付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「石の花/金星探検/ふしぎの科学/アファナーシェフ童話 …他」 少年少女世界の名作38

2010-01-13 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 グリム童話とアンデルセン童話の違いは、グリム兄弟が民話や説話を収集して編纂したのに対して、アンデルセンの作品は創作童話がメインであるということ。
 このソビエト編5はグリム・タイプの作品が目立ちます。
 『アファナーシェフ童話』もロシアの昔話を編纂したもので、金のガチョウの変形で兄弟の遍歴物語「金のたまごをうむカモ」、ほら男爵の冒険の元ネタになっただろう「空をとぶ船」、正直男の投資話「三つの銅貨」、豆から生まれた子供が鉄の蛇と戦う「パカチガローシコ」、貧乏な男が悪魔を欺す「シャバールシャ」の5編。
 バジョーフの『石の花』もウラル地方の伝説をまとめたうちの1編。カーチャが石を切る姿に萌えたのだけれど、今考えれば、この話は山の女王と若き天才石工ダニールシコ、そしてダニールシコの許嫁カーチャの三角関係にすぎない気がしなくもありません。そう思うと、山の女王ってイイヒトですよね。
 ロケットの父『ツィオルコフスキー』の伝記は、フォン・ブラウンやコロリョフの話を読む前に基礎知識として読んでおきたい一編。私が最初に読んだのはゴダードの伝記でしたけれど。
 ウラジミール・イワノヴィッチ・オルロフの『ふしぎの科学』は影や泡などをテーマに奔放に繰り広げられる科学コラム集。緯度によって影のできかたが変わるから彫刻の様式も変わるとか、ヘッドライトの位置を上にしたら夜間走行できなくなった戦車の話とかいろいろ面白いエピソードが満載。ただし解説でも著者の経歴は不明とのことで、今ネットで検索しても翻訳された『ふしぎの科学』もしくは『科学のふしぎ』の著者として書誌的に名前がひっかかるだけです。ロシア語で検索すると、科学エッセイストでイズベスチヤ紙の科学部長を務め、レーニン勲章をもらったらしい……くらいまでは分かりますが。
 そして最後は『ドウエル教授の首』で有名な“ソ連SFの父”ベリャーエフの『金星探検』。世界中で恐慌が起こり革命の嵐が吹き荒れている中、金持ちたちがロケット<箱船号>で地球脱出を試み金星に不時着する話ですが、昭和初期の作品だけに有産階級と勤労階級の対立が強調されています。そのあたりがソ連的ですね。でも、缶詰の質が悪すぎです。

『アファナーシェフ童話』原作:A・H・アファナーシェフ/絵:小野かおる他
『ツィオルコフスキー』文:瀬川昌夫/絵:伊藤展安
『石の花』原作:パーベル・バジョーフ/絵:中山正美
『ふしぎの科学』原作:B・オルロフ/絵:若月てつ
『金星探検』原作:アレクサンドル・ベリャーエフ/絵:武部本一郎

【ワイドカラー版少年少女世界の名作38】【ソビエト編5】
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「デュラララ!!×7」 成田良悟

2010-01-13 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
『鉄が固いか脆いか確かめるのに、粘土を叩きつけても意味などないのだ』

 名古屋地方でも今週からテレビ放映が始まる『デュラララ!!』の最新刊ですが、今回はインターミッションの日常篇。日常篇の方が安心して読めます。面白いとかつまらないとかではありません。ジェットコースターは3分で満足するものであって、丸一日乗り続けるものじゃありません。そういうようなことです。乗用車を蹴り転がすバーテン服の静雄が日常に融け込んでいる世界ですから、刺激が強すぎます。
 男を巡って狂気の戦いを繰り広げる女2人の物語とか、小学生の女の子が「ころしあいができるようになりたい」と言い出す話とか、チャカポコ馬車でキャッキャウフフの旅行をすることになった闇医者と首なし騎士の道中記とか。
 ヴァローナもかわいいけれど、やっぱりセルティのあたふたするところがいいなあ……首がないのにかわいいよ。

【デュラララ!!×7】【成田良悟】【売人】【借金取り立て】【妖精】【盗聴器】【露西亜寿司】【電撃】
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「宇宙船ビーグル号の冒険」 A・E・ヴァン・ヴォクト

