ある方から、ご紹介頂いた文章です。
1956年(昭和31年)、「国際連合第十一総会における重光外務大臣の演説」
重光葵(しげみつ まもる)氏の演説の趣旨は、今も、生きていると思います。
例えば、
○日本はアジア諸国とは、政治上はもちろん経済上においても唇歯輔車の関係にあり、かつ不可分の運命の下にあつて、これら諸国の向上発展に大なる期待をかけているものであります。
○極端なる国家主義に陥ることは避けねばならないと信じます。
○この意味において世界の未開発資源を開発し、あらゆる地域において人類の生活を豊かにすることが、平和及び正義の確固たる基礎をなすことは、言うまでもないのであります。
○わが国の今日の政治、経済、文化の実質は、過去一世紀にわたる欧米及びアジア両文明の融合の産物であつて、日本はある意味において東西のかけ橋となり得るのであります。このような地位にある日本は、その大きな責任を充分自覚しておるのであります。
忘れ去られては、ならない日本国が堅持すべき姿勢だと思います。
まさに「東西のかけ橋」となる役目。
重光氏の演説は、時代が変わったことも頭にいれ、読む必要が有ります。
当時、原子爆弾から原子力の平和利用への転換の時代だったのでしょう。
重光外務大臣が今、福島第一原子力発電所の人災事故を目の当たりにしたならば、原子力から次のエネルギー政策への転換を念頭に述べていたことでしょう。
****ウィキペディア*****
重光 葵(しげみつ まもる、1887年(明治20年)7月29日 - 1957年(昭和32年)1月26日)は、第二次世界大戦期の、日本の外交官・政治家である。
第二次世界大戦中に外務大臣を務め、終戦時に政府全権として降伏文書に調印した。戦後は東京裁判で有期禁錮の判決を受けたが、赦免されて政界に復帰し、再び外務大臣となって日本の国際連合加盟に尽力した。貴族院勅選議員、衆議院議員(戦後)当選3回。
1956年12月18日、国連総会は全会一致で日本の国連加盟を承認した。重光は日本全権として加盟受諾演説を行い、「日本は東西の架け橋になりうる」という名句を残した。その直後に国連本部前庭に自らの手で日章旗を高々と掲げた重光は、その時の心境を「霧は晴れ 国連の塔は輝きて 高くかかげし 日の丸の旗」と詠んでいる。帰国前の12月23日、日本では第3次鳩山内閣が総辞職して石橋内閣が成立したため外務大臣の職を離れる。日本への帰途、同行した加瀬俊一に対して笑顔で「もう思い残すことはない」と語った。
********************
以下、国連演説。下線は、小坂による。
****外務省ホームページより******
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/esm_1218.html
国際連合第十一総会における重光外務大臣の演説
昭和31年12月18日
議長並びに代表各位
一、議長閣下が只今わが国の国際連合加盟に際し、極めて熱誠かつ友情に富む歓迎の辞を述べられたことに対し私は、日本政府及び国民を代表して深甚な感謝の意を表明するものであります。わが国の伝統的な友邦タイ国の偉大な政治家でありかつ外交官である代表を議長とする今次総会において、わが国の国際連合加盟が実現したことは私の大なる喜びとするところであります。また私は総会副議長の各位が好意に充ちた歓迎の辞を述べられたことに対しても深く謝意を表明するものであります。
日本が最初に加盟を申請してからやがて五年にもなりますが、わが国の加盟が今日まで実現しなかつたのはわれわれの如何ともすべからざる外的理由に基くものであることをわが国民は充分に理解していたのであります。それ丈けにこれまでわが国の加盟について熱心に支持せられてきた友邦諸国代表の発言を一層深い感謝の念をもつて受取つたのであります。
長期にわたりわれわれの念願を実現するために撓まざる努力を惜まなかつた国々の代表に対しては私はこの機会において心から感謝の意を表明する次第であります。また私は、われわれを卑益するところ大なる叡智をもつてわれわれに絶えず支持を寄せられた事務総長に対し衷心より謝意を表するものであります。
二、日本国民は今日恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意し、更に日本国民は平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めんことを念願し、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免かれ平和のうちに生存する権利を有することを確認するものであります。われらは、いづれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であることを信ずるものであります。
