一日一条ずつの自民党改憲案の問題点の考察。
8月21日は、憲法21条です。
自民党改憲案は、一条にひとつ以上の問題点や課題があり、どれも看過できないものですが、この21条もまた、最も重大な問題点の一つを含んでいます。
21条に関連して前のブログで、表現の自由についての知識の整理を記載しました。
表現の自由は、思想・情報を発表し伝達する自由でありますが、知る権利もまた、保障しています。
知る権利について、憲法学者の故芦部先生は、
「知る権利は、「国家からの自由」という伝統的な自由権であるが、それにとどまらず、参政権(国家への自由)的な役割を演ずる。個人はさまざまな事実や意見を知ることによって、はじめて政治に有効に参加することができるからである。」と知る権利の法的性格を述べられています。
表現の自由、知る権利が保障されなければ、政治に有効に参加できなくなる、まさに、民主主義の根幹にかかわる権利を、憲法21条は保障しています。
ところが、この21条を、自民案は、大きく変貌させようとしています。
現行の日本国憲法と自民党案を比較します。
********************
日本国憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
自民党案
(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。〔新設〕
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
(国政上の行為に関する説明の責務)
第二十一条の二 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。〔新設〕
*********************
自民案は、現行憲法21条とほぼ同じ文言をおいていますが、実は、こっそりと2項を新設しています。
これが、現行憲法21条1項を完全に骨抜きにしています。
よく見ていただきたいのですが、自民案は、1項で、表現の自由を保障すると言っておきながら、2項で、「前項の規定にかかわらず」、「公益及び公の秩序」すなわち、「国家のため、国家の都合で」制限すると言い切っているのです。
もちろん、表現の自由があるからといって、何を言っても良いというわけではなく、すでに現行憲法上、「公共の福祉」による制限を、表現の形態、規制の目的・手段等を具体的に検討し、表現内容を最大限尊重はしつつ、報道の自由を十分に守りつつ、表現の自由により侵される権利、例えばプライバシー、名誉、青少年の健全育成、嘘の情報被害などを、現状に置いても厳しく審査をできている状態にあり、「公益及び公の秩序」を持ち出す必要性はまったくありません。
表現の自由と知る権利は、政治が果たして有効に機能するかどうかにつながっていくわけであり、それを、国家のため、国家の都合で制限されると、正しい政治が営まれなくなります。すれば、ますます、政府に都合の良い情報だけが国民に伝えられ、都合の悪い情報は排除され、それにより政治がさらにゆがめられる結果となります。
一旦、表現の自由と知る権利がゆがめられてしまうと、悪循環の陥り、自己回復できない状態になります。
だからこそ、憲法21条は、絶対に守らねばならない権利です。
なにがなんでも、守らねばなりません。
民主主義の危機が、今、訪れようとしています。
かつて、ワイマール憲法から、ナチスの台頭へと歴史が動いたように。
皆さん、声を上げて下さい。悪い歴史を繰り返させないで下さい。
ジャーナリストの皆様、すでにご承知のところであり、記事としても何度も取り上げらているところですが、はっきり言いまして、自民案21条でジャーナリズムは死にます。どうか、声を上げて下さい。ことの重大さを、全国民にお伝え下さい。よろしくお願い申し上げます。
*あと、今回の自民案では、手をつけられておりませんが、許されてはならない憲法21条2項の「検閲」が復活しないかにどうか、注視願います。