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・大前研一
本書の内容を一言で表せば、現代の日本の教育制度批判と国際バカロレア(IB)教育の称賛だ。
本書は3つの章から構成されており、第1章は大前氏の教育再生論だ。大前氏が以前いろいろなところで発表したものを集めたものだが、そこかしこに大前節が炸裂している。
大前氏が主張しているのは、これからの日本に必要なのは、知識より考える力だということだ。氏は知識をいくら詰め込んでもわずか1000円のメモリーに収まるような価値しかないという。そんなことを学校で16年間やっても、世界でリーダーシップをとるようなグローバル人材を生み出すことはできないというのである。
<自分が知識を持っていると驕っている人は、勉強しなくなる。実社会で活躍できないでいる”かっての優等生、学校秀才”がいかに多いことか。今の経済をケインズで説明しようとするエコノミスト、今の社会の説明にウェーバーを持ち出さないと気が済まない学者たちがいい例だ。彼らは、事象を無理に型に押し込め、理解した気持ちになっているが、実は自己満足にすぎないのだ。>(p43)
辛らつだが、なかなか小気味よい。まさに大前氏らしいではないか。
私も、大前氏の主張には、総体的には賛成なのだが、どうかなという部分もある。例えば、カトリックとプロテスタントの関係について述べた個所だ。大前氏は、カトリックの教義として「受胎告知」をあげ、そのような非科学的な教義を「それは違うんじゃないか」と疑うところからプロテスタントが出発したと書いているのだが、果たしてそうか。プロテスタントが、当時のカトリック教会の教義に疑義を抱いたというのは正しいだろう。しかしプロテスタントは、聖書への回帰というところから始まったものなのだから、「受胎告知」が聖書に書かれている以上は、カトリックの解釈に疑義は抱いても、それが科学的かどうかという理由からではないだろう。
つまり、大前氏が言っていることについても、本当かどうか自分の頭で考える必要があるということだ。実際大前氏もお孫さんに、リアルタイムでスマホにより、言っていることを検証されて反論されているというので、どのような権威ある人が言ったからといって、それを鵜呑みにしてはいけないということだろう。
また、講演会で話したことを掲載したと思われる文章がある。話したことをそのまま文章にしたためだろうか、一部意味が分かりにくいところがある。文字にするなら直しておいてほしかったと思う。
続く2章から4章までは、大前氏が主張する「考える人」をつくるための解として、国際バカロレア教育の必要性や導入の動きなどについて、関係者のメッセージを集めたものとなっている。ただ国際バカロレア教育が具体的にどんなものなのか、いまひとつ実感がわかなかったのは少し残念だ。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。