以上は日本国民の信条であり、日本国憲法の前文に掲げられたところであります。この日本国民の信条は完全に国際連合憲章の目的及び原則として規定せられて居るところに合致するものであります。日本は、1952年6月国際連合に提出した加盟申請において「日本国民は国際連合の事業に参加し且つ憲章の目的及び原則をみずからの行動の指針とする」ことを述べ、更にその際に提出した宣言において、「日本国が国際連合憲章に掲げられた義務を受諾し、且つ日本国が国際連合の加盟国となる日から、その有するすべての手段をもつてこの義務を遂行することを約束するものである」ことを声明したのであります。
日本は、この厳粛なる誓約を、加盟国の一員となつた今日、再び確認するものであります。
三、現在世界には多くの重大問題が存します。国際連合は、中東及び東欧における危機を如何にして解決するかという重大な試錬に直面しております。このことは、平和及び安全を維持するためには、国際連合の強力なる活動を必要とすることを実証するものであります。中東問題の解決ひいては国際緊張の緩和に、国際連合はその加盟諸国の圧倒的支持を得て絶大なる役割を果したのであり、その効果と意義は、真に測り知るべからざるものがあります。国際連合が国連軍を組織し、困難なる問題解決の新しい手段としてこれを有効に使用したことは、真に劃期的のことであります。かくして国際連合が世界平和を維持する機関として、益々広汎なる力を有することを望むものであります。中東に対する国連軍創設のための国際連合の決定を実行する上に重要な役割を果した事務総長に対し、ここに敬意を表したいと思います。なお、東欧における情勢に関し、日本国民はハンガリア国民の現在の窮状に対し、深い同情を禁じ得ないのであります。われわれはハンガリア国民の訴えが聞き入れられ、国際連合の決議に従つてハンガリアの情勢が改善されることを深く希望するものであります。
日本はまた、国際連合が平和の維持とともに人道主義に重きを置いていることを喜ぶものであります。国際連合が軍備縮少の問題を大きく取上げているのは平和維持のためであり、それとともに大量破壊兵器の禁止に力を尽くしているのは、人道主義に重きを置いているがためであります。日本は原子爆弾の試練を受けた唯一の国であつて、その惨害の如何なるものであるかを知つております。日本の国会がさる二月衆参両院において、ともに原水爆の使用及び実験の禁止に関する決議を行つたのは、人道上の見地より国民的要望に応えたものであり、人類をして再び大量破壊の悲惨を味わしめざらんとする願望に出でたものであります。日本は国際連合の指導の下に軍縮の大事業が成功し、人類が悲惨な運命から免れ、堪えがたい恐怖感から救われることを衷心よりねがうものであります。国際連合がすでに原子力の平和的利用を活溌に推進していることは、この意味において極めて喜ばしい次第であります。
今日世界が遭遇している不安と緊張の性質が如何なるものであろうとも、又その原因が如何なるものであろうとも、世界八十ヵ国の組織する国際連合の力によつて、平和的に処理し得ない問題はあり得ないと信じます。人類の生活が原子力時代にまで発達した現代において、自から破滅の道を辿ることの許されざることは、多言を要しないところであります。
四、日本が置かれているアジア地域においても、世界の情勢を反映して、未だに緊張が除かれておりません。中東に発生したような情勢がアジアにおいても起らぬとは、何人も断言し得ないのであります。国際連合は宜しくその憲章の趣旨に従つて、平和を害する恐れある情勢を警戒し、単に事後において行動を起すことをもつて足れりとせず、未然に平和を救済する手段を考案する必要があることを、痛感するものであります。特に未だ平和の完全に回復せられておらぬ東亜地域においては多くの危険が伏在しておるのであります。これに対処するためには、まず思想問題を離れて、現実的に実際問題に直面して考察することが必要であると信ずる次第であります。かかる見地から、日本はソヴィエト連邦と外交関係を回復し、十一年余に亘る日ソ両国間の不自然な法律的戦争状態を終結せしめたのであります。われわれはこのような措置が東亜の平和及び安全に貢献すると信じたからであります。東亜地域における永続的な平和及び安定の基礎を見出すことは、素より東亜諸国自身の義務であることは言うまでもありません。
アジアにおける平和と発展の基礎は、アジア各国の経済的発展にこれを見出し得るのであります。アジア諸国は現に、各々自国の経済的向上に向つて全力を尽しております。この努力を効果あらしめるため、さらに国際連合及びその加盟国諸国の一層の援助を必要とするものが少くないのであります。日本はアジア諸国とは、政治上はもちろん経済上においても唇歯輔車の関係にあり、かつ不可分の運命の下にあつて、これら諸国の向上発展に大なる期待をかけているものであります。
民族主義は、第一次世界大戦後に東欧方面に樹立せられ、第二次世界大戦いらいアジア・アラビア地域に確立せられました。元来民族主義は、人類解放の自然の道程であつて、私は、民族主義は理解をもつて育成されるべきものではあるが、極端なる国家主義に陥ることは避けねばならないと信じます。
