共同声明への各紙の考え方を見ておきます。
大事な部分と思われるところに下線を引きました。
*****朝日新聞社説*****
首相の普天間「決着」―政権の態勢から立て直せ これが、鳩山由紀夫首相の「5月末決着」の姿だった。深い失望を禁じ得ない。
米海兵隊普天間飛行場の移設問題は最後まで迷走を続けたあげく、政府方針が閣議決定された。臨時閣議に先立ち発表された日米共同声明とともに、移設先は名護市辺野古と明記された。
これは、首相が昨年の総選挙で掲げた「最低でも県外」という公約の破綻(はたん)がはっきりしたことを意味する。首相の政治責任は限りなく重い。
首相は決着の条件として、米国政府、移設先の地元、連立与党のいずれの了解も得ると再三繰り返してきた。
しかし、沖縄は反発を強め、訓練の移転先として唯一明示された鹿児島県徳之島も反対の姿勢を崩していない。
社民党党首の福島瑞穂・消費者担当相は国外・県外移設を貫くべきだとして方針への署名を拒み、首相は福島氏を罷免せざるをえなくなった。連立の一角が崩れたに等しい打撃である。
「5月末決着」という、もうひとつの公約すら守れなくなることを恐れ、事実上、現行案に戻ることで米国とだけ合意したというのが実態だろう。
地元や連立与党との難しい調整を後回しにし、なりふり構わず当面の体裁を取り繕おうとした鳩山首相の姿は見苦しい。
■同盟の深化も多難
この「決着」は、大きな禍根を二つ残すことになろう。一つは沖縄に対して。もう一つは米国政府に対して。
沖縄県民には、今回の政府方針は首相の「裏切り」と映るに違いない。
政権交代の結果、普天間の県外移設を正面から取り上げる政権が初めて誕生した。県民が大きな期待を寄せたのは当然であり、そのぶん反動として幻滅が深くなることもまた当然である。
日米合意は重い。だが辺野古移設は沖縄の同意なしに現実には動くまい。首相はどう説得するつもりなのか。
それが進まなければ、2014年までの移設完了という「日米ロードマップ」(行程表)の約束を果たすことも極めて困難になる。それとも強行という手段をとることも覚悟の上なのか。
一方、米国政府に植え付けてしまった対日不信も容易には取り除けまい。
きのうの共同声明は「21世紀の新たな課題にふさわしい日米同盟の深化」を改めてうたった。両国が手を携えて取り組むべき「深化」の課題は山積している。だが、普天間問題の混乱によるしこりが一掃されない限り、実りある議論になるとは考えにくい。
私たちは5月末の期限にこだわらず、いったん仕切り直すしかないと主張してきた。東アジアの安全保障環境と海兵隊の抑止力の問題も含め、在日米軍基地とその負担のあり方を日米間や国内政治の中で議論し直すことなしに、打開策は見いだせないと考えたからだ。その作業を避けたことのツケを首相は払っていかなければならない。
■「問い」あって解なし
普天間問題の迷走は、鳩山政権が抱える弱点を凝縮して見せつけた。
成算もなく発せられる首相の言葉の軽さ。バラバラな閣僚と、統御できない首相の指導力の欠如。調整を軽んじ場当たり対応を繰り返す戦略のなさ。官僚を使いこなせない未熟な「政治主導」。首相の信用は地に落ち、その統治能力には巨大な疑問符がついた。
もとより在日米軍基地の75%が沖縄に集中している現状はいびつである。県民の負担軽減が急務ではないかという首相の「問い」には大義があった。
しかし、問いに「解」を見いだし、実行していく力量や態勢、方法論の備えが決定的に欠けていた。
普天間に限らない。予算の大胆な組み替えにしても「地域主権」にしても、問題提起はするものの具体化する実行力のなさをさらしてしまった。
首相と小沢一郎幹事長の「政治とカネ」の問題や、利益誘導など小沢氏の古い政治手法も相まって、内閣支持率は20%を割り込むかというところまできた。鳩山政権はがけっぷちにある。
55年体制下の自民党政権であれば、首相退陣論が噴き出し、「政局」と永田町で呼ばれる党内抗争が勃発(ぼっぱつ)するような危機である。
しかし、鳩山首相が退いても事態が改善されるわけではないし、辞めて済む話でもない。誰が首相であろうと、安保の要請と沖縄の負担との調整は大変な政治的労力を要する。そのいばらの道を、首相は歩み続けるしかない。
