木場豪商殺人事件―耳袋秘帖 (文春文庫) | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |
・風野真知雄
還暦を過ぎても元気いっぱい、元祖入墨奉行の根岸肥前守が大活躍するお江戸ミステリーシリーズの中の一冊。このシリーズにはいろいろと奇妙なものが登場するが、今回まず登場するのが、日本橋の金物屋の隠居が住んでいた深川の屋敷。ここでは、1年前に隠居が首の骨を折って死んでいたのであるが、今回調べてみると、なんとも奇妙キテレツなからくり屋敷だったのだ。
その屋敷を建てたのは、最近のしあがってきた材木問屋の日野屋。ところが、主人の尚之助が殺され、双子の弟喬之助が現れる。タイトルからも分かるように、これが今回の背骨となる話だ。根岸が辿り着いたのは驚きの真相。双子の兄弟の憎しみと絆のアンビバレントな感情。悪人ではあったが、哀しい人生を送ってきた男の物語だった。
このシリーズは、本筋の話の周りに小ネタ的な面白い話をちりばめているのが特徴だが、今回は怪力女の話、火事に効く薬、火太郎丸の話、仏像を盗もうとして死んだふりをした男の話、橋が一晩で丸木橋に変わった話などが織り込まれてなかなか面白い物語に仕上がっている。
そしてもう一つ。根岸の家来の坂巻が女手妻師河馬ノ介(名前は先代のものを襲名しているためヘンだが、美人という設定)に好かれたようなのに、好きな女がいることを女の勘で気付かれて、この件はあっさり終了。坂巻、逃がした魚は大きかったかも(笑)。
ところで、この巻ではついに同心栗田の妻・雪乃が、双子の女の子を出産。これは、双子に関係する事件があったので、ここに持ってきたんだろうなあ。
☆☆☆☆
※本記事は、書評専門の拙ブログ、「風竜胆の書評」に掲載したものです。