2010-01-12 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「世の中には実際苦しい目にあってみないと心を変えることができぬという人間もあるのだ。現実に直面し、やっと考えが変わったところで、はじめてもっと抜本的な手段を感情的にも受け入れることができる」
 正しい提言が常に受け入れられるわけではないことを知っており、それで諦めるのではなく受け入れられるタイミングを計り続けるのがエリオット・グローヴナーという総合科学者であった。

 大勢の科学者を乗せて宇宙探検に飛び立ったビーグル号の前にはさまざまな世界の予想もしなかった怪物が襲いかかる。
 その危機的状況を打開できるのは専門バカの科学者ではなく、すべての科学を縦断的に分析しようという総合科学部唯一の部員、エリオット・グローヴナー部長だった……。

 黒い破壊者ケアル(クァール)、1つの銀河系全体に広がる無形生物アナビス、幻覚を送り込む鳥人リーム、物質透過をする緋色の悪鬼イクストル……。
 さまざまな宇宙の怪物たちに挑む科学者たちの物語ですが、手元にあるのは創元版。ハヤカワ版も機会があれば手に入れて読み比べたいものです。

【宇宙船ビーグル号】【A・E・ヴァン・ヴォクト】【小農民期】【不規則原子】【原子放射線砲】
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「彷徨える艦隊5~戦艦リレントレス」 ジャック・キャンベル

2010-01-11 | ミリタリーSF・未来戦記
 ロミュランのねーちゃんがいるぞ!?というのが、表紙を見た第一印象だったのは内緒。

「殺しは、ときには必要だ。自分の故郷や家族や大切なものを守るためには、必要になる。だが、憎悪は心をむしばむだけだ」
 ギアリー大佐の母の言葉。

 ギアリー大佐指揮する艦隊は行く手を阻む敵を打ち破りながらも祖国アライアンス宙域をめざすが、艦艇は次第に数を減らし、弾薬も燃料も食糧も枯渇寸前という刀折れ矢尽きるのも間近という惨状。
 けれども、反ギアリー派もしくは異星人によるテロ工作は沈静化せず、大佐の心に迷いが生じ始めていた……。

 加速度的にテンポが早くなり、本当に6巻で完結するかも知れないと思わせる5巻めです。破壊工作あり、宙兵隊の強襲作戦あり、そして艦隊戦ももりだくさん。文化ギャップと責任の重さに潰れそうな大佐が艦隊を率いて故郷めざして転戦していくエピソードの繰り返しのようでありながら、次第次第にテンポが速く、大きく、勇壮になっていくあたりが、ボレロのような小説だと思いました。
 そして、まさに戦争SF。艦隊戦ではぶどう弾が飛びかい、敵発見から交戦開始まで何時間という、まるで帆船の戦いですが、それでもストーリーはきちんとSFであり、舞台を16世紀のカリブ海あたりに移し替えただけでは成立しないSF的な面白さが堪能できます。そこが魅力なんでしょうね。

【彷徨える艦隊5】【戦艦リレントレス】【ジャック・キャンベル】【寺田克也】【捕虜収容所】【宙兵隊】【自由政府】【人事課】
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「サラエボ旅行案内」 FAMA

2010-01-11 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「事態が悪くなればなるほどユーモアの生産量は増す」
 これが人間の叡智であり文化の底力であるという池澤夏樹の解説。

 ユーゴスラビアから独立したボスニア・ヘルツェゴビナで発生した内戦は1992年から1995年まで続き、死者だけでも20万人を超えたとされています。その間、セルビア人勢力によって包囲され続けた都市サラエボの状況を、ミシュラン形式のガイドブックとして紹介したものが本書。日本版の刊行は1994年1月です。
 こういう本を第三者が作ると悪趣味と非難されるかも知れませんが、サラエボを拠点とする編集グループによるものなので一種のブラック・ユーモアを利用したアピール活動といえるでしょう。
 包囲下の都市に出入りできるのは、外交官・報道関係者・人権援助活動グループ。救急車や赤十字の腕章は狙撃のターゲットにしかすぎず、街の真ん中には国連治安維持部隊が抑えた空港があるけれど、外へのキップを手に入れるのは至難の業。その優先順位やワイロの相場から、市内の交通事情、食事や観光についてもあれこれフォーマット通りに記述されています。
 市電・バス・バン・トロリーバス・ケーブル鉄道は動いておらず、タクシーは存在していません。車は壊れるか没収されるかで、ガソリンも不足しているので主な交通手段は徒歩、そして自転車。ショッピング用カートもレンタルできたようです。ちょっと外出するにも瓦礫を乗りこえ、裏口を通り抜けと片道が精一杯。たまたま電気が通じていて飲み物が手に入った家でパーティーが開かれるというと2日がかりとなります。昼間に移動して辿り着き、徹夜で騒ぎ、また次の日1日かけて自宅にたどり着く……というもの。
 葬式は日常茶飯事だけれど、身内以外は出席しないし花も贈らないのが通例。贈りたくても花など売っていない。そんなセルビアの街を見て歩くためのガイドブックです。