そのためには民主党が党をあげて、人事も含め意思決定システムの全面的な再構築を図り、政権の態勢を根本から立て直さなければならない。
■参院選の審判を待つ
何より考えるべきなのは鳩山政権誕生の歴史的意義である。有権者が総選挙を通じ直接首相を代えたのは、日本近代政治史上初めてのことだ。
政治改革は政権交代のある政治を実現した。永久与党が短命政権をたらい回しする政治からの決別である。選ぶのも退場させるのも一義的には民意であり、選んだらしばらくはやらせてみるのが、政権交代時代の政治である。
歴史的事件から1年もたたない。政治的な未熟さの克服が急務とはいえ、旧時代の「政局」的視点から首相の進退を論じるのは惰性的な発想である。
普天間への対応も含め、鳩山首相への中間評価は間もなく参院選で示される。首相は「5月末」は乗りきれても、国民の審判からは逃れられない。
******以上 朝日新聞*****
*****毎日新聞 社説*****
社説:「普天間」政府方針 この首相に託せるのか
日米両政府は、米軍普天間飛行場移設に関する共同声明を発表した。移設先を沖縄県名護市の「辺野古崎地区及び隣接水域」とし、米軍訓練の鹿児島県・徳之島をはじめ県外への分散移転、グアムなど国外移転を検討するという内容だ。
政府は、共同声明に基づいて普天間移設と沖縄の負担軽減に取り組むとする政府方針を閣議決定した。
鳩山由紀夫首相は、共同声明の辺野古明記に反発する福島瑞穂消費者・少子化担当相(社民党党首)が政府方針への署名を拒否する考えを表明したため、福島氏を罷免した。
◇「信」失った言葉
普天間問題は首相が約束した、移設先の合意を含めた「5月末決着」も「県外移設」も実現できなかった。
閣議後に記者会見した首相は、県外の約束が守れなかったことを謝罪し、辺野古移設について「代替地を決めないと普天間の危険が除去できない」と語った。また、移設先・沖縄の理解を得ることなどに「今後も全力を尽くす」と述べ、首相の職にとどまる考えを明らかにした。
私たちは、鳩山首相が政治の最高責任者の座に就き続けることに大きな疑念を抱かざるを得ない。最大の政治課題、普天間問題での一連の言動は、首相としての資質を強く疑わせるものだった。これ以上、国のかじ取りを任せられるだろうか。来る参院選は、首相の資質と鳩山内閣の是非が問われることになろう。
首相は5月末決着に「職を賭す」と語っていた。しかし、今回の日米大枠合意は、「辺野古移設」を具体的に決める一方で、沖縄の負担軽減策は、辺野古移設の「進展」を条件とする今後の検討項目となった。カギを握る移設先の同意は見通しも立たない。「決着」にはほど遠い。
移設先をめぐる混迷は、より深刻だ。首相は「最低でも県外」「辺野古以外に」と明言した。「沖縄県民の思い」を繰り返し、「腹案がある」とも語った。06年日米合意の辺野古埋め立てを「自然への冒とく」と非難した。その結果が、現行案と同様の辺野古移設である。
国の最高指導者が「県外」「腹案」と自信ありげに断言すれば、沖縄県民が県外への期待を膨らませるのは当然だ。それを裏切った罪は重い。
県外から辺野古への変心は在日米軍の抑止力を学んだ結果だという。首相として耳を疑う発言だった。「最低でも県外」は党公約ではないと釈明を重ねる姿に、首相の威厳はない。
鳩山首相の言葉は、羽根よりも軽い。そう受け止められている。政治家と国民をつなぐ「言葉」が信用されなくなれば、政治の危機である。
首相が沖縄の負担軽減を願い、県外移設に込めた思いは疑うまい。しかし、希望を口にすれば実現するわけではない。政治は結果責任である。
経済財政政策や深刻な雇用への対策、緊急の口蹄疫(こうていえき)対応、政治主導の国づくり、緊迫する朝鮮半島情勢--内政・外交の諸課題が山積している。しかし、首相の言葉が信を失った今、誰がその訴えに耳を傾けるだろうか。深刻なのはそこだ。
日米同盟は日本の安全のために有効かつ必要である。「北朝鮮魚雷」事件で、改めてその思いを強くしている国民は多い。が、日米同盟の円滑な運営には、基地を抱える自治体との良好な政治的関係が不可欠である。辺野古移設を強行突破することになれば、その前提が崩れる。
◇まず普天間危険除去を
沖縄の合意のないまま辺野古移設で米政府と合意したことは、沖縄には、日米両政府が新たな負担を押しつけようとしていると映っている。県外移設に大きな期待を抱いた沖縄の、首相への不信は深い。その落差を、当の鳩山首相が埋めるのは果たして可能だろうか。
