なのは葉山くんだけかもしれません。そもそも可愛い子を見ての感想がまず「描きたい」という時点で健全な高校生失格です。新キャラ佐藤希ちゃんに葉山くんはなんと思われているのでしょうか?
 愛学シリーズが次に来るような気もするし、続編が出ることを期待して待ちたいです。

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「スター・トレック2~カーンの逆襲」 ヴォンダ・マッキンタイア

2009-09-01 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 劇場版スター・トレックの2作目。SF映画として完成させよう、大スクリーンで巨大な宇宙船を再現しようという気合いが空回りしてしまったような1作目から転じて、テレビシリーズの後日譚として制作されたのが『カーンの逆襲』。当時ロードショー公開でも2本立てがあたりまえだった名古屋地区では『フライング・ハイ2』と同時上映w。それをじっくりノベライズしたのが本書。

 砂漠の惑星を調査していたUSSリライアント艦長テレルと一等航海士チェコフは、そこで優生人間カーンの一党に捉えられてしまう。
 かつてUSSエンタープライズのカーク船長の奸計にはまって惑星セティアルファ5に追放されたカーンだったが、アルファ5は追放直後の環境変化で死の星と化してしまい、以来15年間カーンは復讐のチャンスを待ち続けていたのだ。
 仇敵であるカークが今は提督となり、訓練生たちと共にエンタープライズ号で訓練航海中と知ったカーンは……。

 カークたちの老いを感じさせるシーンがそこかしこにあり、旧レギュラーの引退と世代交代を暗示させるのですが、実際はそこからかなり頑張ってしまったのは『宇宙戦艦ヤマト』と同じ。幸いにもTNGのジャン=リュック・ピカードに主役を引き継いだのだけれど、さすがはカーク。

 「艦長」と「船長」の違いは指揮するのが「軍艦」かそうでないかの違いなので、ネモ船長はあくまで船長ということにこだわりますが、ジェームス・T・カークもテレビシリーズでは船長なのですね。エンタープライズ号が戦闘目的の軍艦ではなくパトロール船という設定なので。
 でも、これ以後は艦長になります。TNGではピカード艦長だし。原語ではどちらも「Captain」で同じ。

 士官候補生のサービック大尉を演じたカースティ・アリーが契約のもつれから次作ではロビン・カーティスと交替。いかにもバルカン美女のカースティからロミュラン的なロビンに変更されたのは残念無念。しかし、カースティ・アリーは太ったり痩せたりが激しいなあ……って、本の話ではありませんね。

【宇宙大作戦】【スター・トレック】【カーンの逆襲】【ヴォンダ・マッキンタイア】【斎藤伯好】【暗黒星雲】【宇宙葬】
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「“文学少女”と恋する挿話集2」 野村美月

2009-09-01 | 本屋・図書館・愛書家
 “文学少女”シリーズの挿話集で、連作短編の形式にはなっていますが、琴吹さんと森ちゃんと反町くんたちの視点から見た“文学少女”の物語。

「みっともなく思えたっていいじゃない。できることを片端から全部やって、頑張った人が勝ちだよ」
 恋するななせに伝える夕歌の言葉。

 ハイネに笑い、中也に泣き、タゴールにドキドキする1冊。本編で心葉と遠子先輩と美羽の間がどろどろぐつぐつし、人が死んだり行方不明になったり裸になっている間に琴吹さんたちの間にはどんなことがあったのか、そんな疑問に答える挿話の数々をゆっくり楽しむ間もなく一気読み。もったいないのであらためてゆっくり読み直したいと思います。
 本当に他人のために一生懸命な森ちゃんとか、こっそり乙女チック街道を爆走している琴吹さんとか、水着エプロンで自爆してしまう反町くんとか、胸の薄さと人の話を聞かないところはあいかわらずの遠子先輩とか、“文学少女”をひととおり読んでからおさらいのために読んでおきたいです。

【“文学少女”と恋する挿話集】【野村美月】【竹岡美穂】【ハイネ】【暗黒の中原一族】【ナボコフ】【ケストナー】【バイロン】【タゴール】【水着エプロン】
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