【サラエボ旅行案内】【史上初の戦場都市ガイド】【FAMA】【戦闘糧食】【墓地】【病院】【国連軍】【劇場】
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「俺の妹がこんなに可愛いわけがない(5)」 伏見つかさ

2010-01-10 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「過ちを認めるのは、できることをすべてやってからだ」

 暮れにインフルエンザにかかって以来、体調も気力も低空飛行。仕事も忙しくなってきたし、買ってきた新刊は山積みのまま。なんというか、“読んだことのない新しい本を読む”って、気力が必要なんですよね。一度読んで、はっきり面白いと分かっていて、かつ安心できる結末の本を何度も読み返す日々でした。比較的最近の本だと、『シアター!』とか『ほうかごのロケッティア』とか……。
 新しい本が読めるようになったというのは復調の兆しかなと思います。

 妹がいなくなったけれど、異性のオタク友達がいて、自分の部屋にはエロゲーがあって、近所の幼馴染みの麻奈実はいつものように「きょうちゃん」と呼んでくれる。
 最近の高坂京介の日常を簡単にまとめるとそんなところ。なんか羨ましい話のような気がします。そんな彼の最近の心配ごとは、春になって入学してきた新入生の中に、黒猫がいたことでした……。

「友達というのは、永遠にそばにいてくれるものではありません」
 ちょっと含みのある沙織・バジーナの言葉。
 彼女はいったいどうしているのでしょうか。

「仲間がいれば、私はまだまだ頑張れるのよ。最近分かったことだけど」
 黒猫の言葉。
 彼女も彼女なりに良い方向へ変わってきているようです。、

 妹ぬきの新展開かと思ったけれど、不在なら不在でみんなの心に影を落とすのは困った妹です。それでも今回のメインは黒猫さんと完璧なる委員長にして恐るべき変態さん。出番が減った沙織さんと元々出番の多くない麻奈実ちゃんの動向も気になりますが、黒猫さんの日々の様子をじっくり追えたという意味では収穫の巻。いや、良いキャラです。

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない】【伏見つかさ】【かんざきひろ】【五更瑠璃】【アカギ】【神ゲー】【妹が腐女子】【同人ゲーム】【となりの801ちゃん】
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「樹海の歩き方」 栗原亨

2010-01-10 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「もう、樹海で遺体を発見するのはやめた方がいいんじゃないかな」
 見つからなければ遺族も生きているという希望を持てるのにと捜査員の言葉。

 自殺の名所といわれた東尋坊から飛び降りるのが趣味のおじさんがいたように、同じく自殺の名所と言われている青木ヶ原の樹海を踏破するのが趣味の人がいるのが世の中というものです。そんな趣味の著者が、樹海の概要から注目スポット、装備の選び方まで書いたマニュアルが本書です。
 ただがっかりするのは日本最後の秘境である青木ヶ原でもコンパスは狂わないということ。「樹海では溶岩に含まれる磁鉄鉱などの影響でコンパスが狂う」というのは村営博物館にも記載された常識ですが、実際に著者が歩き回っていて狂ったことはないし、たまたま遭遇した陸自のレンジャー部隊に訊いても狂ったことはないという答えだったそうです。
 ただ、磁石が狂わないからといって遭難者や自殺者がいないわけではなく、かなりの頻度で遺体等に遭遇しており、遺体を発見したときの通報の仕方などにも紙幅が費やされていますし、袋とじは見つけてしまった死体のカラー写真集なので、そのまま破り捨てて見なかったことにしました。