稲嶺進名護市長は受け入れ断固拒否の姿勢だ。11月に知事選を控え、かつて辺野古移設を容認していた仲井真弘多知事も、今回の日米合意の内容を認める環境にない。
同月のオバマ米大統領来日にあわせ、辺野古移設の詳細で日米合意しても、実現の保証はない。「世界一危険な基地」普天間が継続使用される最悪の事態が現実味を増している。普天間問題への対応は明らかな失政である。その責めは鳩山首相自身が負うべきだ。
普天間移設が現実に進展しないとしても、普天間問題の原点である周辺住民への危険除去は、ただちに取り組むべきだ。訓練分散などによる飛行回数の大幅減少は急務である。大惨事が起きかねない現状を放置してはならない。
共同声明は、訓練分散移転のほか、米軍施設立ち入りなどによる環境対策、沖縄東方の「ホテル・ホテル訓練区域」の使用制限一部解除など新たな負担軽減策を盛り込んだ。これらの措置は辺野古移設の進ちょくを条件に実施されるとしている。これでは、負担軽減策が先延ばしになりかねない。特に、訓練分散など普天間飛行場の危険除去策は、移設作業と切り離して対応すべきだ。
米政府にも、普天間の危険除去と騒音など生活被害対策に積極的に協力するよう求める。この点で日本政府には強い姿勢が必要だ。
その解決の先頭に立つ指導者として、鳩山首相には不安がある。
*****以上、毎日新聞*****
******日経新聞 社説*****
取り返しつかぬ鳩山首相の普天間失政
罪万死に値する失政である。
鳩山由紀夫首相が繰り返し表明した5月末までに米軍普天間基地の移設問題を決着させるという約束はほごにされた。日米両政府は普天間基地の移設先を沖縄県の「名護市辺野古」周辺と明記した共同声明を発表したが、代替施設の工法などの決定は8月末に先送りした。
連立政権内の調整は土壇場まで迷走。辺野古への移設に反対し、閣議での署名を拒んだ福島瑞穂消費者・少子化担当相(社民党党首)を首相が罷免する事態にまで発展した。
自ら信頼を損ねた愚
福島担当相の罷免に伴い、当初は社民党に配慮して具体的な地名を盛り込まない予定だった政府の対処方針にも辺野古と書き込み、ようやく閣議決定にこぎつけた。首相の政権運営には民主党内からも批判が出ており、求心力は一段と低下しよう。
しかも沖縄県名護市など地元の同意は得られておらず、社民党は辺野古への移設に強く反発している。移設のめどは全くたっていないのが実態だ。普天間基地が現状のまま固定化される恐れが強まっている。
政権発足から8カ月間にわたる迷走で、首相の言葉の軽さばかりが目立った。首相は普天間移設が日米同盟の根幹にかかわる問題であるという認識を欠いたまま、場当たりの対応に終始し、指導力を示せなかった。首相としての資質そのものが疑われるという深刻な事態を招いている。その責任は極めて重い。
首相は28日の記者会見で5月末決着ができなかったことを陳謝したうえで「今後も粘り強く基地問題に取り組み続けることが自分の使命」と述べ、続投する考えを示した。「この問題の全面的な解決に向けて命を懸けて取り組まねばならない」とも語ったが、この言葉を素直に受け取れる人はどれほどいるだろうか。
首相が福島担当相を罷免したのは当然だが、それにとどまらず社民党との連立を解消するのが筋だろう。安全保障という重要政策で根本的な意見対立を抱えたまま連立を維持するのはおかしい。選挙対策優先で連立を続けるなら本末転倒だ。
普天間問題がこじれた一因は、首相が昨年秋の政権交代前から、普天間の移設先は「最低でも県外」と約束し、沖縄の期待をあおったことにある。沖縄は当時、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設を定めた2006年の日米合意を容認する姿勢をにじませていた。しかし鳩山氏の発言もあってこうした空気は変化し、県外ないしは国外への移設を求める声が勢いづいた。
首相の「県外発言」は自民党政権との違いを出すことが目的で、米側の意向やアジアの安全保障情勢を踏まえたものではなかった。米側との協議は初めから難航したが、首相は軌道修正せず、3月下旬になっても「極力、県外」をめざすと言い張り、混乱に拍車をかけた。
