黒部ダムが期待以上の迫力だったので、TsutayaでDVDを借りてきた。
「黒部の太陽」
1968年制作のこの映画、タイトルは有名だがTVの名画劇場などでも見たことがなかった。
それというのも上映権を持っていた石原裕次郎が劇場公開にこだわってビデオにすることも許さなかったからだそうで、そもそも上映時間が196分もあるので映画館で再上映されることもあまりなかったらしい。
今はDVDになっていたのはラッキー、しかも50年以上も前の映画なのに画質が良くて色も自然。そもそもこの映画は白黒だと思い込んでいたので、冒頭の鮮やかな夕陽の色に驚いた。
もう一つ驚いたのはこの映画が「裕次郎映画」ではなかったこと。
もちろん彼も主役の一人ではあるのだが、もう一人の主役である三船敏郎に完全に負けている。
この映画は石原プロと三船プロの合作なのだが、先輩である三船に遠慮したのか。そもそも存在感も演技力も40代半ばの三船が圧倒的、30代半ばにしては浮腫んだ顔の裕次郎はいまいちだ。
しかし何より驚いたのはこれがダム建設の話というよりトンネル掘りの話だったこと。
大町から黒部まで、今は電気バスが通っている関電トンネルの真ん中に破砕帯があり、ここが最大の難所だったということで映画のほとんどがこの箇所の工事のこと。
バスで通る道にも破砕帯の表示があり、車内放送でも説明していたのはこのことだったのか、と深く納得。
崩落は起こるわ、ものすごい量の浸水が続くわのこの工事場面、今のようにCGを使うわけではないからすべてセットを組んでの実写でさすがの迫力。
エキストラの数もすごくて、もう日本でこんな映画は作れまい。
関西電力やら熊谷組、間組などが実名で出るのも興味深く、幹部は水でびしょびしょになるトンネル内の視察にもレインコートの下は白シャツにネクタイ。やたらにタバコを吸って、料亭では社長が土下座をする。
なにより仕事に支障をきたすから、と娘が病気で余命1年なのを会社の人間が「彼には言わないでおこう」って、昭和にはそれが美徳だったか、と時代を感じる。
正直映画としての出来は長すぎるし、中盤が平たんで退屈。
トンネルが開通した後はあっという間にダムができてしまって拍子抜けするが、吉村昭の「高熱隧道」に描かれた戦時中の黒三ダム工事の話も出てくるし、アルペンルートを通った後ではやはり興味度が違った。
見られてよかったけれど、やっぱりもう昭和は遠い。