五、日本は、国民生活上今日多くの困難に直面しております。その最も大なるものは、狭少なる領域において過大なる人口を養う問題であります。生計を維持し、生活水準を向上する原動力が勤勉にあることは、今更言うまでもありません。日本人は勤労を惜しむものではありません。現に男も女もその持場持場において勤勉に働いておる次第であります。しかし、国民の勤労を如何に効果あらしめるかが、国策上の重要課題であります。日本人は、国内の発展はもちろん生産力の増加による貿易の増進が、人口問題の有力なる解決方法であることを知つております。故に、貿易に対する各種の障害については、日本人は非常に敏感であります。従つて、国境を越えて人と物との交流を円滑にせんとする国際連合の企図は、平和のための有力なる政策として日本の歓迎するところであります。この意味において世界の未開発資源を開発し、あらゆる地域において人類の生活を豊かにすることが、平和及び正義の確固たる基礎をなすことは、言うまでもないのであります。
日本は世界の通商貿易に特に深い関心を持つ国でありますが、同時にアジアの一国として固有の歴史と伝統とを持つている国であります。日本が昨年バンドンにおけるアジア・アフリカ会議に参加したゆえんも、ここにあるのであります。同会議において採択せられた平和十原則なるものは、日本の熱心に支持するところのものであつて、国際連合憲章の精神に完全に符合するものであります。しかし、平和は分割を許されないのであつて、日本は国際連合が、世界における平和政策の中心的推進力をなすべきものであると信ずるのであります。
わが国の今日の政治、経済、文化の実質は、過去一世紀にわたる欧米及びアジア両文明の融合の産物であつて、日本はある意味において東西のかけ橋となり得るのであります。このような地位にある日本は、その大きな責任を充分自覚しておるのであります。
私は本総会において、日本が国際連合の崇高な目的に対し誠実に奉仕する決意を有することを再び表明して、私の演説を終ります。
以上、
*****参考までに、日本国憲法 前文******
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8C%9B%96%40&H_NAME_YOMI=%82%A0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S21KE000&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
1956年(昭和31年)、「国際連合第十一総会における重光外務大臣の演説」
重光葵(しげみつ まもる)氏の演説の趣旨は、今も、生きていると思います。
例えば、
○日本はアジア諸国とは、政治上はもちろん経済上においても唇歯輔車の関係にあり、かつ不可分の運命の下にあつて、これら諸国の向上発展に大なる期待をかけているものであります。
○極端なる国家主義に陥ることは避けねばならないと信じます。
○この意味において世界の未開発資源を開発し、あらゆる地域において人類の生活を豊かにすることが、平和及び正義の確固たる基礎をなすことは、言うまでもないのであります。
○わが国の今日の政治、経済、文化の実質は、過去一世紀にわたる欧米及びアジア両文明の融合の産物であつて、日本はある意味において東西のかけ橋となり得るのであります。このような地位にある日本は、その大きな責任を充分自覚しておるのであります。
忘れ去られては、ならない日本国が堅持すべき姿勢だと思います。
まさに「東西のかけ橋」となる役目。
重光氏の演説は、時代が変わったことも頭にいれ、読む必要が有ります。
当時、原子爆弾から原子力の平和利用への転換の時代だったのでしょう。
重光外務大臣が今、福島第一原子力発電所の人災事故を目の当たりにしたならば、原子力から次のエネルギー政策への転換を念頭に述べていたことでしょう。
****ウィキペディア*****
重光 葵(しげみつ まもる、1887年(明治20年)7月29日 - 1957年(昭和32年)1月26日)は、第二次世界大戦期の、日本の外交官・政治家である。
第二次世界大戦中に外務大臣を務め、終戦時に政府全権として降伏文書に調印した。戦後は東京裁判で有期禁錮の判決を受けたが、赦免されて政界に復帰し、再び外務大臣となって日本の国際連合加盟に尽力した。貴族院勅選議員、衆議院議員(戦後)当選3回。
1956年12月18日、国連総会は全会一致で日本の国連加盟を承認した。重光は日本全権として加盟受諾演説を行い、「日本は東西の架け橋になりうる」という名句を残した。その直後に国連本部前庭に自らの手で日章旗を高々と掲げた重光は、その時の心境を「霧は晴れ 国連の塔は輝きて 高くかかげし 日の丸の旗」と詠んでいる。帰国前の12月23日、日本では第3次鳩山内閣が総辞職して石橋内閣が成立したため外務大臣の職を離れる。日本への帰途、同行した加瀬俊一に対して笑顔で「もう思い残すことはない」と語った。
********************
以下、国連演説。下線は、小坂による。
****外務省ホームページより******
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/18/esm_1218.html
国際連合第十一総会における重光外務大臣の演説
昭和31年12月18日
議長並びに代表各位
一、議長閣下が只今わが国の国際連合加盟に際し、極めて熱誠かつ友情に富む歓迎の辞を述べられたことに対し私は、日本政府及び国民を代表して深甚な感謝の意を表明するものであります。わが国の伝統的な友邦タイ国の偉大な政治家でありかつ外交官である代表を議長とする今次総会において、わが国の国際連合加盟が実現したことは私の大なる喜びとするところであります。また私は総会副議長の各位が好意に充ちた歓迎の辞を述べられたことに対しても深く謝意を表明するものであります。
日本が最初に加盟を申請してからやがて五年にもなりますが、わが国の加盟が今日まで実現しなかつたのはわれわれの如何ともすべからざる外的理由に基くものであることをわが国民は充分に理解していたのであります。それ丈けにこれまでわが国の加盟について熱心に支持せられてきた友邦諸国代表の発言を一層深い感謝の念をもつて受取つたのであります。
長期にわたりわれわれの念願を実現するために撓まざる努力を惜まなかつた国々の代表に対しては私はこの機会において心から感謝の意を表明する次第であります。また私は、われわれを卑益するところ大なる叡智をもつてわれわれに絶えず支持を寄せられた事務総長に対し衷心より謝意を表するものであります。
二、日本国民は今日恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意し、更に日本国民は平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めんことを念願し、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免かれ平和のうちに生存する権利を有することを確認するものであります。われらは、いづれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であることを信ずるものであります。
以上は日本国民の信条であり、日本国憲法の前文に掲げられたところであります。この日本国民の信条は完全に国際連合憲章の目的及び原則として規定せられて居るところに合致するものであります。日本は、1952年6月国際連合に提出した加盟申請において「日本国民は国際連合の事業に参加し且つ憲章の目的及び原則をみずからの行動の指針とする」ことを述べ、更にその際に提出した宣言において、「日本国が国際連合憲章に掲げられた義務を受諾し、且つ日本国が国際連合の加盟国となる日から、その有するすべての手段をもつてこの義務を遂行することを約束するものである」ことを声明したのであります。
日本は、この厳粛なる誓約を、加盟国の一員となつた今日、再び確認するものであります。
三、現在世界には多くの重大問題が存します。国際連合は、中東及び東欧における危機を如何にして解決するかという重大な試錬に直面しております。このことは、平和及び安全を維持するためには、国際連合の強力なる活動を必要とすることを実証するものであります。中東問題の解決ひいては国際緊張の緩和に、国際連合はその加盟諸国の圧倒的支持を得て絶大なる役割を果したのであり、その効果と意義は、真に測り知るべからざるものがあります。国際連合が国連軍を組織し、困難なる問題解決の新しい手段としてこれを有効に使用したことは、真に劃期的のことであります。かくして国際連合が世界平和を維持する機関として、益々広汎なる力を有することを望むものであります。中東に対する国連軍創設のための国際連合の決定を実行する上に重要な役割を果した事務総長に対し、ここに敬意を表したいと思います。なお、東欧における情勢に関し、日本国民はハンガリア国民の現在の窮状に対し、深い同情を禁じ得ないのであります。われわれはハンガリア国民の訴えが聞き入れられ、国際連合の決議に従つてハンガリアの情勢が改善されることを深く希望するものであります。
日本はまた、国際連合が平和の維持とともに人道主義に重きを置いていることを喜ぶものであります。国際連合が軍備縮少の問題を大きく取上げているのは平和維持のためであり、それとともに大量破壊兵器の禁止に力を尽くしているのは、人道主義に重きを置いているがためであります。日本は原子爆弾の試練を受けた唯一の国であつて、その惨害の如何なるものであるかを知つております。日本の国会がさる二月衆参両院において、ともに原水爆の使用及び実験の禁止に関する決議を行つたのは、人道上の見地より国民的要望に応えたものであり、人類をして再び大量破壊の悲惨を味わしめざらんとする願望に出でたものであります。日本は国際連合の指導の下に軍縮の大事業が成功し、人類が悲惨な運命から免れ、堪えがたい恐怖感から救われることを衷心よりねがうものであります。国際連合がすでに原子力の平和的利用を活溌に推進していることは、この意味において極めて喜ばしい次第であります。
今日世界が遭遇している不安と緊張の性質が如何なるものであろうとも、又その原因が如何なるものであろうとも、世界八十ヵ国の組織する国際連合の力によつて、平和的に処理し得ない問題はあり得ないと信じます。人類の生活が原子力時代にまで発達した現代において、自から破滅の道を辿ることの許されざることは、多言を要しないところであります。
四、日本が置かれているアジア地域においても、世界の情勢を反映して、未だに緊張が除かれておりません。中東に発生したような情勢がアジアにおいても起らぬとは、何人も断言し得ないのであります。国際連合は宜しくその憲章の趣旨に従つて、平和を害する恐れある情勢を警戒し、単に事後において行動を起すことをもつて足れりとせず、未然に平和を救済する手段を考案する必要があることを、痛感するものであります。特に未だ平和の完全に回復せられておらぬ東亜地域においては多くの危険が伏在しておるのであります。これに対処するためには、まず思想問題を離れて、現実的に実際問題に直面して考察することが必要であると信ずる次第であります。かかる見地から、日本はソヴィエト連邦と外交関係を回復し、十一年余に亘る日ソ両国間の不自然な法律的戦争状態を終結せしめたのであります。われわれはこのような措置が東亜の平和及び安全に貢献すると信じたからであります。東亜地域における永続的な平和及び安定の基礎を見出すことは、素より東亜諸国自身の義務であることは言うまでもありません。
アジアにおける平和と発展の基礎は、アジア各国の経済的発展にこれを見出し得るのであります。アジア諸国は現に、各々自国の経済的向上に向つて全力を尽しております。この努力を効果あらしめるため、さらに国際連合及びその加盟国諸国の一層の援助を必要とするものが少くないのであります。日本はアジア諸国とは、政治上はもちろん経済上においても唇歯輔車の関係にあり、かつ不可分の運命の下にあつて、これら諸国の向上発展に大なる期待をかけているものであります。
民族主義は、第一次世界大戦後に東欧方面に樹立せられ、第二次世界大戦いらいアジア・アラビア地域に確立せられました。元来民族主義は、人類解放の自然の道程であつて、私は、民族主義は理解をもつて育成されるべきものではあるが、極端なる国家主義に陥ることは避けねばならないと信じます。
五、日本は、国民生活上今日多くの困難に直面しております。その最も大なるものは、狭少なる領域において過大なる人口を養う問題であります。生計を維持し、生活水準を向上する原動力が勤勉にあることは、今更言うまでもありません。日本人は勤労を惜しむものではありません。現に男も女もその持場持場において勤勉に働いておる次第であります。しかし、国民の勤労を如何に効果あらしめるかが、国策上の重要課題であります。日本人は、国内の発展はもちろん生産力の増加による貿易の増進が、人口問題の有力なる解決方法であることを知つております。故に、貿易に対する各種の障害については、日本人は非常に敏感であります。従つて、国境を越えて人と物との交流を円滑にせんとする国際連合の企図は、平和のための有力なる政策として日本の歓迎するところであります。この意味において世界の未開発資源を開発し、あらゆる地域において人類の生活を豊かにすることが、平和及び正義の確固たる基礎をなすことは、言うまでもないのであります。
日本は世界の通商貿易に特に深い関心を持つ国でありますが、同時にアジアの一国として固有の歴史と伝統とを持つている国であります。日本が昨年バンドンにおけるアジア・アフリカ会議に参加したゆえんも、ここにあるのであります。同会議において採択せられた平和十原則なるものは、日本の熱心に支持するところのものであつて、国際連合憲章の精神に完全に符合するものであります。しかし、平和は分割を許されないのであつて、日本は国際連合が、世界における平和政策の中心的推進力をなすべきものであると信ずるのであります。
わが国の今日の政治、経済、文化の実質は、過去一世紀にわたる欧米及びアジア両文明の融合の産物であつて、日本はある意味において東西のかけ橋となり得るのであります。このような地位にある日本は、その大きな責任を充分自覚しておるのであります。
私は本総会において、日本が国際連合の崇高な目的に対し誠実に奉仕する決意を有することを再び表明して、私の演説を終ります。
以上、
*****参考までに、日本国憲法 前文******
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8C%9B%96%40&H_NAME_YOMI=%82%A0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S21KE000&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。