日米両政府が最終的に、現行計画をほぼ踏襲し、辺野古への移設を盛り込んだ共同声明をまとめたことは評価できるが、前途は多難だ。11月の沖縄県知事選で県内移設を拒否する知事が誕生すれば、解決はさらに遠のくことになろう。
06年の日米合意が白紙に戻り、住宅地が密集する地域に普天間基地がいつまでもとどまるという、最悪の結末になりかねない。約8000人の米海兵隊員のグアム移転をはじめ、日米が合意しているさまざまな沖縄の負担軽減策も宙に浮く。
日米同盟のきずなも強く傷ついた。オバマ大統領に「トラスト・ミー(信頼してほしい)」と言ったにもかかわらず、決着を先送りした首相への米側の不信感は根強い。
辺野古案しかありえぬ
混乱を招いた大きな原因は、なぜ日米同盟が必要なのかという基本的な知識すら、首相が持ち合わせていなかったことだ。首相は有事に即応できる沖縄の米海兵隊が果たしている紛争抑止力について、当初、理解していなかったことを認めた。米海兵隊が沖縄にいなくても、抑止力に支障がないと考えていたという。
しかし日本とアジアの安定にとって、在日米軍による抑止力が必要であることは言うまでもない。日米同盟の修復を急がねばならない。
韓国哨戒艦の沈没事件で朝鮮半島情勢が緊迫するなか、北朝鮮が新たな軍事的な挑発に出るかもしれない。中国は海軍力の増強を加速しており、海上自衛隊の護衛艦に異常接近する事件が相次いだ。こうした危険に囲まれた日本の安全を守るには、強固な日米同盟が欠かせない。
とりわけ重要な役割を担うのは、朝鮮半島や台湾海峡に近い、沖縄の在日米軍だ。普天間などの米海兵隊基地を沖縄から撤去できないのはこのためだ。政府はこうした事情を丁寧に地元や国民に説明し、普天間基地の辺野古への移設に支持を取りつける責任がある。それを再確認するきっかけにするしかない。
*****以上*****
*****東京新聞 社説*******
辺野古方針決定 福島氏罷免は筋が違う
2010年5月29日
米軍普天間飛行場の移設先を辺野古とする日米共同声明が発表され、反対した福島瑞穂消費者担当相が罷免された。責められるべきは公約を実現できなかった鳩山首相自身であり、罷免は筋違いだ。
日米外務・防衛担当閣僚の共同声明は、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先を現行案通り、米軍キャンプ・シュワブのある名護市辺野古崎地区と隣接水域と明記した。いわゆる県内移設だ。
「最低でも県外」と公約した鳩山由紀夫首相は「現行案ではない」と強弁するが、在日米軍基地の約75%が集中する沖縄県民に負担を強いることに変わりはなく、そんな詭弁(きべん)は許されるものでない。
首相は自らが決着期限に設定した五月末までに米国、移設先、連立与党の合意を得ると言っていたものの、共同声明発表までに合意を得たのは米国だけだった。
移設先や連立与党を差し置いて共同声明を発表したのは、首相の体面を保つ意味しかない。
そんな共同声明に社民党が反対するのは当然だ。鳩山首相がすべきは、福島氏の罷免ではなく、国外・県外移設への努力を続けることではなかったか。
移設先とされた名護市の稲嶺進市長は「今さら辺野古だと言っても実現可能性はゼロだ」、沖縄県の仲井真弘多知事は「実行するのは極めて厳しい」と語った。
自民党政権時代に辺野古への移設が進まなかったのは地元の反対が強かったからにほかならない。
鳩山首相は今後、地元の反対を押し切ってでも移設を推し進める愚を犯すつもりなのだろうか。それでは自民党政権以下だ。
首相は二十七日の全国知事会議で沖縄での米軍訓練の一部を受け入れるよう協力を呼び掛けた。
在日米軍の基地負担を、沖縄だけに押しつけず、受益者である日本国民全体で可能な限り分かち合うという方向性は正しい。
しかし、具体案がないまま負担を求めても対応のしようがなく、沖縄の負担軽減に努力する姿を見せるパフォーマンスにすぎない。
政権発足後八カ月の迷走劇を、沖縄に過重な基地負担を強いる安保体制の現実に目を向けさせたと前向きに受け止める意見があることは理解するが、それ以上に、首相発言に対する信頼が失われたことの意味は大きい。
鳩山氏が首相として適任かどうか、参院選は本来、政権選択選挙ではないが、この際、国民の意思を参院選で示すほかあるまい。
******以上******