付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「高砂コンビニ奮闘記」 森雅裕

2010-01-22 | エッセー・人文・科学
「強盗来ないかなー」
 トラブル対処法は指導しないのに、客に愛想だけは振りまけという本部。本部はオーナーを見下し、オーナーはバイトを見下し、バイトは夜間シフトと昼間シフトで悪口を言い合い、質の悪い客とはケンカする。
 出版界を乾された乱歩賞作家が体験したコンビニバイトの13ヶ月の記録ですが、読んでいると心がどんどん荒んでいく気がします。自分もコンビニでバイトした経験はあるけれど、よくぞ同じ店で5年も続いたなと思います。今でも夢に見るくらい。
 この高砂コンビニは特に客筋も悪かったのかも知れませんが、こういうフランチャイズというのはコンビニに限らず、どこも「鵜匠が鵜を集めている」ようなものです。本部が損しないようにできているんです。ギャンブルだって、客になるより胴元になった方が儲かる理屈です。だいたいこういう契約書の基本は「オーナーは本部の指示を守る義務がある。本部はオーナーが損しないよう努力する」というラインですからね。
 私が務めていた店のオーナーは契約いっぱい営業した後、さっさと店じまいしてベテラン店員ごと別の店を開きましたね。もちろん契約書にはフランチャイズ解約後も類似業種への参入を禁じる一項があったはずだから、うまくかいくぐつたなとその新商売を見て思ったものです。
 さて、この本の後半1/4は、出版業界で干された経緯から、その後の人間模様まで。日本でも孤独死や餓死なんて話が報道されると、コメンテイターが「なぜ助けを求めなかったんでしょうか」などとしたり顔で言うけれど、著者の経験からは「みんな落ち目の人間とは関わり合いになりたくないだけ」だそうです。偉そうに講釈たれる金持ちに限って会話すら避け始めるし、「贅沢だ」「甘えるな」と意味のない言葉だけで追い込もうとする人ばかり。玉子かけごはんしか食べていないと告白して「贅沢だ」と言われたら、もう何も言えませんよね。
 ただ、これからコンビニに限らずフランチャイズ事業に手を出そうとしている人は、始める前に読んでおいた方が大事な貯金を失わずに済むかも知れません。それからもう1つ。さまざまな新商品の開発で、社長や役員が選考するところはよくテレビで放映されたりするけれど、従業員やバイトに訊いたことないねという話は面白かったですね。所詮は上から目線かと。

【高砂コンビニ奮闘記】【悪衣悪食を恥じず】【森雅裕】【不倫】【トイレ】【リストラ】【面接】【ハローワーク】【噂】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「女王の復活」 ヘンリー・ライダー・ハガード

2010-01-22 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 『洞窟の女王』の続編である『女王の復活』ですが、わが家にも創元文庫版があるかと思っていたらロマン全集版しかありませんでした。こんなイラストで女王といわれたら、どこのメディチ家かと思ってしまいますね。イラストって大事だなあ。

 若返るはずの生命の焔をあび、逆に醜く老いさらばえた残骸と化してしまった洞窟の女王アッシャだったが、女王の恋人であったレオは生きかえると誓った女王のことばを信じ、彼の後見人である醜いホリーと共にアフリカの奥地から神秘の国チベットへと旅を続ける。
 その前に姿を現す謎の女性ヘスの正体は……。

【女王の復活】【ヘンリー・ライダー・ハガード】【輪廻転生】【精霊の力】【カルーン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「白夢(スノーミスト)」 瀬尾つかさ

2010-01-21 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
最近、作家買いしている瀬尾つかさの本。今回は霧に包まれた山奥の学校付近に出没する謎の怪物と、それと戦う中高生たちの物語。
 霧はどうやら別の世界と通じているようだが、なぜか主人公が転入したあたりから霧の出る日が多くなり、出現する怪物の数も増えているのだが……という話で、単なる学園バトルのようにもみえるのだけれど、ここからどう転ぶか先の見えない面白さがあります。
 ヒロインには特殊能力は全くないのだけれど、とにかく高いところに登りたがるという、あんたは三蔵法師か錬金戦団の斗貴子さんかというキャラクターなのです。どこでもなんでも登るという時点で、既に特殊能力だろうという気もしないじゃないですが、この少女もうまくストーリーや設定に組み込まれていて活き活きとしていて良いキャラです。性癖がちょっと偏っているルームメイトも頼りになるし、やはり瀬尾つかさは買って正解。

