現在執り行われております「豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄(汚染証拠隠滅)差止請求訴訟」について、まとめて見ました。
<裁判の意義>
築地市場の移転候補地である豊洲の土壌汚染状況の調査に必要不可欠なボーリング調査の結果採取された土壌コアサンプルを、2009年6月東京都が廃棄しようとしていることが、確認されました。日本環境学会や市民団体などが、再三にわたり、東京都の汚染調査結果を科学的に検証するため、この土壌コアサンプルの開示と公開の場での討論を求めてきましたが、聞き入れられることはありませんでした。
万が一、豊洲の汚染土壌のコアサンプルが廃棄されてしまっては、豊洲の土壌汚染の実態調査について検証することが不可能となり、東京都による土壌汚染対策を含め、築地市場の豊洲移転政策の当否について、専門家による検証の道が完全に閉ざされてしまいます。
そこで、『NPO法人市場を考える会』 の皆様の呼びかけにより,2009年8月コアサンプル廃棄処分の人格権に基づく差し止めを求める訴訟(被告 東京都)が、東京地方裁判所に提起されることになりました。
新政権成立後の2009年9月24日朝、築地市場を視察した赤松農林水産大臣は、豊洲地区への移転について、安全について納得できなければ認可しないという考えを改めて示しています。(赤松農林水産大臣:「安全が確認できなければ、これは前の石破大臣もそうですけれども、また、私自身が納得できなければ絶対にサインはしませんから」)
築地市場は東京都が運営していますが、移転については農水大臣の認可が必要です。そして、安全の確認のために、大切な資料がコアサンプルであります。
移転をめぐっては、民主党が都議会で 「強引な移転は反対」 と主張し、2010年度東京都中央卸売市場会計予算には、「現在地再整備を検討する」旨の付帯決議が付されました。これに対して、東京都側は、汚染土壌を取り除いたうえで2014年に移転させる計画で、土壌汚染対策の効果確認実験を2010年6月現在実施中です。
いうまでもなく、築地市場は、全国に生鮮食料品を供給する「日本の台所」であり、場外市場を含め世界中の観光客が訪れる日本の食文化を象徴する文化資産そのものです。
コアサンプル廃棄の差し止めを求める訴訟提起の意義は、法廷という公開の場で、移転候補地豊洲6丁目東京ガス工場跡地の日本最大規模といわれる土壌汚染の状況を明らかにするとともに、その土壌汚染対策技術を科学的に検証することを通して、築地市場の豊洲への移転政策の可否そのものを問うことにあります。
<裁判の経過>
2009年
8月11日 第一次訴訟(原告14名 被告東京都) 提訴
:07年8月~08年8月に豊洲地区の計725箇所でボーリング調査した土壌(コアサンプル)を廃棄することは、汚染状況の再検証が不可能になり、そのまま有害物質が放置される恐れがある。安全性が確認できないまま市場が移転されれば、そこで働く業者や消費者に健康被害のリスクが生じ(人格権の侵害)、業者の営業権も侵害されるとして、廃棄しないように求めた。
10月7日 第一回公判
:コアサンプルを廃棄することと営業権・人格権の侵害の間の理論構成が、非常に難しい裁判であるため、当初、裁判長は、原告側の主張を「門前払いする」様相であった。よって、原告側に、理論補強の必要性が生じた。
12月2日 第二次訴訟(原告196名 被告東京都) 提訴
:原告は、コアサンプル廃棄に関して、継続的、密接的な行政的関係(「大家と店子の関係」)における安全配慮義務に基づく差止めという理論構成と憲法13条で保障される自己決定権を根拠とする差止め請求という新たな理論構成に基づく主張を補充するとともに、説明義務違反による損害賠償請求を追加。
12月9日 第二回公判
:上記第二次訴訟にある「大家と店子の関係」に基づく信義則に反するとした新たな論点及び損害賠償請求の追加と、原告団の数が200名あまりに大幅に増加したことに伴い、裁判が実質審議入り。
2010年
2月25日 第三回公判
:東京都は、この回から代理人(弁護士)を立てて公判に臨み、コアサンプル廃棄が、原告の仲卸らの営業権・人格権を害するものと言えるものかをまず判断することを裁判長に求める。一方、原告側は、都に対し土壌汚染対策技術に関する詳細な資料の提示を請求。
5月13日 第四回公判
:原告側は、都の土壌汚染調査は不十分で、特に不透水層を誤認した場合、汚染を見落とす可能性が高く、コアサンプルの再検証の必要性があるということを改めて主張すると共に、コアサンプルは『公物(こうぶつ)』であり、その公のものを利用して、安全性の検証をせずに安易に捨てることはできないとする主張を新たに加えた。さらにコアサンプル廃棄は、今年度の東京都中央卸売市場予算に付された付帯決議で「土壌汚染対策のオープンな形での検証」が求められている点にも反するとした。
(今後の裁判日程)
次回第五回公判7月1日(木)午前10時~東京地方裁判所610号法廷