【樹海の歩き方】【栗原亨】【さまよえる亡霊】【青白く光るキノコ】【野犬の群】【人食い熊】【首吊りの巨木】【祭壇】【洞窟】【コロニー】【まぼろしの遊歩道】
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「グロリアスドーン (1)」 庄司卓

2010-01-09 | バイオシップ・人工知能
「何でも自分の目で確認したいというのは、大変良い心がけだと思います」
 崩れ落ちてきた瓦礫の真ん中で、ティセがぱたぱた両手を振りながら。

 宇宙船型をした地球外生命体bioクラフトとのコンタクトから20年。bioクラフトとのパートナー契約を結んだ地球人も1200人を超えるというが、人類文明にさほど大きな変化は生まれていない。
 bioクラフトの目的は人類自身による地球文明の進歩。しかも10万年経っても進歩がなければ考え、100万年経っても相変わらずなら対策を講じるという宇宙的レベルゆえ、10年や20年では目立った変化が起きるはずもない。
 そんなある朝、自宅のベッドで目を覚ました高校生・大空広大の隣には、Tシャツ姿の美少女が寝ていた……。

「で、それなんてギャルゲー?」
 ……というところから始まる物語。いわゆるラノベ系統の文庫では激減しているスペースオペラものです。しかし「時代背景は現代」「主人公は日本人少年」「ヒロインはツンデレ」という売れるラノベの三大伽から始まったシリーズですが出足は好調。顔はほとんど無表情で、身体の横で手をぱたぱたさせることで感情表現するヒロイン、ティセ・グロリアスドーンをはじめ、脇を固める登場人物たちもなかなか良い感じです。

【グロリアスドーン】【庄司卓】【四季童子】【ドリル】【ファーストコンタクト】【バイオシップ】【幼なじみ】
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「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻~津軽強襲」 榊涼介

2010-01-09 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「この隊は整備の隊なのだ。あの者たちの祈りと期待と悪ふざけに守られ、はじめて戦うことができるのだ」
 善行がかき集めた部隊を率いて、戦場となった津軽半島へ向かう芝村舞。このひとことでガンパレは総決算と言っていいかも知れません。

 とはいえ、榊ガンパレはどこへ行ってしまうのでしょう……?
 榊版オーケストラ白の章は出ていたものの、うまく話の流れがマーチにしっくりとつながらなくてモヤモヤしていたら津軽強襲ですよ、奥さん。ヒロイン天国小隊が出てくるかと思ったら、石田のイの字もありませんよ……ああ、第118警備師団の一ノ瀬千穂千翼長という新キャラが登場していますので、「イチノセ」でイの字はありました。
 この一ノ瀬千翼長がまた人型戦車マニアで士官学校から東北の学兵小隊へと左遷させられたという人物で、他にも幼年学校班長で牛乳を毎日1リットル飲んでいるという相馬順平やら副班長の小林恵津子とか、まるで白の章をなかったことにして一からやり直しているような気配があり、この面々からも目が離せません。

 日本国内の幻獣は九州を制圧したカーミラの指揮下に入り、人類との和平は成立した。しかし、幻獣の王はカーミラだけではない。新たな幻獣の勢力が樺太と沿海州から津軽半島に上陸し、北海道との連絡線を途絶させてしまう。
 善行たちはまだ再編も終わらない部隊から戦力を引き抜いて東北へ送り込もうとするが……。

 いまだ主戦派の水面下工作は終わらず、口先三寸の山川中将が大活躍(ただしイラストはどこぞの芸能プロの社長みたいで威厳があんまり感じられないのが残念)。まだ生きているのか!?の西王アリウスはもはや不死身の最強キャラ(もしくはアンパンマンにやられるバイキンマン状態)。表紙は壬生屋と瀬戸口ですが、5121のメンバーはまだ精神的に回復しきっておらず、前線では名前も出してもらえない兵士たちが戦っては幻獣に呑み込まれて消えていっている有様。芝村支隊は果たして間に合うのでしょうか。
 とはいえ、今回最大の注目株は、すっかり忘れられていた秘蔵っ子、猫の手師団こと大阪第4師団でしょう。装備は良いけれど逃げてばかりで良いとこ無しの弱兵部隊というふれこみですが、一方で本人たちは「計算して、黒字出す戦争する。それが大阪師団の戦い方や」と豪語しています。ユーラシアの激戦を大きな損害もなく生き残ってきたのは、実力か、はたまた運の良い臆病者なのか。
 新たな戦いが始まります。