【白夢】【スノーミスト】【放課後の霧使い】【瀬尾つかさ】【るろお】【メイド】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「十三番目のアリス(3)」 伏見つかさ

2010-01-21 | 超能力・超人・サイボーグ
「真の毒舌とは、相手の堪忍袋の緒を、薄皮1枚残すようにして放つものなのです」
 九条院アリスによる毒舌奥義継承。

 3巻目にしていきなり番外の短編集です。早いなあ。
 むしろ、今までの展開を見ていると本編・番外編関係なく、連作中短編形式で続けていった方が良い気がします。

 別の話だったら主役カップルになっていそうな宮田怜奈と桐山誠人の出会いを描いた「女子寮の眠り姫」。早朝の女子寮に乗り込んで半裸で寝ている美少女を起こして学校に連れてくるなどという仕事が公務だなんて、普通の高校生なら鼻血もので狂喜乱舞ですが、誠人くんにとっては迷惑千万な厄介ごと。まあ、相手が「箱入りお嬢様」から「駄目オタク」にジョブチェンジした人ですから、癖がありすぎるのが困りものですが、かわいいところもあるようです。世間様には通用しませんが。
 「どきどき温泉パニック!」はせっかくみんなで温泉に来たなら覗かないのは失礼にあたると、怜奈が男湯覗きに突貫する話。ダメダメです。
 殺戮人形の十二番目、銀髪紅眼の美少女・リリスの生い立ちを描いた「十二番目のリリス」は2巻の裏話でもありますが、やはり、リリス主人公の話でも良かったんじゃないかと思わせる中編。まあ、そうすると意外と良くある話のようになってしまうので、今の形が正解なのかも知れません。でも、アリスに主役を任せていると話が進まない気がするのは気のせいでしょうか。
 最後は、美少女にしか見えない鬼百合三月が純朴でのんびりした少年ながら、根はしっかり年相応にスケベであり、純朴であるがゆえにおのが欲望をあからさまに口に出してしまうという「純情★ボーイ・ミーツ・ガール」。「十二番目のリリス」でちょっと暗くなってしまった雰囲気を脳天気方向に修正して3巻の締めとしています。

【十三番目のアリス】【伏見つかさ】【シコルスキー】【女子寮】【メイド】【露天風呂】【教会】【ぺたんこ】【毒舌】【ダイエット】【裸エプロン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「NOVA1」 編:大森望

2010-01-20 | その他SF(スコシフシギとかも)
 大森望によって編纂された、日本作家によるSF短編集。
 テーマの決まってない短編集というのは苦手なんですね。普段なら読まないだろう面白い作品に巡り会えるかも知れない反面、明らかに好みではない作品を読まざるをえないからです。でも、食わず嫌いを言っていてはいつまで経っても世界が広がりませんから、たまにはエイヤッと見知らぬ本に手を出すのです。
 これは作家の名前からたいてい予想できる範囲の内容でしたが、巻末に掲載されていた伊藤計劃の未完小説のイントロ部分がいちばん面白かったのです。死者を蘇生させて使役するのがあたりまえになっているヴィクトリア朝ロンドンで、謎の事件解明のため政府の秘密機関に徴用される軍医ワトソンの物語。続きが気になって仕方がないのです。これからどう展開するのか興味津々。なんてこったい、これが絶筆か……。

 いろいろバリエーションは考えているようなんだけれど、後半になって「言語による認識が現実をも左右する」というモチーフの作品が目立ちました。1つ1つは面白いし、それぞれ料理法は変えているのだけれど、まとめて読むとちょっと飽きます。あと、グロとクソ話は苦手。

【NOVA】【書き下ろし日本SFコレクション】【伊藤計劃】【円城塔】【北野勇作】【小林泰三】【斉藤直子】【田中哲弥】【田中啓文】【飛浩隆】【藤田雅矢】【牧野修】【山本弘】【大森望】【手塚治虫】【宇宙戦艦ヤマト】【フランケンシュタイン】【グーグル】【殺人事件】【トンデモ】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「十三番目のアリス(2)」 伏見つかさ