次々回第六回公判9月8日(水)(築地休市日)午前10時~東京地方裁判所610号法廷
*多くのみなさまの傍聴をよろしくお願い申し上げます。
<原告代表 山崎治雄 意見陳述 〔要旨〕>
NPO法人市場を考える会理事長山崎治雄といいます。
本日は、コアサンプル廃棄差止請求訴訟の期日ということで、私たちがなぜコアサンプルの廃棄の差止めを請求するのかということについて裁判所に知ってほしいと考えております。
私たちは市場を考える会を3年前に立ち上げました。
それ以前から、私たちは、築地の豊洲移転問題に取り組んでまいりました。大勢の方々のご支援を得て、今日まで続けてくることができました。
しかし、これまで行政の行っている豊洲問題への対応について、私たちが、なるほどと思ったことは一度とありません。土壌汚染対策に関しては欺瞞と隠蔽に満ちています。そのため、何が何でもコアサンプルを保護して頂きたい。
その必死の思いで、裁判を起こしたのです。
コアサンプルが捨てられてしまっては東京都の土壌汚染対策が適切かどうか検証することも全くできずどうにもなりません。
裁判所におかれては、是非、その辺りの事情を十分に汲み取っていただきたいと思っております。私は一魚屋として多くの方々とともにやってきました。
食の安心安全は国民全体の大きな問題です。我々の行動なくしては、築地移転問題はこれほど大きくなりませんでした。
我々が行動を起こさなければ臭いものに蓋をしただけで終わっていたでしょう。行政が大きな過ちを犯さないよう、真剣に取り組んでいきたいし、後々、多くの人が、無駄な税金を使わないで止めて良かったと思えるようにしていきたいと考えております。
市場を移転させたら、不安の中で市場が運営されます。
消費者は、食の安全に対する不安の中で生活せねばなりません。
市場の者は、暮らしの安全に対する不安の中で生活せねばなりません。
築地は世界のブランドです。世界中から人々が訪れる大きな観光名所であり、世界70数か国から品物がやってきます。築地市場に存在意義があるということを改めてご理解下さい。土壌汚染厳しい豊洲新市場予定地には絶対に移転させてはなりません。
一魚屋の社長風情で色々申し上げてきましたが、必ずしも詳しくないところもございますので、言葉の足らないところは弁護士の方からお伝えしていただきたいと思います。
どうぞ真摯なご判断いただきますようよろしくお願いいたします。
(参照:NPJ弁護士の訴訟日誌http://www.news-pj.net/npj/2009/coresample-20091006.html)
<原告弁護団長 梓澤和幸弁護士 訴状陳述要旨>
1 水産物のうち、都民消費の90%を供給する東京市場の移転先とされる豊洲は、東京ガスの工場跡地であり石炭から都市ガスを生産する工程で作られた廃棄物タール、コークス、炭がらなどを廃棄していたところから、ベンゼン、ベンゾピレン、シアン化合物、ヒ素、他の有毒物が埋蔵されている箇所である。
2 築地市場の豊洲移転を進める東京都が設置した専門家会議、技術家会議が汚染物質の水平の分布(どこにあるか)、深路の分布(どの深さにあるか)を測定するために行ったのが、本件コアサンプルを生み出したボーリング工事であり、このコアサンプルを元に同会議が作成したのがボーリング柱状図である。
3 コアサンプル保全が死活的に重要であるのは、①汚染がどれだけ広いか、それがどこにどのように存在しているのか、その有毒性の程度を示す欠かすことのできない物的証拠であるからである。 ②専門家会議の立てた汚染対策は、水を通さない有楽町層(不透水層)に切れ目がないか、有楽町層の深さと強さがどれだけであるかということを検証する、これまた不可欠の物的証拠であるからである。
4 鳩山総理大臣は都議会選挙初日の第一声の場として築地の地を選び、築地市場の劈頭において、政権成立後はむやみな豊洲移転を行うことはないと選挙民に約束し、また、赤松農水大臣は9月24日朝5時30分から行われた現地視察の際、「安全性が確認できなければ主務大臣として許認可をしない」 との言明を行った。果たして、東京都議会選挙では、移転反対をマニフェストに掲げた民主党を始めとする野党が多数を占め、「築地移転・再整備に関する特別委員会」が設置された。このような状況の下で、科学的な再検証を確保するためにコアサンプルの保全は不可欠である。
5 原告らは築地市場で仲卸業を営む業者と消費者によって構成されている。
コアサンプルが廃棄され、安全が客観的に検証される手段を失ったまま移転が強行されれば、原告らの健康、生命、営業、安全な食物を食する利益が心外されることは火を見るより明らかである。
(参照:NPJ弁護士の訴訟日誌http://www.news-pj.net/npj/2009/coresample-20091006.html)
<豊洲汚染土壌コアサンプル廃棄差止め請求訴訟 弁護団>
東京千代田法律事務所 梓澤和幸弁護士・大城聡弁護士・出口裕規弁護士・殷勇基弁護士
いずみ橋法律事務所 渡邉彰悟弁護士・本田麻奈弥弁護士
以上