一日一条ずつの自民党改憲案の考察。
8月29日は、29条。私有財産制度を規定した重要な条文です。
前のブログに、二つほど、知識の整理をしておりますので、ご参考にしてください。
<ご参考>
財産権は、地方公共団体の議会が制定する条例による制限が許されるか。(憲法29条、94条)
憲法29条 財産権保障「特別犠牲説」、「正当な補償」としての「完全補償説」と「相当補償説」
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日本国憲法
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
自民党案
(財産権)
第二十九条 財産権は、保障する。
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。
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ご覧のように、自民案は、日本国憲法29条1項で、財産権は「侵してはならない」とトッププライオリティーをおいて守るべきものであるところ、その文言を削除したうえ、ランクを下げた「保障する」に文言を置き換えています。
私有財産制度は、政教分離、大学の自治、地方自治制度とともに、日本国憲法下、規定された絶対に守られるべき制度のひとつです。
侵害されてはならない私有財産であるけれども、現行憲法下でも29条2項、3項の根拠規定から、選挙・国会での慎重な審議・多数決という3要素からなるプロセスを経ることによって、過度の規制・合理的な理由のない規制を抑制しながらも、財産権を規制することを可としています。
その場合、自分の財産について「特別の犠牲」を払った人には、原則「完全補償」されることが約束されています。
現行憲法下、私有財産制度の運用ができているわけであり、なんら文言の変更は必要のないところです。
それとも、「侵してはならない」私有財産制度の文言を削除・置き換える自民党は、私有財産制度をさえ否定していくことをお考えなのでしょうか?国家主義体制確立のために?
憲法29条理解のための知識の整理をします。
かつて書いたブログの再掲
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/806c8b8c44e2bdaa193942d0c2acd6e0
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皆様のお住まいの地域にある地方議会、市区町村議会は、皆様の財産権のありようを制限する力を有しています。
国会とともに、地方議会も注目していくこと必要があるひとつの理由がここにあると思います。
地方自治もとても大切です。
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憲法第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。(財産権の不可侵)
○2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。 (→財産権の内容の法定、財産権の内容は法律で規定されている)
○3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。(正当な補償があれば、公共のために用いることができる)
憲法94条
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
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Q君
近代憲法と現代憲法における財産権の本質を説明してください。
A先生
近代憲法の財産権では、財産権は神聖不可侵なものとされています。(憲法29条1項に親和的)
現代憲法の財産権では、「A財産権は社会のルールによって規制される。B財産権は、必要に応じて社会の利益のために用いられる。」
(ABは、それぞれ29条2項・3項に親和的)
Q君
二つの考え方は、人権の保障の趣旨とどのような関係にあるのですか。
A先生
人権保障の趣旨は、二つあります。
個人の側面として、人権は、個人の自己実現・幸福追求のために保障されています。
社会的側面として、人権は、社会の発展のために保障されています。
そして、この二つの側面が相俟って人権が発展していくのです。
財産権の近代的側面は、個人の側面に関連しています。
同じく現代的側面は、社会的側面に関連します。
個人の財産権の行使があって、営業の自由が発展していくことから、個人的側面は社会の発展に寄与することがわかります。
一方、財産権の行使も、空港・高速道路等の社会的インフラが整備されて初めて、高度な発展がなされるのであるから、社会の発展のために、個人が財産権を一定程度制約されることになります。
Q君
財産権における消極的規制と積極的規制は、財産権の本質論にどのように関連するのですか。
A先生
財産権の個人的側面を強調すると、内在的制約(消極規制)のみを受けることになります。
財産権の社会的側面を強調すると、積極的規制を受けることになります。
Q君
財産権は条例で制限することは可能でなのですか。
A先生
現在では、各地の公害規制条例等にみられるように、条例における財産権の規制は「法律の範囲内で」という制約(憲法94条)の下で、実際に頻繁に行われています。
その形式的理由としては、
憲法94条は「法律の範囲内で条例を制定できる。」と規定しています。
憲法29条2項と94条2項をあわせると、法律の範囲内で条例は財産権を制限できることになります。
実質的理由としては、
29条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれを定める。」と規定しています。
この規定の背後にある意味は、財産権は重要な権利であるが、一方で社会のために規制する必要も高いので、民主政の過程(「投票箱と民主政の過程」)を経ることによって、その規制を手続的に統制する、というものであります。