2010-01-20 | 超能力・超人・サイボーグ
「『負ける』って、そういうことじゃないわ。貴女は、一人で勝手にあたふたと走り回っていただけ。『負けた』なんて言葉を使っていい段階じゃない」
 だから正面から敵を見て、戦い、勝てと告げる母ラミアの言葉。

 三番目を撃退したものの、それが平穏な日々が訪れることを意味してはいなかった。
 転校してきた美少女リリス・グラムに誘惑されるかの鬼百合三月の言動に、気にせぬフリをしていても婚約者である九条院アリスは気が気ではない。そんなアリスとリリスの関係は一触即発だが、その頃、月城町に奇妙な二人連れが姿を現す。
 この老紳士然とした口調の青年と大食いのドジっこメイドこそ第十研究室の室長、<縫合義体>アレク・フランケンシュタインと彼の生み出した十番目の殺戮人形・悠里であった……。

 ツンデレすぎて単に「性格悪い」でひとくくりにされそうな主人公アリスと、純朴なのはいいけれど何が良くてアリスに付き合っているの?と思いたくなる婚約者三月。それって「ヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害」と「どM」ってだけでないの?とツッコミたくなります。
 ドジで大食いで怪力なメイド型戦闘ロボというのもなかなかお馬鹿で良いですが、あまりに直球勝負なのでもう少しひねってもいいんじゃないかと思いました。

【十三番目のアリス】【伏見つかさ】【シコルスキー】【ゴシックロリータ】【メイド】【大食】【プール】【ぺたんこ】【ロケットパンチ】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「オペレーション・アーク2」 デイヴィッド・ウェーバー

2010-01-19 | ミリタリーSF・未来戦記
 本屋の妻から電話があって「セーフホールドセンシってやつの新刊が出てるけど買っとく?」と訊かれ、「買ってない。いらない」と返答をしたのに、実はしっかり買っているシリーズでした。いや、「××戦史」とか電話でいわれると、なんか大河ファンタジーみたいじゃないですか。今回は表紙もいまいちだし、初めてのシリーズなら手に取らないだろうけど、前巻がそれなりに面白かったから仕方がないじゃないか。

 停滞させられていた文明を活性化させようというマーリンの介入は順調に進むが、一方でマーリンによって技術革新していくチャリス王国を叩き潰したい教会勢力は諸国に呼びかけ戦争準備を進めていく。

 以上。
 マーリンの介入が静かに始まりました。目立たないように、少しずつ文明に介入していくのですが、このあたりパイパーの『異世界の帝王』やパーネルの『デイヴィッド王の宇宙船』を思い出してニヤリとします。中世レベルの世界にいきなりオーバーテクノロジーを導入しようとしてもうまく行くはずがないのです(失敗の典型はマーク・トゥエインの『アーサー王宮廷のヤンキー』です)。発想の転換で、今あるものに改良を加えて一気に水準を跳ね上げるにはアイデアだけで十分面白くなります。火薬の配合割合、大砲の砲耳、帆走船の帆の張り方あたりは基本です。
 確かに面白いし、文明介入モノが好きな人にはたまりませんが……それにしたって展開が遅すぎ。いや、確かに色々キャラの動きや各国の動向をしっかり描写してあって、それはそれで面白いけれど……話が全然進んでませんよ?

【オペレーション・アーク】【セーフホールド戦史】【デイヴィッド・ウェーバー】【ウスダヒロ】【義体】【植民惑星】【数字】【防諜】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「聞かせてよ、ファインマンさん」 R・P・ファインマン

2010-01-19 | エッセー・人文・科学
「この世界に大事なものは実用だけじゃない」

 縛られることが嫌いで、権威が嫌いで、やりたいことを自由にやろうというファインマン。自分にとっての称賛は、自分の考えた数式や理論を他の学者が使ってくれることだけで十分であり、ノーベル物理学賞だって本当はいらなかったし学会なんか参加する意味がないと語るファインマン。
 1988年に亡くなったアメリカの物理学者リチャード・ファインマンは、その独特の言動で物理化学が苦手な人にもファンが多い不思議な人で、そのユーモラスな逸話集はロングセラーとして今も店頭に並んでいます。『聞かせてよ、ファインマンさん』は著者がファインマンになっているけれど、他の作品と同様、彼が講演やインタビューなど50年間に語った内容をまとめたもの。
 父親の与えてくれた科学的思考のための教育について、電子計算機やナノテクノロジーの未来について、本物の科学とエセ科学について、科学と宗教について、そして握りつぶされそうになった『スペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告』などなど。