【ガンパレード・マーチ】【逆襲の刻】【津軽強襲】【榊涼介】【きむらじゅんこ】【ラボ】【暗殺計画】【配給係】【第一艦隊】【県庁】
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「キング・コング」 田中芳樹

2010-01-08 | 怪獣小説・怪獣映画
「弱肉強食の論理がまかりとおり、貧富の差が開いて、不公平感がつもりつもると、犯罪やテロという形で敗者の復讐がはじまる。貧しい人たちをサポートするのは、ただ人道上の措置というだけでなくて、社会全体の平和と安定にとって必要なことなんだ」
 ジャック・ドリスコルの言葉。田中芳樹作品だけあって名言・警句はけっこうありますし、政治家やマスコミへのあてこすりもそれなりに。このあたりは好き嫌いが多いでしょうね。

 友人が「これ、置いていく」とハードカバーをポンっと置いていきました。特徴のあるチョコレート色のボックス……あ、「キング・コング」だと気づく。
 話のあらすじは誰でもたいてい知っているんじゃないかと思います。

 南海の孤島に上陸した探検隊が原住民に崇められている巨大サルを捕獲。アメリカまで連れて帰って「キングコング」として見せ物にするが、美女をさらって逃げ出して……
と、その先のオチまで書いてももはやネタバレにはならないだろう有名作品。それをピーター・ジャクソンの映画化に合わせて集英社がノベライズを企画。まだフィルムも完成していないどころかシナリオも決定稿が届かない状態で田中芳樹に好き放題脚色させたという異色作。映画が無視している髑髏島の植生や謎の航海記録の出所まで設定するなど田中芳樹の力の入れ方も片手間じゃあありません。
 前半4/5は秘境探検もの、後半1/5は怪獣パニックもの。そして田中芳樹との対談を兼ねたメイキングが同じくらい。田中芳樹のアレンジは、蘊蓄とか同時代ネタをばんばん加え、ヒロインは映画よりも目一杯「女」にしてみたりとノベライズの枠を超えて面白くなっています。

【キング・コング】【田中芳樹】【寺田克也】【1933】【ボーナス・アーミー事件】【地底世界】【チャーリー・チャン】【鄭和】
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「奇厳城/ペロー童話/紙カヌーの冒険/ガルガンチュア物語 …他」 少年少女世界の名作22

2010-01-07 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「天の火、山のあらしよ。わたくしのあいする友、この古いかしの木をきずつけないでおくれ。わたくしがおまえをあいしたように、子どもたちがいつまでもおまえをあいしてくれますように」
 エンミの祈り。

 さあ、フランス編です。
 フランスの作品なんてデュマ以外は馴染みがないと思いきや、ルブランのアルセーヌ・ルパンものがありました。忘れちゃいけませんね。名編『奇厳城』です。
 紀元前のガリア戦記の時代からフランスに秘かに受け継がれてきた謎を巡って怪盗ルパンが暗躍し、イギリスの名探偵シャーロック・ホームズ(オリジナルではエルロック・ショルメ)、宿敵パリ警視庁のガニマール警部、そして高校生探偵イジドール・ボートルレがルパンと対決するというもの。で、こちらは悲劇的な結末のクライマックスをすっぱりカットしたハッピーエンド版。これを思うとホームズが独身を貫いた形になっているのは正解だと思います。

 それから、巨人の代名詞ともいうべきガルガンチュアが登場する『ガルガンチュア物語』。ただし、その息子である快傑パンタグリュエルにまでは届かず。
 ペローからは「長ぐつをはいたねこ」「サンドリヨン」「ほうせきひめ」「おやゆびこぞう」の4編。「サンドリヨン」は「灰かぶり」でシンデレラのことですね。よく知った有名な話ばかりです。
 『田園の保安官』はファーブルによる小品で、ふくろうの生態を語ったもの。
 500才の樫の木とブタ番の少年エンミの物語『ものいうかしの木』は、フェミニズムの旗手である女流作家サンドの作品。どろぼう村や森の描写が面白くて、意外と夢中になって読み返した記憶があります。
 そして、紙製のカヌー<キビブー号>でヨーロッパの河川1万キロを旅した著者ボーガン自身の記録である『紙カヌーの冒険』は、この本以外に情報がみつからず、本当はどうだったのかしらと思うことしきり。      