つまり、憲法は、財産権を規制するにあたっては、選挙・国会での慎重な審議・多数決という3要素からなるプロセスを経ることによって、過度の規制・合理的な理由のない規制を抑制しようとしているのであります。
そうすると、条例も、選挙・地方議会における慎重な審議・多数決が行われることから、財産権の過度の規制・合理的な理由のない規制が抑制されることが期待されるので、条例で制限することができると解されます。
憲法29条を理解のための知識の整理をします。
かつて書いたブログの再掲。
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http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/dd2e581964299364943ce1a923bc3595
Q君 財産権の保障における特別犠牲説を説明してください。
A先生
補償に関しては、「特別犠牲説」が従来からの通説があります。
これは、相隣関係上の制約や、財産権に内在する社会的制約の場合には補償は不要であるが、それ以外に特定の個人に「特別の犠牲」を加えた場合には補償が必要だという説です。
「特別の犠牲」の判断については、
(1)侵害行為の対象が広く一般的か、特定の個人や集団かという点〔形式的要件〕と
(2)侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度内か、それを超えるものか〔実質的要件〕、
によって判断します。
Q君 財産権の規制に対して与えられる「正当な補償」とは、どのような補償ですか。
A先生
憲法29条第3項にいう「正当な補償」については、「完全補償説」と「相当補償説」があります。
「完全補償説」は、「当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきである」とするものであり、一方、「相当補償説」は、「正当な補償は必ずしも完全な補償を意味するのではなく、公共目的の性質にかんがみ当該財産について合理的に算出された補償であればよい」とします。
「相当補償説」の立場では、補償額が財産の市場価格を下回るものであってもよいことになります。
農地改革訴訟判決は、戦後の自作農創設の為の農地改革というきわめて特殊な状況下に行われた農地の収用についてのものであり、「相当補償説」にもとづき、きわめて低廉な農地買収価格を「正当な補償」であるとしました。
「農地改革事件は、占領中の占領政策に基づくものであったというきわめて特殊な事情があることを考慮に入れて検討しなければならない。」とされています。(芦部 憲法 第5版 232ページ)
判例も土地収用法に基づく土地収用に関しては、「完全補償説」の立場に立って判示している(昭和48年10月18日土地収用補償金請求民集第27巻9号1210頁)。
したがって、原則は完全保障説で、戦後の農地改革のような特殊な事情の場合にのみ、「相当保障説」が妥当すると考えるべきです。
***********判例*******
土地収用補償金請求事件(財産権と正当な補償)
昭和48年10月18日 第一小法廷・判決
「おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」
かつて書いたブログの再掲。
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http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/dd2e581964299364943ce1a923bc3595
Q君 財産権の保障における特別犠牲説を説明してください。
A先生
補償に関しては、「特別犠牲説」が従来からの通説があります。
これは、相隣関係上の制約や、財産権に内在する社会的制約の場合には補償は不要であるが、それ以外に特定の個人に「特別の犠牲」を加えた場合には補償が必要だという説です。
「特別の犠牲」の判断については、
(1)侵害行為の対象が広く一般的か、特定の個人や集団かという点〔形式的要件〕と
(2)侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度内か、それを超えるものか〔実質的要件〕、
によって判断します。
Q君 財産権の規制に対して与えられる「正当な補償」とは、どのような補償ですか。
A先生
憲法29条第3項にいう「正当な補償」については、「完全補償説」と「相当補償説」があります。
「完全補償説」は、「当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきである」とするものであり、一方、「相当補償説」は、「正当な補償は必ずしも完全な補償を意味するのではなく、公共目的の性質にかんがみ当該財産について合理的に算出された補償であればよい」とします。
「相当補償説」の立場では、補償額が財産の市場価格を下回るものであってもよいことになります。
農地改革訴訟判決は、戦後の自作農創設の為の農地改革というきわめて特殊な状況下に行われた農地の収用についてのものであり、「相当補償説」にもとづき、きわめて低廉な農地買収価格を「正当な補償」であるとしました。
「農地改革事件は、占領中の占領政策に基づくものであったというきわめて特殊な事情があることを考慮に入れて検討しなければならない。」とされています。(芦部 憲法 第5版 232ページ)
判例も土地収用法に基づく土地収用に関しては、「完全補償説」の立場に立って判示している(昭和48年10月18日土地収用補償金請求民集第27巻9号1210頁)。
したがって、原則は完全保障説で、戦後の農地改革のような特殊な事情の場合にのみ、「相当保障説」が妥当すると考えるべきです。
***********判例*******
土地収用補償金請求事件(財産権と正当な補償)
昭和48年10月18日 第一小法廷・判決
「おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」