 「経験から事実を学ぶ」ということがいかに難しいかファインマンは指摘し、科学の名を借りたエセ科学がいかに蔓延しているかを指摘します。それは単に詐欺目的のイカサマに限りません。
 「科学」というものは、実験か経験によって真偽を決するという原則と、原則に矛盾しない普遍的な知識の集大成だと定義します。そして、その定義においては、教育も社会学も刑法学もカーゴカルト同様の疑似科学に過ぎないと一蹴します。どんな条件で再現しても同じ結果が出るというなら、教育は常に正しく、犯罪者は減っているはずではないかというのです。
 その上で、科学がすべてとは断言しないし、非科学的な方法で正しい結論に到達するケースもあるかもしれないというあたりが心と知性の謙虚さというものかもしれません。

【聞かせてよ、ファインマンさん】【R.P.ファインマン】【知的専横】【マンハッタン計画】【教育】【宗教】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「吼える海流~魔大陸の鷹(1)」 赤城毅

2010-01-18 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 時は大正、処は花の巴里。子爵家の放蕩息子で終わらせるのは惜しいと、海軍大将・伊集院隆介は、甥の伊集院従吾にジンギスカンの墳墓より発見された未知の金属板の謎を解くべく南海行きを命じる。
 苦手の叔父に難題を押しつけられた従吾だが、これもまた余興と美女と美少女を引き連れて愛機を駆って南海へと向かう。その行く手に立ちふさがるのは、世界支配を画策する軍隊、そして謎の怪人・暗闇公爵!

 平成の世に、明治から昭和初期にかけての秘境探検小説・冒険小説をリバイバルさせようという作品群。こんな企画が通ってしまったのはなんというか海野十三や押川春浪が再評価されたのではなく、ゲーム『サクラ大戦』あたりの影響のような気がします。
 こういう活劇は今こそ実写映画で観たいものです。

【吼える海流】【赤城毅】【絶海の孤島】【成吉思汗】【神器】【米国海兵隊】【黒魔術】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「機巧少女は傷つかない(1)」 海冬レイジ

2010-01-17 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「人は理由を得て学ぶ」
 機巧物理学担当のキンバリー教授の言葉。入試の成績はたいした問題ではないと。

 機械文明と魔術が融合し、魔術回路を内蔵する自動人形と人形使いの組み合わせによって魔法陣も呪文の詠唱も不要となった20世紀初頭。市民生活においても、戦場でも、自動人形と人形使いの姿は普通に見られる光景となっている。
 遙か東洋の島国からリヴァプール市にあるヴァルプルギス王立機巧学院に留学してきた赤羽雷真と夜々は、転入早々にトップランカーの1人である<君臨せし暴虐>シャルにケンカを売り、1対10の戦いも余裕で切り抜け、そして風紀委員会にスカウトされた。他の自動人形を破壊して回る謎の人形使い<魔術喰い>を捕まえるのに協力してくれれば、トップランカーの頂点を決める夜会への参加権を与えようというのだが……。

 イメージCDがいきなり発売されるという、編集部一押しの新シリーズ開幕です。確かに面白いですね。科学と魔法の融合した世界、魔法学園でのボーイ・ミーツ・ガール劇。西欧世界にやってきた日本人男子と大和撫子(の自動人形)が、ツンデレお嬢さまやら毒舌風紀委員に遭遇したりしつつ、謎の連続襲撃犯を追うけれど、目的はあくまで復讐……という、お約束を上手く取り込んでいる、ある意味王道の物語。主従1組のバトルというのも、ポケモン以来定番だけれど、これまたきっちり消化してます。
 まあ、あれこれいうけど、基本的に良くできたスチームパンクって好きなんですよ。これ、スチームパンクだよね?(10/01/17)

