Luntaの小さい旅、大きい旅

ちょっとそこからヒマラヤの奥地まで

ジョセフィン・テイを読む

2022-07-17 12:39:01 | 雑談

ジョセフィン・テイという作家をご存じだろうか。

イギリスの作家で1896年生まれというからアガサ・クリスティーよりも6歳若く、ミステリー小説を書き始めた時期もほとんど同じ。
最も有名な作品は脚を折って入院中の警部が王子殺しの汚名を着せられたリチャード3世の謎に挑む「時の娘」。この小説は歴代ミステリー小説の1位に選ばれることもあるほどの傑作で、大昔の学生時代に読んでとても面白かった。

この作家の他の小説が読めるとは思ってもいなかったのだが、ミステリーファン Yam Yam さんのブログで他にも翻訳があることを知り、さらにアマゾンを物色していたらKindleで原語の全著作集を、しかもたったの294円で入手可能と知ってすぐにダウンロードした。
 

全著作集と言っても作者は50代半ばで亡くなっているので小説は12作。
1920年代に書かれたものはさすがに古さを感じるが、特に1940年代以降に書かれたものはどれも今読んでも十分に楽しめる。
ミステリーと言っても最近のもののように無駄に残酷な描写はなく、中には殺人さえ起らないものもあるのだが、それでもページをめくる手が止まらなくなり、一気に読んでしまった。

12作中6作にはアラン・グラント警部が登場する。詩集を出したりもするインテリでハンサム、おばさんの遺産でお金に不自由しないけれど警察の仕事を続けているというパーフェクトな男なのだが、この人が美女たちに遭遇しながら結婚しようとはしない。The Singing Sand (歌う砂)では結婚しそうになりながら逃げおおせてほっとしているし、長い付き合いの舞台女優は「私は結婚に向かないの」なんて言っているし、これはジョセフィン・テイの結婚観の表れなのだろうか。
他の作品でも登場する女性たちが独立心旺盛なところが魅力的で、クリスティの作品の登場人物たちが古典的なロマンスに落ちるところ、この人は時代の先を行っていたように思う。

全12作中、個人的に特に気に入ったのは「時の娘」の他に

The Franchise Affair フランチャイズ事件 - いきなり見も知らぬ少女に「この家に拉致監禁された」と訴えられる母娘がどう疑いを晴らすか

Miss Pym Disposes 裁かれる花園 - 女子体育学校の寄宿舎内の人間模様。変わった舞台は作者の実体験に基づくものだそう

Brat Farrer 魔性の馬 - 子供の頃に死んだ双子の片割れになりすまして家族の中に入る男の話。生き返ってきた男は本物か、という物語はよくあるが、最初からなりすましと明かしながらもうひとひねりしたストーリーが面白い。

作者が早世して12作しかないのが実に残念。
新書で読める邦訳もあるので、機会があればぜひ。クリスティ・ファンなら絶対に楽しめる。


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