森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

秘密の小箱の「ひみつ」

2017-05-27 02:26:56 | 父へ

先日、実家に帰った時に、ちょっとだけ不思議な事がありました。

母のこの時の話題は、近所に入った泥棒の話でした。同じ地域に数件も空き巣が入ったらしいのです。物騒な事です。気を付けても気をつけすぎる事はありませんよね。
そんな話を終えて、いろいろなおしゃべりをしていたら、母が
「あっ!!」と言って席を立ちました。
「どうしたの?」と聞くと、
「庭に誰かいた。」などと言うのです。

庭などは母のいた方からしか見えません。
「嘘~!?」と私は言ってしまいましたが、先ほど空き巣の話をしたばかりで、不安になった母はすぐに他の部屋を見に行きました。

私は信じていなかったのか席も立たずにお茶などを飲んでいました。

だけど・・・・。

私の座っているところから廊下にかかっている絵が見えていたのでしたが、ケース型の額に入っているその絵に、さっと影が走ったのでした。

「おや、まあ。」と、私は呑気に立ち上がりました。

家の中などには、誰も入ってきていない事は分かっている事です。だけれど先ほど、気を付けられるだけ気を付けた方が良いと思ったばかりです。そっと忍び足で歩いていき、一応トイレとかお風呂場とかドアの影とかチェックしに行きました。

やっぱり誰もいないなと確認し戻ってきた私。
母も戻ってきました。

「きっと花ちゃんが来ていると分かって、お父さんもやって来たのね。」と母が言いました。

父が居た頃は私が遊びに帰って来ると、朝食の後、長い間三人でおしゃべりをしたものです。

「きっとそうね。」と私も言いました。


姉たちが建てた今の家ではあまりない事だと思いますが、昔の我が家ではよく気配とかちょっと不思議な事とかたくさんありました。だから勘違い妄想でも、なんだかフツーの会話として成り立つのでした。

私がちょっと不思議と思ったのは、そんな勘違い妄想かも知れない事ではありません。

「それにもうすぐ命日だしね。」と母が言って、
「そう言えばそうだ。じゃあ、やっぱりお父さんだね。」と私が言ったその時に、座っている私の視界にいきなり飛び込んできたのは、棚に無造作に置かれた薄汚れた小さな缶だったのです。

缶の上には竹宮惠子の可愛いイラストが印刷されています。元はチョコレートでも入っていたのでしょうか。

「なんだ、これは ?」
と、開けてみると、中にはメモリーカードが数枚入っていました。

あんなに父の部屋は片づけたのに、これはいったいどこから出てきたのだろうかと私は思いました。

それはなんだか秘密の小箱のような気がしてしまいました。

母もそう感じたのかも知れません。

「このメモリーカードに何が入っているのか見てあげるね。」と言うと、母は凄く嫌がりました。


秘密の小箱には「ひみつ」が入っているものですから。


ふたりは若くして出会い、そして若くして夫婦になりました。ある意味、二人は何処か幼いままの夫婦であったかもしれません。
父にはいつも女性の秘密が見え隠れしていて、母との人生をドラマチックなものにしていました。

秘密の小箱の中の「ひみつ」はそんな父の秘密なのでしょうか。


私は嫌がっている母の目を盗み、サッとその缶をバッグに仕舞ってしまいました。


そして家に帰った私は、そのメモリーを開いてみることにしたのです。
なぜなら、あの話の流れでその缶を見つけたのなら、そこには父の意志があるような気がしたからなのです。

 

 

トップ画像は、そのメモリー内にあった父の撮った写真です。

そして他の写真は、あちらこちらに行った旅行の写真や地域のイベントの写真。私たち姉妹と行った奈良旅行の写真など思い出深いものが写っていました。

2011年の3月11日は地域のバス旅行に行っていた父。震災のせいでバスが動かなくなり、帰宅が深夜になってしまったのでした。その時の旅行の写真は、この後に大変な事になる事も知らずに楽しそうにしている姿が写っていました。なんだか貴重な写真に思えました。この旅行には母は行きませんでした。だから母は写っていません。だけれど、他には母の写真がいっぱい写っていました。

旅行の写真に母。地域のイベントの写真に母。電車で他の人たちと大笑いしている母。公園でひとり澄まして立っている母。近所のおばさんと並んで笑っている母。ベンチに寄りかかっている母。

こんなに歳を取った妻を写す人っているのだろうかと、思わず我が夫殿と比べてしまいました。

 

秘密の小箱の「ひみつ」はこれだったのかと私は思いました。

 

月命日に必ず今でもお墓に参る母。

そんな母に、

「花ちゃん、ちょっとママちゃんに伝えて。僕の気持ちを。」と父は言ったのかもしれません。

 

すぐに私は姉に電話して言いました。

「あのね、お母さんに伝えて。お母さんがたくさん写ってたって。お母さんしか写ってなかったって。」

 

 

※          ※           ※

 

下の囲みは昨年の5月25日に投稿したものです。5月2日に姉妹で出掛けた事を遅れて書いていました。その追記の中で26日に恩賜公園内に居た象のはな子さんが亡くなった事が書かれていました。

その記事を読んでいてしみじみと、象のはな子さんの事を思い出していましたが、ふと、「26日って言ったら!!」と、父の命日と同じじゃないかと思いました。

 

あの日もさあ、お父さんもお母さんはドラマチックだったよね。

その日の事を書いた「今日は良い日だね その1」を読んで、私はちょっぴり泣いた。でも「今日は良い日だね その2」で、少し笑ってしまったんだ。


 
井の頭恩賜公園は森の中
 5月2日に訪れた、吉祥寺駅から数分の所にある井の頭公園は、思った以上に森の公園でした。その日は、姉妹3人で「萩尾望都SF原画展」を見に行ったわけですが、大きな公園が大好きな私......
 
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