 何回か読み直して気づいたのは、スチームパンクの要件を満たし、かつ20世紀初頭のイギリスを舞台にしていながら、ぜんぜんそれっぽくないんですよね。別に現代でも、ちょい先の未来でも通用するのは「学校」という閉鎖空間の物語だから。
 作品そのものの面白さとは関係ないけれど、ちと残念。(10/01/20)

【機巧少女は傷つかない】【海冬レイジ】【るろお】【禁忌人形】【復讐】【傀儡師】【風林火山】【夜伽】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ソロモン王の洞窟」 ヘンリー・ライダー・ハガード

2010-01-17 | トレジャーハンター・宝探し
「真の勇者は、泣くのを喜ばない。やつを天国にいかせてやりたいのなら、涙のかわりに、勇気をほめてやるんだ」
 黒人の誇りを持ったズールーの戦士、ウンボパの言葉。

 19世紀末のイギリスは文学の可能性の宝庫ともいえるカオス状態だったといいます。そんな中で張りあっていたのが、『ジキル博士とハイド氏』や『宝島』で知られるロバート・ルイス・スティーヴンスンと秘境冒険小説の大家であるヘンリー・ライダー・ハガード。そして彼らを目標としていたのが本当は歴史小説で名を上げたかったコナン・ドイル。
 そのハガードの代表作が『ソロモン王の洞窟』。

 アフリカの奥地の「知られざる国」に今も眠るというソロモン王の秘宝を求め、アラン・クォーターメン、ヘンリー卿、グッド大佐の3人が灼熱の砂漠と氷の山々を踏破していく……。

 主人公アラン・クォーターメンは、インディ・ジョーンズが登場するまでは「冒険家」の代名詞でした。初めて読んだのは、小学館の『ワイドカラー版少年少女世界の名作文学8~イギリス編6』。今、手元にないから断言できないけれど、これも武部画伯の挿絵ではなかったかな。
 これを横田順弥がリライトしたのが「痛快世界の冒険文学(10)」となる『ソロモン王の洞窟』でした。基本は抑えつつも、愉しんで書いているなあと思いましたが、表紙の真ん中はヘンリー卿。クォーターメンは語り手ですか、そうですか。

【ソロモン王の洞窟】【H・R・ハガード】【横田順弥】【日蝕】【武士道と騎士道】【ソロモン街道】【ジュール・ベルヌ】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「星界の王死すとき」 ジョン・ジェイクス

2010-01-16 | 宇宙・スペースオペラ
 銀河系からの移住がおこなわれて数万年。第二銀河系は“星界の王”とも呼ばれる複数の“交易卿”による支配が確立され、交易卿は警察機構である統制庁を使って人々を統治している。
 マックスミリオン・ドラゴナードは優秀な統制官でありながら脳の欠陥から生じる暴力衝動を抑えきれず犯人を殺害してしまったため、囚人惑星で終身刑に処せられていた。そのドラゴナードの前にかつての上司ヴァルクが姿を現す。800歳は生きるはずの交易卿が、各地で次々に死んでおり、その事件の背後にいるらしいメトセラと名乗る人物について調査することで恩赦を与えようというのだ。
 ドラゴナードはメトセラの組織である「心臓旗」軍団に潜入すべく惑星ペンタゴンへと向かうのだが……。

 交易卿と統制官の世界に、優秀でありながら何故か組織から弾かれようとしているドラゴナードという男を媒介にして語られる物語であり、誰が味方になり敵に回るか二転三転する活劇小説。
 第二銀河系シリーズの第1作だけれど、時代的には表紙に吊られて買った『今宵我ら星を奪う』の方があとの話。『The Planet Wizard』で3部作完結らしいけれど未訳。残念。

【星界の王死すとき】【第二銀河系シリーズ】【ジョン・ジェイクス】【佐藤道明】【勢力バランス】【黄金色の目】【臓器移植】【騎獣】
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「テレビ番外地~東京12チャンネルの奇跡」 石光勝

2010-01-15 | 伝記・ノンフィクション
「視聴率をとれ。だが、くだらん番組は作るな」
 東京12チャンネルの社長となる中川順の言葉。
 制作サイドとしては、せめてどっちかにしてくれと泣いたらしい。