『ペロー童話』原作:シャルル・ペロー/絵:赤坂三好・多田ヒロシ・高橋真琴 他
『ガルガンチュア物語』原作:F・ラブレー/絵:村上勉
『田園の保安官』原作:アンリ・ファーブル/絵:藪内正幸
『ものいうかしの木』原作:ジョルジュ・サンド/絵:上田武二
『紙カヌーの冒険』原作:T・ボーガン/絵:依光隆
『奇厳城』原作:モーリス・ルブラン/絵:柳柊ニ

【ワイドカラー版少年少女世界の名作22】【フランス編3】
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「ニルスのふしぎな旅/コン・チキ号漂流記/絵のない絵本 …他」 少年少女世界の名作40

2010-01-06 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「そこ(5555キロの荒海)をいかだでのりきるなんて、できっこありません」

 小学校5年くらいの頃に従兄から譲り受けた『少年少女20世紀の記録』というノンフィクションの全集がありました。確か中学の図書館にも入っていましたが、『沈黙の世界』も『ノーチラス号北極横断記』も『地球は青かった』もこのシリーズで読みました。『コン・チキ号漂流記』も最初に読んだのは、このシリーズだった気がします(筑摩書房の「少年少女世界ノンフィクション」の方だったみたい。2022/11/02)。やっぱりノンフィクションは面白いよね。ヘディンのシルクロード探訪記も収録されていて探検小説三昧の巻です。
 それからNHKのアニメにもなった『ニルスのふしぎな旅』も別の児童向け全集で読んでいての再読。何度読んでも、一夜だけ浮き上がる街の話は悲しいね。
 天空を通る月が地上に見た光景や人間模様を作者に語る形式の『絵のない絵本』からは「インドのむすめ」「めんどりと女の子」「いなかしばい」「王座で死んだ少年」「森の道」「北の国」「神さまのおくり物」「道化役者」「空色の服とばら色のぼうし」「隊商」「木の上の人形」「ベルテルとアモール」「えんとつそうじの小ぞう」「白鳥」「くまの兵隊」「おいのり」……ああ、全部書きだそうと思わなければ良かった。全部で16編を収録。
 『ストリンドベリ童話』からは「海におちたピアノ」と「ねぼうな音楽家」。
 読み返すまで存在そのものを忘れていた『七人兄弟』は、フィンランドの農場の7兄弟の物語でどいつもこいつも勉強嫌いでなまけものの暴れん坊。最低ですね。

『ストリンドベリ童話』原作:ジョン・A・ストリンドベリ/絵:坂本健三郎
『コン・チキ号漂流記』原作:トール・ヘイエルダール/絵:柳柊ニ
『絵のない絵本』原作:H・C・アンデルセン/絵:斎藤博之
『七人兄弟』原作:アレクシイ・キビ/絵:藤沢友一
『シルク・ロード』原作:スヴェン・ヘディン/絵:古賀亜十夫
『ニルスのふしぎな旅』原作:セルマ・ラーゲルレーフ/絵:清沢治

【ワイドカラー版少年少女世界の名作40】【北欧編2】
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「消えた公爵家の子息~エノーラ・ホームズの事件簿」 ナンシー・スプリンガー

2010-01-05 | ミステリー・推理小説
 ナンシー・スプリンガーといったら初期のハヤカワ文庫ファンタジーにおいて、ケルト神話をベースにした「アイルの書」シリーズで一世風靡した作家。ナンシー・スプリンガーの新訳が出るぞ!と思ったら、ルルル文庫でエノーラ・ホームズの事件簿……?と知って腰砕けになったのは許して欲しい。

 元気いっぱいの少女エノーラ・ホームズの母が失踪したが、年の離れた兄であるマイクロフトもシャーロックもあてにならず、14歳になる妹がいわゆる淑女にふさわしい教育を受けていないと知るや全寮制の寄宿舎に押し込めようとする。
 女性を一人前の人間扱いしない家族や社会に腹を立てたエノーラは、母が残した暗号を解いて軍資金を確保すると大都会ロンドンへと向かうことを決めた。だが、その道中でエノーラは名門貴族の嫡男失踪事件に遭遇する……。

「マイクロフト、やめるんだ。見ての通り、この子はすこぶる背が高い割に、頭が小さくて脳味噌の容量が少ない」

 ヴィクトリア朝のイギリスですから、女性は男性に比べて劣っているものという認識が強く、法律的にも女性に不利な時代です。エノーラも初っ端から十何年ぶりかに再会した兄たちから散散な言われようです。だから、そんな状況で頑張ろうとする女性を描くと、男は女の能力をこれほどまでに低く見ているのだ、許しがたい、当然の権利を獲得せねばならない……というようになんというかジェンダー論っぽくなっちゃいますね。「元気な少女の冒険活劇」とか「ホームズもののパロディ」ではなく「女性が自立する物語」になっちゃうんです。
 それで良いと言えば良いのかなあ。

【エノーラ・ホームズの事件簿】【消えた公爵家の子息】【ナンシー・スプリンガー】【パーディトリアン】
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「ささみさん@がんばらない」 日日日

2010-01-05 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「おまえはまだガキなんだからさ、ひとりじゃ辿りつけない場所には、誰かに支えてもらいながら歩いていっていいんだよ。到着しないよりずっといい。それは甘えじゃない。信頼で、あたしたち大人は子供からのそういう期待が嬉しいんだよなぁ」
 高校教師、邪神(やがみ)つるぎの言葉。

 月読鎮々美(つくよみ・ささみ)は不登校児。不登校でも仕事に出かける兄・神臣の監視は欠かさない。別にブラザー・コンプレックスというわけではないけれど、動向を監視していないとすぐに世界が改変されてしまうのだ。
 世界の改変なんて容易なこと。世界を構成する八百万の神々にそれが良いと思わせるだけなのだから……。

 久々に読む日日日です。
 面白い作家だと思うのですが、このネーミングセンスに馴染めなく、なかなか買ってまで読む気にはなりませんが、今回は思わず表紙に釣られちまったぜ……。
 でも、釣られて損したと思わせないところが巧さです。エスカレートするSNSのイベントには笑いましたが、涼宮ハルヒなんて名前を挙げても良いんですか? ガガガ文庫で。
 つるぎ、かがみ、たまの三姉妹も最初に思ったよりは良い感じに物語にはまりました。かがみさんがもう少し存在感を出しても良かったかなと思いました。
 
【ささみさん@がんばらない】【日日日】【左】【涼宮ハルヒ】【最高神アマテラス】【バレンタインの惨劇】【SNS】【神々のヒエラルキー】
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「15×24(6)~この世でたった三つの、ほんとうのこと」 新城カズマ

2010-01-04 | ミステリー・推理小説
「怪獣と少女は常に正しい」
 老人はたわごとしか言わないが、たわごとにはたわごとなりの効用があると相馬老人。

 大人がどんなに理想を語ろうと、子供は大人のやることを見て育つ。
「ほんとうの大人ってのは……他人のために覚悟を決められる奴のことだよ」
 そしてタイムリミットが近づき、少年少女たちは集結する……。

 24時間の物語にもついに終わりの時が近づきます。
 しかし、それはすべての終わりではなく、ただのピリオドにすぎません。
 なんというか、「自殺したいという誰か」と「一緒に死んであげるよという少年」の物語については決着しましたが、最後に指摘されているとおり、すっきりと整理されていないパーツは幾つも残っています。ただ、この作者のことですから、これらのパーツがすっきり収まる説明がちゃんと用意されているような気がします。もう一度最初から、要点をチェックしながら再読していけば、きっとヒントが隠されているんじゃないかと疑っています。あるいは、読者が勝手に推理してあれこれ予想するのをにやにや見ているのかな。
 まったく不思議な話でした。まさにミステリー。



【15×24】【link6】【この世でたった三つの、ほんとうのこと】【新城カズマ】【箸井地図】【ケータイ】【性的虐待】【バルカンサイン】【都市神話工学】【この世でもっとも古い物語】
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