本日、産経新聞に、感染症の権威、国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦氏の論説が載っていたので、掲載します。
内容的には、手洗い・うがい・マスク、不用不急の外出の自粛、企業活動の自粛など基本的な事柄です。その基本的な事柄の構築を社会にひろめられたおひとりとしての貴重な論説と考えます。
下線、太字、赤字は、小坂による。
****産経新聞(09/05/03)転載*****
【感染症と人の戦い】国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦
2009.5.3 03:18
このニュースのトピックス:新型インフルエンザ
■最小被害へ「手の内」あり
とうとう来たか、という思いだ。インフルエンザの専門家たちが長年、なかばオオカミ少年にでもなったかのように「いつか来る」と言い続けてきた新型インフルエンザが発生し、世界中に感染が広がっている。メキシコに端を発した豚由来のインフルエンザ(H1N1型)は、世界保健機関(WHO)の警戒水準(フェーズ)を世界的大流行(パンデミック)の一歩手前である「5」に引き上げ、このコラムのタイトルにあるように、人とウイルスの戦いは、まさに臨戦態勢に入った。
幸いなことに、姿を現したのは、これまで最大の仮想敵として警戒されてきた高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の変異ウイルスではなかった。目の前に現れた新型インフルエンザは、通常のインフルエンザとして毎年流行していたAソ連型と同じ「H1N1型」だが、似て非なるものだ。過去数回の大流行と同じ「豚」を経てやってきたが、鳥由来のものほど手ごわくなさそうに見える。
日に日に感染報告数が増え、世界を覆う空気は不安に満ちているが、小説やマンガのような「死のウイルス」がやってきたのではないし、正体不明のものが突然現れたのでもない。私たちはこれまで準備を重ねてきたし、少なくとも国内での被害を最小に食い止める「手の内」がいくつかあり、ひとりひとりの「心構え」にその成否がかかっているのだ、とお伝えしておきたい。
ほんの数年前まで、私たちは新型インフルエンザに対してほとんど“丸腰”だった。2002年、SARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した際、初期段階では「新型インフルエンザ発生か」と関係者に緊張が走った。それが本当に新型インフルエンザだったならば、現在の何倍も状況は混乱したに違いない。この反省もあり、その後、各国が連携したインフルエンザ監視体制の構築や、ワクチンの開発、抗ウイルス薬の備蓄など、新型インフルエンザへの備えが進められてきた。そうした備えは完璧(かんぺき)なものとは言い切れないが、既存の対策に「微調整」を加えれば、十分に太刀打ちは可能だ。
これまで備蓄を進めた抗ウイルス薬「タミフル」や「リレンザ」は今回のウイルスに効きそうだ。うまく使えば、ワクチンが製造されるまでの間を乗り切ることができる。限りのあるものの無駄遣いはできないが、熱が出たら早めに使うという方針が良い。
外出や企業活動の自粛…。ウイルスとの戦いは、一時的に個人の日常生活を大きく制限し、不便の連続となるかもしれない。以前、本欄でスペイン型インフルエンザに見舞われたアメリカの3都市を比較し、学校閉鎖や集会自粛など「ソーシャルディスタンシング(社会的な隔離)」を早めに行った都市では、対応が遅れた都市と比べ、人的被害が小さく食い止められた事例を紹介した。
新型インフルエンザは、症状が出始めたときには、すでに周囲に感染を広げている可能性がある。熱やせきが出始めたら、早めにマスクをつけるなど、他の人にうつさないための心遣いをしてほしい。新型インフルエンザを前に、落ち着いた行動を取るのは自分の身を守るためだけでなく、社会を、ひいては次世代への教訓を残すためにも重要なものとなる。(おかべ のぶひこ)
****転載終わり******