 予算もなく、人もなく、視聴率は取れず、番組を放映できない時間帯さえあった東京12チャンネル(現・テレビ東京)の創設期から編制や制作に関わってきた著者が回顧する、小さなテレビ局の奮闘記。こういう黎明期のごちゃごちゃした雰囲気の話は好きなのです。きれいごとでは生きていけない、なりふり構わない世界です。
 新興の何もない局だけに、タモリをコメンテイターにして『モンティ・パイソン』を放送しちゃうし、映画でヒットした永井豪原作の『ハレンチ学園』をテレビ化できちゃう。大河ドラマだってエイヤッと12時間連続で放送するという暴挙も企画が通ってしまって、しっかり視聴率を稼いだりする。大きな局だと保守的でなくても怖くてできないことも、なんだかんだと意見をぶつけ合ったあげく通ってしまうのが面白いところ。
 ただ、金もないし視聴率も取れないので、人気が出たタレントは他局へ移っていってしまうし、番組だってヒットすれば幾らでも真似される。きちんと報道できなかったこともあるし、失敗だって少なくない。そんなあれこれを語っている本です。
 いちばん面白かったのは、永遠に交わりそうにない平行線のイスラエルとアラブに絡む外交レベルのクレームを、日本的な「まあまあ」「そこはおいといて」の精神で乗り切ろうとしたくだりでしょうか。それから、松本清張と視聴率調査の話。

【テレビ番外地】【東京12チャンネルの奇跡】【石光勝】【ローラーゲーム】【日本経済新聞】【八百長談義】【ニュース速報】【12時間ドラマ】【三猿】【ラーメン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「十三番目のアリス」 伏見つかさ

2010-01-15 | 超能力・超人・サイボーグ
「私は三番目よ。貴女が眠らせている力を暴き出してあげるために来たの」
 それは平穏な日々の終りを告げる言葉。

 新古書店の店頭で見かけ、「ふうん。伏見つかさのデビュー作なんだ」と思って買おうかどうか迷い、結局また今度と諦めて帰ったら、自宅の書庫の奥に既刊がそろってましたよ。これはいつ誰から譲り受けたのだろう……?

 傲岸不遜で知られる九条院アリスには鬼百合三月という許嫁がいる。なよなよしていて女のようではあるけれど、アリスは三月のことを気に入っている。本人には言わないけれど。
 アリスが三月に告げていないことはまだ他にもある。
 実はアリスは一度死にかけたときに、母親のラミアによってロストテクノロジー・スフィアの移植手術を受けていたのだ……。

 将来の戦略を考えて子供同士を許嫁にするような裕福な家庭が、どちらも子供に自分のことは自分で片づけるよう育てているってあたりが面白いですね。放置されているというより、本格的な貴族教育のような気がします。特にアリスの方は前後の事情から考えると、母親が放置しているというより生き残り戦略というのは確実です。
 シリーズ開始としてのつかみは上々ですが、さてどうなっていくのか愉しみに追っていきたいと思います。

【十三番目のアリス】【伏見つかさ】【シコルスキー】【ゴシックロリータ】【冷嬢の心得】【ジャバウォック】【LTスフィア】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「若きウェルテルの悩み」 J・W・ゲーテ

2010-01-14 | その他フィクション
 高校時代、夏休みの読書感想文を書くのに分厚い本を読む気はないし、かといってこども向けの本でも笑われるので「ネームバリューがあって薄い本」を探していて到達。安かったし。

 若きウェルテルは親友の許嫁であるロッテに恋いこがれてしまうが、何も知らないロッテは親友と順当に結婚。一人勝手に悶々としたあげく死を選ぶ……。

 ごめん。
 ロッテはひとりよがりの陶酔に巻き込まれなくて良かったねとしか思えませんでした。悲劇というより喜劇。恋する青年の愛と不安と絶望を叙情的に描いた書簡体小説という評価をみれば、わたしは物を書いたり批評して身を立てる商売に就かなくて正解だったと思います。

【若きウェルテルの悩み】【ゲーテ】【キリスト教】【偲ぶ恋】【青春】【ボーイ・ミーツ・ガール】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする