法は、ひとを守るために存在する。
そう信じています。
そのような中で、大いなる疑問を抱く裁判のひとつが、国立市の景観訴訟とその後の訴訟。
国立市、その美しい景観のために闘った市長が、負けています。
ものごとには、両方に正義がありますが、かといって、この結論には疑問です。
*****朝日新聞 20170324 オピニオン*****
■公約実行で違法、恐ろしい 上原公子さん(元東京都国立市長)
景観保護を公約に掲げて、市長に当選しました。東京都で初めての女性市長でした。
公約は市民との契約です。履行するために全力を尽くすのは当たり前。それが、こんな結果になるなんて。
もともと国立市は環境や景観に対する市民意識が高い。だから問題のマンション計画でも、住民から高さを制限する地区計画づくりを要望され、条例もつくりました。
すると業者は営業を妨害されたとして、4億円の損害賠償などを求めてきました(左の年表のA訴訟)。これに対して、市民も業者に高さ20メートル以上の撤去を求める民事訴訟などを起こして闘います。
裁判はまず、A訴訟の一審で市が敗れます。一方で、市民による民事訴訟の一審では、20メートル以上の撤去を命じる判決を勝ち取りました(高裁で逆転敗訴)。景観に関する認識が、裁判官それぞれで違っていたのです。
A訴訟は結局、市が負け、3120万円を払います。すると業者が同額を市に寄付してきたのです。市の財政に損害はなくなり、政治的に決着したなあと思いましたね。
だけど違った。住民が賠償金を私に払わせろと、市を訴えたのです(B訴訟)。
今さら何を言っているの、と思いました。だから敗訴したときは、はーっ?ていう感じ。そのうえ、11年の市長選で、私に払わせると唱えて勝った新市長が控訴を勝手に取り下げてしまいます。
それで、C訴訟へ。
しかし、当時の市議会は新市長の判断に反対し、私への求償権の放棄を議決します。14年の一審判決は、その議決や業者の同額寄付も踏まえて市の訴えを退けました。
ところが翌年、事態が一変します。市議選があり、新しい議員らが求償権の行使を求める決議をしたのです。
東京高裁は議会の変化も見て、私に支払いを命じ、そのまま判決が確定しました。
私腹を肥やしたわけでもない個人に、巨額の賠償をさせる司法って何なのでしょう。
業者の寄付と私の賠償金を受けとれば、市は二重取りでもうかっちゃいますよ。
反省点ですか? 全くありません。公約を守ることに妥協などできますか。そもそも市長にはマンション建築の許認可権がない。それでも建設を止めるために、できることは何でもやりました。
それを判決は、私が市の内部情報で住民運動をあおったとか、議会答弁などで営業を妨害したと認定したのです。
こうした行動を違法だと言われるのは恐ろしい。地方自治を殺すのか、と言いたい。
これでは首長は何もできなくなります。東京・豊洲市場に関して、小池百合子都知事だって訴えられかねません。
こんな判決で、多くの首長がひるんでは困ります。(聞き手 論説委員・坪井ゆづる)
*
うえはらひろこ 49年生まれ。脱原発をめざす首長会議事務局長。市長時代に住基ネット離脱、自衛隊のイラク派遣に反対。